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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第五十五話 旅路

 本日もう一話投稿します。

 翌朝、いつもの通り日の出と共に目覚める。


(体調は万全だ)


 今日の柔軟は入念におこなうが、筋力トレーニングは軽めにして剣術と体術の稽古はしなかった。これから長距離の移動があるからだ。


 体調を確かめるように四肢を伸ばしている途中でメリッサが寄ってきた。


「……シュウ」

「ん? どうし、、、たの?」

「これ……」


 彼女は今日お別れだということを知っている。なので最後に出発の前にと思って僕に会いに来たのだ。


「ありが、、、とう」


 彼女が差し出した包みを開けると出てきたのはなんと指輪だった。綺麗な金色の指輪である。


「えっ!」


 僕は驚く。


 この世界でも貴金属の類は高い。真新しい指輪を彼女は僕にくれると言うのだ。


「こんな、、、たかいもの、、、うけとれない」

「いいよ。誰もつけないの。シュウにつけてほしいと思って」


 彼女は村の狭い環境で生きてきた。同年代の友人は少なく、漁を覚えないと自分の生計を立てられない。流れ着いた僕の雰囲気は村人とは明らかに違ったが、そこに彼女は好感をもってくれたようだ。

 彼女なりの旅立つ者への贈り物なのだろうと思う。


 指輪はどうやら母親が着けていたらしいが、今はもう箪笥に眠っているだけと言う。


(そんな貴重なもの受け取れないな……)


 だが断れる雰囲気ではない。


 サイズを変えれば僕の指に合うようにできるかもと思って、結局受け取ることにした。ただ受け取るだけだと嫌だったので、街へついたら何か買って送ると伝えた。彼女は飛びはねるように喜んだ。


(そもそも助けてもらったのは僕の方ですが……)


 村の出入り口には、アドリアンたち三人衆が待っていた。僕一人で行くつもりだったが、近くの街まで案内してくれると申し出てくれたので、有難くお願いしたのだ。


「準備はいいか? シュウ」

「だい、、、じょうぶだ」

「では行くぞ」


 最後に振り返ってもう一度メリッサとティーホンの方へ手を振った。普段無愛想なティーホンも今日ばかりは笑顔で僕を送り出してくれた。


******


「いや、しかしシュウはすごいな」


 村を出て一時間ほど経過した。付近の街へは成人男性の足だと朝出発して昼前に着くのだと教えてもらった。おそらく二時間ぐらいかかると見込むわけである。その中間地点にさしかかる場所にいる。


 すでに海の匂いは遠ざかり、草木が生い茂りと時折動物の気配が周囲するようになってきた。道は当然舗装されておらず土と石、それに秋なので落ち葉がぎっしり敷き詰められている。


 すごいと言われたのはここで魔物の襲撃にあって、それを僕が撃退したからだ。襲ってきたのは暴走猪と呼ばれている巨大な猪らしい。ザザッと音がしたと思ったら、どんどん近づいてきた。全長三メートル近くあって、獲物を見つけると目が真っ赤に興奮して突撃を繰り返す。雑木林をその重量に任せてなぎ倒して、標的を追い詰めるのがお得意ようだ。


 見た瞬間にアドリアンたちでは手に負えないと思った僕は、とっさに音をわざと立てながら木の上へ跳ね上がった。目立った僕を一番の標的に選んだようで、飛び上がった木の幹へ突進をかましてきたところ、簡単に木が折れてしまう。


(とんでもない頭突きだな)


 地面へ倒れる前に仕方なく別の木に飛び移るが、続けて移ったばかりの木々をなぎ倒してどんどん迫ってくる。


(頭部は固そうだ)


 前面には強力な牙と鼻、頭部はむき出しの皮膚だが軟部組織よりは骨が突き出るようになっていて、そこを薄い皮膚が覆っていると僕はみた。攻撃の瞬間に本能なのかボワっと魔素を纏わせているのもわかった。あれで攻撃力を高めているのだろう。


 手元にはナイフしか有効な武器がない。そのナイフも鉄製で、魔素の通りは悪く、突き立てても魔剣と同じ効果は到底期待できない切れ味だ。


 雷伝を木の上からいくつか放ってみたが、体は長い毛に覆われていてダメージはそれほど入っていない。


 やむなく僕は隙をみて猪の背部に飛び降りる。暴れる猪を両足で挟んで締め付けながら、頭部に両手を添えた。


(雷伝っ!)


 手と手の間に通電して内部を焼き切るイメージを明確に持って、全力で雷伝を放つ! 


――ズバァン――


 一瞬で通電が完了、脳を焼き切られた猪はその場で横に倒れた。ちょっと焦げ臭いが移ってしまったがやむなし。


「すごいな」


 改めて僕は見直されたらしい。


「俺たちの護衛、シュウにはいらないんじゃないか?」

「みちが、、、わからない」

「ははは。そうだったな」


 さっそく倒した暴走猪の解体をする。魔石と少量の肉は討伐者である僕が貰った。ほかの食べられそうな肉と皮はアドリアンたちへ渡してしまい、残りはほかの魔物が寄り付かないよう土へ埋めた。その巨大な体を埋めるスペースも雷の魔素術で地面をえぐってつくった。



 さらに進むこと一時間ぐらい。事前に言われていた通り太陽が一番高くなる前に彼らが言う街へたどり着いた。


 漁村よりははるかに大きいがカスツゥエラ王国の貿易都市トレドや魔術都市ルベンザよりはずっと小さい。大丈夫かなと思ってたら、ここからさらに一日馬車で揺られると大きな都市があるという。


 街の中で僕は手伝ってもらいながら魔素術屋を探した。言語を覚えないと何をするにしても不便なので最優先事項である。どうにか魔素術屋をみつけて入ると、そこでアドリアンが金を払ってくれた。


「さっきの猪を狩ってくれたお礼だ」


 この魔素術屋はボロい小屋で中に座っていたのは、いかにも胡散臭そうなローブを頭部まで覆った壮年の男性だ。店の雰囲気も暗い。大丈夫か心配になったが、ニーナばあやの時と同じような光が空中に浮いて受け取ると、すっと言語が頭に入ったのがわかった。


「どうだ? わかったか?」

「大丈夫だ。会話に支障がなくなった」


 僕は流暢になったこの国の言葉で問いかけに応えた。


 店主はまだほかに見て行かないか? と誘ってきた。魔素言語のほかにも、着火、流水、そよ風などの魔素術が覚えられるらしい。しかし僕はこれらの属性に適性がないので、覚えられない。めぼしいものがないので、魔素術屋をさっさと出ることにした。


 店を出てから、言葉がわかる前にはわからなかったことを彼らに聞く。それでいくつかわかったことがある。


 この国はストラスプール国と呼ばれていて、今の街はモナザであった。


 アドリアンたちは買い出しなり、村の用事なりでよくモナザまで来ているらしく、街に詳しかった。聞けばここに冒険者ギルドはなく、簡単な武器防具屋と小さな商会がある程度だという。猪の肉は食べ物ですぐに換金できたが、余っている魔石や先ほどの革も換金できないと言われてしまう。


 カスツゥエラ王国への行き方もわかるものはいない。


(他国の情報や道のりを確保するにはもっと大きな街じゃないとダメだな)


 モナザより大きな街というと、ここから馬車で一日の距離にクラスノという都市であるという。よくよく聞くとストラスプール国の王都らしい。そこならば間違いなく冒険者ギルドがあると教えてもらった。


 僕はアドリアンたちに王都クラスノまで行きたいと伝えた。


 彼らは元々ここまでの予定だった。急遽三人は相談して、アドリアンだけが僕に付いてきてくれることになった。猪の肉がこの街の商会にて高値で売れたらしい。またアドリアンもどうも王都に用事があるようだ。村を数日間も戦闘要員が抜けるわけにはいかずに、残りの二人は戻ることになった。


 質素な宿で一泊を過ごす。


 翌日朝、僕とアドリアンは馬車で王都へ向けて出発した。


******


 この世界の移動には徒歩のほか、馬か馬車が一般的である。動物での移動を頼むとなると簡単にいうと高い。そこで一般的には乗り合い馬車、あるいは護衛者として方向が同じ場合に依頼をこなす兼移動というのが多い。


 アドリアンの勧めもあって今回僕は王都まで乗り合い馬車で移動することにした。戦闘に自信がないわけではないが、魔素術が無効だった場合にナイフだけで太刀打ちできないと困るし、いまは身分証ともいえる冒険者ギルドのカードを紛失している。信頼がないものを雇わないだろうと考え、護衛者としての依頼を探すことは諦めた。


 乗り合い馬車は毎日運行していて、街の出口に朝一番に集合する必要があった。


「王都~、王都行きだ~。まもなく出るよ~」


 行者が声を張り上げる。片道一人銀貨二枚で、食料や水は持参する必要がある。一晩だけ野営をするが、その際には行者が夜の見張りを一応はやってくれるらしい。

座り心地の悪い馬車に揺られること一日とちょっと。金さえあれば、野営ありで王都に着けるのだ。


 僕は手持ちの金がないので、アドリアンに今度は借りることにした。幸いにも先ほどの猪の肉を売った収入があったので、彼は僕に貸したとしても手持ちはなくならない。


 馬車は八人乗りで合計三台にて一緒に移動する。サスペンションは当然装備されておらず、予めお尻が痛くなると予想していた僕はやわらかくて汁の出にくそうな草を狩り取っていたので、それを敷いた。彼にも分けてあげる。


(幾分かマシだな)


 馬車は三台とも満員。一緒に移動する組になったのは、僕と同じ冒険者の姿をした男女二人、商人の男性二人でこちらは親子であろうと思う。残りは教会の従事者と思われる正装をした女性二人であった。


「……」

「……」

「……」


 皆、無言である。


 揺られること数時間以上。陽が落ち始め、暗くなる前に野営の準備に入るため馬車の集団は歩みを止めた。


 ここまで襲撃は一切なかった。


 野営の場所はあらかじめ決められていたのであろう。川の近い草原で見渡しが比較的良い場所が選ばれていた。


 馬車の密室内でそのまま過ごすのは嫌だったので、多少探知に自信がある僕は外で寝ることにした。そこら辺の適応な草木を追って敷き詰めて敷布団代わりにした。持ち込んでいた簡単な布を二枚ほど重ね掛けして寝る準備にする。アドリアンも馬車内の閉鎖された空間が嫌だったらしく、僕の横に寝る場所を確保していた。


 さらに僕は虫が嫌だった。なので他の人たちに悟られないように注意して、雷の魔素術を範囲数メートルにかけて虫を殺した。これで夜に虫を叩く必要が少しは減るだろうと期待する。


 それから野営場所の近くを流れる川へ水の補充に寄った。綺麗で透き通った清流であり、カエルや小魚が泳いでいる。飲める水と判断して、保管庫からこれまたそっと水筒を取り出して補充する。


 飲める水があるというのは本当に有難かった。


 その後、簡単な保存食を食べて眠りについた。


******


 夜。


 行者は焚火をしながら番をしている。ほかの者たちは僕と一緒に野宿する者や馬車の中で睡眠をとる者など様々だった。


『シュウよ。人間らしき魔素が十以上近づいて来るぞ』


 指輪の念話で僕は起きた。


(どこからだ?)

『川の上流からじゃ、集団で一塊となっておる。それにこちらから一人がその集団に接触した』

(あやしい動きだな。それにこんな深夜に誰か来るのだとしたら……)


 野盗の可能性を考えなければいけない。横で気持ちよさそうに寝ているアドリアンを叩き起こす。


「アドリアン、起きろっ!」

「ん、ん……」


 再び寝ようとする彼のむき出しのすね毛を引っ張ってやった。


「いてっ!」

「起きろ、野盗がきたみたいだぞ」

「なにっ! 野盗だと!」

「まだ確信はないが、多分そうだ」


 僕もアドリアンも素早く荷物を纏めて、装備品を身に着ける。と言っても僕はナイフを持つだけだが。


「どっちからだ」

「……待てよ……」


 指輪の情報と僕の魔素探知で探りながら、今の状況を正確に把握する。

 指輪は魔素で探知するが、僕には同じ芸ができない。代わりに雷の魔素術をつかって、周囲の動く静電気を探知するのだ。範囲は狭く、方向を絞ることで多少距離を延ばすことが出来る。


「あった。川の上流方向に五人、街道側に七人」


 人と言ったのはやはり動きが人間のパターンに似ていたからだ。


「すげぇな。武器は?」

「すまん、そこまではわからん」

「しゃあねぇ、十分だ」


 周りでは僕たちの様子に気づいた者もいるようで、同じ行動を取ったり、戦えない女子供は馬車に急ぎ乗り込み始めていた。


「アドリアン、もしかすると内通者がいるかもしれない」

「なに?」


 とすれば僕たちの情報が筒抜けになっている可能性がある。


「ここにいるよりも、相手は奇襲だと思っているのでそこを逆手にとって先に先制攻撃を仕掛けようと思う」

「了解した」


 僕と彼は音を立てないようにまず川側へ移動した。


 アドリアンは違うが僕は夜目がものすごく効く。その理由は闇の精霊の指輪をつけている影響だろうと今では見当がついている。


 月のない夜でも昼間と同じように行動することが出来る強みがある。


「向こうから来るぞ」


 僕とアドリアンは草木に身を隠すようにその場で伏せた。二人のすぐそばを野盗と思われる汚い格好をした男五人が過ぎていった。まっすぐに野営地へ向かっていく。


「声をあげさせないで後ろから倒すぞ」

「りょーかい」


 小声で意思を統一させて、野盗の背部から音を立てないように近づいていく。


 やがて僕は一番後ろを歩いていた男の口を塞いだ。


「うっ!」


 前を歩いていた男たちは呻き声を上げる仲間に気づくことができなかった。一人目の野盗を僕は力任せに首を折った。


(悪いがこれも生きて日本へ帰るためなんだ)


 この野盗はそれほど階位が高くないらしいことも確かめられた。多少魔素を使った身体強化で絶命させられる。


「次はおれがやるぞ」


 アドリアンが妙にやる気を出すので今度は僕がサポートする。彼は後ろをつけながら、獲物である剣を抜いた。

 彼も気づかれることなく、脇腹からスッっと刃物を体に通した。当然致命傷である。


 だが口を塞ぎ切れずに音が漏れてしまった。攻撃を受けた野盗は膝から崩れ落ちたが、異常に気付いた前を歩く残り三人はこちらに振り向いた。


 間髪いれずに僕は雷伝を放つ。ゴブリン程度ならば簡単に焼き殺すことができる威力だ。


「!」


 三人へ同時に放った雷伝はそれぞれに命中した。全員倒れると予想していたが、一人だけは踏みとどまり、木の上へ大きく跳ねた!


「どこだっ⁉」


 アドリアンは旅にはそれなりに慣れていているが、夜目が効きにくい。僕が雷を放ったことで光を浴びた瞳孔が狭まったのであろう。暗闇へ慣らした眼を失い、同時に一人を見失った。


「僕が追う。アドリアンは向こうへ行って様子をみてくれ!」

「わかった」


 驚いたことに木の枝へ跳ねとんだ襲撃者は、僕が猪戦で見せたように木々を飛び回る術を持っていた。それもこの暗闇で。


(慣れているな)


 手練れだと判断する。


 僕も驚いた。だがそれ以上に襲撃者も驚いたのではないだろうか。何せ暗闇で正確に自分を、それも木々を飛び移って追ってくるのである。


「!」


 声には出ないが動きにわずかに動揺が見られた。


 僕は襲撃者が次に飛び移る枝を予測して、雷伝を放って焼き落とすことに成功した。


 そこにあるはずの枝がないので、当然地面へ真っ逆さまに落ちていく。


(終わりだ)


 僕は魔素を纏った踵落としを落下点へ合わせて放つ!


(!)


――ドォン――


 だが襲撃者は素早く身を立て直すと強靭な脚力でその場を離れた! ただ空しく地面の陥没を作っただけに終わった。


 そのまま地面を、時にはまた木の枝を軽やかに飛び回り、僕はそれを追いかけ続ける。


 指輪や夜目の能力がなければ絶対に見失っていた。


 しつこい僕に業を煮やした襲撃者は突如僕の方に移動方向を変えてきた!


(これを待っていた!)


 彼の身のこなしからは重装備はつけられないことを予想していたので、おそらくナイフか短剣がせいぜいなところであろう。襲撃者の攻撃を『雷変』で躱す!


「!」


 必死の攻撃。そう思い込んだ攻撃を躱されるとどうしても一瞬動きが止まり、スキができる。


 そのまま後ろで実体化して、後頭部に強烈な飛び膝蹴りを喰らわせた。ゴキッと音を出して襲撃者は地面に倒れた。


(攻撃の気配がなくなった)


 どうやら気絶させることに成功したらしい。


 手には隠すようにナイフが握られていて、さらにその手元や胸元、腰、靴といった至る所から隠された鋭利な武器がいっぱい出てきた。

 それらを回収して、保管庫から紐を取り出して木に括り付けてやる。


(さてと……)


 一息つく間もなく悲鳴が野営地から届く。おそらく襲撃者のもう一方が野営地を襲ったのであろう。


 僕はすぐ野営地へ戻るべく駆け出した。


 お読みいただきありがとうございます。よろしければブックマーク、評価をお願いします。大変励みとなります。よろしくお願いします。

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