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会議は踊る

 次の日、各大臣と将軍・陣将を集めた御前会議が開かれた。

 会議に出席者たちは各1名だけ部下を連れてくることが許されていて、真帆さんは私を自分の秘書として参加させてくれた。

 長いテーブルの正面に王が座り、その左右に文官と武官が並んで座って議論を交わすのが御前会議なのだそうだけれど。


「…ですから私は、城の警護を担当されていた玄武将軍と結界を担当されていた魔道大臣にどう責任をとるつもりなのかと問いたいわけなのです」


 半白髪で髭のおじさんの発言を聞きながら私はそっとあくびをかみ殺した。

 昨日の襲撃を受けての会議なのだから、今後の対応とかについて話すべきだと思うのだけれど。

 さっきからずっと手を変え品を変え、警護を担当していた人たちへの文句と責任の所在を追求する意見ばかりで、話が少しも進まない。

 特にぐちぐちと文句をたれているのがさっきから発言をしている半白髪で髭の財務大臣――確か、久保(くぼ)公爵とかいうおっさん。

 うちの職場にもこういうおじさんいたよ。ぐちぐちミスを責めるだけで打開策を全然出さない奴。


「確かに我らの落ち度もございましょう。では、聡明な久保大臣にお伺いしますが、今後我らはどのように警護をへんこうすべきでありましょうか?」

「はっ、それを考えるのが貴兄ら武官の職務ではないのですかな? それを怠るのは職務怠慢では?」


 くああああ、言い方までうちの仕事のできない課長そっくり!

 職場の会議を思い出して私は正直いらっとした。

 薄々感じてはいたけれど、この受け答えで確信した。

このおじさん仕事できない! 絶対できない!

そんな目で見つめていたからだろうか、久保大臣はちらりと私の方を見て口を開いた。


「まあ、軍人でも貴族でもない女性を御前会議に出席させることからも、最近の陣将どのの能力の低下は否めないので、この程度の問題も解決できないのかもしれませんなぁ」

「ははは、違いない」

「ははは、真実とはいえ言いすぎですぞ」


 その嫌味ったらしいもの言いに賛同するように何人かの大臣が笑った。

 それが公爵である久保大臣へのお追従か軍部への対抗心からかはわからないけれど、少なくとも彼らは真帆さんに対して好感情がないと言うことがわかった。

 この世界は私が設定した世界だけれど、基本設定を中世としてしまったせいであまり女性が国の重責を担うことがない。

 それでも金剛国は先進的な国で女性でそれなりの地位についている人もいるけれど、武官として陣将位につくことなんて過去一度あっただけだそうだ。

 それもその人は30代になってからの就任だったそうだ。

 だからどうしても若い女性である真帆さんは目の敵にされてしまう。

 真帆さんがどれほと努力してきて、どれほど才能のある人が知らないでただ女性であるというだけで否定する彼らに本当に腹がたつ。

 こいつら全員今晩テーブルの角に足の小指ぶつければいいのにっ!

 私が密かに彼らを呪っていると、真帆さんが口を開いた。


「私が未熟なのではその通りなので反論する余地もございませんが」


 真帆さんは怒りも怒鳴りもせずに冷静な声で言った。


「ただ、こちらの亜香里は私の有能な秘書であり、そして昨日の犬たちの襲撃の折には、犬にかけられた魔法を解除するきっかけを与えてくれた者です」


 おお、冷静沈着。さすが16才ながらに地裂陣をまとめるだけあるわ。

 怒りも見せずに淡々と話す真帆さんに私は拍手をしたくなった。

 こんなくだらない挑発は無視できるって、本当にすごい。

 私なんて腹立ちまぎれに彼らを呪うしかできなかったのに。


「王を守り、素手で犬に立ち向かわなければならなかった我らに銀器を投げ渡してくれた亜香里の姿をご覧になりませんでしたか? ――ああ」


 それまで冷静な口調で話していた真帆さんはここでわざと言葉を切り笑顔を浮かべた。


「失礼。あの時皆さま方はさっさと広間を後にしていましたね」


 前言撤回。

 真帆さん全然冷静じゃなかった。

 むしろ笑顔でケンカを買いにいってる。

 でも真帆さんの一言に久保大臣とその仲間は真っ赤になった。


「なっ、そ、それは」

「岩敷陣将、言葉を慎め」


 王が狙われているのに己の保身を図ったなんてやはり臣下としては気まずいのだろう。

 さっきまで笑っていた大臣たちが言葉につまったところで朱雀将軍が真帆さんをたしなめる。


「あのような場において、われら軍は王と王妃をお守りすることを優先し、その他の方々はどうしてもおろそかになってしまう。そのときに御身一番で行動していただくのは、我らの助けにもなるのだぞ」

「ああ、なるほど」


 朱雀将軍のあてこすりもまじったフォローに真帆さんはわざとらしく頷き、向かいの席に座る文官たちに頭を下げた。


「皆さまのご配慮にも気づかず、大変申し訳ありません。これも思慮の足りぬ若輩者ゆえとお許しください」

「う、うむ」


 嫌味を先に言ったのは大臣の方だし、これ以上襲撃の時の自分たちの行動を蒸し返されても困るのだろう。大臣たちはしぶしぶと言った様子で真帆さんの謝罪を受け入れた。

 けれどもそのうちの一人が何かを思いついたかのようにこちらを見る。


「そ、そう。ならば、岩敷陣将どのが有能な秘書と言われるそちらのご婦人に今後の対応についてご意見をいただきたい」


(うそっ)


 瀬川(せがわ)とかいう太った国家法大臣の言葉に私はどうにか声をあげるのを抑えた。

 ちょっと、このデブ何言ってくれちゃってるの。


「それはいい!」


 瀬川大臣の言葉に久保大臣がわざとらしく手をたたいた。


「そちらのゆ・う・の・う・な秘書殿ならば、建設的な案をだされるでしょうからな」

「そうですな!」

「ぜひ!」


 あああああ、この馬鹿オヤジども、ハゲちらかせ!

 何とか笑顔だけはたもちつつ、私は心の中で久保大臣と瀬川大臣とその腰ぎんちゃく大臣たちの毛髪を引き抜きまくる。


「さあさあ、遠慮なさらずに」


 わざとらしい瀬川大臣の声に私は却って覚悟を決めることができた。

 防衛も警護も素人だし、ましてや魔法なんてまったく知らないけれど、文句だけ並べ続けるおっさんよりも私の方がまだ建設的な意見を述べられるだろう。


「それではお言葉に甘えまして」

「亜香里?」


 岩敷夫人仕込みのおじぎと笑顔を浮かべた私の名を真帆さんが小さな声で呼ぶ。

 そんな彼女に頷き、私は話し始めた。


「まず最初に今回の襲撃を許すこととなった原因の調査と今後の対応。そして犯人の検挙およびこの犯行に他国の関与がなかったのかの確認が必要となるのではないでしょうか」


 本当に私が述べたのは誰でも考えつくであろう案。

 そのかわりある意味常識的と言える案だった。


「その程度…」

「その通りだな」


 瀬川大臣が何かいちゃもんをつけようとしたのを遮るように秀一さんが声をあげた。


「今回の襲撃の原因となったのは庭園に仕掛けられた魔法陣だったかと思うが、魔道大臣?」

「そうですな」


 秀一さんが問うと、黒いローブを頭からかぶった魔道大臣が立ち上がった。

 彼が呪文を唱えながら両手を広げるとテーブルに王宮の3Dモデルが浮かび上がる。

 その外側の3か所が光っている。


「ご覧の場所に仕掛けられておりました魔法陣につきましては、襲撃の折に陣将方のお力で破壊いたしました。この魔法陣を設置した犯人については現在調査中であります」

「魔法陣が使われてるんだ、犯人は魔導師では?」


 真帆さんが聞くと魔道大臣は一度頷いた、


「確かに魔導師が関係しているのは間違いありませんが、魔法陣を設置した者が魔導師である必要はありません」


 魔道大臣が手を軽く手を振ると、机上に展開されていた3D地図が消えた。


「成人の儀の準備期間で普段よりも商人などの通行が多い時期ではありますが、さすがに我らも通常よりも魔道力の高い者については感知するよう警戒しておりました。また、調査の結果、これらの魔法陣は一定の時間が過ぎてから発動するように術式が組んでありました」

「では犯人自体はすでに国外に出てしまっている可能性もあるというわけですか」

「いえ――」


 真帆さんの隣に座っている孝明さんが聞くと、魔道大臣は首を横に振った。


「この魔法陣を作った魔導師に関してはそう言えますが、この魔法自体は空間と空間をつなぐための単純な術式であるために、転移させるための犬を準備する必要があります」


 あの魔法陣は犬を召喚するためのものではなくて、もともと犬がいた空間と城の空間をつなぐためだけのものだったんだ。

 じゃあ、その先に魔法をかけた犬を準備しておいて、空間がつながったらその犬たちをこちらに誘導した人がいたってこと?


「その魔法陣でつなげられる空間と空間の距離は?」

「この程度の術式ではおそらく2キロ程度が限界かと」

「と、すると王都内にまだ犯人が潜んでいる可能性が高いな」


 つぶやくように言った秀一さんの言葉に、会場内に緊張が走る。


「王宮の警護のレベルをあげましょう。また、王都から出る者について厳しく監視をすべきではないでしょうか」

「しかし、王宮が襲撃された件について公にはしておりません。急に出入りを厳しく制限するとなると理由が必要になるのでは?」


 私の他愛もない言葉を拾って、あっという間に議論が進んでいく。

 それも武官だけで話が進むのではなく、文官である大臣たちにもちゃんと意見を述べてくる。

 これは私の偏見が大いに混ざった感想だけれど、ちゃんとした意見を述べてくる大臣は、さっき真帆さんのことを久保大臣が嘲笑したときに笑わなかった人たちばかりだった。

 あ、でもひとりだけ笑わなかったけれど発言もしない人がいた。

 確か名前は真壁(まかべ)公爵って言ったかな。

芸術大臣だったはず。

 彼は少しウェーブのかかった髪の毛をいじりながらつまらなそうに頬杖をついている。

 この人は久保公爵の発言に不快そうに顔をしかめていたけれど、会議にも興味がないみたいだった。


「?」


 見すぎていたせいか、真壁大臣がこちらを向いた。

 慌てて頭を下げたけれど、彼は私のことなど目に入っていない様子で窓の外を眺めている。

 結構な美形だけど、残念な人なのかな。

 でもこの雰囲気、多分『設定』ある人のはずなんだよねぇ。


「あ」


 唐突に思い出して私は小さく声をあげた。

 幸い議論に集中している人たちには気づかれなかったけれど、何故か真壁大臣には聞こえたみたいだった。

 真壁大臣と目があう。

 少し色の薄めの瞳を見て、私は確信した。

 この人『変人公爵』だ。


【公爵家】

 公爵家は王の兄弟が分家したときに創設される。

 現在の金剛国には3つの公爵家がある。

 公爵家の当主はそれぞれ大臣の地位につき、国政に参加することを義務付けられている。


 鈴嶋家:先々代の王の弟が分家した際に創設された家。現党首は現国王のはとこにあたる。孝明の実家でもある。秘書長官。

 久保家:15代ほど前に創設された公爵家。もっとも歴史がある分プライドが高い。財務大臣。

 真壁家:久保家ほどではないが歴史のある家。現当主はまだ20代の若者。国政に興味がない。芸術大臣。


会議は踊る、されど進まず。な御前会議です。

真帆さんは文官方にはあまり歓迎されていません。

そして変人公爵が出てきました。

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