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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第四十五話 魔素術指導

 宿でのこと。翌朝、僕・ナオキ・クーン・ジュウゾウさん、それに後から合流したアオイ・レイナで今後のことを話し合う。


 まず、今回ウォン商会の護衛依頼で魔術都市ルベンザまで来ているわけだが、正式に護衛任務からはずしてもらうよう求めた。事情を知っていたウォンは、途中で商隊が襲われても大変だと思ったことや、貿易都市トレド冒険者所長のマルコーまでこちらへ来ていたことを考慮して承諾した。


 ウォンが出した依頼の報酬はその半分を後に払うこととなり、両者は合意に至ったわけである。


「気をつけろよ」

「ああ、ありがとう。シグレも気を付けて」

「君ほどトラブルには恵まれていないよ」


 少し皮肉を言われた後、シグレたちウォン商会のメンバーと別れた。尚、コーサも内部から裏切り者が出たため、護衛任務を解かれていた。護衛者が護衛者を襲ったから当然だと言えば、当然であった。この件は冒険者ギルドへ報告されるため、後にコーサの冒険者パーティは制裁を受ける予定だ。


 話し合いはまだあった。ルベンザで僕たち『夢幻の団』が全員揃ったわけだが、おおよそ一か月程度を目安にここでレベルアップを目指すことにした。


 ここにいれば、新しい情報を得ることもあるだろうと思ったのと、シェリルの魔素術士として力量を認めたからであった。


 ちなみに闇組織ハモンの話はシェリルも知っていたが、噂の程度しか知らないようだ。彼のルベンザ内の情報を把握できる能力を考えると、ハモンはこちらに拠点を構えていないのだろうと思った。もしかしたら敵が新手を送ってくるかもしれないが、その場合はシェリルから知らせが来るようになっていた。


 この点でもルベンザに留まっていることに意味があると考えた。




 早朝宿を出発するとまずネス=グリーズマンの武器防具店へ寄る。レイナの新しい杖の受け取りと、もう一度パーティの武器防具を見直すこととしていた。主にナオキの武器とクーンの弓だった。


 レイナは新しい杖が出来ていれば受け取る、という考えで武器防具屋へ行ったのだが、そこにはすでに完成された杖が受付に置かれていた。


「おはよう、シュウとその仲間だね。頼まれた杖は仕上がっているよ!」


 ネスは少し早かったが、朝一番の客である僕たちを快く受け入れてくれる。


 一目見てレイナの杖にぴったりだと僕は思った。持ち主でないのにすごく気に入ったわけだ。


 新しい杖は長さ三十センチメートルぐらいの長さの杖で、特徴は芯に世界樹の木を使ったことと、三つも組み込まれた赤い魔素石だ。


 一つの魔素石が組み込まれた杖を使っていてもレイナの炎の魔素術は半端ない。三つになったらと思うと正直ぞっとした。


「あら、今日は新しい仲間がいるのね」

「ネス、紹介します。後ろの二人が、レイナとアオイです。レイナは頼んだ赤い魔素石の杖の持ち主になります。あとアオイはスミスに『ニホントウ』を打ち直してもらっています」

「あら、弟が!」


 ネスは新しい杖の説明よりも、弟が打ち直したというニホントウの方が気になったようだ。


「ちょっとみせてみて!」


 半ば奪うようにアオイから受け取って斬月を抜いた。高々と刃渡りを観察する。


「ふ~ん」


 しばらく眺めたのちネスは満足そうに元に戻した。


「あいつもいい仕事するじゃない」


「紹介しよう。こちらはネス。スミスのお姉さんにあたる人だ」

「初めまして、シュウの監視役のレイナです」

「同じく、アオイと申します」


(なんだよ……。監視役って)


「あらあら、シュウはモテモテなのね。こんなに綺麗なお嬢さん二人に『監視』されるなんて」

「冗談じゃないです。ただの仲間ですよ」

「わかってるって」


 ネスは上機嫌だ。


「早速ですが、杖を受け取りたいです」

「どうぞこちらへ」


 店先に綺麗に飾ってあった杖を棚から下ろした。


「こちらが注文の杖になります」

「すごい……」


 レイナは握るその前から杖の力強さを感じたようだ。


「ご注文の通り、世界樹の木で仕上げました。炎の属性である赤い魔素石は三つ付けました。以前に使っていらっしゃったという趣味の悪い杖よりも、格段に威力が上がっていると思います」


 落とさないように慎重に受け取った杖をまじまじとみる。横で僕も見ていたが、深い茶色の木目がいい感じに前面に出た色合いの杖に仕上がっていた。彼女はしばらく無言で見つめ続ける。


「そう言えば!」

「どうかなさいましたか?」

「仲間の武器と防具を相談したかったのです」

「あらあら、それは」


 ネスは商売上手だ。その目が光ったのを見逃さなかった。手持ちのお金が足りるか心配になりながら僕は、


「ナオキの武器、それにこちらのクーンが使う弓も見繕ってほしいです」


と言った。


「どうぞこちらへ」


 ネスは店の奥側で武器が置かれている方へ案内してくれた。ナオキとは武器の形状をどうするか昨日の時点で相談していて、彼も杖のような形状の武器を求めることにしていた。刃物タイプの武器は僕、アオイ、ジュウゾウさんがすでに所持しているので、バランスを考えた。ただし、希望は杖で殴打することも想定した武器だった。


 しばらく店の中を見回ったナオキだったが、ふと樽の中に雑に入っている一本の棒を取り出した。ブンっと店内で軽く振る。


「こいつぁ、いいや」

「ナオキ、それでいいのか?」


 棒は黒い色をして、彼の身長より少し小さく、百五十センチメートルぐらいはある。太さは握ればちょうど手が一周するぐらいで、殴打には向いていそうだ。


「棒術?」

「うん、まぁ殴れればそれなりにいいかなと。できれば術の発動を補助してくれるといいと思っているんだけど、こいつは水や土の魔素術と相性がよさそうだ」


 ナオキは魔素を武器へ流して通りを確かめていた。僕と彼が吟味しているとネスが近寄ってきて、


「そちらの樽に置かれている武器は大変お安くなっております」


と言う。


「当店ではこちらで作製した武器防具のほか、商人から買い求めたり、流れてきた品も扱っています」

「流れてきた、とは?」

「世の中いろいろありますので。例えば借金の代わりにとられてしまったり、潰れた貴族の家から没収されたり、はたまた事件に関連した物などなど。そのようなもののことでございます」

「なるほど」


 ナオキは匂いを嗅いだが、血の匂いはしないといった。クーンにも嗅いでもらったが、木と金属が入り混じった匂いしかしないという。


「決めた!」


 ナオキの武器は『黒棒』と名付けられた。


(そのまんまだよ)


 クーンの弓は、元は僕を襲ってきた襲撃者を撃退した時に手に入れた『疾風の弓』だ。今回はこれを改良してもらい、土の魔素石を埋め込む加工をしてもらうこととした。連石をしほしかったのだが、素材が受け止められずに壊れてしまうと言われ、一つで我慢することにした。それでもクーンはすごく喜んだ。


 さらに全員に胸背部を守って動きに支障のない軽金属で出来たプレートタイプの装備も買った。魔素の通りはほどほどで、こいつには物理防御を期待した。体のサイズに合わせて微調整が必要だったので、数日後にもう一度取りに来る約束をして店を出る。


 ルベンザにはあと一か月いるがシェリルの修行だけに費やすつもりはなく、冒険者ギルドの依頼を合間に受ける予定だ。


******


 店での用事を終えて、シェリルの邸宅へ向かった。道中こちらをちらちら見てくる人が多くなったと気づいたが、アオイとレイナを見ているのだとわかった。男だけのパーティよりも華があり、僕も向こうから歩いてきたら同じ行動をしたのだろうと思うわけである。


 シェリルとの挨拶を済ませて、さっそく魔素術の指導に入った。その場には貿易都市トレドの冒険者ギルド所長のマルコーもいた。


「君たちの魔素系統を先に聞いておきたい。隠したいこともあると思うので、そこらへんは任せる」


 お互いに顔を見合ってから、隠し事をしなくても大丈夫と目線で確認して答える。


「僕は雷、アオイは風、レイナは炎、ナオキは水と土、クーンは土です。そう言えばジュウゾウさんは?」

「わしもアオイと同じで風だ」


 これに関して、僕は遺伝が関係するのか? と思った。


「なるほど、魔素術の円はどの程度展開できる?」


 シェリルは僕たちの技量を測定するようだ。円とは体の周囲約一メートル間隔で魔素術を円のように展開する。体から離れた位置でしかも円の形で展開するのは難しく、数が多くなるほど技量が高い。


 シェリル宅の広い庭で自分の得意属性を使って術を展開した。僕は九つ、アオイは七つ、レイナが一番多くて十三、ナオキは五、クーンも五、ジュウゾウさんは九つであった。尚、ナオキは土と水の融合魔素術で展開した。二つを融合するとその管理は極端に難しくなるようで、ナオキは数が少ない。猫人族はもともと魔素術を扱いにくい種族で、クーンはかろうじて五つを展開した。


 尚、庭は防音や外からのぞけないようにシェリルが魔素術を展開していたため、多少の音が出ても街中には迷惑がかからなかった。


「ふうん。魔素の量は?」


 最後は体内にある魔素量の測定だ。だが測定する方法は? そう思っていたら、シェリルが一人一人ずつ順番に自分と手をつなぐよう指示した。まず僕が手をつないで、


「体内の魔素の十分の一と思う量を僕に受け渡して」


と言った。


 彼はどうやら受け取った量から総量を推測する方法をとるようだ。どれほど正確なのかわからないが、おおよそ十分の一だと思う量の魔素を彼に渡した。同じ要領で全員が測定を受けた。


「わかった。シュウを百とすると、アオイは三十、レイナは五十、ナオキは四十、クーンは二十、ジュウゾウさんも二十。だいたいこんな感じかな」

「僕が一番多い?」

「そう」

「レイナではなくて僕が?」

「間違いない。君が一番多いよ」


 ちょっと驚いた。攻撃魔素術の威力は単純にレイナが一番だと思っていた。この比較だと僕はレイナの二倍魔素をもっていることになる。


(思い当たることはある)


 実戦で敵や魔素陣から魔素を引き抜き、自分の魔素として扱い、その度に大きなレベルアップをした。その影響が魔素量に出ているのだろうとは見当がつく。シェリルは『持っている魔素の量は立派なもんだ』というので、僕は得意げな顔になった。


 だが、


「扱いがなっちゃいない。魔素がもったいないよ」


とすぐに言われてしまった。持ち上げられてすぐに落とされ、がっかりする。


「状況は分かったからさっそく始めよう」


 特訓が始まった。


******


 一番初めにシェリルは『僕たちが体内で魔素を練って引き出す(術を発動する)までが遅い』ことを指摘した。


 体内のへその裏側近くに蓄えられている魔素を見つけて引き出し、全身に纏わせる。纏わせたら全身によどみなく行き渡るようにして、維持する。この過程を短時間で何度も何度も繰り返した。


 レイナとアオイはこの感覚を掴むのが上手いようで、次にナオキとジュウゾウさんとクーン。一番へたっぴは僕だった。シェリルが言うには『体内に大量の魔素があるので今まであまり困らなかったのが一番の原因』と。僕ができる頃にはレイナとアオイが二周目に入っている。差は遠かった。


 次に魔素の変換について。魔素術を発動させるときは、体内の魔素を引っ張り出して変換して打ち出す。僕なら雷に、アオイは風に、という具合だ。この変換の過程も遅いとシェリルは指摘した。魔素を引き出し、変換して、手から一定量を打ち出す。それも両方の手から同時にする。想像以上に辛い。


 魔素が尽きたら、休んで回復。全快時の二~三割ぐらいまで戻ったらすぐに再開するという過程をただただ繰り返した。これであっという間に午前が終わった。


 昼休みを作ってもらい、そのまま食事にする。シェリルは食事にまで気が回っていないようで、宿から弁当を持参していたので、それを食べた。食べながら休憩時間に僕はシェリルにマルコーとの関係を聞いてみた。


「ルベンザが今の形に近くなったころにマルコーが僕を訪ねてきたんだ。当時彼はまだ子供だった。大量の魔素制御ができずに、力を持て余して、暴走させることが多かったようだ。それが原因でエルフの生活圏から離れなければいけなくなったと聞いた。そこで僕が魔素制御の指導をしたわけだ」

「なるほど」

「ちなみに彼はエルフ秘伝の時空間魔素術を教えてくれた。僕の術は彼の術が基礎となっている。聞いてみるといいよ」

「そうします」


 エルフが人間に指導するなら話はわかるが、シェリルとマルコーの関係はその逆だった。


 僕は時空間魔素術に強い興味があったので、あとで聞いてみることにした。


 午後は魔素の展開についての訓練だった。技量を測定するときには円で展開したが、彼は球形で展開しろと言った。正確には足元が地面なので半球となるのだが、その難易度は格段にあがった。それぞれ一、二個の半球を展開してすぐに力尽きた。効率よく展開しようとすると数が減り、数を増やそうと思えば魔素が急激に失われる。全員がすぐに地面に這いつくばった。


 合間をみて、僕はマルコーに時空間魔素術を教えてくれと頼み込むと彼は快諾してくれた。


 時空間魔素術は契約魔素術の一種で、空間を借りる一種の契約をするらしかった。僕はトレド王女のクリスから術を習っていたので、マルコーが説明している途中で契約魔素術とすごく似ていると思ったので指摘してみた。彼は僕が契約魔素術を使えることに驚いていた。


 契約魔素術は自分と対象を設定した条件で結ぶ術である。

 転移の術を覚えようとしたらいきなり生物を移動させるのは難しすぎると言われた。なので便利な保管庫(インベントリ)を持ちたいと言った。


 大気を相手に術を組み、余っている魔石を消費して、まず自分がすぐに出し入れできる十センチ四方サイズの空間を確保する術を組んだ。だが数回やっても魔石を無駄に消費するだけだった。契約魔素術を知っていたことですぐに術は組めたが、発動しない状態であった。


 マルコーはいくつかの練習方法を僕に伝えるとシェリルの邸宅を出て行った。どうもトレドにすぐ戻る予定だったが、時間を延長して僕たちの様子を見てくれていたようだ。


 太陽があと二時間ぐらいで地平線へ沈むだろうという時間帯には、全員が疲労困憊で立ってもふらつき、体内の魔素も明らかに回復が遅くなった。その状態にまでなってシェリルは、


「もう今日は疲労でいっぱいだろうから帰っていいよ。また明日おいで」


と僕たちを宿に返した。


 正直戻る道を立って歩くのも精いっぱいで、宿で夕食を軽めに取ってすぐに寝た。


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