第七十一話 盗賊団を殲滅させよ
先日ブックマークなどをいただきました。本当にありがとうございます。
午前予約投稿になります。
また文章を修正しました。
深夜。
狙いの五つのドルドビ盗賊団の集合拠点のうち、既に四つを制圧した。
どこも夜間だったし、盗賊団は自分たちの情報が漏れていると思っていないので警戒度が低い。そこを忍び連中が襲う。
先制攻撃は静かにかつ迅速に行われ、今のところ拠点制圧は問題なかった。
盗賊団の連中はもし拠点から逃げてきても、外で待ち構えた僕を含む隠者の里の忍者たちにボコボコにされて、リーダー格は捕獲、それ以下はその場で息の根を止められていく。
僕は当事者であるし、その光景を見ていてむごいという感情は一切感じなかった。
拠点の建物は当初の予定通りに損傷なく制圧され、そのまま隠者の里の連中が変装して住む形になる。
健全な住人へ入れ替わるのだ。
なにも知らずに拠点へ戻ってきた、あるいは寄ったドルドビ盗賊団員はそのまま訳が分からないまま屋内に引きずり込まれて殺されるのである。
間違って一般人を襲わないのか? という質問に対して、里の連中は『ちゃんと見れば悪人かぐらいわかります』と言った。もし見分けがつかなくても、彼らの中に人物鑑定できる者がいるらしく、間違えはしないという。
僕はこれをゴキブリホイホイならぬ『盗賊ホイホイ』だと思った。
味方はほぼ無傷で済んでおり、予定通り王都周辺の街道にある五つ目の拠点を制圧するため、夜の街道をまた走っていた。
「こっちですっ!」
先頭を走っているギンジが誘導している。
やがて最後の拠点が見えてきた。
(……ずいぶんと大きいな……)
案内されたのは街道沿いにある建物であって、ほかの拠点と同様に周囲には一般の住民はいない。盗賊団は明らかに場所を選んで拠点を構築したに違いない。
この拠点。
街道が森を突っ切るようにはしり、その中にポツンと建てられた比較的大きな民家であった。外見だけではほかの拠点と同様にまったく判別がつかない。
「ここです。建物正面へ通じる道には侵入者を感知する罠が張ってあります。建物の背後から回り込んでください」
ここだけは侵入者を探知するための罠があるらしい。すでに制圧した四つの拠点ではそんな罠があるという話は聞いていない。
せっかく罠を設置した盗賊団には悪いが、ギンジたちは罠探知にも秀でていてその位置を正確に把握していた。
「こちらです」
一度民家へ通じる踏み慣らされた道から外れて、茂みの中を回り込む。
今は家の中に明かりは見当たらない。どうやら寝ているようだ。
(指輪、魔素はいくつだ?)
『十二あるぞ。結構な大所帯じゃ。大丈夫か?』
(大丈夫だろう)
『知っておると思うが、魔素探知は『魔素がなかったり、魔素を隠している者は探知できん』ぞ』
(わかっている。最低十二。この認識でいいんだろう?)
『そうじゃ。油断するでないぞ』
襲撃側の全員があと一息で本日の目的達成できることがわかっている。ケンザブロウを含めてみんな疲労の色を決して見せず、気力にあふれた顔つきだ。
(これなら大丈夫だろう。このままいくつもりだ)
『油断するでないぞ。一つは比較的大きい魔素をもっているようじゃ』
(先にそれを言えよ)
『くやしかったら自分で探知しな』
指輪は戦闘に支障をきたさないように黙り込んだ。
僕は周囲へ魔素探知の結果を告げる。
「中には十二人いるみたいだ。一人は強そうだから、そいつを外してほかの人を殺るといいと思う。気づいて出てきたら、屋外で僕が相手をする」
小声で僕が伝えると、コトエやギンジたちは素早く散開した。
やがて指輪が魔素が一つ消え、二つ消えたことを伝えてきた。そのまま……五つ消えたところで民家から怒号が聞えてくる!
「おらぁぁ!」
ドスの効いた威勢の良い声が聞こえてくる。
「逃げたぞ! 外だ!!」
普段隠者の里の者は声を出さずに始末する。別に盗賊団員が逃げても叫ぶことはないので珍しいとは思った。
――ドゴォン――
正面の扉をぶち破って出てきたのは坊主頭の大男だった。
「けっ! なめんじゃねぇよ」
この大男。身長も大きいが横幅もでかい。しかし動きは俊敏で、いわゆる『動けるデブ』だった。
得物はナオキの新武器の黒棒に似ていた。ただし長さや太さはナオキのそれよりもずっと大きくて相当な重そうがありそうだ。そいつを軽々と振るっている。
ぶんまわしの攻撃を里の者たちは上手に避けたが、棒が拠点の扉や壁に当たって、砕け散った木片が飛び散り、周囲にダメージを与える。
この拠点はそのまま『盗賊ホイホイ』になるのだから、これ以上壊されると面倒である。せっかく外に引きずり出したのだから、これ以上建物に被害なく捕縛できれば良い。
「僕がやる。手を出すな……!」
出した合図に囲んでいた里の者たちが一歩、二歩と後ずさりして大男と距離をとる。
「ん、てめぇが犯人か?」
大男は僕と向かい合う。
(犯人はお前のことだろう)
裸で寝ていて気配で起きたのだろう。簡単な寝巻のほかにこれといった防具は着けておらず、腕には僕が捕縛したドルドビ盗賊団と同じ刺青があった。
「捕まってもらうぞ」
「……なめんじゃんぇぞ!」
(相手は闇夜のいきなり飛び出したんだ。体は起きていないだろうから慣れるまでまだ少し時間がかかるはずだ)
――先手必勝――
僕は練りに練った魔素で利き足を踏み込み、大きな一歩で急接近した。自分の効き足は右足で、自分の脚力で地面がへこんだのが感覚でわかった。そこから急加速するっ!
距離数メートルを一歩で詰めて、短剣で大ダメージを与える計算だ!
「っ!」
僕の素早さに驚いた大男は反応が遅れた。短剣は思い描いた通り腹に突き刺さる!
しかし――
(えっ⁉)
違和感があった。
腹部に刺さった短剣は『グサッ』とか『ブシュ』という感覚や音が出てほしいところだが、こいつの場合は『グニャ』という感覚だった。
すぐに大男の腕が上がって、空気を押しよけるような轟音を鳴らして握られていた太い棒が振り下ろされる。
(まずいっ!)
雷変が間に合わず、左肩に強烈な一撃をもらってしまう!
そのまま力任せに殴りつけられて吹き飛び、数メートル後ろに飛ばされた。
着地は何とかしたが左肩から強烈な痛みが走る。
どうやら骨を砕かれたらしい。
すぐに自己回復を開始する。
(ちっ……油断した)
僕は自分の攻撃を繰り出すとき、思い描いたイメージと一致した体の動きをすると、ダメージも予想通りに起きると認識してしまう癖があった。敵だって実力者だから、僕の攻撃に予想外の反応をすることだってあるのに。
(この癖、直さないといけないな)
左肩の回復を急速に行うが、骨のほか筋肉も傷んでいて思いのほか時間がかかりそうだ。
「さまぁ、見やがれ」
今この場で盗賊団員のうち、この大男以外に両足で立っている者はいない。残りはすでに里の者が倒していた。
(一人なのにその戦意、称賛に値するよ)
「シュウ殿よ、大丈夫か? 手を貸そうか」
ケンザブロウが声をかけてくる。
助太刀をもらおうと思わないこともない。
でもこいつの攻撃力をほかの里の者たちが受けたらまずいと思ったし、この後里の者たちとの関係もある。僕が倒した方がいろいろとやりやすい。
そこまで考えて、
「こいつは僕がやります。ただし捕縛ではなくて殺します」
と返事した。
「何か考えがあるのか?」
「任せてください」
「わかったぞ」
ただし時間はあまりかけられない。敵にはどんな連絡手段があるのかわからないのだから。
ケンザブロウは攻撃のタイミングを計っていたようだが、僕の話を聞いて周囲の里の者たちをさらに下がらせた。
(やりやすい。さすがお頭だな)
僕は敵を見据えた。
「おい、大男。降参する気はないか?」
「誰が降参なんかするかっ! てめぇのほうが重症だろうが」
ちなみに僕は体内で治癒の魔素術をおこなうとき敵に悟られないよう、自分の体が光らないように工夫して発動させている。敵は肩のダメージがもう治りかかっていることに気づけない。
「……残念だよ」
「残念なのはてめぇだっ!」
傷が完治すれば再び短剣を握れるのだが、敵はそこまでの時間を与えてくれなかった。だがこれから僕が考えている攻撃に大きな支障はない。
左手に刻まれた二つの十字の紋章から魔素を引っ張り出す。その状態で『雷伝』を放った。
――ズバァァン――
いつもよりもずっと太い雷を出して攻撃動作に移った大男に命中した。
「ぐっ!」
火傷と電撃による一瞬の体の硬直を確認できた。しかし致命傷や気絶にはならないようで、こいつも魔素術に強い耐性を持っていると推測する。
(予想通りだ)
一瞬の硬直をみて、僕は再び右足で強く踏み切り、今度は左足で奴の頭に強烈な蹴りを叩き込んだ。
――グニッ――
(やはりっ!)
敵の顔面を間違いなくとらえた飛び蹴りは命中したが、大したダメージを与えずに終わった。足裏の感覚は分厚いタイヤを蹴った感覚に近い。
「てめぇ……痛てぇじゃねぇかよ」
「……」
(短剣の時といい、蹴った時といい、こいつの能力の正体は『軟体』だな)
『軟体?』
(体に通常じゃ考えらえないほどの弾性を持たせているんだ。おそらく土か水系統の魔素術の達人に違いない)
『敵の能力の正体が分かったとして、それでどうするつもりじゃ?』
(魔剣があれば相手の能力を越えて、斬りつけることはできるだろう)
『だが今は折れていて使い物にならんぞ』
(その通り。剣に頼られなくても、やりようはいくらでもあるさ)
僕はニヤリと口角を上げた。
「さっきからちょこまかと素早い攻撃をしてきやがって。だが大した攻撃じゃねぇ。てめぇの言葉は強がりばっかだな」
「それはこれからわかるさ」
大男の問いかけに冷たく返事した。
「もう一度聞く。降参の意思は?」
「そんなもんあるかっ!」
僕は敵の返事を確認すると正面へ走り出す!
大男に見えるように右手に雷の魔素術を練って、いつでも放出できるようにする。バチバチと音がなり、触れば電撃が走ることを敵によく見せる必要があった。
「こけおどしをっ!」
敵との距離が二メートルを切ったとき、僕は雷伝を放った! 大男は反射的に防御するため立ち止まる。
「⁉」
僕が放った今度の雷伝は大男を攻撃するためではなく、『その場に留めるため』だった。
目に見えるほどの強烈な雷が複数の輪となり、大男の周囲を取り囲む!
言っておくが雷の魔素術はその状態を維持させるために大量の魔素を使う。なので長時間は維持できない。
同時に僕は大男の頭上に全力で飛び上がった!
跳躍はおおよそ五メートル以上、坊主頭が自分の真下にきたのを確認した。
(今だっ!)
大男は周囲に雷の輪を周囲に張られているので、その場から動きが取れない。動けば感電することは先ほど体験済みだからだ。
僕は跳躍の頂点で自由に使える右の手のひらを地面へ向けて、保管庫にしまってある大岩を取り出した。直径四メートル、ちょうど雷の輪の直径と同じサイズだ。
(くらえっ!)
重力に従ってそのまま大岩が真下に落ちる!
大男の息をのむ音が聞えたような聞こえないような……。
すぐに
――ズドォン――
と大きな音と土ぼこりを周囲に巻き起こして大岩は地面に埋まりこんだ。
その大岩の上に僕は降り立ち、すぐ降りて状況を確認する。
「……う……っ」
「まだ生きているのか。しぶといな」
狙い通り大岩と地面に挟まれた大男だったが、なんとまだ生きていた。
(しかし軟体の魔素術も無限に続くことは不可能だ)
重さ五百キロ以上はある大岩である。
やがて岩が少し沈んだ様子をみせた後、大男からのうめき声が完全に途絶えた。
「お主、やりおるのぅ」
ケンザブロウさんが珍しく褒めてくれた。
「保管庫持ちだとは知らなんだ。一言でも言ってくれればよいのに……」
「わかってしまいましたか……。手の内をすべてさらさらないのが僕のやり方でして……」
(便利な保管庫持ちだとバレると、このじいさんにいいだけコキ使われそうだからな)
まもなく負傷した左肩の自己治癒が終わった。腕を回してみるが可動域や感覚に変化はない。我ながら完璧な治癒だったと思う。
「さてと……」
後始末のため、僕は保管庫から取り出した大岩を再び保管庫へ戻した。戻すときも取り出すときも物体を自分の魔素で『包む』必要があった。なので魔素に抵抗されるような生物には使えない。大きさも有限だし、時間も経過する。
だがこの保管庫。
中に放り込んでしまえば『重量がなくなるという特性』があった。
これは保管庫が発動した後、いろいろと試している過程で気づいた。重さがないので、今回のように大岩を自分の魔素で包んでさえしまえば、保管庫へ収納できる。
戦闘において今回は非常に都合が良かったが、より強い敵との時は武器としては使えないだろうと思っている。せいぜい攻撃の壁ぐらいだろうか。
大岩に手をかざして魔素に包みこんで再び保管庫へ収納した。窪んだ地面がむき出しとなり、張り付くように潰れた大男が出てきたが、間違いなく死んでいた。
「こいつの術は多分体の組織を軟体にして衝撃を直接受けない性質を持っていたんだと思います」
「ふむ。わしも後ろで見ていて同じ考えじゃった」
「あと魔素術に耐性のある装備を持っているはずです。予想以上に雷の魔素術に耐性がありました」
「回収させて後で届けよう。討ち取ったのはお主じゃからな」
「ありがとうございます」
「今日はどうするのじゃ?」
時間で言うと深夜未明を越えてあと数時間で夜明けだろう。その前に王都に戻るのが面倒だと思ったし、また正門の警備兵に文句をつけられるのも面白くない。
「そのまま奪った拠点に泊まって、拠点に戻ってくる盗賊団を倒すのを手伝おうと思います」
「ほぅ、お主。戦闘好きか?」
「そうではありませんが……」
「よいよい。人間族は欲深い。その方向を間違わなければいくらでも助力するぞ」
さすがに五連戦、特に最後の一戦は体と精神にこたえた。
隠者の里の者たちによって安全を確保した元盗賊団の拠点で僕は眠りに落ちた。
今後もご愛読よろしくお願いします。
また今後第一話より適時修正を追加しますが、内容に大きな変更はありません。




