表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/56

緊急事態下の登城は痛い

身内に不幸があったため執筆が滞ってしまいました。

これからゆるゆると進めてまいります。

ゆっくりとおつきあいください。


 数日後、私は楔石城に来ていた。

 忙しくなってしまった真帆さんの代わりに瑠璃姫のご機嫌伺いに行ってほしいとのことだった。

 気軽にお城から出ることを許されず、同世代の友人もたくさんはいない瑠璃姫は、真帆さんから聞く市井の話を楽しみにしているんだそうだ。

 それが成人の儀や野犬騒ぎやその後のもろもろで姫のところに行けなくなってしまったのを、真帆さんはとても気にかけていた。

 しかし休日に会いに行くことは瑠璃姫から却下されてしまった。


「真帆たちが毎日大変な思いで働いているのは聞いています。休日はその疲れをとるのが仕事です。もしその休日を使って私に会いに来たのならば怒ります」

 

 瑠璃姫からそう言われてしまった真帆さんはどうすることもできず、結局お手紙と自ら選んで買ったものを渡してほしいと私に託したのだった。


 今、王宮は魔道結界が強められていて、一般の者はおいそれと足を踏み入れることができない。

 それでも私は地烈陣将つきの秘書として王宮の内部――軍事棟などには入ることができたけれど、さすがに王家の方々が住む楔石城に入るには手続きがいる。

 まず前もって登城の申請をし、許可を得ること。さらに登城許可証に記された者と実際に現れた者が同じであることを示さなければならない。


「止まれ」


 楔石城の入口の前で扉を守る2人の兵士に止められて私は静かに頭を下げた。


「地烈陣陣将・岩敷真帆さまの秘書で林亜香里と申します。本日は岩敷陣将より瑠璃姫さまへの贈り物とお手紙をお持ちしました」

「それはご苦労様です。では登城許可証と手荷物を確認させていただきます」

「よろしくお願いします」


 右の少し年上に見える兵士に許可証と真帆さんから託された手紙と荷物を渡すと、彼は静かに許可証に目を通した。

 そして彼が頷くと、左の若い兵士が懐から水晶を取り出した。その水晶を許可証のある部分の上に置いて、若い兵士は私に差し出してきた。


「では、ここに右手の人差し指を置いてください」

「はい…。痛っ」


 私の指と許可証で水晶を挟むようにすると、突然指先にぴりりとした刺激が走る。

 見ると指先に小さな穴が開いていた。

 思わず叫んでしまった私に、若い兵士が心配そうに謝ってくれる。


「申し訳ありません。痛かったですか?」

「はい。あ、いえ、大丈夫です。初めてだったのでびっくりしてしまって。こちらこそ大げさですみません」


 私も謝りながら水晶を見ると、指先から落ちたらしい血が水晶の上に一ミリほどの点となってついている。

 その血痕とも言えないほどの跡が、見る間に水晶に吸収されていき、それと同時に青い光を放った。


「本人と確認ができました」


 その光を確認した若い兵士が言うと、年上の兵士が首を縦に振る。

 そして年上の兵士もまた私に頭を下げてくれる。


「ご協力感謝いたします」

「騒いでしまってすみません」

「いえいえ、小さいとはいえ傷をつけるのですから、若いお嬢さんにはきつかったでしょう。こちらも問題ありませんのでお返ししますね」


 私が自分のオーバーリアクションを謝ると、年上の兵士は穏やかに言い、私が持参した荷物を返してくれた。

 彼が言う通り、私の指には針でちょっと突いた程度の傷が残っている。血ももう止まっているし、今は痛みもない。

 兵士たちの間を通りながら、私はその手を握りこんだ。

 これが登場する者が本人であることを証明する方法。

 一応話には聞いていたのだけど、やっぱりいきなり指を傷つけられるとびっくりしてしまう。

 どちらかと言うと痛みに弱い方なので楔石城に登城するたびにこんな風に指を突かれるのはちょっとしんどいかもしれない。


「あああああ」


 行く手の扉を守るように立つ兵士の姿を見て、私は小さく呻いた。

 登城するたびじゃなくて、まさかの扉を通過するたびだった。



 …結局、計三回も指を刺されて、侍女の方に案内された先でようやく瑠璃姫の姿を目にしたときは、安堵のあまり涙ぐんでしまいそうだった。

 前回同様、瑠璃姫はソファに座ってバルコさんの授業を受けているみたいだった。

 ただ、前回と違って、今回は瑠璃姫の隣に見たことのない少年がいた。

 こちらに背を向けているので顔立ちは分からなかったけれど、少年は瑠璃姫より少し年下に見えた。あと、少しウェーブのかかったら淡い栗色の髪をしている。

 あ、この子は琥珀王子だな。

 年齢やその姿から、私は少年が瑠璃姫の弟で、金剛国の第一王子である琥珀王子だろうと判断した。

 でも、授業中ならもう少し待った方がいいかな。

 声をかけることを躊躇していると、バルコさんがこちらに視線を向けた。

 私に気が付いたバルコさんはどこかほっとしたような顔で声をかけてくる。


「こんにちは、亜香里さん。お待ちしておりました」

「亜香里?」

「お久しぶりです瑠璃…姫?」


 バルコさんの声でこちらを振り向いた瑠璃姫に頭を下げかけて、私はつい止まってしまった。

 私を見つめる瑠璃姫の大きな瞳いっぱいに涙がたまっていたからだ。


「ど、どうなさったんですか?」


 驚きのあまり上ずった声をあげると、瑠璃姫は気づいたように頬に手をあてた。

 それから姫は恥ずかしそうに笑みを浮かべる。


「これは何でもないのよ。先生のお話を聞いていたら、涙がでちゃったの」

「姉上、この人は誰?」


 不思議そうに瑠璃姫に聞く琥珀王子の目にも、涙がたまっていた。

 そしてバルコさんに視線を移せば、やれやれと言わんばかりに肩をすくめている。

 これは、本当に大したことじゃないの、かな?

 とりあえず瑠璃姫が悲しんでいるわけではないことにほっとして、私はもういちど居住まいを正し、琥珀王子へとお辞儀をする。


「地烈陣陣将・岩敷真帆さまの秘書で林亜香里と申します。以後お見知りおきを」


 すでに言いなれた自己紹介をすると、琥珀王子は目を瞬かせた。

 美男美女の王と王妃の子供らしく、琥珀王子も例にもれず美形だった。

 ただ、瑠璃姫が金髪碧眼であるのに対し、琥珀王子は淡い栗色の髪にその名が示すような琥珀色の瞳をしていた。

 よくここまで王と王妃のカラーリングを受け継いでかつ、どっちにも似ている美形になったものだよね。

 あ、でも顔立ちは瑠璃姫とよく似てるけど、男の子である分琥珀王子の方がきりりとした要素があるな。

 って、設定したの私だった。

 自分でつっこみを入れていると、琥珀王子は瑠璃姫の方を向く。


「この人が姉上が前に話していた真帆の秘書なんだ」

「そうよ。亜香里、こちらは私の弟で琥珀と言うの。琥珀もあいさつをしてね」

「あ、金剛国第一王子、琥珀と申します」


 瑠璃姫に促されて琥珀王子は慌てて私に名乗った。

 もう一度頭を下げる私の視界の端に瑠璃姫が満足そうにほほえんでいるのが映る。

 ふんわりとした印象の瑠璃姫だけど、こういうときはちゃんとお姉さんしているのがとても微笑ましい。


「亜香里、すぐにお茶を用意させるからどうぞ座って」

「失礼します」


 頭を上げた私に瑠璃姫がソファをすすめてくれる。

 断る理由はもちろんないので、私は示されたソファに腰を下ろした。


「こちらは岩敷陣将から、瑠璃姫様への贈り物とお手紙です」

「ありがとう。真帆は相変わらず忙しそう?」

「はい、直接お渡しできないことを大変申し訳ないと言っておりました」

「大変な時期なのだから仕方ないわ。そんな中で私のことを気にかけてくれるだけで十分よ」


 真帆さんからの手紙を大切そうに抱きしめ、瑠璃姫は言った。

 ほんっとうにいい子だな。

 ああ、早くこの騒動が収まって真帆さんと瑠璃姫を会わせてあげたい。

 そして願わくばその光景を堪能したい。

 心の中でそう願っている私を尻目に、瑠璃姫は侍女にお茶の準備を命じていた。

 すぐに真帆さんの手紙を読みたいだろうに、先に客人を気にかけるのは幼いながらもさすが一国の王女様だなぁ。

 瑠璃姫のお気持ちを無下にするわけにはいかないので、私はありがたくお茶をいただくことにした。

 ほどなく用意された紅茶を飲み、ほっと息をつく。

 前にいただいたときも思ったけど、ものすごくおいしい。

 基本コーヒー党で、紅茶はさっぱりな私でもわかるくらいにいい葉を使い、正しい手順で淹れられた紅茶は本当においしかった。

 さすが王宮で出される紅茶だけあるなぁ。

 もうひとくち紅茶を飲んで、私は気になっていたことを口にした。


「ところで、先ほど瑠璃姫と琥珀王子様にバルコさんがしていたお話とは。どんなものなんですか?」

「ああ…」


 瑠璃姫と琥珀王子が並んで座っている関係で、私の隣に座っていたバルコさんは困ったように眉根をよせた。


「ガーファンクルの話をしていたんですよ」

「永遠の魂を持つ大魔導師の?」


 ガーファンクル…それは私が設定したこの世界の大魔導師の名前だった。



【登城申請書と魔道具】

 緊急事態が起こり、登城の制限がかかると提出を義務付けられる書類。

 申請書には登城する者の名と血を一滴つけて提出し、その後許可証にその血が加工不可の状態で添付されて戻ってくる。

 そして出入り口を守る兵士が持つ魔道具でその血と登城した者の血を確認する。

 水晶を用いたその魔道具は血液からその者のDNAを一瞬で解析し、申請書と一致するかを確認することができる。

 高価で希少な魔道具であるため、一般にはほぼ出回っていない


次回は英雄王と大魔導師の話です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ