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剣に封じられた英雄王と永遠の魂をもつ大魔導師

 ガーファンクルとは、テンペ大陸でもっとも偉大な魔導師の名前。

 彼は現在でも最高の魔導師であり、永遠の魂をもつ者とされていた。

 なぜ彼がそんな風に呼ばれるようになったのか、それにはこんな話がある。 


 ガーファンクルはエイトリアルを建国した英雄王アロンゾの最初の臣下となった人物で、彼の無二の親友であった。

 幼いころ、魔王バルビュートにより生国を滅ぼされたアロンゾは、大陸をさまよい仲間を集めた。

 青年となったアロンゾは各国の王の支援をうけ、強固な軍を率いて魔王と対峙することとなった。

 魔王の軍に対し、人の軍は一歩も引くことなく戦ったが、9つの命を持つ魔王バルビュートを倒す決定打とはなかなかった。

 そこでアロンゾは魔王を倒す力を持つ神魔剣(じんまけん)ルビニア・カーバンクルを手に入れ、みごと魔王を討伐したのだった。

 その後、名実ともに英雄となったアロンゾは各国の王の勧めもあり、テンペ大陸の北――魔王バルビュートの領地でありかつて彼の故郷でもあった地――にエイトリアルを建国した。

 人々は彼を英雄王と称え、アロンゾ王の平和な治世は長きにわたることとなった。


 しかし、そんな彼の英雄譚には代償があった。

 神魔剣ルビニア・カーバンクルは力を貸す代わりに使用者の――アロンゾの魂を差し出すことを望んだのだった。

 なぜ、ルビニア・カーバンクルがそんなことを望んだのか。

 その強大すぎる力ゆえ、ルビニア・カーバンクルは使用できるものが限られる。その反面、剣を扱うことが出来さえすれば、使用者がどんな者であれ剣はその意に従わなければならない。

 それゆえルビニア・カーバンクルは神と魔の力を併せ持つ剣…神魔剣と呼ばれていた。

 だが、長い時を経て意思を得たルビニア・カーバンクルは己のそのような扱いに不満を持っていた。


――神に創られた己は神剣と呼ばれるのがふさわしい、己を魔剣のように扱われたくない。それならばいっそ誰のものでもありたくない。


 と。

 そんな中、数百年ぶりに己を扱うことができたアロンゾの高潔な魂に触れたルビニア・カーバンクルは彼を最後の主とすることを決めた。

 そして彼の死後、誰のものにもならないために主の魂を己の内に封じ込めたのだった。

 ルビニア・カーバンクルとアロンゾの契約を知る者は彼らのほかにガーファンクルただひとりだった。

 ガーファンクルは王の魂を救うため、躍起になって契約を解除する方法を探したが、どうすることもできずに王の魂はルビニア・カーバンクルに取り込まれてしまった。

 王の死後もその魂を解放する方法を探していたガーファンクルだったが、彼の寿命にも終わりが見え始めた。そして残された時間が少ないことを悟ったガーファンクルは最後に自分に呪いをかけた。

 それは彼の魂が輪廻を重ねても、その記憶が保持されるという禁呪だった。

 こうしてガーファンクルは転生を重ね、今もなおアロンゾ王の魂を解放する術を探しているのだという。


 …これが、永遠の魂をもつ大魔導士ガーファンクルのお話。

 バルコさんの語る物語を聞きながら、私は内心で赤面と冷や汗を繰り返していた。

 こうやって聞くと結構突っ込みどころ満載だわ。

 主に逆らえないのにその魂を取り込めるって何それ。

 もしくはアロンゾを最後の主って決めたんだったら気合で抜けなくすればよくない?

 あー、今すぐ設定を変えたい。もう単純に使用者の魂を取り込む剣とかにしたい。

 内心でため息をつきながら紅茶を飲んでいると、『すん』っとかわいらしく鼻をすする音が聞こえた。

 そちらに顔を向けると、瑠璃姫の瞳には今にも決壊しそうなほど涙が湛えられていた。


「瑠璃姫?」

「ごめんなさい。つい、ガーファンクル様のことを考えたら悲しくなってしまって」

「泣かないでください、姉上」


 瑠璃姫にハンカチを差し出す琥珀王子の目にも涙がたまっている。

 そんな彼らをバルコさんはまるで愛しいものを見るような目で微笑んでいた。


「おふたりともお優しいですね」

「先生。ガーファンクル様は、ずっとひとりで、すべてを覚えたまま生きていかなければならないのですか? 何百年もずっと?」

「そうですね。ガーファンクルが亡くなったのが新暦53年ですから今年でちょうど300年目、彼は探し続けていることとなりますね」


 バルコさんは姫の教育係らしくきっちりと年数を訂正した。

 バルコさんはもしかしてガーファンクルの転生を信じてないのかな。

 ガーファンクルの話はこうやって語られるとおとぎ話そのものだったから、ありえないって考えるのもおかしくないかもしれない。

 でも、私が設定したからガーファンクルの転生は本当にある話なんだけどなぁ。


「でも、そんなに長い間探し続けるのは、お辛くないのかしら? ずっとずっと、ガーファンクル様は忘れることができないのでしょう?」

「そうですね。ずっと探し続けているのでしょう。ですが、姫が彼のことを憐れむ必要はありませんよ」

「どうして?」

「知識を求めることは魔導師の本質です。それにガーファンクルは目標を持って生きていますから、辛くはないでしょう」


 知識を追い求めることが魔導師の本質であるというのは、魔導師であるバルコさんが言うのならばその通りなんだろう。

 でも不思議なことにバルコさんの口調からはガーファンクルへの尊敬とかそういうものが見当たらない感じだった。

 ガーファンクルって過去から現代まででもっとも偉大な魔導師って設定もあるんだけどなぁ。魔導師から見たら憧れの存在にはならないんだろうか。

 いや、偉大な人だからってみんなが尊敬しなきゃいけないってこともないんだけどね。

 それでも瑠璃姫はまだ納得しないみたいだった。

 姫はその青い瞳でバルコさんをじっと見つめている。


「本当に? 本当にガーファンクル様はお辛くないの?」

「――そうですね」


 姫のまなざしに何を感じたのか、バルコさんはふっと視線を外した。


「辛くはないでしょうが、もしかすると少し疲れることはあるかもしれませんね。友を救う方法が本当にあるのか。友を本当に救うことができるのか、と」

「それは大丈夫ですよ」

「亜香里?」

「亜香里さん?」


 淡く微笑むバルコさんの表情を目にした瞬間、私は思わずそう言っていた。

 そして言った瞬間に自分の浅はかさを後悔する。

 そう、実はガーファンクルがアロンゾの魂を解放する方法はちゃんとあったりする。

 昔から私はハッピーエンド至上主義で、問題をおこしたときはその解決策をセットで考える癖があった。

 たとえご都合主義となんと言われようと、最後に幸せになればいいじゃないって。

 でもその設定を今ここで言ってもいいんだろうか。

 躊躇する私にバルコさんと瑠璃姫、琥珀王子の視線が集中する。

 これ、やっぱりごまかせないよね。


「私がその…どこかで聞いた話だと思うんですが」


 話の真偽は分からないと前置きして、私はアロンゾの魂を解放する方法を語り始める。


「私が聞いた話では、大魔導師ガーファンクルは時の神マヒナに会い『有限なる無限の鞘』の作り方を教わるんです。そして作り上げた鞘にルビニア・カーバンクルを納めれば、アロンゾ王の魂は解放されるって」

「あなたはその話を誰から教わったのですか?」

「…すみません。思い出せません。でも、ガーファンクルの話を聞いて、これだけ思い出したんです」


 とりあえずここでは私の『中途半端に記憶喪失』という設定を強調しておこう。

 そう言うと、バルコさんは納得したようなしないような顔で瞬きをした。

 長いまつ毛が頬に影を落とすのを見て、私はそのときはじめて彼のまつ毛まで白いのを知った。

 あ、きれい。

 と、ぼんやり思っているとバルコさんがゆっくりと唇を笑みの形をとる。


「では、その『有限なる無限の鞘』を作れば、アロンゾ王の魂は輪廻の輪に戻ることができるのですね」

「た、多分?」


 バルコさんの問いに私は半信半疑で頷いた。

 輪廻の輪って何だろう。

 でもガーファンクルが転生を繰り返してるんだから、解放されたアロンゾの魂も転生してもおかしくはないよね。


「でもアロンゾ王が生まれ変わってしまったら、ガーファンクル様のことを覚えてないのでは?」

「彼は、そんなことを気にしないと思いますよ」


 瑠璃姫のもっともな疑問にバルコさんが答えた。

 でも、何でだろう。

 さっきよりもずっとバルコさんは楽しそうに見えた。


「ガーファンクルが望んでいたのはアロンゾ王の魂の解放です。そして輪廻の輪をめぐり、新たな生を受けるのは魂の在り方としては当然ですから、王が全ても忘れても彼は本望でしょう」

「そんな…」


 バルコさんの言葉に瑠璃姫の目にまた涙がもりあがる。


「彼は友を救うことができたという事実に満足して、永遠の転生を生きていけるでしょう。だから姫、あなたがガーファンクルのために涙する必要はないのですよ」


 王の魂を解放してもガーファンクルが自分にかけた魔法は解けない。

 それなのに、バルコさんは琥珀色の瞳を輝かせながら微笑んでいた。


「忘れないかもしれませんよ?」

「亜香里さん?」


 私がそう言うと、バルコさんはびっくりしたようにこちらを見た。

 確かに私はアロンゾの魂が解放したあとのことなんて設定したりしなかったけれど。

 私はそんな悲しい設定をガーファンクルにしたつもりはなかったから、つい口を出してしまった。


「えーと、その。アロンゾ…王はガーファンクルのことを親友として魂に刻んでいるでしょうから。きっとガーファンクルに出会ったら、すべてを思い出さなくても、大切な人だったことに気づくんじゃないですか?」

「そうで、しょうか?」

「私はそう思います」


 そうじゃなきゃガーファンクルが悲しすぎる。

 私は私の設定したキャラクターたちを愛してるから、彼らが悲しいままでは終わらせたくない。

 半ば希望も込めて言うと、バルコさんは小さくため息をついた。




【英雄王アロンゾ】

 北の大国エイトリアルの初代国王。

 鮮やかな金髪と紺碧の瞳。長身。

 彼の肩には双頭の鷹の形をしたあざがあったため、金鷹王とも呼ばれる。

 とある国の王子だったアロンゾは魔王バルビュートに生国を滅ぼされる。

 父王の側近の手によって逃げ出したアロンゾは、その後大陸を放浪して仲間を集め、やがて魔王を倒す。

 そしてテンペ大陸の北にエイトリアルを興す。

 50年の治世ののち、その魂は魔神剣ルビニア・カーバンクルに封じられている。

 アロンゾ王の魔王討伐は大陸全土に伝わる話であり、またアロンゾの妃は金剛国の姫君だったため、他国の王でありながら金剛国でも人気が高い。



神魔剣(じんまけん)ルビニア・カーバンクル】

 柄の部分に赤い石が埋め込まれている両刃の剣。

 神代に鍛冶の神ノハルが鍛え、死の神マウトが祝福し、戦の神ユッダが使った剣。

 そのため神でも悪魔でも切ることができる力を持つ。

 本来であれば神の持ち物である剣であるが、数百年に一度の割合で扱うことができる人間が現れる。


次はガーファンクルが出てきます。

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