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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第四十七話 クエスト チゴリ鉱山の魔物を駆逐せよ

 宿営地へ到着した時間が夕刻に近いので、その日は一晩明かして翌朝にチゴリ鉱山へ出発することにした。


 用意された宿は然宿営地内にあった。


 ここは小さな村のような生活圏をつくっていて、鉱山の採掘に必要な道具を売る小さな商店が数件あるだけで、あとは宿舎だけである。娯楽はない。皆、稼ぎのためにこちらにきて、給金をもらって魔術都市ルベンザへ帰るようだ。期間も数日~年単位であるみたいで希望に合わせて働くことができる。


 尚、犯罪をした奴隷も混じっているようだが、彼らは生涯にわたり体が壊れて採掘できなくなるまで、ここで働かされるらしい。珍しい鉱石などを採掘した場合には恩赦もあるようだが今までここで解放された人はいないという。


 宿営地は当然安全でなければいけない。なので木材と鉄で補強された塀が生活空間周囲に配置されており、ちょっとやそっとの魔物では侵入できないようになっていた。監視塔も森林にカモフラージュさせてあった。どの設備も近づいてみると魔素文字が掘られており、魔素術耐性もあるようだ。この土地で安全地帯を確保するのがすごく大変であることがよくわかる。


 中には常時百人以上がいて、その宿営舎の一角が僕たちへ割り当てられた。


 簡単な挨拶を交わした後、ウォッカと別れてそれぞれの部屋へ入った。僕たちは異世界ではリュックサックの中に荷物を入れて行動している。日本から持ち込んだ寝袋は保温性抜群で、周囲の者たちは『それはなんだ?』としきりに聞いてきた。


 尚、宿営地は男が圧倒的に多い。獣道をどうにか潜り抜けて、その後鉱山で力仕事をするのだからこれも当然であった。

 アオイとレイナは毎日水浴びを欠かさず、当然今日もその予定だ。水はナオキ(水属性の魔素術)が準備して、湯にするのはレイナ(火)、終わったらアオイ(風)とレイナ(火)で温風を出して髪を乾かす。


「のぞいたら、殺すわよ」


 レイナはそう言うが当然興味から見ようとする男どもはいた。彼らは女性として彼女をみるが、火の魔素属性に特化した冒険者だとは思っていない。しかも熱探知ができるとも知らずに。

 そのような男たちはレイナとアオイのグーパンチと峰打ちで地面にて一晩明かすのだった。ちなみにナオキもぶっ飛ばされたらしい。


******


 チゴリ鉱山宿営地について二日目の朝。軽めにウォーミングアップを済ませて、食事をとった僕たちはウォッカを含む数名の屈強そうな兵士と合流して鉱山へ向かった。


 鉱山は崖と崖、そこを挟むように大きな川の上を橋がいくつもかけられている。こちらの橋はやはり日本でみるような頑丈なものではなく、木製とロープを組み合わせていた。驚いたことにこの素材にも魔素文字が掘られている。


(さすが魔境……)


 橋の下には流れのすごく早い川や雑木林、赤色の明らかに体に悪そうな池などで、絶対に落ちたくない。


 予想どおりに揺れる橋をどうにか渡りきり、ようやく鉱山入り口にたどり着いた。


 入り口は粗末な木で最低限土砂が崩れ落ちないように補強されているだけ。ここは簡素だった。ルベンザの重要な収入源になっているわりには人気もないので、


「見張りとはいないんですか?」


とウォッカへ聞いてみた。


「旅行目的にチゴリ鉱山に来る奴はいないですからね。鉱山の入り口も一つだけじゃないんですよ。内部もそれなりに把握していますが、まだわからない道もあります」

「そりゃあ、そうですよね」

「宿営地が入口替わりです。あそこで鉱山へ入る者たちの身分や所属を確認をしています。ここの入口に人を配置したらあぶないですよ」

「ごもっともです」


 さっそく松明をリュックから取り出した。僕たちは実は夜目がすごく効く体質で鉱山内も明かりなしで行けるはずであった。しかしウォッカには黙って指示に従う。彼には悪いが僕たちの手の内をすべて晒す気はない。


 鉱山内は入り口付近が幅三メートルぐらいで、少し奥に入って振り返ると入り口の明かりはもう見えなくなっていた。


「横を見てください」

「これは……⁉」


 ルベンザで街中に張り巡らされていた街灯につながる、日本でいう『電線』のようなものが鉱山でも存在して、入り口から奥へ向かってずっとずっと続いていた。


「これは鉱道中の照明です。いまは魔物に壊されてしまったので使えません。しかし目印にはなります。もし中で迷うような事態になったら、これを見つけてたどれば入り口に戻れます」

「必ず入り口に戻るというわけではなくて、逆に奥に向かってしまうこともあるのでは?」

「それは大丈夫です。照明の線は奥に行けば行くほど細くなります。なので、もし細い方へ進んでいれるとわかれば、その逆方向へ歩けば必ず外へ出られます」

「わかりました」


 先頭をウォッカと僕、最後尾をアオイとジュウゾウさん、中にレイナとナオキを挟む陣形で移動していたが、後ろでナオキがゴソゴソやっているようだ。


「どうした?」

「ん。ちょっとな」


 ナオキは通った道の一定間隔に草を植えていた。どうも見たことのない種を魔素術の水と土を使って成長させていた。


 草は足首ぐらいの高さであるが、ボッと小さい明かりを放っていた。


「夜光草といってな。目印になるか試しているんだ。中で迷ったら、たとえ照明の線があっても俺たちが通った場所とは限らないだろう」

「いいアイデアだ。種はどうしたんだ?」

「昨日ちょっとな」


 どうやらナオキは水浴びの女性陣をのぞきみてぶっ飛ばされた後、同じくぶっ飛ばされた荒くれ者と意気投合したらしく、その過程で宿営舎周囲に生えている植物の特徴を教えてもらっていた。その中に夜に明かりを得る方法として、夜光草の話が出てきたので確保していたのである。

 夜光草は土から離れると約一時間で光を失ってしまうが、土の中に根を張れるなら、暗い場所ではずっと光を放てるという。


 体感で三十分以上奥へ進んだ。その間は魔物と遭遇しなかったが、そのうちウォッカが警戒を促した。どうやら目的とする場所が近いらしい。


「この先です」


 後ろへ続く仲間へ合図を送り、自分はゆっくりと魔剣の鞘に雷の魔素を流して引き抜いた。


「えらく切れ味のよさそうな武器ですね」

「ええ、まぁちょっとしたところで見つけまして」

「根掘り葉掘り聞く気はありません。ただずいぶんと目についたもので。さ、もうすぐ広場へ抜けます」


 ウォッカが案内した場所は鉱山内にあった空洞だった。掘り進む中で偶然に見つけたらしい。空洞を見下ろす形で穴からのぞいてみたら大ネズミがこそこそと動いているのがわかった。


(三十匹より多いな。これだけ数が多いと気持ち悪い)


 採掘への支障どころかこのまま放置すれば大群となって宿営地まであふれ出てきそうである。


 みんな一通り状況確認した後、道を少しだけ戻って作戦会議をおこなう。


「威力のある技は落盤事故を起こす可能性があるので使えない。なにか作戦がある人はいるか?」


 数に圧倒されたようで一人を除いて黙り込んでしまった。


「シュウ様、私に作戦があります」

「おっ!」


 僕らのパーティはアオイが知恵袋である。彼女に名案があるらしい。


「地図を見るとこの空洞へは通じる道は私たちの通ってきた道のほかに二か所あります。戦闘が始まれば私たちへ向かってくるネズミもいるでしょうが、逃げ出すネズミもいると思います。逃がしてしまえば依頼達成にはならず、後日別の採掘者が襲われてしまう恐れが残ります。そこで……」


 アオイはリュックから大量のお菓子を取り出した。当然こちらの世界にない日本から持ち込んだ美味しいスナック菓子である。レイナもリュックから名残惜しそうにお菓子を出した。結構な量で荷物の半分を占めていたのではなかろうか。


(こんな大量のお菓子をどこで食べるつもりだったんだ?)


 口に出すと怒られそうなので黙っておく。


「これを使ってできるだけ多くのねずみを中央におびき寄せましょう」


 見えているネズミがすべてだと思い込んでいたが、アオイの言う通りだと思った。


「全部のネズミが広場へ入ってきた段階で、残りの二か所を土の魔素術で塞ぎます」


 これはクーンとナオキの担当だ。


「塞いだ後はシュウ様の出番です。雷で倒してください。最低でも動かないように気絶ぐらいはしてほしいです。あとは全員で狩るだけです」


「なるほど。ほかに案のある人は?」


 みなアオイの作戦に賛同した。ウォッカも異論はない。


「それでいこう。ここの魔物は魔素術耐性があるので自分の力を過信しないように」

「「「「「……りょ~かい……」」」」」


 先に魔物を一か所へ集めるため、お菓子の封を切って風の魔素術でゆっくりと空洞のど真ん中まで落ちないように慎重に運んで、そこで魔素術を切った。当然風によって支えられていたお菓子は浮力を失って、お菓子は地上へ降り注ぐ。


「キキキキッ!」

「キキッ?」

「キキ!」


 大ネズミは食べ物にすぐ気づいたようで、夢中で群がり始めた。一匹が騒ぐと次々と騒ぎ始める。上から降ってくるのに気づかず、僕らはどんどんお菓子を落としていった。


 奥の二か所の道から次々に大ネズミがでてきて、百匹近い数になった。もう出てこないと判断した段階で、クーンとナオキが土壁で入り口を塞ぐ。食べ物に夢中だったネズミたちはそんなことに気づく気配はない。


(さて、つぎは僕の番か)


「……むん!」


 手のひらを上に向けると体から雷に変換した魔素を凝集させて空気中へ作り出した。


(『雷球(らいきゅう)!』)


 この魔素術は新技で、雷を凝集させた魔素を球に形作って、目的とする場所で解き放つ! すると周囲に雷をまき散らして散開する技である。


 以前からこの技の構想はあったが、僕は体から離れた位置に魔素を維持したり、変換する能力を習得できていなかった。つまり魔素術をコントロールする実力が足りなかったのである。しかしシェリルの特訓にてこの問題がいくぶんか解決して、使用に耐えられるレベルまでどうにかなったのであった。


(ゆっくり……慎重に……)


 お菓子と同様にネズミ集団の頭上まで雷球を移動させた。その中にはぎっしり僕の練りに練った雷の魔素術が敷き詰められている!


(喰らえっ‼)


 雷球ははじけ飛び、そこを中心として無数の雷が地面に降り注いだ。どの程度で気絶するかわからず、魔素術への耐性もある程度想定されるので、手加減なしで術を作った。


――ビビビビビビビ――


 鋭い音を出して大ネズミどもへ雷が降り注いだ。無警戒だったせいかほぼすべてのネズミにあたり、一様に彼らは横たわって痙攣したり、動かなくなった。


「止めをっ!」


 すぐに僕たちは空洞内へ降りてほとんどが動かない大ネズミの息の根を止めていく。中にはまだ動ける個体や、雷から逃れた個体があったが、それらはアオイとレイナがことごとく倒していった。お菓子を消費したのがやっぱり許せないらしい。


 アオイの剣術は例のごとく鋭さを増していて、レイナに至っては『炎束』でかる~くネズミどもを葬っていた。魔境に住む魔物たちの魔素術への耐性など関係なしで、新しい杖と魔素術修行のためか前に見た時よりも炎束は速く太くなっていた。


 僕たちとウォッカはまたたく間に空洞内を制圧することに成功した。


「よし……作戦完了だ。魔石を回収して残った魔物の体は……」


 ここまできて僕は倒した大ネズミの体をそのまま放置できないことに気づく。放置すれば悪臭を放ったり、ガスを発生したり、疫病の原因となったりする懸念がある。


「体は……どうしようか?」

「それはこちらにお任せください。一か所に集めていただければ、鉱山の外まで転移させます」

「えっ!」


 驚いた僕はウォッカの方へ振り向く。


「こんなこともあろうかとシェリルより転移玉を預かっています。これを魔物の体に投げつければ、宿営地近くに転移しますので、そこからは崖下の川に向かって突き落とすだけです」

「さすがです。ところでその転移玉って僕たちにも使えます?」

「これは生物を想定していない物です。使えば体にどんな影響がでるかわかりません」

「そうですか……」

「もっと術式を複雑にすれば生物、例えば僕たち人間にも使えるようになるとシェリルは言っていましたよ」


 僕は以前にカーターを含む二人を取り逃がしている。その時に使用していたのがこのタイプの転移玉だと確信した。


(これはあとでシェリルへ聞かねば……)


 またやることが増えた気がしたが嫌だという感情は一切なく、僕はただただ楽しんでいた。


 倒した大ネズミたちを空洞内の一か所へ集め終わる頃、塞いでいた二か所の入り口を元の通れるようにした。途端に奥から寄声が聞こえてくる!


(なんだっ!)

『また魔物がくるぞっ!』


 指輪の警告と同じくして、レイナが、


「熱源が複数来るっ!」


と叫んだ。


 全員身構える。ほどなくして大ネズミが通路奥から姿を現す!


(このヤロウっ!)


 再び僕は雷の魔素術を放とうとした!


 しかし――


 大ネズミたちは攻撃の気配が一切なく、僕たちの横を全力で疾走して奥へ再び姿を消した。


「なんだったんだ?」

「さぁ……」


 アオイも肩透かしを受けた顔をする。


「きっと僕たちが強いので逃げていったんじゃないか?」


 ナオキが自信満々で言う。その後ろには……⁉


「ナオキっ、うしろだっ!」


 警告の叫び声でナオキは反射的に横に飛ぶ。


――ズドォン――


 鈍い音と土埃を立てて、ナオキがさっきまでいたところには窪みが生まれた。


「蛇だっ!」


 ナオキに攻撃を仕掛けたのは蛇だ。それも大蛇といっていいだろう。首を高く上げて、下を巻き動かしている。地面から口元までで軽く三メートルはある。


「こいつがさっきの大ネズミを追い立てたわけか」


 大蛇は僕たちを獲物として決めたようだ。


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