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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第六十六話 共闘

 一部表現を修正しました。

 隠者の里でケンザブロウ、コトエ、ギンジと約束を交わした後、僕は走って王都クラスノの宿火雲亭まで戻った。体感であるが隠者の里から王都クラスノの正門まで十キロぐらいだった。


 一緒に彼らの里で暮らすことも考えたが、タクヤたちのことを放置するわけにはいかず、あくまで宿を王都にしたままとした。


 なので王都から朝一番に出発して、僕が狩場に強すぎる魔物が付近にいないか確認する。


 その後、僕は隠者の里まで走って日中から夕方にかけて約束を実行する。


 その間はタクヤたち二人とツェンたち二人の合計四人には、そのまま狩場で階位上げと討伐報酬狙いの依頼をこなしてもらうことにした。ツェンたちは馬車での一件で僕の実力を垣間見ているので反対されない見込みである。


 タクヤたちの位置を知るため、僕は協力関係の契約魔素術を持ち掛けようか悩んだが結局保留にした。


 もし彼らと僕で契約を結べば、相手との位置関係や距離がある程度であるが把握できる。それはどんなに距離を離れていても方向程度はわかるのだ。万が一の彼らに不測の事態が起きたときに追跡できるメリットはあった。


 さらに夜目が効く。指輪の話を聞く限りだと魔素術の威力が上がる、経験値や幸運値が上がるといったことも期待できそうだった。すなわち僕についている特性を仲間が得ている可能性があり、できれば結びたい。


 しかし。


 一方でまだ把握していない、隠された能力や条件もありそうで、僕自身が死んでしまったり、不用意な契約に縛られた場合に周囲への影響が未知数だった。もしかすると僕が奴隷落ちすると、仲間も奴隷落ちするということもあり得た。


 保留としたのは契約魔素術の『負の条件』を危惧したからだった。


 今さらだが、シェリルの元でこのことを相談と検討をしておけばよかったと悔いている。


 ちなみにアオイたちとの契約はそのまま継続状態で、たまに遠方に気配を感じては消えていた。方角は常に一致していて、間違いなく海の向こうのカスツゥエラ王国からである。これは彼女たちがこちらの世界と日本とを往復しているのだと推測している。遠すぎて数までは正確に把握できない。


 依然としてアオイたちとの連絡方法がなく、何かを考えなければいけない。転移の魔素術を早くものにすれば突破口が開けそうな気もするが……。


******


 翌朝からタクヤたち四人と合流して、朝の一緒に狩場まで移動する生活が始まった。


 幸いにも宿とちょっとの酒代以外には大きな出費が今のところないので、食事に少しお金を割いてそのほかはプール金とした。


 同時に隠者の里への協力も惜しまない。もう転移の魔素術は目の前にあるのだから。


 隠者の里の場所は体が覚えているので、彼らを王都クラスノ近くの森まで送り届けた後、僕は分かれて全力で魔境の入り口へ向かう。


 前に僕が大暴れした場所を目印に集合して、そこから隠者の里から渦を巻くように魔物探索と狩りを始めた。


 一緒になって改めてわかったことだが、コトエとギンジという二人は手練れが多い隠者の里の中でも強く、十本に入る腕前だと周りの者たちが口をそろえた。それに初めは隠していて教えてくれなかったが、職業は『忍者』だという。


(これはもう聞くしかないな)


 後で彼らの出身の謎解きも待っていた。どう考えても日本が絡んでいる。時期は江戸時代以前だろうか。


そのためにも秘蔵の蔵とやらをどうしても覗きたいと思うのだった。


 さて。


 コトエとギンジをはじめとする十数人は、音もたてずに魔境の森を移動する技術を身に着けていたのには驚いた。


 彼らは全員が僕と対峙した時の黒装束を着て、ニホントウを装備している。武器の扱いも慣れていた。


 逆に彼らは僕の(指輪の魔素)探知能力に舌を巻いていた。


「向こうに十数匹いる」


 僕が警告を促すと初めは付き添いの者たちは少しだけ半信半疑だった。動きには出さないがなんとなく僕よりもコトエたちの判断を仰いでいるのがわかる。僕はこの判断を当然だと思い、決して怒ったりはしない。


 何せ自分たちが全く探知できない遠距離に敵を発見して確実に先制攻撃できるのである。初回の共闘と、その後二回三回と繰り返すうちに、誰も僕の判断を疑うことがなくなった。


 魔境の凶暴な熊も倒したし、前に倒した群れ蜘蛛の集団も二つほど倒した。さらに六牙狼や、以前に貿易都市トレドを襲ってきた一つ目の巨人(サイクロプス)もいた。群れ蜘蛛は僕の雷の魔素術で感電させれば狩りたい放題だし、サイクロプスはアキレス腱を切って地面に転がすだけでほぼ無力化した。


 狼のように新しく出会った魔物はそのほかにも多数いたが、雷の魔素術には特に水系統魔物の耐性が低かった。


 魔境の中にある気持ち悪い赤い池の中には凶暴な口をもった(ワニ)が住んでいるそうだ。


 僕がその池に強烈な雷を流すとプカプカと腹を見せながら数匹が浮いてきた。念のためもう二回ほど電撃を流してから回収、陸地でとどめを刺した。これをみていたコトエたちは絶句していたが、やがて我を取り戻して息の根を止める作業を手伝ってくれた。


 注意しておくが、僕の魔素術が光るばかりではない。


 強烈な毛皮をまとった魔境の熊は僕が放つ雷の魔素術を弾いてしまい、ダメージがほとんど入らなかった。しかしコトエは吹き矢のようなものを目に打ち込んで視界を奪った後、斬りつけていた。さらにその後毒が全身に回り、倒れこんでとどめを刺す。


(こういう戦い方もあるのか……)


 この世界は勝つ者が強い。そのための暗具であり、それらを使いこなしている彼女たちを僕は称賛した。


(いくつか暗具をもらえないだろうか……)


 僕の強欲(グリード)が出はじめたようだがそこはしっかり自制する。


 討伐した魔物からは討伐証明や売れる部位をはぎ取り、魔石は取り出して約束通り隠者の里組へ渡した。魔物の素材も討伐報酬も、僕の冒険者ギルドの階級と違いすぎて、そのまま持っていくと盗品だと疑いがかかる可能性があった。


 隠者の里は王都クラスノを含めて各都市にいろいろとつながりを持っていて、王都だけで言えば百人以上を常在させて逐一情報を得ていた。その抜け目のなさにさすが忍びだなと思うわけだが、その中には冒険者ギルドへ登録して表立って活躍している者たちもいるわけで、彼らを通じて素材や討伐報酬を換金してもらうことになった。


 これで僕は表舞台に立たずに貴重なお金が手に入る。


 ところでコトエとギンジたちは里で十本に入る実力者だと聞いた。僕が見るに、その腕はどうもアオイたちと互角か、隠密にかけては彼女たちのほうが上ではないかと思うようになった。


 敵の急所攻撃だけではなく、的確な配置、回避か防御するか、魔素術の使いどころなどどれをとっても戦闘に慣れていた。僕との対人戦のほか、対魔物戦の訓練も受けていたようで、特に集団で一匹の魔物を追い詰めるのは後ろから見ていて、よく僕は退けたなと思えるぐらいだ。


 回収した魔石は正午を過ぎたころには一日で七十個近くにまでなった。彼ら曰く、『こんなに短時間で大量に獲得できたことはない』と。


******


 何回か狩りに行くうちに信頼関係を気づき、魔石だけで言えば数か月分をわずか数日で稼いだ。索敵に時間がかからず、強すぎる魔素は回避しているので負傷率が低い。また里の周辺から巡回を始めたため、里へ迷入する魔物が激減していった。


 そのため当初の予定よりずっと早く、隠者の里にて事前の約束通り転移の魔素術を教えてもらうことになる。


 まずケンザブロウが説明してくれたが、その方法は契約魔素術と酷似していた。


(ラッキーだ。多分習得が早いぞ)


 心を躍らせる。


 術式は位置と位置をつなげる契約魔素術であった。初代のお頭は光の魔素術に非常に長けていて、その系統も契約魔素術が得意だったらしい。


 自分が亡くなると同じ系統の魔素術を持つ者が途絶えて転移の魔素術を使えなくなることを危惧した初代は、その技術の一部を道具へ移したらしい。つまり初代は魔素道具の作製もできたことになる。


 どうやって術式を組むのか、そもそも転移の術をケンザブロウがどうやって発動させているのか。契約魔素術は火・水・土・風の四属性との相性はそれほど良くなく、習得できないか習得しても高度な術式が発動しない可能性が高い。雷や光が相性良いとされていたし、実際僕は雷属性である。


「これじゃ。この道具を使って術を組むのじゃ」


 魔素道具を胸元から取り出したケンザブロウをみて僕は驚いた。


 それは日本の『筆』に違いなかった。ただし相当繊細な魔素文字がびっしり含まれている。


「ちょっと拝見してもよいですか?」


 初めは断られたが何度かお願いしてようやく見せてもらった。壊さないように最大限の注意を払いながら筆を両手で受け取る。


(ふむふむ。契約魔素術には違いないが、複数の術式が描かれていて、魔素を流すと一方向に流れるんだな)


 見せてもらった筆には契約魔素術の術式で、魔素系統変換→契約魔素術→位置の指定という流れだったのがわかった。


(なるほど)


 後世の者が同じ術を使えるように系統の違う魔素が流れても変換されて術として成り立つように仕組んだのだ。初代お頭はやはり相当な切れ者だ。


 僕は術式の組み方を覚えた。使えそうなのは契約魔素術→位置の指定の部分だと判断する。


 また転移の魔素術には次の三通りがあることを教えてもらった。


1)転移元から転移先まで転移(事前準備なしで術の発動時に移動元から先を指定する)

2)転移元を決めずにあらかじめ転移先だけ指定(事前に転移先だけを設定しておく、転移元は好きな場所を選べる)

3)転移元も転移先もあらかじめ指定しておいて起動させるだけ(事前に転移元も先も設定しておく、転移の魔素術を仕込んだ場所に行く必要がある)


 このうち、3)は僕たちが異世界に来る発端となった転移門に該当する。すなわち魔素を流すと呼ぶ『門』と返す『門』の指定した場所へそれぞれ転移する。


 先に王都クラスノでケンザブロウたちが使った転移術。あれは2)にあたり、転移元は指定がないが転移先だけを指定していた。転移したくなったらそこで術を発動させれば、あらかじめ設定した転移先へ移動しているという理屈だ。


 1)は自由に自分で設置できるが大量の魔素あるいは魔石を消費しないとできないと警告されてしまった。


(あれ?)


 ここまで来て僕は違和感を覚えた。


「転移の術式を発動する前に何かを投げつけていましたよね? あれはどういうことですか?」

「あれは『契約魔素術を閉じ込めた』のじゃ。なんでもよいが形あるものに術を発動する状態で閉じ込めて、箱が壊れると転移の魔素術が発動する。そのように細工したのじゃ」

「なるほど!」


 納得した。


「そんなに大事な技術を流出して大丈夫ですか?」

「里の者は皆知っておる。代々のお頭だけが道具を使って転移の術を仕込めるのじゃ。それにな……」

「?」

「お主の行動を見させてもらったが、仲間を想う良い奴じゃ」

「はぁ」

「儂は多数の者たちを見てきた。この眼に狂いはないと思っとる。お主は儂らに不利となるようなことはせんよ。それに見ろ」


 ケンザブロウが指差した先には本日の狩猟成果に沸き立つ里人がいた。


「あの者たちを裏切ろうと思うか?」

「……思いません」

「そうじゃろ」


 さて、と言ってケンザブロウは腰を上げた。『また明日からもよろしく頼むぞ』と言われた。


 僕はそのまま隠者の里を離れて夕方の約束の時刻までに王都の正門に戻った。


******


 さらに一週間が経過した。


 毎日王都と隠者の里往復の繰り返しだったが、夕の食事に一品どころか二品をつけることができるようになった。そのお金は僕が隠者の里経由で得た報酬をこっそり回していた。


 タクヤたちの狩りも順調で、彼らはさらに教会に通い階位が順調に上がっていることを確かめていたようだ。今日も食堂でこの国のアルコールを飲みながら大変盛り上がっていた。


 いくつか問題点が解決したりしつつあるが、すべてが順調だったわけではない。


 魔境越えの方法は今でも決まらない。特に足の悪いアリサをどうするかが未解決だった。


 さらにカスツゥエラ王国への連絡方法。これには僕はいろいろと知り合いをたどって手段を模索したが、隠者の里は隣国まで里人を配置しておらず、また魔境を超えた経験がないというので難しかった。


 さらにこの件で冒険者ギルドへ掛け合ったとき、連絡方法がないわけではなかった。しかしストラスプール国の金貨二十枚でかつ一方的な電報のみという破格の値段を言い渡された。


 これにはさすがの僕も激怒しかけたが、船での連絡が途絶えたので魔素術で何らかのネットワークをもつギルドの通信網を使うためには貧乏人は相手しないんだ! という方針に従わざるを得なかった。


 実質門前払いである。


(はぁ、今日もギルドでの交渉が無駄に終わった)


 交渉というのは値段をどうにか下げてくれるよう掛け合ったのだが、冒険者階級八級のちょっとだけ幸運な新人冒険者にギルドは冷たかった。


 疲れ果てて浮かない顔をして宿に戻った夜。


火雲亭の主人である犬人族夫婦の無愛想なベッツとそれなりに愛想のあるクラリスが受付にいた。


「どうしたんだい?」


 それなりに愛想のある女将のクラリスの方が話しかけてきた。


「いえ、それが……」


 僕は遠方の友人に連絡を取りたいが、お金がなくて冒険者ギルドの通信網が使えずに困っていることを話した。


「ふぅーん」


 クラリスは頷いた後主人のベッツを呼びつけた。


「あんた!」

「なんだ!」


 お互いを呼ぶ時点でけんか腰である。僕は疲れ果てていたので、何も起こらないことを祈った。


「長期宿泊中のお得意様が遠方に連絡を取りたいんだとよ!」

「そいつはどいつだぁ?」


 奥からベッツが出てきた。すごく険悪な顔つきであった。


「うん? シュウじゃねぇか」

「あんた。何とかしてやったら?」

「ふぅむ」


 しばらく腕組みをしてベッツは考え込む。やがて、


「ずいぶんと最近宿の者が世話になっているっていうしな」



 ベッツのいう『世話』とは魔物討伐のことだ。僕がここ(ストラスプール国の王都クラスノ)でも冒険者パーティ夢幻の団を結成して、タクヤとコウタロウを狩りに行かせている。その報酬は当然彼らのものとなっているが、討伐した魔物の肉や毛皮などの素材がこれまた結構な収入源である。


 彼らは戦闘をこなすが荷物まで気を配るのはなかなか難しかった。そこで荷物持ち(ポーター)を雇って討伐した魔物を王都に運ぶようにしていた。その荷物持ちを宿側の手の空いているスタッフから雇っていた。彼はその件で感謝しているようである。


 海は大荒れ、港へ入る船はなく、宿は閑散としていたので、宿側としてはありがたい雇用であった。


「しゃあねぇ、やってやるか」

「何か方法があるのですか?」

「あるよ。俺を誰だと思ってるんだ」


 ベッツはこれまた顔に皺を寄せて屋上へ上がっていた。僕も続く。


 屋上で『どこに何を伝えたいんだ?』と尋ねられ、僕は


「カスツゥエラ王国の貿易都市トレドにいる魔素術屋のニーナばあやへ、『ストラスプール国の王都クラスノで無事に生きている。探し人も複数見つけた。ただし船が出向できないので戻る方法を今探している』と伝えてほしい」


と希望を伝えた。


 わかったというベッツは大きく息を吸い込み、


――ワォォォォーーーーーン――


と王都中に響くような遠吠えをした。


 続いて何回か繰り返して吠えることをやめた。遠方でわずかに答えるような遠吠えがあった。それだけだ。


「明日の朝には伝わるよ」


 そういってベッツは階下へ去っていった。


(えっ? こんなんで伝わるんですか?)


 物語は続きます。

 応援よろしくお願いします。

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