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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第四十八話 クエスト チゴリ鉱山の魔物を駆逐せよⅡ

「これは深淵の大蛇ですな」


 ウォッカが隙なく構えながら、松明(たいまつ)で敵の正体を照らして教えてくれた。


「地下深くに住むという蛇の一種です。鉱山に出てくるという話は聞いたことがないですが」

「……蛇にしてはずいぶんと大きくないですか?」

「ええ。だから『大蛇』なのです」


(ごもっともです)


「攻撃方法や弱点は?」

「重量を生かした頭での攻撃と毒のある牙があったはずです。弱点は聞いたことがありませんね」

「戦闘経験は?」

「残念ながら私にはありません」


 深淵の大蛇はコブラと同じような頭部を持ち、そこから胴~尾にかけて灰と茶色のまだら模様、鋭い牙を見せながら長い舌を巻いたり伸ばしたりしている。


(ネズミじゃなくて僕たちを餌にするつもりか)


 断っておくが、全長が三~四メートルなのではない。持ち上げた頭部から地面まではその長さである。しかも狭い空洞内であり、おそらく全長二十メートル近くある。胴体部分は直径一メートル以上だ。


 それに……


(素早いっ!)


――ドゴッ――


「ぐふっ」


 腹から空気を吐き出す声を出して、不意を突かれたウォッカが大蛇の突撃攻撃に吹き飛ばされて派手に壁にぶつかった!


「キュルルルル」


 大蛇は松明にも攻撃を加えたが、物理的な衝撃で攻撃しても無意味だと悟ったらしい。


(ウォッカが持っていた松明が気になったから初めに攻撃したのか。不幸だが、今ので攻撃の速度や方法が少しわかった。それに僕たちは夜目が効くので、松明でかざさなくても戦闘に支障がない)


 僕は敵を挟み込むため、後ろへ回ろうとした。しかし地面と皮膚がこすれる嫌な音を出して、大蛇は後ろを取らせないように移動した。挟み撃ちを回避するぐらいの地頭はあるらしい。


『攻撃せいっ!』


 指輪の怒号が頭に響く。


(計画なしで戦ったら、あっという間に腹の中に収められてしまいそうだ)

『あほうっ! 向こうだっておぬしたちといきなり出くわしたんで驚いとるぞ。冷静さを取り戻す前に先制攻撃じゃ!』

(そんな蛇の気持ちが人間にわかるかっ!)


 指輪との短いやり取りの間に大蛇は次の得物を見定めていた。今度は舌を巻き出しながら、クーンやウォッカが引き連れていた兵士たちに近づこうとする!


――パチン――


 僕はとっさの判断で足元にあった小石を拾って、指で弾いて大蛇の頭に当てた。


 クーンは近接戦闘タイプではないので、狙われると一撃で致命傷をもらう可能性があった。兵士たちも長であるウォッカが吹き飛ばされてしまったためか、体が強張っている。


 なので、僕がヘイトを稼いで注意を自分の方へ向けさせる。


「キュルルルル」


 長い舌を揺らしながら大蛇は、自分に石を当てたのが僕だとわかったらしく、こちらへ向き直った。どうやら狙い通り僕をターゲットにしたらしい。


「僕がこいつを引き付ける! みんなは離れたところから遠距離攻撃をかけてくれ」

「「「「「了解っ!」」」」」


 少しずつ少しずつ……。大蛇は僕との距離を縮めてきた。


 この大蛇はさきほどの頭部で攻撃した際、攻撃範囲を伸ばせるよう体を縮めるような動きが先行するのを僕は見ていた。


(……。……くるっ!)


――シャァ――


 音にならない音とでもいうのだろうか。少しだけ高音を空洞内に響かせて、大蛇は胴体の屈曲部分を伸ばすようにして、頭部での突撃攻撃を仕掛けてきた!


 予備動作を見切った僕はすばやく雷変を発動させて、この攻撃を躱した。続けて大蛇の頭部に降り立つ。


――ぬちゃ――


 立った瞬間、足元が滑る感覚があったが気には留めない。


(こいつでおしまいだっ!)


 大蛇の頭部にたっぷりと魔素を注ぎ込んだ雷哮の剣を突き立てる!


――キィン――


(⁉)


 魔剣は大蛇の頭部を上から下へ貫通させて致命傷となる…………はずだった。しかし独特の粘液によるぬめりとその下の強靭な皮で弾かれてしまい、攻撃は不発に終わった。


 予想外の結果に次の行動が遅れ、僕は体ごと大蛇の尾によって薙ぎ払われ、向こう側の地面へ吹き飛ばされてしまう! 


 接触する直前にどうにか態勢を立て直し、受け身で衝撃を流して着地することに成功した。


「シュゥゥウッ!」


 甲高いレイナの叫び声が響き渡るのと同時に、自分の周囲が大蛇の胴体で囲まれているのに気づいた!


(しまっ……)


 呼吸を整える間もなく、一瞬で体ごと巻き取られてしまって、全身を締め付けられる!


「…………っ!」


 声を上げられない!


 想像以上の物凄い力である。


 到底振りほどけそうにない!


 大蛇はその強靭で長い胴体を使って僕の体に巻き付き、獲物を窒息させるか、捻り潰そうとしているようだ。


(こいつはっ……まず…………い……っ…………)


 呼吸もできず、骨がミシミシと音を出していくのがわかった。外では仲間が攻撃をしているようだが、一向に力が緩まる気配はない。


(……ら…いへ……ん……)


 意識が途切れる前に僕はどうにか再び雷変を使って体を細い雷に変化させて、大蛇の攻撃から抜け出すことに成功して、仲間の方向へ移動して実体化する。


 大きく息を吸う。


「はぁはぁはぁ」

「シュウ、大丈夫?」


 特訓の成果すぐに呼吸は戻り、戦闘継続は可能だと判断した。


「ありがとう。今のは危なかったよ」

「ちょっと、心配させないでよ」


 レイナがちょっと怒った。


「ごめんごめん」


 大蛇はなぜ自分の攻撃から逃れたのかわかっていないようだが、再び僕を見つけると狙いを定め、不快な音を出しながら近づいてきた。


 胴体には先ほど僕が締め付けを受けていた時に、仲間が攻撃した跡がある。残念ながら表面を傷つけただけで、深手を負わせることはできなかったらしい。


(ん? あれは……⁉)


 大蛇にできた攻撃の跡のなかに表皮が変色している部分があった


「あそこは?」

「炎をぶつけたみたんだけど、表面を焼くぐらいしかダメージを与えられないの」


 レイナの炎の術は表面にぶつかれば変色を起こすらしい。彼女はほぼ無傷だと言った。しかし、これはおそらく……


(皮のぬめりが炎の影響で落ちて、少しだけ外皮を焼いたんだ)


 僕はさきほどの剣を突き立てた感覚を思い出した。


(表皮のぬめりが落ちた部位に攻撃をしたらどうなるかな?)


 クーンへ素早く目配せをした。彼は僕の意図を瞬時に読み取り、弓を構えた。


 再び僕は大蛇を誘うように動き、クーンへ横腹を見せさせる。


――ヒュッ――


「! シャアァァ!」


 クーンが引きはなった弓は大蛇の表皮で弾かれずにそのまま突き刺さる!


(よし! 思った通りだ!)


 大蛇の攻略には物理耐性を、粘液を炎で焼いて飛ばすことで対処できると判明した!


「レイナっ! 炎でヤツの体表の粘液を焼いてくれ! そうしたら物理攻撃が通るようになる!」

「わかったよ」


 同時に酸欠にならないよう、空洞内の空気を動かすように風の魔素術を使うようアオイに指示する。


 レイナは炎球を複数個同時に作成して空気中へ維持して、それぞれに不規則な円運動を持たせつつ、大蛇へぶつける攻撃をおこなった。大蛇は攻撃を躱そうとするが、そのすべてを避けることはできずにいくつかの火球を受けた。


 さきほどと同じように、火球がぶつかった部位の粘液はぬめりを失ったようで、皮膚の変色を起こしていた。


 間髪を入れずにクーンが早弓をそこへ打ち込む!


「シャアアッ!」


 痛みで声を荒げた大蛇はクーンへ向き直ろうとする。が、僕がそうはさせない。


――パチン――


 顔面に小石をまた当てられた大蛇が僕の方へ向く。


(所詮は蛇の思考)


 パーティで討伐をする僕たちの作戦が上回っていると確信した。


 その間、横眼にはジュウゾウさんとナオキが吹き飛ばされたウォッカをこっそり回収していているのが見えた。呼吸を確かめていて、どうやら重症ではなく気絶しているらしい。


(ヘイトを稼ぐのは自慢じゃないが得意だ)

『自慢にならんのぅ』

(指輪、うるさいぞ。邪魔するよりもなにか弱点でも教えないか)

『教えを乞う態度ではないのが気に入らんが、さきほどの弱点の見抜き方は見事じゃ。だが奴もそれほど甘い敵ではない。先ほど攻撃したところを見るんじゃ』

(ん⁉)


 粘液を落ちて弓が刺さったところの皮膚は元に戻っている。よくみると粘液が再び表皮を覆ったようだ。矢が突き刺さったダメージは残っているようで、血がにじみ出ている。


(ダメージがすぐに回復できないとわかればそれだけで十分)


 粘液はまたレイナに消してもらう。


 攻略の糸口をつかんだ僕はニヤリと口角を上げた。



 そこから僕たちはレイナ・クーンを中心に遠距離からの攻撃を続けた。敵の正面の相手は変わらず僕で、攻撃を左右の巧みなステップで躱して、避けきれないときは雷変を使う。回避パターンを見切られないよう注意しながら、仲間にひたすら攻撃させた。


 十分……二十分……と経過した段階で大蛇の蓄積したダメージが徐々に効いてきて、動きが緩慢になった。


(もう少しでいけるっ!)


 そう思った時、敵の攻撃パターンが突如変わった!


 今まではヘイトを稼ぎに稼ぎまくった僕の方を向いていたが、突如ランダムに攻撃するかのように胴体を薙ぎ払い、周囲の岩や地面を削って石つぶてのようにまき散らして僕たちへぶつけてきた。


 この攻撃も僕は雷変でやり過ごせるが、仲間は違う。


 いきなりの変化に対応できず、後方の仲間が石の散弾を受けてしまった!


(まずいっ)


 嫌な予感は的中、後ろでは悲鳴が起こる。


「レイナっ、火球を増やしてくれ! 早めに決着をつける!」


 とっさの判断で僕は回避から攻撃重視へ切り替える。


 すぐにレイナの方から飛んでいく火球の数が増えた。大蛇は怒り狂ったのか僕たちがいない方へも石の散弾を飛ばしていた。

 そんな状態でコントロールされた火球を避けきれるはずもなく、ほぼすべての火球が大蛇の粘液と少しの表皮を焼いた。


 僕はすぐに大蛇へ急接近して、魔剣を振り下ろす!


――ビュッ――


 大蛇の胴体の三分の一以上を断ち切ったが、切断には至らず!


(ちっ!)


 反撃を受けないよう素早く身を引く。


 しかし間に合わず――大蛇がそのなぎ払いで僕を弾き飛ばす!


(ぐっ⁉)


 大蛇は薙ぎ払った後の行動を決めていたかのように素早く僕の落下点へ移動し、今後は地面にぶつかるか否かのタイミングで巻き付いてきた!


 魔剣ごと体を巻き付かれてしまった僕。


 一部がちぎれかかった胴体ではあるが大蛇の生命力は強く、力が衰えている様子は一切ない。


 体がミシミシと悲鳴を上げるので、抜け出そうと雷変を使おうとした。その瞬間――


――ブシュ――


 大蛇は霧状の何かを僕に吹きかけた。


 良くみようとしても目が霞んで、気づけば意識がもうろうとするようになっていた。


(なっ……んだ……?)


 思考も急激に鈍くなったし、呼吸もどんどん苦しくなる。


『シュウよ! しっかりせい! 毒霧になんぞに負けるなっ!』


 そういや毒もあるってウォッカが言ってたっけ……。噛みつきじゃなくて、吹き付けてくるなんて反則だよ。


 これは本格的にまずい……。



 状況を悟ったアオイとレイナが絶叫を上げて、最大火力の攻撃を大蛇にお見舞いした。


 僕自身がそれを見れるわけがなく、声とその後に続く衝撃で、それぞれが斬撃と火の魔素術を使って攻撃したのが辛うじてわかった。


――ブシュッッッ――

――ドォォォォン――


 攻撃の影響か力が弱まり、少しだけ呼吸ができるようになった。だが相変わらずぼーっとした感覚が抜けない。


 ふと目線を上げると大蛇が僕をのみ込もうとして大口を開けていた!


 二本のするどい牙をむき出しにしている。


 口のさらに奥には小さい歯がぎっしりと列されていて、あれで僕をのみ込み、刻み、消化するのだろうと予想がつく!


(飲み込まれるっ!!!!)


 生命の危機を強く感じたその瞬間――


 僕の腹の底に閉じられていた何かが解放されて全身が――特に左手の甲が熱くなった!


 続いて少しだけ意識も戻る。


大蛇はもう僕を飲み込む寸前である!!


(このままやらせてたまるかよっ!)


 貧乏で培った反骨精神を全開にして、僕はありったけの魔素を腹の底から動員する!


 そして……


(いまだっ!)


 僕は『雷突』を大蛇へ放った!


 この技は僕自身が魔剣と一体となり、敵を貫通する術である。以前にトレドが魔物大集団に襲われたときに使って魔物相手でも十分な威力があることが実証されていた。

 広範囲をせん滅するような術ではなく、一点集中で威力を発揮する。


――大口を開けて飲み込もうとする瞬間に、口の中へ飛び込む形で『雷突』を発動した!


 体表から使ったのでは粘液で弾かれそうだし、弾かれなくてもただ肉を貫通するだけで致命傷にはならない。しかし丸呑みしようと大きな口を見た瞬間、僕は体の内部からぶつかれば、粘液の影響を受けないと考えた。失敗すればそのまま胃袋直行コースである。


――ブシュッ――


 その瞬間、僕は大蛇の締め付けから抜け出したまま、さらに大口の中へ飛び込み、内部から貫通、頭上へと抜けることに成功した!


 当然蛇の脳にも大きなダメ―ジを残す!


――バタァン――


 大きな音と土ぼこりを出して、大蛇はそのまま地面へ倒れ込み、二度と動かなくなった。


「……ふぅ」

「シュウ様、やりましたわねっ!」


 アオイが僕に近寄ってきた――しかし、すぐに遠ざかる。


「? どうした」

「ちょっと匂いが……」


 戦いの最中は気づかなかったが、爬虫類の魔物の粘液は相当な悪臭を放っていた。


「ははは。後でしっかり落とすよ。それよりもこいつをどうしよう?」


 伸ばしたら全長二十メートルはある大蛇である。魔石はしっかり確保するとして、それ以外の部位は……焼いて食べる?


「魔物はルベンザへ持ち帰り、その皮を装備にするなり売るなりすれば良いと思います」


 気絶していたウォッカが起き上がった。


「さきほどの大ネズミと一緒にこの転移石でルベンザへ送ってしまいましょう。内容を書いた紙を一緒に送れば、向こうでうまく処理してくれます」

「そうですね。送ってしまいましょう」


 みんなを見渡したが異論なし。


「あのぅ、ところでそろそろ松明を戻しませんか? 暗くて皆さんが良く視えません」

「そうでした」


 松明をつけるとウォッカは僕らの位置がはっきりとわかったようで安心した顔をしていた。


「みなさん、どうやって戦闘をしたのですか? この暗闇で?」

「それは……企業秘密です」


 夜目が効くことを不思議に思われたが、どうにかごまかして収めた。


 三十分程度で大蛇周囲に狩りつくした大ネズミを集めた。ウォッカが離れた位置から転移石を投げつけて大蛇にぶつけると、周囲二十メートルぐらいに魔素陣が展開された。数秒後に魔素陣と共に魔物たちが消えた。


「終わったな」

「ええ」


 仲間とウォッカと一緒に鉱山内の道を戻りながら、僕は大蛇がなぜ鉱山に現れたのかずっと考えていた。


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