街角にて
会議から数日、真帆さんや私は忙しい日々をおくっていた。
城の守りを固めるのは専用の兵士や王直属の天絶陣と王子直属の金光陣が行い、そのほかの軍や陣は王都の守ることとなっていた。
今回のような御前会議のようなときにはすべての将軍と陣将が集まるけれど、本来将軍や陣将たちは王都に常駐しているわけじゃない。
将軍と陣将は交代で他国から国を守るために辺境に派遣されるし、王都に残っている将軍や陣将は王都を守るための警備と悪人の取り締まりなど警察のような働きもする。
そして陣将には『狩り』の仕事もある。
そうすると今回のように王都の守りを固めるとなると、警備と警察機構の当番の軍や陣は格段に忙しくなる。
そして残念なことに真帆さん率いる地裂陣は今回王都の警備を行う番だった。
正確には真帆さんの上司である秀一さんの青龍軍と真帆さんの地裂陣。そして孝明さんの風吼陣が今月と来月の当番となっていた。
だから真帆さんだけでなく秀一さんも孝明さんもとても忙しく、私は真帆さんの秘書として登城して業務をしながらも彼らと顔をあわせない日も多々あった。
そんな中、私は休日をつかって街にでていた。
しかも真帆さんといっしょに。
事態が事態なだけにいつもの週休2日とまではいかないけれど、それなりに休日は与えられていた。
それでも真帆さんは休日返上で働こうとしていたし、私も同じようにするつもりでいたのだけれど、副将となった一ノ宮さんや渋沢さんの大反対をうけてしまった。
彼らが言うには『陣将である真帆さんが休みを取らないとなると部下たちも休みずらくなる』ということらしいけれど。本当は何日も家に帰ることすらできなかった真帆さんの体を心配してのことだろう。
さらに真帆さんは瑠璃姫からも『休んで。もし休日にお城に来たりなんかしたら怒ります』と厳命をうけてしまった。
瑠璃姫にそこまで言われてはどうにもならず、真帆さんも渋々休みをとることになった。
「だから私につきあってくださらなくてもいいんですよ」
「やだ」
せっかくの休日なんだからゆっくり休んでほしかったのに…。それでも真帆さんは私について行くと言ってきかなかった。
私の買い物なんてスキンケア用品が終わりかけたから買い足しにいくだけなんだからひとりでも十分なのに、真帆さんは今の街中をひとりで歩くのは危険だからと、わざわざついてきてくれた。
こうなったらさっさと買って帰ってお家でゆっくりしよう。
こころもち早足で歩いていると、私は街の中の風景が以前より閑散としているような気がした。
今日は15日――雲の神バーダイの日だから太陽の広場に市がたっている日だ。
道を歩きながら私はなんとなく人通りがないように感じた。
以前の買い物の時が成人の儀の前でいつもよりにぎわっていたとしても、今の街は前に比べて女性や子供の姿が少ないように思える。
「今日の街、少し寂しくないですか?」
「そうだな。いつもの半分以下の人出だ」
「お城の事件が漏れたんですかね?」
「いや、そこは緘口令を引いたから。漏れたってことはないだろう。だが普段開いている12門を6門に減らしたり、警護の者たちが頻繁に行き来していたりしたら何かあったと思うだろうな」
そう言いながら真帆さんは街をぐるりと見渡した。
外に出ている人たちも早足で歩いて用事を済ませたらすぐに帰ろうとしていて、落ち着かない雰囲気だった。
そんな彼らをみる真帆さんの表情は凪いだままだった。
けれど内心では歯噛みしたくなるほど後悔しているのが私にはわかった。
真帆さんは自分のことを金剛国のすべてを守るべき戦士だと思っているから。人々の平穏を守れなかった自分を責めている。
たった16才の女の子がそこまで責任を負わなくてもいいのにと、思ってしまうけれど。
他ならぬ私が真帆さんをそういう人間として『設定』してしまった。
さりげなく握られていた左の拳に私はそっと手を重ねた。
「亜香里?」
驚いた顔で見下してくる真帆さんに私は笑顔を見せた。
そしてゆるんだ彼女の手に自分の手を重ねる。
「太陽の広場はすぐそこですよ。早く行きましょう。そして買い物が終わったら何かおいしいものでも食べませんか? 私、親子丼とか食べたいなぁ」
「…ああ、それならいい店を知ってる」
わざと軽く言ったら真帆さんも笑ってくれた。
それから私たちは人出が少ないのをいいことに手をつないだままで歩きはじめる。
しばらく歩いて、真帆さんはぽつりとつぶやいた。
「亜香里は不思議だな。それとも、観察眼が鋭いのか?」
「どういう意味ですか?」
「だって私が落ち込んでいることに気づいただろう?」
「真帆さんだからわかったんですよ」
あなたは私が設定したから。
なんてこと言ったら頭がおかしい人だと思われてしまうのは確実なので、とりあえずそう言うと真帆さんは嬉しそうに笑って手の力を強くした。
「そんな風に言われたら甘えてしまいそうだ」
「甘えてくださっていいんですよー」
真帆さんは強い子だけど16才の女の子だ。
もしそんな彼女が何のてらいもなく甘えられる存在が私なのだと言うのなら、喜んで甘えさせてあげたい。
「あー、もう本気にするぞ」
「私ではたよりないかもしれないですけどね」
「そんなことない、十分だよ。と、言うか。私と結婚しないか?」
「あはははは」
突然のお茶目なプロポーズに私は声をあげて笑ってしまった。
それにつられて真帆さんも笑い、かっこよくウィンクをしてみせる。
「つくすし、稼ぐし、いい旦那になるよ」
確かに真帆さんが男性なら本当にいい旦那さんになりそう。
くすくすと笑いながら私は片手でOKサインをした。
「じゃあ私が年取って独身なら嫁にもらってください」
「よし、約束だ」
そんな軽口をかわしているうちに太陽の広場に到着してしまう。
広場に市はたっていたが、前回私が来た時の半分くらいの出店になっていた。
その中で私はボルグさんのお店を探す。
「亜香里には目当ての店があるのか?」
「ええ、以前ここで化粧水とクリームを買ったお店なんですけど」
「どんな店だ?」
「ボルグさんっていう明るい茶色の髪に髭の男性が出している店で」
「ふーん」
きょろきょろする私を見かねたのか、真帆さんも市場を見回してくれる。
しばらくここに残ろうかと思ってるって言ってたけど、ボルグさんももしかしていなくなっちゃってるかな。
もしそうなら別のお店探さなくちゃ。
「あ、高村だ」
「え?」
私とは別の方向を見ていた真帆さんが声をあげた。
そちらを見ると確かに高村さんがとあるお店の前にいた。
高村さんがしきりに頭を下げている人物を目にして、私は小さく声をあげた。
「あ、いた」
「なんだ、亜香里もあそこに用があるのか」
「ええ、そうなんです」
よかったー、ボルグさん、いなくなってなかった。
そっか、美幸さんもボルグさんのお店の商品気に入ってたから、高村さんがおつかいに来たのかな。
でも高村さん、なんであんなにボルグさんに頭を下げてるんだろう。
「あいつ、何してるんだ?」
真帆さんも私と同じ疑問を持ったらしく、首を傾げている。
「行ってみましょう」
高村さんの行動は謎だったけれど、とりあえず私たちはボルグさんのお店に向かった。
【警察機構と軍隊】
金剛国において警察機構は未だ発展しておらず、軍が警護と警察の役目を果たしている。
王都:四神将軍とその部下である十絶陣将が輪番で行う。
地方都市:四神将軍と十絶陣将がそれぞれ持ち場をまかされて警察機構と警護を行う。
犯罪者を取り締まるのは軍の役目だが、犯罪者の量刑を決めるのは司法に委ねられている。
ただし、伯爵以上の貴族の犯罪については王宮裁判所にて王が量刑を下す。
プライベートが多忙でずいぶんと更新が遅くなり申し訳ありません。
また少しずつ連載を再開させていただきますのでお付き合いください。




