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デビューダンスと魔道鋼(後)

「真帆さん、指輪はどうしたんですか?」

「ん? ああ、これ?」


 私が指摘すると真帆さんは指輪の跡が残る左手をひらひらと振った。

 今までなら真帆さんの左手の中指には副陣将の地位を表す指輪がはまっているはずだった。


「じじいから引き継いだ指輪は調整が必要だからさ」

「ああ、そうですね」


 これから真帆さんは国一さんから渡された地裂陣陣将の指輪をつけるから、サイズ直しに出してるんだ。

 そう納得していたのに、真帆さんの次の言葉で私は首を傾げた。


「だからバルコに預けてるんだ?」

「バルコさんに?」


 バルコさんて魔導師のバルコさんだよね。

 それとも私が知らないだけでアクセサリー職人さんでバルコさんて人がいるんだろうか?


「真帆さん、それでは亜香里さんには通じませんよ」


 困惑した私に貴子さんが苦笑しながら助け舟を出してくれる。

 そして貴子さんは真帆さんの言葉の意味を説明してくれた。


「将軍位や陣将位を表す指輪は、魔道鋼(まどうこう)で作られているんです」

「魔道鋼?」

「魔道鋼というのはそれ自体が魔力を帯びている鉱物から作られる金属のことで、それに魔法陣などを刻むことで色々な性質を持たせることができるんです。ただ、その性質上能力の高い魔導士にしか取り扱うことができないんです」


「そんな不思議な金属があるんですね」

「ええ、魔道鋼はその希少さからほとんど市場に出回りませんから、ご存じない方も多いですね」

「へぇ」


 思わず隣にいる秀一さんの左手をじっと見る。

 秀一さんの左手の中指にはめられている指輪は、メタリックな輝きを放つ深い青色をしていて。その表面には二匹の龍が何か魔法陣のようなものを取り囲む絵が彫られていた。

 私の視線に気づいた秀一さんは少し笑いながら指輪を外してくれる。


「見るか?」

「いいんですか?」

「はめてみてもいいぞ」

「え、そんな。悪いですよ」


 掌に置かれた指輪を見て私は少しだけ考えた。

 こんな経験めったにないだろうから、甘えちゃおうかな。

 でも、真帆さんと秀一さんの笑みが気になる。

 と言うか、なんか見たことのある笑みな気がするんだけど。

 どこかでひっかかりを覚えながらも、私は好奇心に勝てなかった。


「気にするな」

「では、お言葉に甘えて」


 再度進勧められて、私は指輪を左手の中指にはめようとした。


「え? 嘘、はまらない。あれ?」


 何度やっても指輪は第一関節のあたりで止まってしまって、それ以上は進まなかった。

 嘘、私の指ってそんなに太かったの?

 それとも秀一さんの指がすごく細いとか?


「あははははは」


 自分の指と秀一さんの指を見比べながら密かにショックを受けていると、真帆さんが声を上げて笑い出した。

 秀一さんも吹き出しているし、貴子さんも困ったように眉根を寄せながらも笑っている。


「安心しろ、亜香里」


 笑い終えた真帆さんが軽く肩をたたいてくる。


「お前の指が太いわけじゃない。それがそいつの特性なんだ」

「特性?」

「ああ、そうだ」


 聞き返す私の隣から大きな手が伸びてきて指輪をつまみ上げた。

 秀一さんは手にしたその指輪をたやすく指にはめてみせる。


「この指輪は持ち主を指定されている。つけ外しは本人の意思でできるが、持ち主以外の者がはめようとすると指輪自体が拒否をするんだ」

「そんなことができるんですね」

「仮に落としても主の所に戻ってくるしな」

「へー」

「それ以外にも色々使えるんだぜ」


 感心していると真帆さんがまた人の悪い笑みで話しかけてくる。


「指輪に命じておいて一度他人の指につけさせておいて『拒否』の命令を下したらどうなると思う?」

「指輪がつけられるのを拒否するってことだから、指輪が指からとれるってことですよね」

「そう。内側を刃物のように鋭くして、一気にサイズを縮めるんだ。そうするとまるで野菜を切るみたいにスパンと…」

「怖っ!」


 左手の指を右手の人差し指と中指でつくったはさみで切る仕草をする真帆さんに私は思わず叫んでいた。

 ちょ、それなんて武器。


「まえにじじいがやってるのを見たんだ。なかなか効果的な使い方だろ?」

「そんないい笑顔で怖い事言わないでください」


 つい変な顔をしてしまった私を見て、真帆さんはまた喉を鳴らして笑った。


「こら、大人をからかうな」


 そんな彼女の頭を秀一さんが平手で殴る。

 そこへ孝明さんとローブを着たバルコさんがやってきた。


「やあ、集まってるね」

「岩敷陣将、失礼します」

「やあ、孝明。バルコ」


 みんなにあいさつをしてきた孝明さんに対して、バルコさんは真帆さんだけに声をかけてくる。

 真帆さんもそれを気にした様子もなく片手をあげた。


「ご要望通り特急で仕上げてまいりました」

「悪いな」


 バルコさんが広げた包みの中には、黒地に赤で魔法陣が描かれた指輪があった。

 地も厚いそれは、真帆さんの指に対してはかなり大きいサイズのように見えた。

 でも、真帆さんがそれをとり指にはめるまでの少しの間で指輪は縮まり、ぴたりと指にはまる。

 真帆さんは二、三度手を開いたり閉じたりして指輪の調子をみていた。それからおもむろに腰に差している剣の柄を握る。


「ここでは抜かない方がいい」

「分かってる」


 孝明さんの注意に一言返し、真帆さんは剣の柄を何度も握りなおしながら指輪の調整を加える。


「…うん、もう少し薄い方がいいな…ああ、これくらいか」


 そう言って剣の柄を離した真帆さんの指にはまる指輪は、当初のものよりサイズも地の厚さも変わっていた。

 よく見ればデザインも少し変わっているような気がする。


「指輪は真帆さんの思考の通り変形しますか?」

「ああ、問題ない」


 バルコさんの問いに真帆さんは左手を彼に向かって差し出した。

 彼の目の前で中指にはまっている指輪を一度大きくさせ、またもとに戻して見せる。

 その様子をじっと見ていたバルコさんはようやく納得したのか、ひとつ首をたてに振った。


「確かに問題はないようですね」

「その指輪って、もっと形を変えることができるんですか?」


 真帆さんの調整が終わったところを見計らって、私は疑問に思っていたことを聞いた。


「ええ、この指輪に掘られた魔法陣の力によって、どんな形にもなりますし、魔道鋼の性質により何倍もの質量になることもできますよ」

「じゃあ例えば、この指輪を剣にすることとかできたりしますか?」

「さすがにそれは…」


 私の問いに答えていたバルコさんは軽く苦笑した。

 そうか、さすがに剣にはならないのかぁ。

 指輪が剣になるのって、ちょっとファンタジーっぽくてかっこいいと思ったんだけどな。


「ですが、ある程度とがらせて武器にするくらいはできると思いますよ」

「こんな感じか?」


 バルコさんの言葉をうけて、真帆さんは指輪の形状を変えてみせた。

 指輪の真ん中が盛り上がり、とげのようなものがつきでる。


「これでぶん殴ったら痛そうだな。いいことを知ったよ。ありがとうな、亜香里」


 ケンカ指輪どころじゃない攻撃力を指輪に持たせて、真帆さんは満面の笑みを浮かべた。

 もしかして私、まずいこと口走っちゃったかな。

 まあでも、真帆さんが喜んでるならいいか。

 真帆さんが楽しそうだと嬉しくなってしまうのは、きっと私も真帆さんをとりまく人々のうちのひとりになっているからなんだろう。

 それに何かのときの武器になるならいいよね。

 つられていい笑顔になってしまった私と指輪をもとの形に戻した真帆さんにバルコさんは軽く頭を下げた。


「では、私はこれで」

「せっかくだから一杯どうだい?」


 踵を返そうとしたバルコさんの前に、孝明さんが人数分のグラスをのせたトレイを差し出してきた。

 あれ、さっきまで何ももっていなかったよね? いつの間に用意していたんだろう。

 孝明さんは穏やかな笑みを浮かべつつみんなに飲み物を勧める。


「真帆もこれで名実共に陣将となったんだ。まず乾杯しよう」

「ああ、そうだな」

「ちょうど喉が渇いてたんだ」

「ちょうだいします」

「いただきます」

「さあ、魔導師殿も」

「…では、一杯だけ」


 秀一さん、真帆さん、貴子さん、私の順にグラスをうけとると、孝明さんはバルコさんにもグラスを差し出した。

 おだやかながらも有無を言わせない調子の孝明さんに、バルコさんもしぶしぶグラスをうけとるしかなかったみたいだ。

 そしてこの場では一番地位の高い秀一さんがグラスを掲げで音頭をとる。


「では、真帆と貴子殿の成人を祝って」

「乾杯」


 みんなで唱和してグラスを傾ける。

 ひとくち飲んでから拍手をしたくなったけれど、グラスを置くところがないのに気付いた。

 会社の宴会の癖が出てる。いかんいかん。

 気を取り直してもうひとくち飲んだ私はむせかけてしまった。

 飲み口がいいからひとくち目には気づかなかったけれど、このお酒アルコール度高い!


「んぐ」

「どうした?」


 どうにか咳き込むのはこらえたけれど、変な声が出てしまう。

 それを秀一さんが怪訝そうに見下ろしてくる。


「このお酒、ちょっと強いですね」

「そうか?」

「別に普通だよな」


 そう言うと、秀一さんと真帆さんが不思議そうに首を傾げている。

 このふたりはすでにグラスを空にしていた。

 孝明さんとバルコさんは飲み干してはいないようだったけれど、特に困っている様子もなかった。

 ただ貴子さんだけが同意してくれる。


「確かに少し強いですね」

「そうか? だったら私が飲むよ」

「お願いします」


 真帆さんは貴子さんがもてあましていたグラスを受け取ると、一気に飲んでしまった。

 そして私にも手を差し出してくる。


「亜香里のも飲んであげようか」

「あ、お願いしま…」


 私もこのお酒を飲み干すのはつらかったので、渡りに船とばかりに真帆さんにグラスを渡そうとした。

 けれどもそれを秀一さんに横からとられてしまう。


「真帆、ペースが早すぎる。少し考えて飲め」


 そう言うと、秀一さんは私の飲み残しをひといきで飲み干した。

 そのとたん、真帆さんが心から残念そうな声をあげた。


「あー、私の酒」

「お前のじゃないだろう」


 唇を尖らせる真帆さんに秀一さんは淡々と注意をした。


「せっかく堂々と飲めるようになったんだぜ。もっと飲ませろよ」

「もう子供じゃないんだ、ちゃんと飲むペースを考えろと言っているんだ。潰れるぞ」

「この程度でなんか潰れねぇよ」


 確かにかなり強いお酒を立て続けに飲んだにしては、真帆さんからは少しも酔った様子は見られなかった。

 真帆さんはうわばみ設定だからこれくらいの量で酔うことはないだろうけれど、『堂々と飲めるようになった』なんて言っちゃっているあたり、前から飲んでいたのを公言してるよね。

 時代的に飲酒のタブーが緩い世界ではあるけれど、他に聞かれちゃまずいんじゃないのかな。

 秀一さんと真帆さんの口論て兄妹のじゃれあいみたいでほほえましいんだけど、そろそろ止めた方がいいのかな。

 さて、どうしよう。

 と、孝明さんを見上げた時、会場の一角から悲鳴が上がった。



魔道鋼(まどうこう)

 金剛国の北の山脈でのみ採取できる特別な鉱石から作られる金属。

 石自体に魔力を帯び、それに魔法陣などを掘ることで魔力のない人間にも簡単な魔法なら使えるようになる。

 金剛国においては主要な役職の人間の身分を表す指輪として使われている。

 指輪の第一主は持ち主と設定された者であるが、その持ち主が死亡したときは指輪は金剛王のところへ自発的に戻ってくるようにプログラムされている。


少し時間が空いてしまって申し訳ありません。

次回はアクションになります。

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