騎士の叙任と陣将の叙任
会場後方の扉が開き、王と王妃が入場して来る。
黒髪黒目が基本の金剛国の王でありながら金剛王は淡い栗色の髪色をしていた。
私の席からは良く見えなかったが、その瞳は瑠璃姫と同じ青色なんだそうだ。
年齢は40代前半くらいだろうか、威風堂々とした佇まいはまさに一国の王と言った姿だった。
次いで王に続いて入ってきた王妃は、綺麗な金髪の少女のような容貌の美女だった。
王妃は他国から嫁いできた方だということだから、おそらく王家は金剛国の民に比べて他国との婚姻が進んでいるのだろう。
そして瑠璃姫の容姿がおふたりのハイブリットなのもよくわかった。
いや、この美男美女の子供なら美少女になるのは当たり前なんだろうけど。
あ、でも青い瞳は劣勢遺伝だと聞いたことがあるけれど、よく遺伝したな。
王と王妃が玉座につき、王が片手をあげると室内の者も着席ができる。
そしてファンファーレが鳴り響き、叙任式と成人の儀が始まった。
まず先に行われるのは騎士の叙任式。
王と王妃が座る玉座を挟むように四将軍と十絶陣将が控え、その前に騎士に叙任される若者たちが進み出る。
列の最後尾についた真帆さんの姿に、観覧席から声があがる。
「まああれは岩敷家のお嬢様では?」
「女だてらにあんな装いをするなんて」
「騎士に叙任されるなんて正気かしら」
「ご両親は何を考えられているのかしらね」
小声ではあったけれど、侮蔑のささやきは私たちの耳にしっかりと届いた。
勝手なことを言う人たちに私は内心で腹を立てたけれど、岩敷夫人は気にした様子も見せず、むしろ微笑みさえうかべて真帆さんを見守っていた。
「ただいまより騎士の叙任を行います。青柳徹殿、前へお進みください」
ふれ係の者が名を呼ぶと、先日地裂陣陣将の執務室で出会った青柳青年が前に進み出た。
片膝をついて跪く青柳青年の前に王が立つ。王は小姓から渡された剣を抜くと、青柳青年の左肩に乗せた。
そこで二回、肩を打つ。
「汝を我が騎士に任ずる」
次いで王は右肩をまた剣で二回打つ。
「我が国を守る英雄たれ」
そして剣で青柳青年の頭上を切るようなしぐさをしてまた鞘に納める。
王より騎士に叙任された青柳青年は一層深く頭を下げて王への誓いを述べた。
「青柳徹、我が忠誠を王に捧げます」
「うむ、励めよ」
その誓いに王が頷き、これで青柳青年は晴れて金剛国の騎士と認められた。
あとの人はこれと同じことの繰り返し。
今回騎士に叙任されたのは青柳青年を含めて5人だった。
「お待ちください」
最後に真帆さんが王の前に進み出たところで陣将の列から声が上がった。
「いかがした、地裂陣陣将・鬼頭国一」
叙任式を中断するような行為であるにもかかわらず、王は国一さんの行動をとがめなかった。
そんな彼に一礼し、国一さんは進み出ると真帆さんの隣に膝をつく。
「この者を騎士に叙任する前に一つ奏上いたしたき件がございます」
「許す」
「ありがとうございます」
驚きもしないで国一さんに発言を許す王に、ふたりの間でなんらかの話し合いがもたれていたのは明白だった。
国一さんはもう一度頭をさげ、それから顔をあげた。
「この場をお借りして申し上げます。私めに地裂陣陣将の座を辞することをお許しください」
ざわっ。
と、場内がどよめく。
「じじ…鬼頭陣将」
真帆さんも驚いて国一さんの名を呼ぶが、彼はそちらに視線すら向けようとしなかった。
そして突然の辞任であるにもかかわらず、王・四将軍・十絶陣将たちは誰ひとり動揺を見せなかった。
王が右手を上げると場内のどよめきが収まる。
静まり返った場内に王の声が響いた。
「そなたは長年陣将をつとめてきた名将。今頃にきてなぜ職を辞す?」
「40年、お仕えさせていただいておりましたが、寄る年波には勝てませぬ。またよい後継者に恵まれましたので、後を心配せずともよくなりました」
「ほう。して、その後継者とは?」
「こちらにおります岩敷真帆でございます」
「は?」
思わぬところで名を出されたのだろう、真帆さんは心底驚いた声をあげた。
王はぽかんとする真帆さんに顔を向け、そしてまた国一さんに視線を戻す。
「岩敷真帆が優れた戦士であることは世も聞き及んではおる、しかし真帆は本日成人の儀を迎える者。いささか若すぎるのではないか」
「その通り、若すぎる」
「ましてや岩敷真帆嬢は女性ですぞ」
「彼女には荷が重すぎるのではないですかな」
王の疑問の尻馬にのるように文官の列から声があがる。
うわ、出たよ。年功序列主義で女性蔑視なおっさんたち。
まあこの時代の感覚ではそれが普通なのかもしれないけど。
でもむかつくからあのおっさんたちはみんな今晩足がつってしまえ!
真帆さんを認めようとしないおっさんたちに私が小さな呪いをかけていると、国一さんが穏やかに反攻した。
「成人したばかりの者が陣将位につくのも、女性が陣将となるのも、前例がないわけではありますまい」
あ、十絶陣将って過去に女性がいたんだ。
金剛国は能力があれば身分性別を問わず用する先進的な国って設定にしていたから、そういうこともあるのかもしれない。
「確かに真帆は若輩者で至らぬ点もございますでしょう。ですがこ奴は人に恵まれております。そしてその人々の力を借りて成長していける者であります」
「なるほど」
国一さんの言葉に頷き、王は周囲を見回した。
「将軍位や陣将位の者の辞任・叙任は四将軍および十絶陣陣将すべての承認が必要となるが、そなたらの意見はどうだ?」
王の問いにそれまで一言も発していなかった将軍・十絶陣陣将たちへ注目が集まる。
ダンッ!
一瞬の静寂を切り裂くように鈍い音が響いた。
それは秀一さんが鞘ごと抜いて手にしていた剣で床を打った音だった。
「青龍将軍・鬼頭秀一、鬼頭陣将の辞任並びに岩敷真帆の陣将就任に異論はございません」
殷々と響くその声を皮切りに、他の将軍たちも同じように剣で床を打ち、承認の意を告げる。
そして四将軍が終われば今度は陣将たちが天絶陣陣将から順に鬼頭陣将の辞任と真帆さんの就任を承認していく。
「よかろう。ならば鬼頭国一の任をとき、代わりに岩敷真帆を地裂陣陣将に任ずる」
王は将軍たちの承認を聞き終わると深く頷き、言った。
「国一よ、我が父上の代よりよく使えてくれた。礼を言う」
「もったいなきお言葉にございます」
「いや、お前は真の名将ぞ。隠居したと言ってもまだまだ世や若い者たちを見守ってもらわぬとな」
「ありがとうございます」
王のねぎらいの言葉に礼を言い、国一さんは前に進み出た。
腰に帯びていた剣と左手の中指につけていた指輪を外すと、小姓のかかげた布の上にそれを置く。
黒地に赤い色で装飾的な文様が描かれた鞘に納められている剣は、地裂陣陣将の証だった。
「大儀であった」
「は。これにて老兵は失礼いたします」
国一さんは深く頭をさげると身を引いた。
彼はその後陣将たちの列に戻ろうとはしなかった。
「さて、岩敷真帆よ」
「は」
真帆さんは王に名を呼ばれてびくりと肩を震わせた。
緊張している真帆さんに王は少しだけ表情を緩ませる。
「確かにお前は若い。だが、お前を後継者にと推す鬼頭国一とお前の周りにいる者たちを信じるように、世もお前を信じよう」
「ありがとうございます」
「うむ」
金剛王は小姓から地裂陣陣将の剣を受け取ると、玉座を下りた。
そして真帆さんの前まで来ると剣を抜き放つ。
「面をあげよ」
「は」
「っ!」
王の行動に私は息を飲んだ。
いや、私だけでなく会場中が息を飲む。
王は剣の切っ先を真帆さんの喉元に押し当てていた。
先ほどまでの騎士の叙任の時とは違い、少しでも動けば喉を突かれてしまうような状態でも、真帆さんは微動だにしなかった。
「さすが、地裂陣にて歴戦を重ねてきただけはあるのう」
動じない真帆さんに王は満足げにつぶやいた。
「真帆よ」
「は」
「地裂陣陣将として国を守ることを誓うか」
「身命を賭して誓いましょう」
「もしお前に二心ありし時には、この剣にてその首打ち落とすが、よいな」
「万が一王が我が心をお疑いになられたときは、ひとこと『首』とお申しつけください。王のお手を煩わせることなく、自らの手でこの首を落してみせませましょう」
「その心意気やよし」
真帆さんのふてぶてしいまでの返答に王はからからと笑った。
王は剣を鞘に納めると、真帆さんにつきだした。
「ならばお前は今日より地裂陣陣将ぞ」
「拝命いたします」
真帆さんは王から剣を押し頂き、つづいて指輪も受け取る。
こうして真帆さんは名実共に地裂陣陣将となった。
「立て」
王に命じられて真帆さんは立ち上がった。
「さあ。将軍たちよ、新しき陣将に寿ぎを!」
王の言葉に朱雀将軍が皆を代表して一歩前に出た。
「岩敷真帆に問う、汝は何ぞ」
「我は地裂陣陣将、岩敷真帆。国の敵を屠る剣であり、民を守る盾である」
朱雀将軍の問いに真帆さんは凛として答えた。
「新しき陣将よ、最強の剣となり最強の盾であれ」
ダンっ!
朱雀将軍が剣で床を打つと、それに合わせて他の将軍と陣将たちも同じように剣で床を打った。
ダンっ!
ダンっ!
ダンっ!
3回剣で床を打つと彼らは声を合わせて叫んだ。
「地烈陣陣将・岩敷真帆に戦神ユッダの加護があらんことを!」
【金剛王】
43才 178cmくらい 中肉。
金剛国の王は王位につくと金剛を名乗る。
現国王の即位前の名は天藍といった。
髪は淡い栗色で目は青い。祖母がエイトリアルの姫君だったためこのような容姿になった。
妻を一途に愛する夫で子煩悩な父親。人格者だが、国王として必要であれば冷徹な判断もできる名君。
次は叙任式後の話です。




