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後につくのは「人」か「態」か。

 それから御前会議は二時間ほどで終了した。

 基本的な決定は。


・王宮はしばらくの間魔道結界を強くして、入城できる者に制限をつけること。

・王都においては野犬狩りをして野犬の量を減らすこと。

・警備の見回りを2倍にし、国民の安全にも配慮すること。

・12ある門のうち通行を6門のみにし、人の出入りを厳しく取り締まること。


 という4点になった。


 城門に関して言うと武官側は門を4つまで絞りたかったのだけれど、それでは流通が止まってしまうという文官側の意見を尊重して6門ということになった。

 警護や野犬狩り、人の取り締まりなどはすべて武官側の業務ではあったけれど、それに伴う資金や人々の動き、各国への調整などは文官の業務となる。

 それぞれ決定を各部門へと持ち帰ろうとせわしなく会議場を後にしようとする中で、のんびりと動かない人が何人かいた。

 そのうち二人は久保大臣と瀬川大臣。

 まあこのふたりに業務とか期待しても無駄なのはわかってる。

 残っているのだってこのあとふたりで武官たちの悪口大会でも開くんだろう。


 そしてもうひとり、のんびりしているのは真壁芸術大臣だった。

 真壁芸術大臣もとい真壁公爵のフルネームは真壁春人という。

 ゆるいウェーブのかかった焦茶色の髪とばさばさのまつ毛に囲まれた茶色の瞳。イケメンぞろいの設定持ちの中でも真壁公爵は特に目を引く繊細な美貌の持ち主だった。

 そして独特の感性の持ち主でもあり、国の政策などにはまったく興味のない人。

 戦士である真帆さんが主役の話の中で何でこんな設定の人を作ったかと言うと…。


「どうした?」

「いえ、すみません。ちょっとぼーっとしてました」


 真壁公爵を盗み見ながら考え込んでいた私に真帆さんが声をかけてくる。

 真帆さんはそこで私の視線がどこを向いているか気づいたようだった。


「亜香里!」

「は、はい」


 真剣な表情で両肩をつかまれて、私は裏返った声で返事をした。


「あいつはだめだ」

「はい?」


 あいつって、真壁公爵のことだよね。

 ああ、さっきから真壁公爵のことちら見していたから、真帆さん誤解してるんだ。


「別に私は…」

「あいつは顔だけの能無しだぞ。剣の腕もからっきしだし政策にも興味ないし、公爵で金は持ってるけど変態だ」


 うわあ、酷評。

 でも私、真壁公爵のことは変人に設定したけど、変態にした覚えはないんだけどなぁ。


「そ、そこまでは考えてないです。ちょっと気になって見ていただけですから」

「変態とは僕のことかな」


 慌てて言い訳をしていたら、真壁公爵が話しかけてきた。

 柔和な笑顔を浮かべているけれど、纏う雰囲気がおどろおどろしい感じで怒っているのが丸わかりだった。


「亜香里、こっちにこい」


 真帆さんは真壁公爵が話しかけてきているにもかかわらず、私を自分の後ろに隠すように誘導してきた。

 そのあからさまな行為にさすがに真壁公爵もむっとした表情をした。


「それはないんじゃないか、岩敷陣将」

「失礼、真壁公爵ほどの方私に話しかけられているとは思いませんでした」


 一応敬語は保っていたけれど、まさに慇懃無礼と言った調子で真帆さんは真壁公爵に頭を下げた。

 その様子に、真壁公爵は不快そうに目を眇めた。


「君は本当に僕が嫌いなんだね」

「大切な親友を誘拐しようとした人を好きになる人間がいるとお思いですか」

「それは誤解だ」


 え、真壁公爵って真帆さんの親友を誘拐しようとしたの?

 ちょっと待って、私、この人のことそこまで悪人に設定したつもりないんだけど。

 それに真帆さんの親友と言われる人って1人しかいないよね。


「あの…真帆さんの親友って、貴子さんのことですか」

「顔を出すな、亜香里」

「そう、結城貴子嬢のことさ」


 真帆さんの肩越しに顔を出した私を、真帆さんは必死で戻そうとした。

 そして真壁公爵は平民の身でいきなり話しかけた私に気を悪くする様子も見せずに頷いてみせる。

 それから彼はうっとりとした様子で空中に手を差し伸べた。


「昨日の成人の儀の時もそうだったが、貴子嬢の美しさは群を抜いている。口元と目元に軽く色を載せただけであの場にいた誰よりも美しかった。あの美しさをもっと輝かせないのは犯罪だと思わないかね? もっと教養を深めさせて着飾らせれば、世界一の美女と言っても過言ではないだろう」

「うわ…」


 その陶酔した様子に真帆さんが小さく声をあげる。

 私もまた、心の中で同じ声をあげていた。

 そう、これが真壁公爵が変人と呼ばれる理由。

 真壁春人(まかべはると)は美しいものに目がなくて、その美しさを守るためならば全身全霊を捧げられる変人。

 …って設定にしてたんだけど。

 そしてそんな真壁公爵が貴子さんに目をつけるのもあり得るだということは、わかる。

わかるんだけど。


 ――実際に目にすると変人じゃなくて変態だなこれ。


 自分の設定の甘さというか軽々しさに、私はうずくまりたい気持ちになった。

 ごめん、真壁公爵。かっこいいのに変態にして…。


「亜香里、これでわかっただろ。だから、あんまり真壁公爵に近づくんじゃない」

「ご心配ありがとうございます。でも、美しいものがお好きであれば、私には興味ないでしょうし」

「いやいや、君の先ほどの発言する姿は悪くなかったよ」


 私の発言が聞こえていたのか、さっきまで貴子さんをどんな風に美しく着飾らせるか語っていた真壁公爵がいきなり話を変えてきた。

 そして横目でこちらをうかがうように見ている久保大臣と瀬川大臣を見ると不快そうに鼻を鳴らした。


「それに比べて彼らの何と醜いことか。彼らに比べるのもおこがましいが、あのような場に怯えず、堂々と己の考えを発言した君の姿勢は美しい」

「あ、ありがとうございます?」


 褒められているのになんかぞわぞわするのは何でだろう。

 おもわず疑問形になりながらお礼を言うと、真帆さんが私を自分の背中に隠した。


「亜香里は私の大切な秘書です。下手に手を出すようなことをされたら覚悟してください」

「はぁ?」


 あからさまに威嚇する真帆さんに真壁公爵も声をあげた。


「僕をそこらの女好きといっしょにするな」

「13才の貴子をさらおうとした方が言うと説得力がありますね」

「それは誤解だ、ちょっと僕の屋敷に連れて行って美しく仕立て上げようとしただけだ」


 それを世の中では変態って言うんだよね。

 というか、この人。13才の貴子さんのこと誘拐しようとしたのか。

 それ、現代ならロリコンだからね。

 自分の設定した人間が変態だと結構へこむな。

 真帆さんの背後でうなだれていた私は、とあることに気づいて顔を出した。


「あのー、美しいものがお好きなのなら、なぜ真帆さんのことはだめなんですか?」

「何言ってんだ、亜香里。それより顔を出すな」


 突然聞き出した私の頭をひっこめようと真帆さんが上からぐいぐい押してくる。

 ちょ、真帆さん、力が強い。首が折れるっ。

 真帆さんに負けないように首に力を入れて私は精一杯背伸びをした。


「で、でも真帆さんだって美少女ですよね。美しいものがお好きな公爵なら気にならないはずはないですよね」

「確かに顔立ちは悪くないが、岩敷陣将は戦い方が美しくない」

「え?」


 聞き返した瞬間に力が抜けて、私はすとんとかかとをついた。

 でもそれと同時に真帆さんの手の力も離れたのでもう一度背伸びをすることができた。


「岩敷陣将は剣技には美しさが足りないのが残念だ」

「確かに私の戦い方は剣だけでなく手も足も出ますがね」


 真帆さんの言葉で私は真壁公爵が何を言っているのかようやく理解できた。

 昨日の犬との戦いで知ったけれど、真帆さんは剣だけでは戦わない。

 必要とあれば剣で相手の攻撃を受けておいて足でけり上げるとか、右手の剣で受けて左手で殴るなんてこともよくしていた。

 真壁公爵からしてみればその戦い方は見苦しいものだったらしい。

 確かに、剣技としたら美しいものではないかもしれないけれど、軽やかに戦う真帆さんを私は美しいと思っていた。

 だから何か一言いってやろうとさらに背伸びをしたが、それを真帆さんに制されてしまう。


「別に私は美しさを必要としておりませんので。戦い方が醜かろうが、汚い手を使おうが、戦で一番大切なのは生き残ることなんですよ」


 それは国一さんの教えであり真帆さんの信条だった。

 きっぱりと言い切る真帆さんに、真壁公爵はやれやれと言うように首を振った。


「汚れてまで生きたいなんて、僕には理解できないね」

「理解してくださらなくても結構です。どんなに汚れても国の盾となり国の剣となる。それが私の生き方です」

「…っ」


 微塵も揺るがない真帆さんに真壁公爵は小さく息を飲んだ。

 それから少し悔し気な顔をして軽く手を振る。


「ふん、君のその信念だけは美しいと認めよう」

「ありがとうございます。では失礼します」

「失礼いたします」


 もう退出するようにと真壁公爵に身振りで示されて、真帆さんと私は一礼するとその場を離れた。


「ったく。変態公爵が」


 廊下を歩きながら真帆さんが小さく悪態をつく。


「すみません、私の不注意な一言で不快にさせてしまって」

「亜香里は悪くないよ。それに、腹立たしくはあったけど、あれはあれであいつの考え方だろ」


 あやまる私にそう言う真帆さんの口調からは真壁公爵への嫌悪は見えなかった。


「真帆さんは真壁公爵のこと嫌いじゃないんですか」

「ん~~。変態だとは思ってるけど、嫌いじゃないかな。むしろ久保のおっさんや瀬川のでぶよりは好きだよ」


 まああの2人と比べたらあの程度の変態なんてかわいいものかもしれないけれど、真帆さんの戦い方を否定したのに?

 どこかで納得できなくて思わず聞いてしまう。


「そうなんですか?」

「だって真壁公爵が否定したのは私の戦い方だっただろ。と、言うことは公爵は私の戦い方を知っているってことだ」

「ええと」


 私が首を傾げると真帆さんは軽く肩をすくめた。


「さすがに私でも祭りなどの際に行う試合なんかじゃ足を出す戦い方なんかしないさ。そういう風になりふり構わなくなるのは本当の戦いのときだけさ」

「ああ…」

「だから高位の貴族が私が本気で戦っているところを見る場面なんてそうそうないよ。戦に参加するか、陣将の『狩り』に参加するか、今回みたいな場合に逃げないで見ているか、だよ」


 真壁公爵は武闘派じゃないから『狩り』に参加することはないだろう。

 戦争は…貴族の責任として参加しなければいけないかもしれないけど、真帆さんたちが出るような最前線に行くことはまずないんじゃないだろうか。


「昨日って、真壁公爵って残っていらっしゃいましたっけ?」


 真帆さんたちばかり気になっていたから真壁公爵がいたかどうか覚えてないな。


「多分いたと思う。まあ『逃げる』って行為が、真壁公爵の美学に反するのかもしれないし、いても邪魔にしかならないけどな」


 『邪魔』というところでさも邪魔そうに手を振る真帆さんに私はつい笑い声をあげてしまった。


「でも、ちゃんと見ていてくれる方なんですね」

「それはそうだな。あと、偏見を持つのは美しくないと思っているみたいで割と公平に判断してくれるしな」


 ああ、そういえば真壁公爵が真帆さんのことを気に食わない理由も『戦い方が美しくない』ってだけだったな。

 彼は決して真帆さんが女性でありながら戦うことを批判しなかった。

 変人…もとい変態ではあるけれど、悪人ではない人。それが真壁公爵だった。



真壁春人(まかべはると)

 ウェーブのかかった焦茶色の髪と茶色の瞳。180センチ。

 真壁公爵家当主で芸術大臣を務める28才。

 実は男性登場人物の中では断トツの美形なのだが、その『美しいものを好み。その美しさを守るためならば全身全霊を捧げる』という性格が災いしてまだ独身。

 陰で変態公爵と呼ばれている


閑話休題的に変態公爵の話でした。

次は町中の様子です。

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