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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第四十三話 一線を越えし者

 つい先ほどまでオルソンが立っていた場所には一人の人間が立っていた。人間だとわかったのは、かろうじて姿かたちが僕たちと似ていたからだ。


 同じく、その人物は人間族とはかけ離れた容姿である。裸であるが、その皮膚には元の状態がわからないほど入れ墨のような紋章を刻まれていて、いわば『全身が紋章』の状態であった。


 異様な姿を見たためであろうか、僕は少しだけ肌寒さを感じて身震いした。


「ひぇっ!」


 ナオキはお化けでも見たかのような男性らしくない声を上げてしまった。その後は固まったまま息を忘れたかのように動かない。クーンとジュウゾウさんは厳しい顔つきだ。


「戦う気はないよ。僕はさっきまで君たちが『オルソン』だと思っていた人物と同じだ」


 腰の日本刀に手がかかっていたジュウゾウさんが、


「おぬしは何者じゃ?」


と尋ねる。


「いい質問だ」


 元オルソンは椅子に腰かけた。


「だが、まずは座りたまえ。話は長くなる」


 僕たちはお互いの顔を見た。


「……。立ったまま聞くか。警戒心が強いな。それも襲撃を受けていたら当たり前か」

「! 知っているのか⁉」

「この都市で起きていることはすべて私に情報が入ってくる」

「お前は襲ってきたやつらの仲間かっ⁉」


 ナオキが大声で叫んだ。


「違うね」

「その証拠は?」

「う~ん、そう言われてもねぇ」


 目の前の男(ちなみに局部は丸見えである)は腕組をして考え込んだ。攻撃してくる気配はない。それどころかさっきから、彼の両足の間にはイチモツがプランプランと揺れている。


(…………)


「……いや、やっぱりいいや」

「うむ」

「信じることにするよ」


 僕、ジュウゾウさん、ナオキは同じ結論に至った。


(こいつ、アホかもしれない)


 暗殺者をけしかけてくる奴らがこんな局部丸出しの誘いをしてくるとは思えなかった。


「ほんとか! 信じてくれたか。やっぱり裸の付き合いはいいもんだなぁ~」

「オホン! とりあえず座らせてもらいますね」


 僕たちは彼が用意していた椅子に腰かけた。


「さて、どっから話そうか?」

「聞きたいことはいっぱいあるけど、まず襲撃の件を知っているとは?」

「ああ、うそはない。すべて知っている」

「なぜ知っている?」


 男は立ち上がった。前にも触れたが、フル〇ンであった。


「とりあえずしゃべる前を隠したらどうだい?」

「おおっ! いかんいかん。人間らしく生きることが今年の目標だったんだが……」


 男は右手を下にかざすと、まるで袋の中を漁るような動きをした。直後に手にはタオルが握られていて、それが自由に空間を飛び回り、彼の腰に巻き付いた。


「……」

「……」

「……」

「……」


 僕たち四人は唖然とした。何から何まで彼のやることは新鮮だ。


(後半は浮遊魔素術だ。だが、前半の動きは……⁉)

『あれは空間魔素術じゃ、久々に見たわい』


 指輪はどうも正体を知っているらしい。


(空間魔素術?)

『そうじゃ。時空間への干渉をする魔素術じゃ。手を自分が構築した空間へ突っ込んで、中に保存していた物品を、こちらの空間へ出したのじゃ』

(いわば保管庫(インベントリ)か)


「すごい術ですね。どうやったのですか?」

「ハハハ、君たちは質問だらけだな。でも、僕はすごく楽しいよ」


 再び男はパチンと指を鳴らすと、僕たちの前には美味しそうなジュースが出現した。


「さぁ、なんでも聞きたまえ」


 僕は思っていることを彼にぶつけてみた。



「まずあなたはさっきまでいたオルソンと本当に同一人物ですか?」

「そうだね。正確には私が『オルソンを演じていた』だ」

「ではどうやって?」

「簡単だ。変身の魔素術を使った。見た目などどうにでもなる。すでに君たちも経験しただろう?」


 僕たちはハッとした。あの暗殺者は姿かたちを偽装していたが、変身の魔素術などがあったとは。それにそのことをどうやってか知らないがこの男は知っているようだ。


「変身の魔素術はどうやったら使えるのですか? それに見破る方法は?」

「一つ一つ答えようか」


 男は立ち上がり、全裸+腰巻の姿で窓側へ向かって立った。


「あの草木を見たまえ」


 窓の外には何の変哲もない草木が生えている。整えられていることには違いない。


――パチンッ――


 男が指を鳴らすと、夕闇で色が変わりつつあった橙色の草が、真っ赤になった。さらにまた指を鳴らすと、今度は青色に変化した。


「「「「!」」」」


 皆がその変化に驚いた。


「いい反応するね~。教えがいがあるよ。原理は単純だ。魔素術で色に干渉したんだ。これを形にも干渉できるようになると、体が変化する」

「なるほど」


 できるできないは置いておくとして、実際にその変化を見たら、さきほどの男の変化も納得した。


「それでは次の質問をどうぞ」

「どうやって私たちが襲撃されたことを知りましたか?」


 相手の魔素術の力量が予想以上に高い可能性を感じ取った僕は、自然と敬語で話しかけるようになっていた。


「さっき言った通りだ。僕はこのルベンザで起こった出来事は手に取るようにわかる」

「それはどうやったのですか?」

「簡単だ。私の魔素術がそこかしこに巡らされているからな」

「?」

「君たちはこの街に入って、街灯をみただろう。あれだ」

「なるほど」


 僕は彼の言うことが分かった。


「そちらのリーダー格の青年は勘が良さそうだな。地頭か、はたまた……」


 男は僕の左指の指輪を凝視した。


『くすぐったいわい』


 指輪の声は僕の頭に直接響いてくる。


(どうかしたか?)

『この男、鑑定術を使いおったぞ』

(魔素術の気配はなかったぞ)

『熟練すれば、気づかせにくくできる。ただし鑑定は通らなかったと思うぞ』

(?)

『この指輪の存在を掴んだだけでも大したもんじゃが、わしの存在まで掴めるとは思えん』


「不思議な指輪だな。鑑定が通らない」


 男は身を乗り出してきた。


「ちょっとその指輪、見せてくれないかい?」

「ダメです」

「ちぇ。ケチぃ」


 断ったが不機嫌にはならなかったらしい。予想していた反応だったのだろうか。


「話を戻そうか。気づいた通り、あの街灯は僕の感覚と接続できる。町中の膨大な情報をここにいながら把握できるわけだ」

「すごいな」


 ナオキが感嘆の声を上げた。


「待ってください!」


 彼の説明に納得のいかない僕だった。


「ん? どうした?」

「その魔素術は本当に存在するのですか? 僕は契約魔素術を習得していますし、ほかの系統の術も扱います。が、どの魔素術も『術のために使った魔素量』と『得られるもの』は必ず釣り合うようになっています」

「ほう。で? それが?」

「あなたが言う『この街全体の情報を知ることが出来る』っていうことは、街全体に魔素術を掛けるに等しい。そんなのは個人の力では無理だと思います」

「つまり、等価交換できていないと?」

「その通りです。そんな術は何か大きなものを使わないとできません」

「例えば?」

「そうですね。例えば、龍の魔石だとか……。とにかく、そんな大それたこと……人間じゃない」


 僕と男との会話が続く中で、『人外』というニュアンスで行った『人間じゃない』。その言葉に彼は興味を持ったらしい。


「君は本当に面白いな」


(?)


「それなりに話して、適当に魔素術を指導して終えるつもりだったんだが、気が変わった。全部話すつもりはなかったんだが、いいだろう。私の話を受け止める勇気があるか?」

「ここまで来て、引く選択肢はないです」

「よかろう」


 彼は深く呼吸をして、僕たちへ自分の生い立ちを語り始めた。


「かなり前だ。もう記憶もだいぶ薄れてきたよ…………」


******


 カスツゥエラ王国が建国されて間もないころ、とある村に男の子が生まれた。


 子供の名前はシェリル。


 名は母親がつけた。女の子みたいな名前だったが、優しい子に育ってほしいという両親の願いだった。


 赤ん坊はすくすくと成長し、早くも二歳ごろから魔素術の片鱗を見せ始めた。家の物が勝手に動いたかと思っていた両親だが、そのうちシェリルがやったのだとわかるようになった。自我がはっきりするにしたがって、思うように物を動かしてみせたり、炎を出したり、水も出てきた。


 両親は男の子が魔素術に目覚めたことをとても喜び、また頭の良い男の子は両親の喜ぶ姿をみたいと願い、術の進歩に努めた。


 本人が意識したかは不明だが、十歳になる頃には炎・土・水・風のいわゆる四大属性(クワトロ)を扱えるようになった。これはとても珍しいことだったが、両親を含めた村人がすぐにその才能に気づいたかと言うと疑問である。


 ところでこれだけの魔素術の才能をもった術者が田舎の村にとどまって一生終えることはない。すぐに役人の知れ渡るところとなり、あっという間に王都の魔素術学園へ入学することが決まった。シェリルは泣く泣く両親と別れた。


 王都は壮大だった。少なくとも一村人として過ごしていた少年には刺激が多かく、寂しさは圧倒間になくなった。寮住まいとなったが、同部屋の学友にも恵まれた。二人部屋だったが、シェリルは才能を持った仲間のうちでもすぐに頭角を表した。


 一般講義では飽き足らず、どん欲に国立図書館で魔素術の成り立ちを学んだ。内在する魔素量も、知識も右に出るものはいないと言われる。


 建国したばかりの国は基盤が弱い。国境の戦争は絶えずおこり、その度に領土が削られた。負けてばかりのカスツゥエラ王国はとうとう大規模な魔素術隊の投入を決める。国境で負け続けた結果、人口も領土も減っていたが、シェリルが投入された戦争ではカスツゥエラ王国が大きな勝利を収めた。


 負け戦ばかりだった国民は沸き立った。


 この戦争では大量の捕虜と国土、それに賠償金を取り戻した。それまでは騎兵が強いとされていた戦争の方法が変わった歴史に残る一戦である。


 以後、魔素術の集団戦に対応のできない国相手にカスツゥエラ王国は連戦連勝した。大人数での大規模な魔素術でのせん滅。シンプルだが、この戦術はその後しばらくの間、戦争の主流となる。


 話を戻そう。


 戦争が終結に向かうとシェリルは再び魔素術の研究に没頭したかったが、彼の元に悲報が届く。


 両親の死。村が戦争に巻き込まれた。


 シェリルは意識を失わんばかりの衝撃を受けた。急ぎ生まれた村へ戻ったが、村は全滅だった。見るも無残な両親の亡骸。その日からしばらく彼は寝込んだ。


 しかし、あきらめない。寝込む間に彼はどうやったら両親を元に戻せるか考える。


 ちょうどその時国立図書館で見た物質復元の魔素術を思い出す。


――人間でもできるかもしれない――


 かすかな希望を見出してシェリルは一心不乱に勉強した。物質復元の魔素術は、大量の素材と魔素石を消費して復元させる方法であった。彼はさっそく準備にかかる。戦争の勝利で得た生きたままの捕虜を使い、魔素石も準備した。


 仲間にも協力を呼びかけ、数か月後に万全の準備をおこない、滅んだ村で術を使った。


――大量の人命を使って、村を元に戻はずの術――


 しかし術は思うように発動しない。


 大量の人命と魔素術仲間の命を犠牲にして、僕だけで荒れ地の真っただ中で気絶していた。全身に魔素術が刻み込まれた姿で。


 シェリルは目を覚ましたときは周りに誰もいないのが不思議だったが、地面に刻まれた魔素術の式はまちがいなく自分で発動した術だった。一人しかいないので、王都へ戻ろうとしたが術を発動した場所を中心としてある程度の距離しか移動できなかった。中心から離れれば離れるほど体は重くなり、呼吸ができなくなる。自分の体が土地と結び付けられて、魔素術に縛られていることがすぐにわかった。


 絶望に暮れた。その夜は荒れ地でやむなく草を積んで寝ようとしたが、不安で一睡もできなかった。だが、不思議と腹が減らず、疲れもしない。水を飲まなくても、大丈夫な体になっていることもわかった。


 さらに明け方、自分の感覚が敏感になっていて、領域(テリトリー)を持っていることがわかる。これは人らしき魔素の反応をもった生物が領域に侵入してきたのが感覚でわかったから気づいた。


 その生物は大量の人間が忽然と姿を消したので様子を見に来た人間だとわかった。だが、自分の異様な姿を見るなり、逃げ去ってしまった。


 シェリルはそこから数年は人と話す機会がなかった。ただただ長い時を生まれ育った村があった土地で過ごす。


 たまたま近くで魔物に襲われ、領域にどうにか着いた負傷者を助けて、シェリルは彼らの信頼を得ることに成功した。同時に外の情報を得ることができた。


 この土地で行方不明者が大量に出たと聞き、それが自分たちの用意した魔素術で消え去ったのだと確信に至った。


 男は商人だが、シェリルの話をよく聞いた。商人は命の恩人の言う通り、王都へ戻り役所へ報告した。


 シェリルと面識があるものが派遣されてきた。彼は年老いていたがシェリルはその間一切年を取らなかった。姿かたちが違うことに驚いたが、たしかにシェリルしかわからない話をいくつも話すことができるので、派遣されたものはこの者がシェリルだと断定して、王都へ報告した。


 彼は自分が王都に移動できないならば、ここに王都に近い都を作ればいいではないかと考えた。幸いにも体は老いず、食事も必要としない。頭は冴えわたり、魔素術は使える。


 初めは王都から追い出された、あるいは生活がままならなくなった者を受け入れ、人口を少しずつ少しずつ大きくした。気の遠くなるような時間をかけて、何世代も人が生まれては死んで入れ替わっていった。


 少しずつ少しずつ、彼は魔素術を土地に住みついた人に教えて、生活の術を、貨幣を得る術を、魔物と戦う術を教え続けた。


 やがてシェリルが創設した都はこう呼ばれるようになった。『魔術都市ルベンザ』と。


******


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