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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第四十二話 忌まわしい術

 更新は不定期ですが続けていきます。

 メリーとの初対面を思い出す。どこか不自然なところがなかっただろうか。


「コーサ。落ち着いて聞いてくれ」

「どうしたんだ急に。改まっちゃって」


 僕はコーサに昨日の夜、男性刺客による闇討ちを受けたことを伝えた。


「だからって、うちのメリーが犯人だとは限らないだろう」

「だが、この香水。俺もうちの猫人族も同じ匂いだと断言している」

「香水はどこにでも売っている」


 あくまでメリーをかばうコーサ。


「では同じ鞄に男と女の衣類が入っていたのはどう説明する? しかも彼女は一人だったはずだ」

「うっ……それは……」


 僕はコーサにウォン商会護衛任務中の目にも止まらない速さで襲ってきた矢について、全ての情報を話していない。だが、僕の第六感は間違いなくメリーが犯人だと言っていた。

 言葉に詰まるコーサと一緒の部屋にいるので煮詰まる雰囲気となった。


「シュウ、いったん部屋に戻って作戦会議しようぜ!」


 空気を読んだナオキが僕に退出を促す。


「わかった」


 部屋を出るまでにコーサの方を見たが、ずっと彼女の鞄を見つめていた。



「こんなところまで迫られていたんだな」


 ナオキも当然僕と同じ意見だ。


「闇組織ハモンとやらの関係か不明だが、僕が狙われていることには違いない。カーターは関与していそうだな」

「だいぶヘイトを買ったからな」


 笑いながら肩をボンと叩かれた。


(狙われる身にもなってくれよ。身が持たないぜ)


「この分だとだいぶ近くまで接近されていそうだ。ひょっとしたらナオキ、おまえも向こうの一味か?」

「んなわけないだろう! 仮にそうだとしたらすでに襲ってるぜ」

「そりゃ、そうだな……」

「何か仲間が入れ替わっていないか、対策考えておこうか」

「賛成」

「すぐ確認出来るもの……。そうだ! 合言葉を決めよう!」

「オーケー。あの有名な『山』と『川』はどうだ?」

「それもいいな。でもなんなら僕たちだけが知っている言葉がいい」

「というと……?」

「出身は? と聞かれたら、答えは『日本』だ」

「なるほど。シンプルだが、わかりやすいな」

「決まりだな。クーンにもこれは覚えてもらおう。彼は僕たちが日本から転移できている事情を知っているが、関係ない奴らには絶対に出てこない返事だ」


――コンコン――


 合言葉が決まった時、僕たちの部屋の扉がノックされた。当然警戒するが、ドア越しに


「おれだ。シグレだ。ウォンと一緒に下で待ってるからすぐに来てくれ」


と声が聞こえた。


「了解」


 返事をすると、足音が階下の方へ遠ざかっていった。



 その後時間をおかずに食堂へ向かったが、そこにはウォンと武装した兵士数人が待っていた。


「こちらがシュウと夢幻の団の皆さんです」

「なるほど。これはこれは。噂の通りで強そうですな」


 ウォンは兵士の中でも強い魔素を纏っている者に僕たちを紹介していた。


「ウォン、この人たちは?」

「魔術都市ルベンザの警備兵です。ちょっと以前に知り合っておりまして、直接ルベンザの防衛大臣に話を通させていただきました」

「初めまして、シュウ。私はフランツと言います」


 フランツと名乗った警備兵は自らを兵長だと言った。


「昨日の夜の襲撃のことはすでに聞いています。ルベンザ警備側は事実確認をしていますが、襲撃側に当然非があり、シュウへは罪を問うことはありません」


 ルベンザ側もこの事件を襲撃とみなしているようだ。


「よかったニャ」

「それでいくつか質問があります」


 僕は兵士長と一緒にテーブルへ座った。後ろではナオキたちが部屋の内外を警戒している。


「まずあなたに直接状況を確認したいです」

「わかりました。昨日の夜……」


 僕はオルソンと会っていたことを隠して、夜道で襲われた状況を再び説明した。


「なるほど」

「死体の方からは何かわかったのですか?」


 一方的に情報を取られる感覚が嫌だったので質問してみた。


「通常は情報を漏らしません。が、ウォン商会には良くするよう大臣から厳命されていますので特別に教えます。現在、死体をルベンザの魔素技術班が調べています。体内には死体にも関わらず強い魔素が残っていました。通常は死体になると魔素はなくなるか、わずかに残るといった程度です。これはすごく異常なことでその原因をいま調べています」

「身元についてはわかったのですか?」

「以前に殺人で冒険者ギルドを追放されたという者の特徴に酷似していますので、その線で捜査中です」


(おい、指輪。聞いていただろう)

『どうしたのじゃ?』

(体内に強い魔素が死体にも関わらず残っているのと、魔素術による変装や変身。関係ないか?)

『うすうす気づいていると思うが、魔素術は何でもアリじゃ。できるできないは魔素の量と術者の技量に大きく依存する』

(強い魔素の術者が変身をかけたら、他人に変化は起こりうるか?)

『経験ではない。だがありうるぞ。』

(なんだよ。思っていたより頼りないな)

『うっさいわい! それならオルソンとやらに聞いてみたらどうじゃ? 今夜会うのじゃろう?』

(なるほど)


 頼りないという言葉が勘にさわったらしく、指輪は不機嫌になった。


「シュウ、ちょっと」


 ウォンに呼ばれ警備兵長から離れる。


「帰りのことですが、シュウはどうしますか? 少し肩入れしすぎかもしれませんが、前回といい、今回といい、あなたは確実に狙われていますよ」

「護衛には不適だと?」

「そこまでは言うつもりはありません。ただ護衛についてはそれほど苦労していないですし、荷物はすでに下ろして帰りはその半分程度もありません。人手が足りているのは事実です」


 彼は僕のことを心配してくれているのだとわかった。


「帰りも一緒に行くか話し合いますので、少しだけ時間をください」

「出発前日までに必ず返事をください」

「わかりました」


 それから僕はウォンとシグレ、それにフランツと別れて自室へ戻った。


(そう言えばオルソンに言われた質問への答えは今日が期限だったな)


 夕刻までまだ時間がある。彼に言われた『自分は何者か?』。その答えを考えていたら、いつの間にか眠っていた。


******


「だいぶ周囲に影響しなくなったな」


 ホワンは闇を珍しく褒めた。


「だろう?」


 自信満々の顔で闇は返す。


 ホワンの森の邸宅へ戻ってから数日間は、周囲が暗くて寒い風が吹き荒れた。その間、闇は自己制御の術を必死で身に着けた。

原因は自分からわずかに漏れた魔素だった。闇の強い影響を受けた魔素は周囲にさまざまな負の影響を与えていた。例えば気温を下げる、植物の育ちを悪くするなどなど。

幸いにも自分の魔素を外へ漏れ出さなくする制御方法を覚えることができ、その結果として周囲への影響がなくなった。

それをホワンは言っているのである。


「ずっと寒かったら敵わん」


 今日は久しぶりに王妃が来るので、ホワンは上機嫌だった。


 この国で王妃となった元王女はすでに息子と娘を授かっていた。二人は妙にホワンに懐いた。王妃の命の恩人だと理解できる前から、ホワンと母親の関係を雰囲気で悟ったらしい。さらに魔素術の扱いも母親似で上手だった。彼は子供たちの指導者にはなっていないので、これは王妃から聞いた話である。



「ホワン、久しぶり」


 家の入り口から明るい声をかけたのは王妃だ。


「ホワンっ!」

「おう。久しぶりだな。坊主の方は今日きていないのか?」


 ホワンと叫んだのは王女の方で今年十歳になる。いつもは二人で来るが、今日は女の子の方だけらしい。


「剣術の稽古があるんですって」

「そっかそっか。ま、入れよ」


 王妃は警備兵を入り口に待たせて、室内へ王女と手をつなぎながら入ってきた。

ホワンの家には森で狩った動物から造った剥製が並べてある。


「すごーい。また増えたね」


 十歳の感性は豊かで恐れを知らない。ホワンが狩るときにどれだけ苦労したのか、想像することまでは難しかったらしい。


「そいつは白竜の一部だ」


 壁に飾ってある白竜は、一年前に腕のいい冒険者たちと組んで狩ってきたものだった。


 白竜は決して強くはないが、出会うのが非常に難しい。警戒心が強く、住んでいる山から人里付近までおりてこないし、おりてきていても見つけることが難しい。さらに逃げ足も速い。


 偶然別の用事でいたホワンと冒険者一行だったが、闇に鍛えられた魔素探知で白竜を捉えることに成功して狩ることができた。


 集団で狩りをした場合には、討伐に最も貢献した者に重要な部位が与えられる。冒険者たちはホワンの探索能力に驚き、彼を一番の貢献者としてその頭部を分けた。ちなみに竜肉は美味であり、滅多に市場に出回らない。冒険者たちが肉を欲したのも理由だった。


 彼はその頭部を剥製にして観賞用に飾っていた。


「すごーい」


 王女は白竜の頭部から生えている髭をひっぱった。楽しんでいるうちに力が入り、そのうちブチッとわずかな音とともに、王女が後ろ側へ倒れた。


「いたーい」


 王女の手には貴重な白竜の髭がしっかり握られていた。


「ごめんなさい」


 剥製を壊してしまったことを謝られる。


「ケガしなければいいさ」


 まさか久々に訪ねてきた幼い王女を怒るわけにはいかない。


「あら、ごめんなさいね。ホワン」

「別にいいよ」


 取れてしまった髭は当然もう元に戻らない。


「せっかくだからそれで何か作ってみたら?」


 王妃はホワンに提案した。


「竜の髭で? そいつは贅沢だな」

「衣類にするにはちょっと材料が足りないわね。首輪なんてどう?」

「首輪? そんな奴隷みたいなものごめんだな」

「そんなこと言わないの。首輪だって作り方次第でとっても素敵になるのよ。確か城に過去の記録があったはず。それを見つけて、きちんとした装飾屋に作ってもらったらすごいものになるはずよ」

「まぁ。任せるよ」

「楽しみにしていてね。きっとホワンに似合わない素敵な装備品になるわ」

「うっせぇよ」


 ホワンはふと王妃の方をみた。

先ほどまではふさぎ込んでいたはずだったが、子供の立ち直りは早い。すぐ次の骨とう品に目移りした王女は部屋の中をはしゃぎまわっている。


「また壊されてはかなわん」


 ホワンはどこかへ倉庫を作ろうと決意したのだった。


******


「おーい、シュウ! 起きろって」


 ナオキに体を揺さぶられてようやく僕は起きた。数時間ぐらい寝たのだろうか? 眠りから覚めた僕は体をベッドから起こして窓の外をみたが、なんと夕日が沈みかかっている!


(まずいっ! オルソンとの約束に遅れちまう!)


 慌てて身支度を整えて、ナオキたちと一緒に再びオルソン宅へ向かった。



「待っていたよ」


 オルソン宅へ足を踏み入れた途端、視界が切り替わって前にいた応接室と思われる部屋になった。周囲の空気は一瞬乱れたが、すぐに戻った。


(転移の魔素術か? ぜひとも彼に教えてもらわねば)


「すげぇな」


 ナオキが声に漏らしたが、僕もその通りだと思った。


「さて昨日の問いかけだ。考える十分に時間はあったはずだ。シュウ」


 僕と正面から向き合うオルソン。


「『あなたは何者?』への答えはいかに?」


 正直、さっきまで答えがまとまっていなかった。ふと彼の魔素術がほしいと思った僕は自分のことを欲張りだなと思い至り、でかい声で返事すればなんとかなるだろうとも思い、腹に力を入れて答えた。


「答えは『欲望の塊』だ」

「ほぅ」


 僕の答えを聞いたオルソンは目がクワっと見開いた。


「……」

「……」


 オルソンと向き合ったまま沈黙の時間である。やがて彼は、


「……。君は本当に面白いな。僕の退屈を埋めてくれそうだ」


と言った。


「?」

「いいよ。合格だ」


(やった!)

『喜ぶのは早い。こやつ、何かがおかしいぞ!』

(ん?)


「魔素術は約束の通り教える」

「よし!」

「その前に君は自分に刻まれた紋章のことをどこまで知っている?」


 彼は僕の左腕の甲を指さした。そこにはこちらへ転移してきた時から出来ていた十字の紋章、友達の死に関わった時に出来た同じ形の二つ目の紋章。いずれも小さいが黒く、それでいて精巧に刻まれているようだった。

 以前に日本にいるとき、合間に医者に見せたがよくわからないと言われた。初めは入れ墨だと思われてすごい怒られた。自分に身に覚えがないと釈明するのに大変だったのを覚えている。


「いや、何も知らない。これって意味があるのか?」

「……やはりか」


 オルソンは天井を仰ぎ見た。


「いいよ。僕の知っていることをすべて教えるよ」

「そうか、ありがとう」


 僕はオルソンが話をするものだと思っていたが違うようだ。

 部屋の真ん中に立って、僕たちと少し距離を取った。


「今から僕の正体を見せる。な~に。君たちには何もない。だが、間違っても襲ってこないでほしい」

「どういう意味だ?」

「見ればわかる。いいか、手を出すんじゃないぞ」


 オルソンはその腕に魔素術を発動させた! 部屋の中の空気が振動を始める!


――ゴゴゴゴゴゴ――


(こっ、これは⁉)

『さきほどからの違和感がだんだん強くなっていくぞ!』

(何っ!)


――ピカッーー


 部屋中に閃光が走る! 


「ぐっ!」


 しばらく眼を開けなかったが、眩しさから解放された僕たちの目の前には同じ人間族と思われる人物が立っていた。しかし、その容姿はオルソンではない。


 その人物は人間の裸だ。全身に入れ墨のようなものが刻まれていて髪がない。異様な姿であった。


(なんだ! こいつは⁉)


 シュウをはじめ、その場にいた全員が身構える。


「ようこそ。君たちを歓迎するよ」


 声もオルソンとはかけ離れたものであった。


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