第五十一話 炎龍と雷鳥Ⅱ
タイトルを変更しました。
キィィンンンンと金属同士のぶつかる音から、すぐに鍔迫り合いが始まった!
この距離で憎き奴の顔を見間違えるはずはない。
「カァァタァァーー」
「……ほぅ……」
僕に奇襲をかけてきたのはカーターだった! 渋く低い独特の声で呟いたと思ったら、奴の方から力勝負を切って後ろへ飛んだ。僕も同じく後方へ飛んだため、奴との間に距離が生まれる。
「シュウよ、少しはやるようになったじゃないか」
「貴様っ! こんなところで何をしている⁉」
「はんっ。この状況でまだ悠長なことを言えるのか?」
彼が目配せした先はアオイたちがいる廃城の広間方向だった。気絶していたレイナやクーンも起き上がって動いているが、やはり敵と戦っている。敵は……カーターの仲間の人間族なのだろうと推測がつく。
数は向こう側の方が圧倒的に多く、パっと見て二十人を越えているようだ。たいして僕たちは僕、アオイ、ナオキ、レイナ、ジュウゾウさん、ウォッカとその付き添い兵士たちで十人に満たない。
(うまくやってくれよ)
目の前に敵に集中しなければやられてしまう。
今、僕とカーターは向かい合って廃城の敷地ではあるが大橋の付近にいた。
「答えろ! カーター」
「んん~?」
「貴様が一連の事件を仕組んだのか?」
『一連の事件』とは、ルベンザへの商隊護衛の途中と、ルベンザ内の夜の街道で僕が闇討ちにあったことを意味している。
「答えが聞きたかったら……」
「……体に聞け! ってか!」
奴が目配せして仲間の方を見るように促した時、僕の足元に魔素が走るのがわかった。
カーターは炎と土の二つの魔素属性を操る。土の魔素属性で足元を固めて初動を遅らせる戦法を使うのが得意のようで、前回はまんまと罠に嵌まったが今回は違う!
あえて僕は埋まった足部分だけを雷に変換して一歩目を踏み出したので、奴がひそかに放った妨害系の土の魔素術の影響を受けなかった。この芸当は以前の僕ではできなかったがシェリルの元で修行を積んだので、探知と変化に富む戦闘技術を得たのである。
数メートルの距離などないに等しい。一瞬で距離を詰めて攻撃する!
カーターは少しだけ驚いたようだが、すぐに僕の攻撃に対して防御の型を使った。剣の戦いは受け方を間違えると体制が崩れたり、流れた剣先が肩口を斬ったりしてしまうが、僕の上段からの攻撃に対してうまくさばかれてしまった。
「……ぐっ!」
「やるじゃないか。見違えるようだぞ、シュウ」
再び鍔迫り合いになりそうになって、今後は僕の方から力の勝負を切って後ろへ飛んだ。カーターが褒めてきたことに違和感を感じてその場を離れる選択をした。このまま連撃すると手痛い反撃をもらいそうだと直感した。
「いいぞ~いいぞ~」
「戦闘狂がっ!」
「なんでもいいぞ。もっと楽しませてくれるのならなぁ」
「貴様は楽しみで人を襲うのか?」
「んん~、根に持っているのか?」
「当り前だ。答えろ! お前が指示して一連の襲撃を企てたのか?」
「さっきの回避が良かったから少しだけ答えてやろう。『その通り』だ」
「やはり……!」
「高速の弓矢による攻撃と闇討ちは、全~部俺の指示で組織の者が襲ったんだよ」
「貴様の組織とは?」
「さぁなぁ、そっから先は……」
肝心のところを言い切るぐらいでカーターの姿がブレた。
僕はこの現象に覚えがある!
自分の雷探知と指輪の魔素探知が同時にカーターの位置を捉える。僕の右斜め後方に反応あり! だ。斬り上げる型の防御技を使った。
キィィンと再び高音が鳴り響く!
「この攻撃も凌ぐかぁぁぁぁ!」
カーターは攻撃が防がれると後ろへ飛びのいたが、僕は間髪入れず魔素を練って雷撃を放った!
――ババババァンン――
空気を裂く強烈な音と焦げた匂いがカーターに向かって走る! カーターは炎を前面に展開したが強化された僕の術はそれを貫いた!
「ちっ」
炎が解けるとカーターの頬が焦げたのが分かった。頭部への直撃は回避したらしい。舌打ちは防いだと思った奴が予想外の威力に傷をつけられた苛立ちだ。
「……面白い……!」
(本気で来るな……)
カーターはよどみのない送り足で僕に迫り、斬撃ではなく今後は突き攻撃を繰り出してきた。
――ヒュッヒュッ……ヒュ!――
空気を突き刺すような連続の突きである。
剣を使った攻撃の場合、斬る以外にも突きは非常に有効である。ピンポイント攻撃であるが貫通能力に長けて殺傷能力が高い。人間相手の場合には致命傷を与えることができるのだ。
――スッ、ススッ――
僕は鋭い剣先を見極めて左右にステップを出して、さらに首をひねって躱す。時には魔剣同士をぶつけて軌道を変えながら躱し続ける。
奴の突き攻撃が首横を反れた時、そのまま薙ぎ払って首を落とす動作に突如変化した。僕はジュウゾウさんからその連撃を教え込まれていたので、奴の攻撃をすぐに読むことができた。なので雷変を使ってすばやくその場から離れて、カーターの後ろで今度は僕が実体化する!
――ズサッ――
振り下ろした魔剣は奴の体を捉えることができず、地面に突き刺さった。カーターも炎に変化して、瞬時に僕の攻撃範囲から逃げたのである。
(ちっ)
心の中で舌打ちしながら、奴の技量ならばこの程度は想定内だと自分に言い聞かせる。心なしか僕の魔剣がやつの炎龍の剣と打ち合うことを嫌がっているように思った。
(鳥と龍の違いか?)
種族の差は大きい。それはこの世界の常識である。それぞれの魔剣は魔物だった時の性質を受け継いでいる。だが今はどうやってでも雷鳥に頑張ってもらわねばならない。
僕はカーターの攻撃に疑問を持った。
前に戦った時は大雨の中で奴の得意魔素術である炎系統の威力が下がった状態だったが、それでも近くにいるとすごい熱量を放っていた。対して今日はそれほど熱量を感じない、それも晴天なのに。
今までのはいわゆる『小手調べ』なのだろうと結論を出す。
(ここからだ! ここからが勝負なんだ!)
気を引き締めて魔剣を握り直してから、ちらっと仲間の方の魔素を探る。アオイたちは複数の人間相手の戦いで魔素を抑えているようだ。これだけ近ければ動きもある程度わかるが鋭さがない。
このままだとこいつらに殺されると感じた僕は腹の底から声で、
「何をしているっ! 殺せっ! 躊躇するなっ!」
と指示を伝えた。意図が伝わったのだろう、感じる魔素が急激に力強くなった!
「いい指示だ。さすがリーダーのシュウ。それじゃあ俺もここから『躊躇』しないぞぉ~」
カーターから出てくる魔素が急激に高まり、喉を焼くような乾燥して熱された空気が僕まで届くようになった。
(これだ……! こいつが奴の真骨頂だ)
「簡単に死ぬなよ~、シュウ~」
「それはこちらも同じだっ!」
一瞬でお互いがそれぞれ雷と炎に変化して、絡みつくように周囲を高速で移動する! 実体化しては魔剣で攻撃、時には防御してまた素早く変化する。
魔剣同士がぶつかる甲高い音を廃城のそこかしこで鳴り響かせる!
戦いながら前回奴が全く本気ではなかったことを悟った!
だが僕も地力を上げている。薄い魔素の膜を自分の体に張って、熱から防御しながら戦っていた。逆に相手は僕の雷をもらわないように炎の膜を張っている! 熱は容赦なく僕の表皮を焼いたが、その度に自己修復と魔素の量を増やして凌いだ。
数分間の短い剣撃のやり取りだったが、お互いにほぼノーダメージだ。
「本当にやるようになったなぁ~、シュウ」
「貴様、前に戦った時は本気じゃなかったな⁉」
「当り前だ」
奴は魔剣をだらりと下ろして集中した。
一瞬僕は何をするのかと思ったが、すぐに相手の意図に気づく!
「この間は大雨で威力が下がったからなぁ。だが今回は防げるかな⁉」
(まずいっ!)
奴の魔剣にどんどん魔素が注ぎ込まれていく! 普段は色味のない剣だが、魔素が注がれ始めた途端に赤色に変化して、周囲の空気が熱で歪んでいく。
カーターの持つ剣は魔剣、それも炎龍を素材に作製されたものだ。
すぐに僕は残り一本の魔素補充薬の口を切って飲み干す。体内の魔素を全快に回復させると同時に、魔剣『雷哮の剣』へ魔素を注ぎ込む! 本日三発目だが、負けるわけにはいかない。回避すれば後ろで戦っている仲間まで奴の秘術が通ってしまう。それだけは避けなければいけない。
(受けて立つ!)
お互いににらみ合ったまま、魔素を限界まで魔剣へ注ぎ込む。
今回は階位の上がったことに加えて、魔素修行の成果で威力は上がっている! 負けるつもりなど毛頭なく、そのままカーターごと消し飛ばすつもりだ!
魔素が臨界まで達した証拠に魔剣周囲にはすさまじい帯電が発生していた。
一呼吸おいて……
「死ねぇぇぇぇ!!!!」
「唸れぇぇ! 雷哮ぉぉぉぉ!!!!」
――ゴゴゴゴォォォォォォォォ――
――ババババリリリリィィィィ――
距離三十メートル程度から放たれた二つの秘術が中間地点でぶつかり合う! その衝突のエネルギーは凄まじく、強烈な衝撃波が生まれて周囲に波及した!
――ドゴォォォォン――
少しだけ残っていた廃城や周囲の残骸が吹き飛ぶ! 大橋も激しく揺れた。
しばらくは土煙が巻き起こるが、やがてそれもすぐに収まり視界が開けてくる。
僕は相手を見ることなく、おそらくカーターは健在だとわかった。
それは指輪がまだカーターの魔素があることを告げてきたこともあるが、僕自身へすさまじいダメージがあったからだった。
――秘術同士の競り合いに負けたのだ――
カーターが放った炎の魔素秘術は、僕が放った雷哮を食い破ってに僕自身に大きなダメージを与えて、後方にある建物や山肌を軽く攫っていった。
秘術が負けるのが分かった時、僕は威力を弱めずにそのまま全力で魔素を自分の全身に覆って、さらに雷壁を同時に展開させた。魔素術を使いながら別の魔素術を追加で使ったことで、単独よりも大きく体内の魔素を消耗してしまった。
――しかし!――
――プスゥ――
それでも全身が熱い!
僕は全身に軽傷から中傷の火傷を負った。さらに買ったばかりの月夜の防具一式は焼け焦げて、さらにさらに今までさんざん僕たちの防御として高い性能を誇ってきた魔素服はそのほとんどが焼け落ちた。
呼吸も苦しい。
すぐに自己治癒の魔素術を惜しみなく使う。徐々に呼吸は戻ったが、手足の火傷は動きに支障はないが完全に治癒せず、跡を全身に残した。今の装備は魔剣のほかは、焼け残った月夜の装備の一部と魔素服の下に着込んでいた日本から持ち込んでいるただの服だけである。それもところどころが焼けている。
敵の攻撃は雷壁、月夜の防具一式、魔素を通した魔素服でも防御しきれなかったのだ。
「……! くそっ!」
「ハハハハハハ、よく耐えきったなぁ。シュウよ」
(なぜここまで攻撃の威力が上がった? 晴天と言え、一体この差は……⁉)
再びカーターの方へ構えると、奴の肩に何かがついている。
(あれは一体……⁉)
『炎の精霊じゃ!』
指輪が僕へ叫ぶように伝えてきた。
(炎の精霊だと⁉)
『そうじゃ。精霊を仲間にするとその系統の威力を大きく増加することが出来る!』
(だとしたら……)
さっきの秘術の威力は龍種の魔剣と精霊の力を上乗せした結果、というわけか。
(よく生き残ったな……)
自分に感心している場合ではない。
『あれほどの汚れた行為をおこなった人間族に精霊が味方するとは思えん』
指輪が言った炎の精霊とやらは奴の肩に悲しげに乗っていた。大きさは三十センチぐらい。日本でいうところの『トカゲ』の姿だ。
その体には鎖が巻き付けられている。物体として存在する鎖ではなく、魔素術や契約の類で発揮される鎖なのだろう。その周囲はぼんやりと青白く光っていた。
『なるほど。あの鎖で強制的にカーターとやらの味方としてつけられているんじゃ』
(つけられている?)
『望まずに味方をさせられているのじゃ。かわいそうに……』
(外せるのか?)
『お主の特性を生かして契約魔素術で上書きしてやれば可能性はある。しかし今の状態では……』
指輪も歯切れが悪い。技量で上回る相手と戦闘をしながら、契約魔素術の複雑な術式は扱えない。
要はジリ貧なのである。
「シュウっ」
アオイたちが僕の周囲へ集まってきた。うまく先ほどの爆風を避けてくれたみたいで安心した。
カーターは余裕なのか、僕の仲間が集結するまで攻撃する気配はない。
「ほかの敵はどうしたんだ?」
僕は油断なく魔剣の剣先を奴の方向へ向けながらナオキに聞く。
「炎の魔素術が力強くなった瞬間、全員が魔素術を仕込んだ玉を投げつけて、転移陣でどっかへいっちまった。その後にものすごい衝撃波が出た」
ナオキが答えてくれた。あらかじめ敵は打ち合わせていたのだろう。秘術を使うと巻き込む可能性があるので退却しろ、といったところか。
「シュウ様。大丈夫ですか?」
アオイはほとんど焼け落ちた装備とまだ治らない火傷の僕をみて心配してくれる。
「ああ、なんとかな」
虚勢を張る。
大丈夫なわけがない。ナオキが得意の治癒術を僕に使ってくれたが、自己治癒術と同じく治りが遅い。
(……このまま戦っても勝てない……!)
本能でそう思った。僕の思考はどうやって撤退するかを考え始めている。
悔しいが実力が足りないのだ。
装備は壊れて、準備していた薬も使い果たした。味方は僕以外がノーダメージに近いが、一対多数であっても奴に勝つ姿が想像できない!
熟練冒険者、炎龍の魔剣、精霊の組み合わせが強すぎるのである。
仲間との会話をしていたら退屈そうにしていたカーターが魔剣を握り直した! すぐに僕たちは構え始める。
「ここから楽しい楽しい二回戦の開始だ」
(どこがだよ!)
再び奴は大量の魔素を魔剣に注ぎ始めた。衰える様子がないことをみて、カーターの現状には魔素枯渇の可能性がないだとわかった。
僕はとうとうある決断をする!
魔剣を握っていた左手だけを離して、手を開いた状態で頭近くに上げた。
「「「「「!」」」」」
これは『撤退』の合図だ。
パーティリーダーとして勝てない戦いから撤退することを決めたのだ。
ウォッカたちにも事前に伝えていたので、声に出さなくてもすぐにわかってくれた。ただし相手がそう簡単に逃走することを許すとは思えない。
僕は魔剣に残り少ない魔素を込め始める。
「おぬし、どうやるつもりじゃ」
ジュウゾウさんは僕の心配をしてくれた。
「僕はここに残って奴の追撃を遅らせます」
「!」
「アイツの狙いは個人的な恨みから僕を狙っています。僕が残れば、奴も残る可能性が高い。そうすれば魔剣の桁外れの攻撃はそちらへはいきません」
僕は分析を伝える。
「いい覚悟だな、シュウ」
作戦が聞こえていたようだが、カーターは仲間を攻撃する様子はない。
「いけっ!」
デカい声で立ち止まっていた仲間たちに逃走を促す。
初めにウォッカたちが走って大橋を渡り始めた。彼らは僕とのつながりが薄いのですぐに指示が入った。その場にいれば命を失う。そう思ったが故の素直な行動だ。
続いて仲間も……と思うが、アオイが残ると言い始めた。やむなくジュウゾウさんが首の背部から打撃を浴びせて気絶させて担ぎ上げた。
(いい判断だ……)
アオイやジュウゾウさんは剣術ではおそらくカーターと互角だ。ただしそれは剣術だけであって、魔素術を加えると炎龍の魔剣を持つ奴に大きく軍配があがる。ここに残ることは足手まといであることをわかってくれての行動だ。
「……必ず戻れよっ」
「ああ、追いつくからルベンザへ一直線に走れ」
ナオキも走って大橋方向へ去っていく。続いてジュウゾウさんと担がれたアオイ。クーンも名残惜しそうに後ろを見ながら走っていく。
仲間の存在がどんどん遠くへ離れていった。
奴も当然僕たちの意図に気づいているが、仲間の方を追う気配はない。ここで僕と決着をつけるようだ。
(よし、狙い通りだ)
僕は大橋に向けて雷撃を放った。先ほどの秘術同士のぶつかり合いで損傷が激しかった橋は、その重量を支えていた紐を焼き切られたため、重力に従いながらまだつながっている方の崖へ振り子運動をして落ちていった。まもなく大きな音を出して大橋はバラバラに壊れて、その下の海へ落ちていく。
大橋を切ったことで、廃城の場所には僕とカーターだけが残された。もし奴が炎に変化して向こう岸へ渡るとしても大橋がつないでいた距離は相当なものなので、大量の魔素を消費して術を発動しなければいけない。向こうへ付けたとしても疲労しているだろう。
「……向こう側には絶対行かせないぞ……」
「……良い覚悟だ」
カーターを纏う魔素が一段と力強さを増す!
「……さぁ、お望み通り。死ねぇぇぇぇ!!」
カーターは走って僕の方に一直線に向かってくる!
僕の魔素はもうほぼない。対して相手はノーダメージの上、まだ余力がある。
(なんでもいい! 力が欲しいっ!)
体内にありったけの魔素を動員して魔剣へ込める。全身の防御を捨てた攻撃であるが、残り少ない魔素や体力では限界があった。それでも……
――攻撃は最大の防御――
ジュウゾウさんに何度も厳しく打ち込まれながら刷り込まれた教訓である。
体内の魔素はもう枯渇しているはずだが不思議とけだるさはなく、魔素があふれ出てくる。
気づけば左手の甲が熱くなり、二つの十字の紋章が光り輝いていた! その吹き出してくる魔素をすべて攻撃へ回す!
「カァァァタァァァァーー!」
「これで終わりだ! 死ねぇぇぇぇ!!」
僕も全力で駆け出す! 魔剣はそれに応えるかのように帯電と目に見える黄色い魔素を纏った。今までで最高の一撃が繰り出せる感覚があるっ!
お互いに炎と雷に変化してその中間で実体化したっ!
実体化の途中からすでに魔剣を振り上げていたがそれは相手も同じことだ。
そして次の瞬間、同時に魔剣を振り下ろした! 魔剣と魔剣が一番激しくぶつかり合うっ!
――ガキィィィィイン――
お互いに最大の魔素を練りに練って魔剣へ纏わせていた。その衝撃は想像以上で、僕はすぐ後ろが崖下の海となる場所までぶっ飛ばされた。衝撃と魔素を出し尽くした疲労が重なってふらつく。
どうにか海へ落ちずに立ち止まるが……
気力を振り絞って再び魔剣を構えようとする。が、握っていた剣はその半ばで折れている。
(魔剣が折れられてしまった。衝撃に耐えられなかったか……⁉)
「くそっ」
悪態をつく。
折れた魔剣に気を取られた僕はすぐ近くでカーターの声を聞いた。
「終わりだな」
声を聞き終わる時にはすでにカーターは僕の目の前で炎から実体化して、すでに魔剣を振り下ろす寸前であった!
(しまっ……!)
熟練冒険者の鋭い剣筋である! 後ろは崖、しかも隙をつかれた! 慌てて雷へ変化しようとするが、魔素が底をつきて失敗してしまう。
躱すことができないっ!
袈裟斬りを左肩から右わき腹に受けた僕は吹き出す血を横目にみながら、激痛と共にそのまま崖下から転落。真下の荒れる海へ一直線に落ちていった!
(くっそぉぉぉぉ――――――)
薄れゆく意識の中でアオイたちの絶叫を聞いた気がする。
すぐに海面に頭からぶつかり、僕は意識を失った。
………………
…………
……
。
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