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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第六十二話 帰路模索

 僕が教えるのは戦い方だけではない。この世界で強くなるためには魔素の扱いが大事だと思っている。なので魔素術の練習も一緒に指導する。


 まずタクヤとコウタロウに魔素の体内からの引き出し方を伝えて五芒星を書かせてみた。タクヤは炎、コウタロウは風の魔素属性だと判明する。


 彼らにはそれぞれの武器特性を生かして攻撃力に特化させようと考えていた。生半可な攻撃力では魔物討伐を独立して行えない。


 これは僕が永遠にこの二人の面倒を傍で見ないといけないことになる。


 彼らも必死、教える僕も必死だ。


 教える側になってわかったことだが、非常に根気がいる。時間を割いてくれたニーナばあやシェリルの忍耐強さに頭が上がりません。今、初めてわかりましたと感謝する。


 さてさて、この二人。元々根性が座っているのか、若い大学生で覚えが良いからなのか、嬉しいことにゴブリンやオークなどそのあたりの強さを持った魔物程度ならば、すぐに単独でも無傷で戦えそうになりそうだ。数の暴力にさえ晒されないように立ち回ればいい。



――夜、火雲亭にて――


 僕は一人で深夜まで起きていた。余分なお金を使わないように僕ら三人は相部屋にしている。横では二人が気持ちよさそうにイビキをかいて寝ていた。


 この宿はご飯がまずまず美味しくて量も多く、ハードな稽古と討伐の繰り返しの大学生の腹にはちょうど良かったのだ。


(さて、今からの目標は……)


 置かれている状況を考えると当面は、

・二人の戦闘・魔素術の指南をして冒険者として独立させる

・生活の確立する

・帰還方法を見つける。特に足の悪いアリサには配慮しなければいけない

の三つを主軸に行動するべきだと考えた。


 うち一番目は順調だ。もう一人二人手練れの仲間がいれば……と思うこともないのだが。


 一番の難関は帰路の確立である。船が使えれば一発で解決なのだが、あれから何度か港へ行ってみるが沖の荒れた海はおさまりそうになかった。


 ならばと思い、音を立てないようにもう一度地図を広げてみる。夜で明かりを消していても僕の目はしっかりと物をみることができる。


(ここが現在地)


 右手の人差し指でストラスプール国の王都クラスノを示す。そこから海はだめで、ならば……。


 そこまで見直して『はぁ』とため息をつく。今度は部屋に響いてしまい、寝ている二人に気づかれたかと思うほどだった。


(陸路ならば魔境を通る必要がある)


 そこを抜けてカスツゥエラ王国の魔術都市ルベンザへ行くのが一番近い。


 魔境の道、魔物の種類といった情報が大きく不足していた。唯一、ルベンザに近い位置の魔物はこの間戦っているので、どうにか倒せるか逃げるのいずれかだと考える。最強と言われる龍種がいないことは確認済みだ。冒険者ギルドならばもっと情報を持っているかもしれない。


 さらに季節はもう冬だ。ルベンザまでの距離や高低差を考慮して、何日ほど野宿になるのか見当がつかない。


(はやく二人を独立させて単独でいいから一度魔境へ入る必要がある)


 これが僕の結論だった。


 それにアリサはなんと言うだろうか。理不尽に異世界に転移しているし、政府の依頼を請け負った僕の立場を考えると説得してでも連れ戻したい。


(また明日だな)


 問題は山積みである。僕は金欠のことも考えないようにして眠ることにした。


******


 あれから一週間が経過した。


 週五日は討伐依頼をこなすのと階位上げの戦闘をして、残り二日は休み。このサイクルを取り入れてから初めての休日だった。


 索敵は僕(というか指輪)がするので圧倒いう間に魔物を見つけられる。発見した敵が弱ければそのまま二人に倒してもらい、ちょっと強いなら僕が気絶させる。強すぎるなら僕が倒すか、即逃走するといった具合に行動した。


 戦闘をするかどうかの判断も初めは僕に任せきりだったが、後半は狩人のコウタロウにやってもらった。


 それに毎朝の剣術や弓術稽古、それに魔素術の訓練も欠かさない。


 正直言って、彼らはよく僕のスパルタにめげずについてきてくれた。タクヤは剣士としてその技量は到底アオイに及ばないが、それでも一生懸命にやってくれる。姿勢が嬉しかった。


(自分も全力を出さねばいけない)


 そして今日は教会で階位の確認を行ったが、彼ら二人の職業表記のうち、とうとう見習いがはずれた。すなわち階位十以上に到達していたのである。

 

 ここから僕は王都での帰路模索を主軸に移し、彼らには冒険者としての独立をさせたい。


(だけど、手元からすぐに離して良いものか……)


 二人は誰か信頼できる人と組んでほしいと今でも僕は考えていた。


 すぐにアオイたちの顔が浮かぶがここにはいない。やむを得ないなと考えていたら、次の目的地である冒険者ギルドに着いた。


 ここで新規依頼を探して生活費をもう少し稼げるようにしておくのである。武器は一通り揃っていたが、防具は旅人の服だけだったのでそちらも考慮したい。とにかく金が足りなかった。


――カランカラン――


 冒険者ギルドの古い扉が僕らの来訪を室内に響かせる。


 掲示板に今より良い条件の依頼がないか確認しようとすると、この間王都クラスノへの移動中に助けた二人組冒険者であるツェンとキャメロンを偶然見つけた。彼らはたしか住んでいた場所から王都クラスノへ移り住むと言っていた。


(目的は同じかもしれない。だとしたら……)


 協力し合えると思い、僕は声をかけた。


「ツェン、キャメロン。久しぶりです」

「おおっ!」

「あら」


 彼らは僕のことを覚えていてくれた。あの時のもう一人は? と聞かれたがすでにアドリアンは漁村へ戻っていると話す。


「どうしたんですか? もしかして生活費稼ぎですか?」


 僕は聞きたいことを単刀直入に聞いてみることにした。


「そうなんだ」


(よし!)


「王都はなかなか家賃や物価が高くて、稼ぎもしっかりしないと生活が安定しないし、武器や防具が良いものに買い替えられないんだ」

「僕もそう思います」

「依頼も報酬が良い案件は圧倒いう間になくなっちゃうし、そもそも冒険者の階級が低いと報酬の良い仕事が受けられない」


(しめしめ)


「ちなみに級はどうですか?」

「ん? 八級だよ。先日昇格したばかりだ」


(なおさら好都合だ)


「実は……」


 僕はここでタクヤとコウタロウのことを切り出す。さりげなく困ったときは自分が出ていくことをにおわす。


「もし四人で受けたら報酬は一人あたり四分の一ですが、安全性は上がると思います」

「そちらの組み合わせは?」

「一人は接近職の剣士、もう一人は斥候を兼ねた狩人です」

「僕は戦士、連れは僧侶だ」

「いい組み合わせだと思います。どうですか? 協力して依頼をこなしませんか?」

「オーケー」


 二人の意向を確認して了承を得た後、僕とツェンはがっちり握手する。


「ところでシュウの職業は?」

「ん? えぇ。まぁ、それは……」


 僕は歯切れが悪くなる。


「まさか大悪党とか⁉」

「違います」

「じゃあ、なんなのさ?」

「それは……」


 やむなく僕は『イレギュラー』だと言われていることを伝えた。


「ププッ」

「プッ」


(あっ、やっぱり笑うんだ)


「ご……ごめん。悪気はないんだ。プッ」


 階位までは聞かれなかったが、後ろでやり取りを聞いていたタクヤ達も笑っていた。


(二度と言うまい)


 その後良さそうな依頼を二つほど同時に受けてギルドを後にした。依頼はいずれも討伐系で、一つは前と同じ制限なしの魔物狩り、もう一つは特定の魔物の討伐依頼にした。


 休み明けの二日後早朝、王都正門前に集合の約束をしてその日は解散した。


******


 約束の日。


 王都の正門から僕とタクヤとコウタロウ、それにツェンとキャメロンを加えて出発。いつもの僕たちの狩場へ向かった。


「へぇ、こんなところでやってんだ」


 実は僕は毎回狩りをおこなう場所を微妙に変えている。魔素探知で弱そうな魔物がある程度いる場所を毎回選んでいる。今日はいつもの森であるが、より王都側で足を止めた。もう二十メートルほど向こうには、弱い魔素の獲物たちが群れでいることが僕にはわかっている。


「しっ」


 僕の合図でタクヤとコウタロウが身を屈め、それをみた残りの二人も同じ行動をとった。


「向こう側に敵が複数います。倒してください」

「えっ。もう見つけたのか?」


 驚くなかれ。僕には強力な探知能力があるのだ。


「シュウって実は強い?」

「ははは」


 笑ってごまかす。


 魔物たちは僕たちに気づいていない。コウタロウは狩人で斥候としての能力もある。すぐに風を読んで風下から回り込み、敵の数と位置を把握した後、弓で先制攻撃を仕掛けた。圧倒いう間に二匹のゴブリンが倒れた。


――ザザッ――


 そこで剣士のタクヤと戦士のツェンが茂みから飛び出す。僧侶のキャメロンは後方に漏れた仕留め損ねた魔物をコウタロウと一緒に倒していった。彼女は短槍を上手に使っていた。


(悪くない)


 悪くないどころか良い。特に問題なく全滅させた。所要時間も長くなく、これならほかの魔物に目を付けられる可能性は低いと言っていいだろう。


 討伐証明部位を集め、肉や売り物になりそうな個体だけ、運んできた荷車に積む。


「良かったですよ」

「シュウ、上から目線だな~」


 大学の先輩二人に指摘されてしまう。


「そんなつもりじゃありません。それより四人の連携が悪くないので、打ち合わせ通り僕は離れようと思います」

「わかった」

「気を付けて、無理しないで。命は一つですからね。いざとなったらすべてを捨てて王都内へ逃げ込んでください」

「わかってるって」

「では夕方正門前で」

「はいよ。シュウも気をつけてな」


 僕は王都正門近くの森から離れた。


******


(急いで道を確かめねば)


 僕は全身に惜しみなく魔素を纏い、魔境へ向かって全力で駆けていた。王都から十キロ以上も離れていると思われたが、今の実力ならばそれほどの距離でもない。一定の間隔でスキップ気味に飛び跳ねながら移動していた。


(すごいもんだな)


 魔素を会得してから、術以外にも身体能力向上に使うことを覚えた。今なら例えば魔素を全力で纏った蹴りならば大木も真っ二つに出来る自信がある。


 王都から移動を開始して草原に入り、草原から雑木林や川をいくつか超えると、まもなく魔境の入り口に到着した。


 魔境の入り口にはストラスプール国側が立てた看板があった。


『これより魔境、注意』


(魔境から海が見える陸という位置関係でなぞるように移動する)


 そうすれば理論上はいつか隣国のルベンザまでたどり着くはずであった。


(よし行こう!)


 意を決して魔境へ一人で飛び込んだ!



 移動を始めて早二時間。


 僕は自分と指輪の索敵で最小限の戦闘をおこない、約束の時刻に許された時刻の半分まで進むつもりだ。


 やはり魔境の魔物はゴブリンやオークと比べて格段に強かった。一匹が強いこともあるし、それなりの魔物が数で攻めてくることがある。強すぎる魔素反応は遠回りする形で戦闘を避ける方法を取った。魔剣があれば話は変わったかもしれないが、折れた魔剣と鉄製の短剣では魔素術耐性が強いと、僕が殺される可能性がある。


 出会った魔物のうち、一番強敵だと思ったのは蜘蛛だった。こいつらは指輪の魔素探知がかいくぐる。獲物を待ち構えている時にはじっとしていて魔素を使っていないし、空気中へ放出も止まっていたようだ。なので指輪の探知からはずれてしまう。


 決して万能ではない魔素探知を、僕の雷探知で補っていた。僕の雷探知は比べると効果範囲がすごく狭く、どうにか十メートルを確保する程度しかない。これでも改善された方でシェリルの特訓を受けるまではもっと狭かった。


 雷探知に引っかかる時はもう至近距離なので必然的に戦闘になる。それでも無警戒の攻撃を受けずに先制攻撃を取れることが多いのでやはり重宝した。


 この蜘蛛は体長一メートル前後だったが数が多く、それに外殻が固いのが特徴だ。しかも黒光りしていてちょっと気持ち悪い。


 初見時は短剣で攻撃したが、魔素をたっぷりと纏わせて短剣を全力で振って、一撃で倒せるぐらいの強さだった。やむなく弱点を探すのだが、電撃を喰らわせて感電させた後に頭部を潰すのが一番無難な勝ち方だと結論が出た。


 この蜘蛛を一方的に狩り続けたところで、全長五メートルはある親玉の蜘蛛が出てきた。どうやら今までは子蜘蛛だったようで、直接攻撃ばかりで警戒していた糸で攻撃する方法を持っていなかったが、親蜘蛛は一味違った。


 親蜘蛛は臀部を一瞬震わせると突如僕の方へ向けて、広範囲にまき散らすように蜘蛛糸を放ってきた! 


 躱そうとするが反応が遅れて、初見の時はわからなくって絡み取られてしまう。


 この糸、どんなに力を込めても引きちぎれず、むしろ糸が粘着性をもち、物理的に巻き付いて身動きが取れなくなるのだ。


 この特性に気づいた時はすでに遅かったが僕はそのまま餌になるつもりはなく、そのまま大蜘蛛に向けて全力で雷伝を放った。この雷伝には最近扱いを練習中の左手十字の紋章の力も入れた。


 紋章の力を使うには危機感を持つことが大事なようだ。


 糸は伸縮性および粘着性に富んでいたが魔素を伝える性質も併せ持っていたようで、減弱しない雷が大蜘蛛へ伝わり、痙攣してひっくり返った。


 そのまま僕は自分の体だけ雷変を使って糸から抜け出て、大蜘蛛にも止めを刺す。


――グシュ――


 気味の悪い音を出して無防備の頭部はつぶれた。漏れ出す魔素は遠慮なく吸収させてもらった。


 さて胴と腹の部分はどうするか。見れば足も殻が固く何かの防具に使えそうだと閃き、そのまま担ぐことを試みた。重さは許容範囲なのだが、外殻に生えている小さな毛が僕の旅人の服を容易に貫通するのでチクチクと痛むので、結局断念した。


 おおよそ大蜘蛛と戦ったところが今日往復できる魔境の範囲で一番深部だと考えて、そこに目印のため、一番高い木を中心に残して周囲の木々を蹴り倒した。


 一番高い木に登ると向こうに王都クラスノが点となって見えた。そのまま視界を振って、王都から海、そして反対方向を見る。


(うーん、遠いな)


 目的とする魔境の橋やルベンザはまだ見えなかった。行く手には密林のほか山が複数遮っているのが原因だ。


(これはあいつらと一緒に全力で走っても三日以上はかかるぞ)


 問題はそれだけではない。山とその麓にはもはや雪が積もっていた。ずっと走っていたが、ちょっと体を休めようとすると体が寒い気がする。


(おい、指輪)

『なんじゃ?』

(今、僕の体を魔素で覆って寒気の影響を弱めてくれているだろう?)

『その通りじゃ』

(一度切ってくれないか?)

『いいのか?』

(頼む)

『わかった』


 指輪の影響がなくなると、途端に寒い風が服の間に入り込んできた。


(ちょっと!)

『なんじゃ? うるさいな』

(やっぱり戻してください)

『仕方ないのぅ』


 結局山に入らずとも、この軽装ではここが限界だと悟った。これは道のほか移動する時期も考えなくては、森の奥で凍死すると思い至るのである。僕以外には指輪の魔素術で保温することもできない。


 魔境越えの時は服装も気を付けなければいけない。

 

(さてと……戻ろうか)


 結局僕は親蜘蛛の死骸は大きいので魔石を取り出して、それで保管庫(インベントリ)を新しく作ることにした。位置は利き手側に設定した。大きさは魔石の大きさに比例するようで、親蜘蛛の死骸を折りたたんで入れたらすっぽり納まった。おおよそ四メートルの立方体の箱を手に入れたイメージだ。


(魔石は売れなかったけど、やむなし)


 身軽になってストラスプール国の王都クラスノ側へ向かって急ぎ戻り始めた。


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