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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第五十四話 指輪の真実

 今回、主人公シュウと指輪の会話です。

 指輪の指摘を受けてから気づいたが、僕は思いあたることがあった。


 漁村に流れ着くまでに、自分の装備は壊れてしまったか、紛失したかのどちらかだと思っていた。実際には魔剣だけは折れた状態でティーホンに保管されていて、一応戻ってきたのだが。


 『首飾り』とは貿易都市トレドで魔物大集団を撃退した際に、クリス王女から褒美として城の貴重品を一つもらった物のことである。


 その首飾りは結局その効果がよくわからないまま指輪の言う通りにもらって、僕がずっと着けていた。古ぼけていて何が良いのかわからなかったが邪魔にはならず、そのうち外すのも忘れていたぐらいだ。


 この漁村に流れ着いて目覚めた時にはまだ装備されていたが、受け取った時よりもボロボロになっていて今にもちぎれそうだった。実際、僕が握りしめると切れてしまい、今は保管庫(インベントリ)の中に眠るだけになっていた。


 僕は体を起こして右腰側に設置した(契約した)の保管庫の中に手を突っ込んで、首飾りを取り出した。


(これだな……⁉)

『そうじゃ』


 この首飾りはカーターの炎龍の魔剣の一撃を受けてボロボロになったと思い込んでいた。だが彼の炎を受けたのならば焼け焦げていたはず……。改めて観察してみるとその様子は一切ない。炎の影響を受けなかったのは今さらだがおかしいと思うわけだ。


(指輪、何か知ってるな?)

『無論。それは『願いの首飾り』という魔術道具じゃ』

(ほう)

『その作製には龍の(ひげ)が使われておる』

(ん?)


 どこかで聞いた話だと思った。


『龍の髭は貴重な魔術道具の材料で、本来の効果は『転生』だといわれておる。龍は生物の頂点に君臨するが、それでもいつかは死ぬ。死んだ後にその髭だけが残り、また新しい龍が生まれると言われておる。いわば生命の象徴なのじゃ』

(なるほど)

『龍の髭を使って編まれた道具は『龍の生命』の特性を受け継ぎ、その装備者を瀕死の一撃から救う貴重な魔術道具となる』

(それに気づいたので指輪はあの時、これを貰うよう強く推したんだな?)

『その通りじゃ。あそこに眠っていた武器防具は貴重な効果を持つものばかりじゃ。だがこの世界で生きるにあたり、一番大切なものは命じゃ』

(賛成だ)

『貴重な武器防具は数多あるが命があって初めて使えるのじゃ。それに強い武器防具などそこらへんにいくらでもある。おぬしの折れた魔剣ですらそうじゃ』

(それは言い過ぎでは?)

『言い過ぎではないぞ。次に行く街で探せばきっと同等の魔剣は見つかるのではないか?』

(ふぅん)

『対して命は一つじゃ。それが失われればすべてが終わりよ』

(……)

『お主には天性の()()()()()()がある』

(巻き込まれ癖?)

『そうじゃ。事件にいっぱい巻き込まれる癖がある』

(そういうことか)

『そういうことじゃ。命がいくつあっても足りないと思ったのでそれを勧めたのじゃ』

(そっか)


 ここまで説明して急に指輪からの会話が途絶えた。


(なぁ)

『……』

(なぁ!)

『…………』

(なぁってば!)

『なんじゃ?』

(無視するなよ)

『無視するか話すかはこちらで決めることじゃ』

(そっか)

『そうじゃ』

(わかったよ。不機嫌になるなよ)

『不機嫌ではない』

(あんたって、夢に出ていた『()』じゃないのか?)

『……』


 指輪は再び沈黙を決め込んだようだ。


 最近指輪と会話以外にも、僕の方から感情が読めるようになった。『()』という言葉を伝えた時、少しだが指輪から動揺を感じた。


『……』

(だんまりかい? まぁ聞いてくれ)


 僕はずっと考えていたことを話すことにした。


(龍の髭から造られた首飾りだけど、あれってどこにでもある物じゃないと思うんだ)

『……』

(あそこに首飾りがあったのは偶然かもしれないけど、それを知っていたのは偶然じゃないと思う)

『……』


 指輪からの反応はない。


(僕はこの世界に何回か往復するようになって夢をみるようになった。夢の中ではホワンと呼ばれた冒険者と、精霊からたまたま意思を持つようになった闇の物語で、やけに鮮明だった。ほかの人たちも関わっていたけど、主要な人物はこの人間と闇属性の精霊だ。不思議なことにホワンと闇のことは覚えているんだけど、それ以外の人物は夢に出たのにその顔は覚えていないんだ)


 夢の内容を思い出しながら自分の考えを指輪に聞いてみる。


(ホワンという人間族は冒険者の傍らで人情に溢れる人物だった。そこに闇という精霊がどんどん惹かれていった)

『……』

(人間族の寿命はきっと他種族から見ると短いんだと思う。特に精霊なんて魔素が尽きない限りずっと生き続けられそうだ)


 僕は一息つく。


(で、ホワンという冒険者が亡くなってしまった後、主に闇の方から見た記憶が夢に出ていた。ホワンと言う人間族の生涯の記憶をみた夢なら、亡くなった後のことは夢に出てこないんじゃないかと思うんだ。偶然にしちゃ出来すぎている)

『……』

(夢の中にはホワンが助けた王妃とその娘の王女の出来事も描かれていて、竜の髭で作られた首飾りの話があった。そこに出ていた首飾りはよ~く思い出せば、僕が選んで装備していた物が、長い時間で色だけ変わったように思えてきたんだ)

『……』

(なぁ、指輪。答えてくれよ)


 沈黙が続く。


……


…………


 やがて指輪の念話が届くようになった。


『いつかはそこにたどり着くとは思っておった』

(ではやはり?)

『お主の推測の通りじゃ。』

(やっぱり、あんたがあの夢を見せていたんだな……)

『いかにも』

(途中からうっすら予想はしていた。僕に干渉できるなんてお前ぐらいだし)

『なるほど』

(それに夢を見たのはこちらの世界だけじゃなくて、日本でもみていた。なら自分の周囲に常にある人や物を疑う)

『鋭いのぅ』

(教えてくれないか? いろいろと)

『よいじゃろう、もはや隠すことはあるまい。お主が推測した通り、あの首飾りは以前に見たことがあったので気づくことができた。あれは夢でお主へ見せた王妃が結婚して生まれた王女が、龍の剥製から髭を引きちぎったことから作製された道具じゃ』

(やっぱり)

『お主、クリス王女と出会った時を覚えておるか?』

(もちろん)

『会った時にワシは妙に懐かしい気がした。後に首飾りを見つけて確信したが、彼女はホワンが助けた王族の末裔じゃ。雷属性を持つ王族などそう多くはあるまい』

(なるほど)


 僕はクリス王女と夢の元王妃を思い出す。あの頭脳、行動力。たしかに末裔と言われればそうかもしれない。


(指輪、その姿を見せてくれよ)

『……』

(なぁってば!)

『怒るな』

(これだけ一緒にいたんだから僕にだって姿を見せてくれてもいいじゃないか?)

『悪いがそれは出来ん』

(⁉)


 断られると思っていなかった僕はがっかりした。


『『()()()』ではなくて『()()()』のじゃ』

(えっ!)

『驚くじゃろう。それを説明するにはホワンの死後のことを話す必要がある』


 指輪は続ける。


 闇の精霊(闇)は彼の死後いろんな場所を彷徨ったらしい。だがホワンほど闇が気に入ると思う人物には出会えなかったという。


『ワシはいまさら王妃、王女と仲良くしようと思わなんだ』

(そりゃ、そうだ。お別れしたんだし)

『初めは人間族になんぞ興味を持つかと思ったが、妙にホワンとの思い出に誘われてのぅ』

(まるであんたも人間族みたいな行動をしているな)

『そうなのじゃ。彼に影響されたのは違いない。自分でも気づかぬうちにな』

(で、なぜ指輪になった?)

『そう結論を焦るな』


 僕は左手にはめている指輪を見つめる。黒よりも黒い指輪は、転移したあの日に拾い上げてからずっと身に着けていた。


『結論から言うと、シェリルと同じことを試みたのじゃ』

(! まさかっ……⁉)

『その通り、ホワンの『蘇り(よみがえり)』を試したのじゃ』

(なんと!)

『正確にはホワンと同じ人間族を作り出そうとしたのじゃがな』


 指輪の行動に驚いた。


 本当は明日に備えてさっさと寝た方がいいのだが、僕は指輪との念話をさらに続ける。


『自分の気に入った人物を見つけようとしたが全くおらんかった。どの人間族もホワンに比べればつまらんの一言じゃ。それで……』

(自分の思うように作り出そうとした、ってところか)

『ご名答』

(あんたもか)


 あんたもと言ったのは、魔術都市ルベンザのシェリルも生命に関する魔素術をおこなっていたからだ。


『大量の魔素は自分が持っていたからのぅ』

(そりゃ、闇の精霊っていうぐらいだもんな)

『自慢ではないが、そこらの格のある精霊なんかよりも保有する魔素の量は多かった。じゃが、結局術は発動せんかった』

(なぜ?)

『その時は理由がわからんかった。があの者……シェリルとかいう魔素術師の話を聞くと生命体に関する魔素術はやはり成り立たないのではないかと思う』

(成り立たない……⁉)


 契約魔素術では成り立たない契約は発動しない。だが、生命に関しての魔素術の場合、シェリルは大量の魔素石を用いても、目的とする死んでしまった両親の蘇生ができず、大量の人命を失い、術の反動ともいえる自分の永遠ともいえる命と特定の場所へ縛り付けられる運命となった。


 では闇の精霊は一体……?


(指輪ってまさか……⁉)

『お主が至った考えの通りじゃ。そしてそれがお主の先ほどの質問への答えでもある』

(では……!)

『ワシは術の反動でおそらくこの姿形となったのじゃ』

(!)

『ホワンを作り出そうとした術は結局発動せず、そこで意識は途切れ、気づいたときには指輪になっておった。自ら動くことが出来ず、誰かに身に着けられなければ魔素術を発動させることもできず……』

(……)

『ただただ地面に転がっているだけじゃ。それもずーっと』

(……)

『荒野に野ざらしのまま、何年も……何十年もそのままじゃったが、ある時に近くを通りかかった商人が偶然ワシ(指輪)を見つけたのじゃ。鑑定のほかに何かの特性を持っていたようでそれで気づくことができたようじゃ』

(おおっ!)

『商人は鑑定が通らない『指輪』をどうしようか悩んでおったが、重みのある黒い色をしていたのですぐに見惚れたようじゃ。が、こちらは商人なんぞに全く興味なし』

(そんなこというなよ~、待ち焦がれた人間族じゃないか)

『相性の問題なのだと思うぞ。指輪を拾った商人は決して潤っている商売人ではなかった。こっちの見立てでは、良いところで残念な商人なのじゃ。長年の人間生活の経験もあり、ワシに任せればあっとういう間に富裕層とやらの仲間入りじゃというのに』

(言ってやればいい)

『それができんのじゃ。この者とは一切の意思疎通ができんかった』

(えっ!)

『この者だけじゃなくて、その後に指輪の所持者となるものすべてと意思疎通ができなかった』

(!!)

『話を戻そう。ワシは指輪の形をして、ただただ身の回りで起きることを眺めるしかできなかった。初めはただの装飾品かと思っておったが、どうもそうではないらしい。装備するとその者に『有利に働く』ようじゃ』

(というと?)

『例えば武器を使った攻撃力や魔素術そのものの威力を上げ、戦闘で得られる経験値や運を上昇させる付属効果があるらしい』

(……思い当たる節はある)

『ちなみに先ほどの商人はその後周囲の人に恵まれ、大きな商会を起こすことになった』

(指輪は良いことをしたんだな)

『だがこちらの意思はおかまいなしじゃ。想像してみぃ。ずっと自分から話すこともできず、ただ長い長い時間を過ごすだけじゃ。退屈以外のなんでもないわい』

(たしかに……)

『商人はその生涯を終えて別の人間族へ持ち主が変わった。次の持ち主も指輪を装備するとやはり良いことが多いらしく、綺麗な連れ添いを何人ももらって幸せな人生を送っておったぞ』


 僕は自分の周りに美女・美少女が多い。改めて指輪の効果を実感した……ような気がする。


(う~ん)

『お主、今よからぬことを考えておらんか?』

(いえいえ。とんでもございません)

『まぁよい。そこからは地面にいるよりははるかに良かったが、それでも退屈な日々であることには違いなかった。長い長い年月をかけて、人から人、時には魔物、魔族へ所有者は移っていった。魔物の腹の中をくぐったこともあったぞ』


 指輪は笑っている。


(腹の中ってそれって……)


 僕は想像することをやめた。


(魔族なんているのか?)

『おるぞ。お主が出会っていないだけじゃ。今後いたら知らせてやるぞ』

(あ……ありがとう)

『依然として意思疎通はできん。だが魔族は間違いなく指輪の魔素術の増強効果に気づいておった』

(それで?)

『ある時、人間族を生贄にして大量の人間族を召喚して使役しようという悪巧みを企てた魔族がおった』

(よくある話だ)

『まぁ、黙って聞け。魔族は部下の魔物へその召喚魔素術発動時に指輪を使うよう明確に指示した。おそらくは奴隷じゃろうが、その人間族の生命を犠牲にして大量の人間族を召喚する術が発動したのじゃ』

(うんうん)

『召喚されたのは人間族というは土地と建物を含んだ空間そのもので、建物は今までに見たことがない形じゃった。それにかなり頑丈であり、整備された道や木々も一緒であった。召喚の反動かわからぬが、指輪は召喚者の手元を離れ、召喚された空間のあるところへポトリと落ちたのじゃ』

(うん、それで?)

『そこになんとも()()()()()()()()()()()()()()が歩いておった。眼鏡をかけて、召喚されたことに気づいた様子も、危険が迫っていることに気づくこともない。そのうち捕獲要員として待ち構えておったゴブリンに飛び蹴りを背中から喰らって倒れ込んでな。なんとか起き上がるが何度も攻撃を受けるのに大した反撃をしない。業を煮やしたワシは、無駄だとわかっていたが叫んでもうた。『武器を取って戦え!』と』

(ん?)


 それってもしかして……と僕は思い始める。


『そやつはなんとワシの叫びに反応して強い反撃した。意思疎通が入ったのじゃ! その時の狂喜乱舞といったらそれはもう……!』

(指輪、それって……)

『そうじゃ。こやつがお主だったわけじゃ』


 僕はあの日をもう一度思い出した。


 偶然拾い上げた指輪。


 そこからアオイ達と出会い、どうにか日本へ戻ることに成功した。そう言えば一度と言わずに死にかけたっけ。


 話を聞く限りでは指輪がなければまずかったように思う。


『どうじゃ。少しは世の中が見えてきたか?』

(世の中というよりか、指輪のことが少しわかったよ)


 ちなみにホワンの職業も『異端者(イレギュラー)』だったと教えてくれた。彼は途中から変わったようで、それ以前は魔法戦士だったらしい。


 職業鑑定制度はずっと昔からあったが、異端者(イレギュラー)の職を持つ者は少なかったようだ。少しはいたので教会と学者で研究していた時期もあったようで、その特徴は戦闘や魔素術に特化して強いとかじゃなくて、


――事件の中枢によくいる――


らしい。


(納得です)


 僕は長く思っていた疑問が解決したこともあって、さっさと寝ることにした。


(指輪)

『ん? なんじゃ?』

(明日からまたよろしく頼む)

『任せておけ。お主に死なれるとまた長い年月暇するのじゃ。死なないようにしてやるよ』

(ありがとうと言っておく)

『さっさと寝な。人間族は寝ないと体を壊すのじゃろう』

(そうなんだ。人間って不便だよ)

『だが面白い』

(そう思ってくれれば何よりだ)

『何としても日本とやらに戻るつもりなのか?』

(当然だ。待っている人がいる)

『ならば尚更早く眠れ』

『ああ……おやすみ…………』


 まもなく僕は眠りに落ちた。


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