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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第五十七話 隣国の王都

 ストラスプール国の王都クラスノは壮大だった。


 貿易都市トレドや魔術都市ルベンザの時も驚いたが、今回はその比ではない!


 王都外周は石を積むことで強固な守備を築き上げている。外壁は高さ約五メートル以上はあり、そのさらに外側には掘が作られていて、仮に敵が大勢で侵攻したとしても外壁に取り付くのは容易ではない。


 壁には規則正しく穴があけられており、侵入を試みる敵は堀に入った途端に、弓矢や魔素術の攻撃を頭上から浴びることになる。


 その城塞ともいえる王都が、今陽の光を浴びてその全容を見せていたのだ。


(すごいな……!)


 迫力で圧倒される。


 遠方で流れ着いた土地で日本から来ているのは一人だったことを忘れるほど僕は感動した。


 近づくにつれて壁には細かい魔素術が施されていることが分かった。


(ここもか……できれば防衛担当の人に話を聞いてみたもんだ)


 術式が気になるな。


 そこまで考えて、まず国へ帰るための方法を見つけないといけない。なので例のごとく、余計なことに首を突っ込んでトラブルを招いて、道草をくっている場合じゃないと自制した。


 スミルノフが操る馬車を先頭とした一行は、その整備された道を王都へさらに進み、正門の前にようやくたどり着いた。


 正門は鉄製で一度に二十人は横に並べそうなこれまた壮大な門だ。動かすのには十人がかりでも片方も動かせないのではないと思われる。重く頑丈の上、魔素術が施されているので耐術性も高いのではないか。


「おい、ちょっと待て!」


 正門の前を警備する兵士は門前に十人、塀の上にも二十人以上いた。そのうちの門前に立っていた兵士がスミルノフに声をかけて近づく。


「ん? なんだスミルノフじゃないか? こんな朝早くにどうしたんだ?」

「おはようございます、本日も朝から警備ご苦労様です」

「世辞はいらん。こんな時間帯に何用だ?」


 大きな都市の警備兵と言うのはどこも傲慢なのだろう。スミルノフに近づく警備の兵士はほかの兵士よりも背格好が良く、腕に勲章を縫い付けていた。おそらく兵士長か……と僕は判断する。


「定期の移動便でございます。本来は本日の昼から夕までに到着予定でしたが、途中で盗賊団に夜襲にあいました。乗り合わせた者たちで撃退しましたが、やむなく野営を諦めて夜通しで移動して今に至ります」


 ケンカ腰の兵士長に対して、敵意を出さずに操るように主張を話す彼は相当慣れているようだ。


「盗賊だと⁉ それごときで予定変更か?」

「はい。冒険者の方に捕縛していただきましたが、ドルドビ盗賊団の一味だと思われます」

「なにっ!」


 兵士長は今までで一番大きな声を出した。


「すぐに改める。それから馬車で移動した者も身分を徹底的に確認するぞ。この時間は通常は王都内へ事前に申請のないものを入れるわけにはいかん。わかっているな?」

「もちろんでございます。無理にとは言いません。その場合は通れる時間までここで待ちます。ささ、こちらです」


 スミルノフは僕が襲撃の時に捕縛した二人を馬車から地面に下ろさせた。二人は気を取り直しているが、口輪もされているのでうーうー唸るだけで、しゃべることはできない。きっと悪態をついているのだろうと思う。


 兵士長は二人の腕を確認して、確かにドルドビ盗賊団だと認めた。


「馬車の奴らも調べるぞ。全員並べ!」


 偉そうに……と思いながら、僕は従う。


(ここでの面倒はごめんだ)


 そう! 僕はこのまま問題を起こさずにこの後港まで行って、カスツゥエラ王国行きの船に乗る。これが目標なのだ。王都がいかに凄かろうが長く滞在する気は毛頭ない。


 一列に並んだ人たちを一人一人調べていく。どうも身分証が必要なようだ。


 僕の前にはツェンたちが調べられていたが、冒険者ギルドの身分証を調べられて終わりだった。


 次に僕の番が来た。


(まずいな……)


 自分の冒険者ギルド発行の身分証は先日のカーター戦で紛失してしまっている。


「おいっ! おまえ」

「はい」

「隣の者たちが検査を受けていたのが見えていただろう。身分証を出せ!」

「実は紛失してしまってありません」

「な~に~⁉」


 兵士の眉毛が吊り上がる。


「お前、王都に身分証なしで入ろうとしていたのか?」

「どうしようもなくて。以前に冒険者ギルドに登録していますので、まずそこへ相談しようと思っていました」


 嘘ではない。


「怪しい奴だ」


 そういうと僕の装備をまじまじと眺めた。旅人の服、それも漁村で見繕ったダサい服。それにしてはたいそう立派な魔剣の鞘。中身は折れているのだが……。


「怪しいな……」


(僕もそう思います。自分でみても怪しすぎる)


 そういった兵士は後ろへ僕を捕縛するように目配せした。いっそのこと逃げようかと思ったのだがその前に、


「兵士様、お待ちください」


とスミルノフが力強い声を出して、僕と兵士の間に入った。


「その方を疑うのはいけません。その冒険者殿がドルドビ盗賊団の襲撃してきた首謀者二人を殺さずに捕縛したのです」

「なんだと!」


 兵士は驚いてまた僕の方を見てくる。


「おまえがか……弱そうでしかも怪しい奴なんだが」


(人はみかけで判断してはいけません)


 そう言ってきた兵士の魔素は弱い。おそらく僕の体を纏っている魔素の強さと密度を見抜けない程度の実力なのだろう。


 兵士たちはほかの馬車の乗客たちから言質を確認していたが、アドリアンを含めて戦闘を見ていたものは一致して僕が捕縛したと証言してくれた。


「本当かぁ……⁉」


(まだ疑うのかよ)


 うんざりだと思ったその時、正門の向こう側から騎馬に乗った武装した集団が見えてきた。五十人規模の集団で王都所属の兵隊のように見えた。道行く人がその騎馬隊を見て脇に逸れていく。


 その先頭を行く者に指輪が反応して念話を送ってきた。


『なかなかの魔素を持った奴が来るぞ』

(……あいつかな⁉)


 難癖をつける兵士を無視して、その向こう側をさらに良く凝視する。


 先頭の騎馬に乗っている者は、全身を赤い装備で統一していて、兜には赤い(たてがみ)をつけているので一番目立っていた。その目立つ奴が正門までカッカッと馬で移動してきた。こいつの乗っている馬はほかの馬よりも一回り大きい。


「どうした?」

「! これはビヨンド様」


 ビヨンドと呼ばれた者に兵士たち全員が敬礼をする。彼は僕を含めた馬車から出て並ばされた乗客に一瞥をすると、再び兵士の方へ馬を進めた。


「こんな朝早くにどうしたんだ?」

「はっ! 怪しい者たちを検問しておりましたっ!」

「事情を話せ」

「この者たちはスミルノフ殿の馬車で早朝に王都にたどり着いた者たちです。野営中に襲撃されて撃退しましたが、そのうち首謀者と思われる二名を捕縛していました。その二人があのドルドビ盗賊団と思われます。念のため王都内に入る前に全員の検問をおこなっていました!」

「ほぅ」


 ビヨンドは騎馬を降りて捕縛した二人を確かめる。


「確かにあの盗賊団の入れ墨がある。こいつはでかしたぞ。で、怪しい者というのは?」

「こちらです」


 兵士は僕を指さした。


「こやつが乗客の一人で盗賊団を捕縛したと言いますが身分証がなく、冒険者ギルドの登録はあるようですが紛失したと言っています」


(お願いします。トラブルごめんです。僕は帰りたいだけです)


 ビヨンドは僕の方に近づいて来る。


「君か?」

「はい」


 ビヨンドは僕と同じぐらいの身長で、顔を近づけてくる。歴戦の猛者のようで、右眼には上から下へ切り傷の跡が残っていた。四十歳手前と思われ、髪は長髪だが綺麗にとかされて後ろへ束ねており、力強い表情をしている。髭も立派で、何よりその装備品が赤色で輝いていてまるで獅子だ。きっと地位のある騎士に違いない。


 彼は僕のことを『おまえか?』と聞かずに、『君か?』と聞いてきた。その初対面の話し方に彼は僕に対して敵意を持っておらず、むしろ話が通じやすいのではないかと思った。なので包み隠さずに話す。ただしカーターに負けたのは悔しいのもあるし、また変な誤解を招くと嫌なのでそこは飛ばした。


「……」


 無言で品定めをするように僕をじっと見てくる。と思ったらゆっくりと真正面に立ち……いきなり! 


 彼は背中の剣を抜いて、斬りかかってきた!


「……」


 僕は瞬きなし、微動だにせずそのまま立っていた。彼の攻撃には殺気がない。さらに言えば足も踏み込んでいない、いわば『見せかけの攻撃』だと確信したので避ける必要がなかった。


 予想通りに僕の鼻前一センチメートルぐらいで寸止めされた。僕が動いても、彼の寸止めが下手でも僕の鼻は削がれてしまったのではないか。


「……やるじゃないか」


 ビヨンドは一言感想を述べると、そのまま剣を背中の鞘にしまう。


「おい、兵士長」

「はっ!」

「彼は盗賊団の関係者ではない。通してやれ!」

「いや、しかし……」

「命令だ。それに従えんのか?」

「いえっ! 失礼しましたっ!」


 方針が百八十度変わり、僕もスミルノフやアドリアンと同様に身分証なしで王都に入れることになった。去り際にすぐに身分証をどこかで発行してもらうよう言われてしまう。


 捕縛した二人はこのまま王都の警備所へ連れていかれて、死んだ方がマシという拷問を受けてその後は……わざわざ言うことでもないだろう。兵士たちが我こそはと二人を引き連れていった。兵士たちとスミルノフが捕縛の褒美の話をしていたが僕はそこには興味なし。


(お金は欲しいが……まず帰ることが優先)


 鶴の一声で王都へ入れることになった僕は、スミルノフに引き連れられて正門をくぐった。


******


「ふむ、港へ行ってみたいと?」

「そうなんです」


 門を越えたところで解散。だがスミルノフに僕は道を聞いてみた。


「港はその道を曲がってまっすぐに海側へ行けばたどり着きますが、しかし……」

「と言いますと?」

「シュウと言いましたね。あなた、お金は大丈夫でしょうか? 見たところ渡航に必要なお金を持っているようには、失礼ながら見えませんな」


(鑑定持ちかな?)


「そうですね。ですが、一度行ってみて運賃だとか日程を見ておきたいと思っています」

「なるほど」


 別れ際に彼は宿を教えてくださいと言った。あとで王都警備側と交渉した褒美を届けると言ってくれた。勝手に交渉して済まないと謝られたが、僕は交渉下手なので彼の判断にケチをつけるつもりはなかった。


 アドリアンに聞いたが王都には星の数ほど宿があるが、値段でピンキリだという。


「もし決まっていなければ安くて良い宿を案内しますよ。自分たちの手配した者に裏切り者がいた可能性がありましたので、宿の費用はこちらで数日は持たせていただきます。その代わり……」


とスミルノフは言う。こちらの世界でこの手の決まり文句が出る時、相場は決まっている。


「悪い噂を立てないでほしい。そうですね?」

「話が早くて助かります。ささ、こちらへ着いてきて下さい」


 結局、僕とアドリアンは彼の勧められる宿まで行くことになった。


******


 案内された宿はどこかで見たような建物の造りをしていた。看板には『火雲亭』と書かれていて、もしやと思って入ってみるとやはり犬人族の経営する宿だった。貿易都市トレドも魔術都市ルベンザでも〇雲亭と言う名前で犬人族が宿を出していた。なので元の世界でいうホテルチェーンが展開されているのだと僕は理解する。


「おはようございます」

「おぉぅ」


 スミルノフが声を掛けながら扉をくぐると、中にはこれまた無愛想な犬人族が受付に座っていた。


(強面だな)


 この宿の犬人族はブルドックのような顔つきである。機嫌がいいんだか悪いんだか全く分からない。


 今、宿では朝食の時間なのだろうと思われ、奥からはとても良い香りがする。昨日からあまりまともな物を食べていない僕の腹はぐーっと大きな音を出してしまった。


「どうしたんだ?」

「今日はモナザからの夜行での馬車移動だったのですが、途中でドルドビ盗賊団に襲われましてな。その際に撃退してくれた冒険者です。聞けばこちらでの宿は決まっていないとのことで、案内させていただきました」

「おぉう。そうかそうか」


 ドスの効いた声でベッツと呼ばれた犬人族の主人は話しかけてきた。


「まぁ、ゆっくりしていけや」

「ベッツ、料金は数日分を私の方にツケてください」

「わかったよ」


 僕とアドリアンは計らいにて無料で宿を確保した。


 余談だが、カスツゥエラ王国のトレドもルベンザも犬人族の経営だったので、その関係を聞いてみたら……無視された。


 旅の疲れもあって部屋に入ったら僕は少し眠ることにした。その後には港へ行って、冒険者ギルドで依頼を数件受けて、お金を貯めてカスツゥエラ王国へ戻る。続けて日本へ戻る! 


(帰り道が見えてきたぞ!)


 アドリアンは同室だったが、すごく嬉しそうな顔でどこかへすぐに出かけて行った。


(何かあるんだろうか?)


 彼の詮索よりも眠たさが勝った。


******


 結局その日は昼近くまで眠ってしまった。


 太陽はもう頭の真上を通ってしまい傾き始めている。季節は秋ですでに暖かい時期を越えて少しずつ少しずつ日増しに風は冷たさを増していた。


(もうすぐ冬だな)


 足元の風を受けてそんなことを思いながら、スミルノフに教えてもらった王都クラスノの港へ行った。


 遠目からでも数十隻はある船が確認できた。


(あそこだ!)


 ウキウキしながら港へ近づくが、近くになればなるほど違和感を感じる。やがて僕の疑問は確信に変わった。


 港と言えば海の玄関。往来には多数の人が行き来していて、遠方からの荷物の積み下ろしが盛んにおこなわれている。そんな想像をしていた。


 だが現実はどうだ。港には僕一人の両手で足りるだけの人しか歩いていない。


 嫌な予感がした僕は船員を思われる服装をした人を捕まえて聞いてみた。


「あのぅ」

「どうしたい?」

「他国行きの船が出ていると聞きました。場所はここで間違いないですか?」

「なんだい、あんた運が悪いね。いま遠方への船はぜ~んぶ止まっているよ」


(……。俺、帰れん)



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