第七十二話 盗賊団を殲滅させよⅡ
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午前投稿です。
僕は拠点で飛び起きた。
(しまった! だいぶ寝てしまった)
五連続拠点制圧は体力面もそうだが精神的に強い緊張を強いられた。その反動なのか気を許してしまい、寝坊した。すでに太陽は高い。
起きた気配を察知したのか、コトエがすぐに水を持ってきてくれた。
「昨日はお疲れ様です」
「ありがとう」
一気に飲み干す。
(……うまいっ)
落ち着いたところで、僕はコトエに今の状況を確認した。
彼女は、拠点にはすでに何名か戻ってきていて、打ち合わせ通り捕縛か息の根を止めたという。捕縛した者は情報を引き出した後、殺すか、後に王都警備兵に渡すか決める段取りになっていた。
僕はコトエに『どうやって情報を引き出すんだ?』と聞いた。彼女はニコリと笑って『我々にはいろいろとやり方がありますので……』と答えになっていない返事をした。
(コトエちゃん、怖えぇよ……)
それ以上は聞くまい。
僕が起きてからもこの乗っ取った敵拠点こと、『盗賊ホイホイ』には顔出しと思われる連中がふらりふらりと入ってくる。
それらは例外なく忍者たちの餌食になるのだが、僕は気配を殺して隠者の里の連中のやり方を見ていた。
ある者は拠点に誰もいないのを不思議に思い、奥まで来たところで突然天井からぶら下がった忍者に息の根を止められた。ある者は用を足しに寄ったところ、便所で後ろから殺られた。
(……恐るべし)
隠者の里の連中が味方でよかったと心の底から思う。
状況が非常に安定しているのを確認できたので、僕はケンザブロウとの打ち合わせのため王都クラスノへ戻ることにした。
******
ケンザブロウとの打ち合わせは王都正門前のいつもの茶屋だったが、その前にタクヤたちの様子を見るのに宿へ寄った。予想通り彼らはまだ二日酔いで寝ていた。
(呑気なもんだ)
よく働いて、よく食べて、よく寝る。これが異世界で暮らすのに一番良いと僕は思っている。彼らが変なストレスを抱えずに過ごして、最後に日本へ戻れればいいのだ。
音を立てないようにそっと宿を出た。
その後茶屋へ行くと、今回は何も言わずとも奥に通された。
畳の香りがする奥の小部屋ではすでにケンザブロウが待っていた。
「体調は大丈夫か?」
「問題ありません」
「ふむ。昨日は見事だった」
「ありがとうございます」
「さて、今後じゃが……」
ケンザブロウはこのまま数日盗賊団狩りを敵拠点でおこない、その後焼き払うのが良いと言う。
同じことをいつまでもしているわけにはいかず、拠点で待機している里の者たちの安全も考慮しなければいけないので、僕もその案に賛成だった。
「その次の段階は予定通り、王都内にある敵の丸印拠点を潰そうと思うぞ。だがすべてではない。残りは王都警備兵へ情報提供をして、あとは彼らの仕事じゃ。そういう風に思うのだがどうじゃ?」
「私も賛成です。王都警備兵たちもわけのわからない連中に手柄をすべてもっていかれたら気に触るでしょうから」
「よし!」
ケンザブロウは膝を叩いていて立ち上がった。
「決まった。それではわしらはこれから敵情視察じゃ」
「?」
「この間ギンジが発見した拠点じゃが、王都内の民家に敵が巣くっていて強いと申しておった。先に視察でもしておくか」
「なるほど」
「お主も来るのじゃろ?」
「もちろん行きます」
今は隠者の里の者たちが交代ではあるが二十四時間体制で動いている。
僕も何か手伝うべきと考えていた。自分だけ休んでいるわけにはいかないと。今ここが肝心だと。自分の奥に潜む本能がそう言っていた。
宿のタクヤたちには伝言を残す手配をして、僕はケンザブロウと王都内をめぐることなった。
しばらくしてギンジが警戒していた民家前の通りに着く。あと数軒ほど向こうにあるのが丸印の拠点の一つだ。
「あそこじゃ」
「すでに複数の魔素を感知していますが……」
この会話の直前。
敵拠点の軒先が分かる前に指輪は僕に警告していた。
『あそこに強い魔素が一つある。頭一つほかの魔素の持ち主から抜け出ている。ほかには四つあるが、どれもこの前の拠点で倒した丸坊主の大男に遠く及ばない』
だと伝えてきていた。つまり一人は強くて、他は雑魚。それと同時に、
『敵はなんらかの探知を四方に巡らせておる。家にも何か魔素術が仕掛けられている可能性が高い。これ以上近づくな』
と警告もしてきた。
ケンザブロウは指輪が闇の精霊が形を変えた状態だと知らないし、僕以外が念話を聞くこともない。なので僕が小声で、
「強い魔素が一つあります。家にもなんらかの仕掛けがされていそうです。これ以上近づくのはやめましょう」
「ん? そうか。お主がそういうのであれば」
ふと向こう側を見るとなんとなく見たことのある者が顔をだした。たしか隠者の里の者だ。完全に街人に扮しているが間違いない。こちらに気づいたようで目礼を送ってきた。
「見張りもついておるしのぅ」
「ギンジの第六感もすごいですね」
「そうじゃろ。危機を感じる能力が乏しい忍者は使えん」
「なるほど」
「里は十分な実力が備わった者のうち、上から十人を『十傑』と呼んでおる。コトエもギンジもその十傑の一人じゃ」
「納得です」
どうやって十人を決めているのかわからなかったが、それは今すべき質問ではないと考えた。
あまり目立たないように通りを引き返す。
「お主これからどうするのじゃ?」
「制圧した拠点を手伝おうと思います」
「働き者じゃな」
「里の皆さんには負けます」
「よい。二日後の夕方に例の茶屋で」
「わかりました。それではこれで失礼します」
僕はケンザブロウと別れた。
いつもは里の者たちと別れると、例えばコトエやギンジのことなのだが、通りですぐに姿がわからなくなる。民衆と同化するのかあっという間に見失うのだ。
数歩歩いてから、僕は『ふと里の長はどうなのだろう』と思って通り向こう側へ振り返った。
ケンザブロウは姿を消して……
……
……
おらず、通行人ですれ違う綺麗な女性の方を見ては、またすぐに違う綺麗な女性に向き直っていた。
(里長って……)
『ただの……』
(助平なだけかもしれない……⁉)
『同感じゃ』
僕は拠点に着いてこのことを忘れるまで、もんもんとした気持ちをどう処理したらいいのかずっと悩んだ。
******
あれから約束の二日が過ぎた。
僕は可能な限り拠点に滞在した。幸いにもあの大男のような実力者は出てこないで、順調に盗賊団員を狩っていった。
毎日王都と拠点の往復の時間は、何かできることがないかと考え、僕は疲れている里の者たちに食べ物や飲み物を提供することにした。
それらはすべて宿の火雲亭から購入した。海が大荒れ、さらには陸地もほぼ閉鎖されてしまい、閑散としている宿から見れば大量の注文は非常に有難かったようだ。さらには里の者たちの口にあったのも良かった。
宿の味付けはここに到着した時より格段に変化して、僕の口にあうようになっていた。確かめたわけではないが犬人族が連絡網を持っているのであれば、トレドでアオイやレイナが教えた日本風の味付けが変化して伝搬されて、ここまで伝わっているのではないかとも思った。
大量の食糧などを運ぶ時使うのは当然保管庫だ。これは今まで以上に役立った。
できれば時間停止や冷蔵、冷凍機能を備えたいがそれを試すには術式の変更と大量の魔石が必要で、今の僕には難しいので保留している。
さて本日の夕方をもって制圧した拠点はすべて焼き払うことになる。
朝からまた事情を知らない盗賊団員が一人、また一人と『盗賊ホイホイ』に吸い寄せられては消されていった。
日が沈むころ。
すべての荷物を運び出し、遺体はすべて近くの土に埋めて木造の拠点に火を放った。荷物は当然僕の保管庫へ収納してこの後一緒に移動する。敵拠点にはお金やちょっとした武器もあり、足のつかない場所で売りさばく予定だ。
メラメラと燃え盛る敵の元拠点を背後に、僕はその拠点を制圧していた里の者たちと一緒に王都へ戻った。
念のため王都へ入るときは別々になり、またあの茶屋へ集合するのである。
王都クラスノ正門すぐ近くの茶屋の奥にて。
ケンザブロウが全員の安否を確認して話し始める。
「皆の者、まずは初期の段階を見事にやり遂げた。ここまでは予定通りじゃ。敵は痛手をこうむったのは言うまでもない」
全員お頭の話を真剣に聞いている。
「疲れているところ悪いがもう人働きじゃ。ここで手を緩める気はない。王都内の敵拠点をいくつか潰す。くどいがここが肝心じゃ。皆の者、またよろしく頼むぞ」
疲労の色はあったが、それをかき消すように士気が高まった。
(さすがお頭です)
統率能力はリーダーに必要な要素だ。やはりケンザブロウはただの助平じじいではないらしい。
彼が次の作戦を皆に提示するちょっと前に、僕は気になっていることを確かめた。
「次の敵拠点の襲撃なんですけど……」
「ん? シュウよ。どうした?」
「気になっているんですが、あの強い魔素を持った敵拠点も僕らでやりますか?」
「どういう意味じゃ?」
ケンザブロウは殺るつもり満々だったらしい。
「あそこで感じた魔素の強さほかと違います。里の者であっても負傷者が出る可能性が高いです」
これは指輪も警告するぐらいだから間違いない。
「それでここからは僕の提案ですが……」
「ふむふむ」
「……あの拠点を外すのはどうですか?」
「なんと! その意図は?」
ケンザブロウは驚いたようだが僕の提案をきちんと聞いてくれる。
「拠点をある程度潰した後、ドルドビ盗賊団の情報を王都警備側に流しますよね?」
「その予定じゃ」
「では王都警備兵たちに初手を踏ませるのはどうでしょうか」
「なるほど……。……お主、悪よのぅ」
僕の考えたことは危険な場所ならば王都警備兵に任せればいいという案だ。
すでに僕と隠者の里の者たちは十二分に働いた。危険も冒して敵拠点を潰した。あとは警備兵に花を持たせてやればいい、例えそれが危険な拠点であっても、という意味だ。
「どうでしょうか?」
「一理あるな……」
しばらくケンザブロウは損得を考えていたようだが、
「お主の案をまた採用しよう。今回は冴えに冴えまくっているからな」
と言った。僕の意見が再び通った。
「ありがとうございます」
その後ケンザブロウより『強いと感じた魔素のある場所を外して、敵の王都内拠点を本日続けて襲撃する』ことが発表された。
出発前に襲撃役の隠者の里の者たちへ、僕は『雷球をこめた魔素玉(=雷球玉)』を一つずつ渡した。
これは獲得した魔素玉(魔素術を封じ込める)の技術を用いて、僕の雷の魔素術である雷球を中に閉じ込めた状態で封をしたものだ。
大きさは野球ボールぐらい。
雷球を発動させたい直前に握って魔素玉に自分の魔素を流す。すると封が壊れかかるので、その状態で壁にぶつけるなどの物理的な衝撃を与える。
最後に魔素玉が割れて中の雷球が即発動する、という仕組みだ。
雷球は結構な魔素を込めて術を練ったので、全方位五メートルぐらいは放射状に電撃が発生する。民家の部屋の中で発動させれば、中にいる者や家具など室内のほぼすべてに雷撃が行き渡ることになる。
これは焼き払う前の敵拠点で確かめたから間違いなかった。
先にコトエたちに相談したら、ぜひ全員にというので急遽数を増やして作製した。里の者一人一人にというのは無理だったが、襲撃組には準備できた分でどうにか足りた。簡単に使用方法説明をしたら、さっそく試してくれるといった。
(それだけ信頼されているんだな)
雷球を込めた魔素玉の威力には絶対の自信がある。が、初戦で試してくれると言ってくれた彼らは、僕のことを今回の件でさらに信頼してくれるようになっているようだ。
装備を再度確認後、お頭の一声で僕たちは夜の王都クラスノの敵拠点へ出発した。
******
(静かだな……)
正確な人数は分からないが五十万人規模はあるんじゃないかという王都だが、夜となればそれなりに静かだ。
多くは木造の一階建て住宅。高級住宅街となれば二階建て、ごくたまに三階建てとなり、広く整備された庭が出てくる。さらに官僚や大富豪になるとデカイ庭を持つようになる。
王都の道は人通りの多いところは石で整備されているが、脇道は土がむき出しだ。周囲の民家が所狭しと自宅からあふれ出たものを置いている。
そういった場所は物陰となり、薄暗い道を演出する。
今、その場所をスススッと黒い影が一つ、また一つ通っていく。いうまでもなく隠者の里の忍者たちだ。音もなく、ただ闇夜をひたすら目的地を目指して移動する。
本日襲う拠点はこの間コトエたちが暴いたドルドビ盗賊団の拠点のうち丸印にあたる。すなわち、敵が襲撃の後一度拠点(二重丸)へ寄って、その後戻る拠点(丸印)になる。敵はそこを住居としている可能性が極めて高く、周囲も同様の一般人の民家だ。
襲撃の際には隣人に被害が出ないよう細心の注意を払わねばならない。
僕は魔素玉の威力には心配していないが、音だけが心配だった。
(大丈夫だろうか)
思いなおせば魔素を込めすぎた気がする。やはり実用化にはまだ早かったか……?
やがて一つ目の襲撃目標が見えてきた。予想通り民家の一角であった。
里長であるケンザブロウの合図で裏口から、屋根から、窓から。ありとあらゆる入り口から黒い影が音もなく侵入していく。
ふと室内から漏れ出る明かりとわずかであるが甲高い音が走った!
(雷球玉を使った!)
室内での戦闘には加わっていないが緊張が走る。
光が、おそらくは雷の光だと思うがすぐに消えてなくなり、周囲は暗くなる。音もそれほど漏れておらず、周囲に気づいて騒ぐような気配は一切ない。
やがて裏口から入って来いと合図が送られた。僕は恐る恐る敵拠点に入る。
中では三人ほどが感電死していた。部屋の中にあった家具や椅子はところどころ焼き切れており、どうにか原型が分かるといった具合だ。
「シュウ殿、これはすごいですよ」
「私もそう思います。扉を開けて放り込めば、それだけで終わりです」
寝ている者たちは魔素抵抗を上げるために自分に魔素を張り巡らせることが当然できない。隠者の里の者たちは褒めてくれた。
「これなら時間短縮できるので、今日は予定以上に拠点を潰せるかもしれません」
僕はひとまず安心した。
王都内の拠点つぶしはその日夜明けまで続き、合計三十二か所の掃討に成功したのだった。
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作者よりお知らせ
第一話より修正をしますが、内容に変更はありません。主に誤字脱字修正です。




