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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第三十八話 クエスト 商隊護衛Ⅱ

(ホワンも相当年喰ったな)


 夢の中で鮮明だったような気がする彼の顔を、朝起きると覚えていない。始めは黒髪だったに違いないが、夢物語の時間が進行すると白髪が混ざるようになっていた。

 毎度この夢を見た朝は寝起きが良いのに僕は気づいていた。快調にベッドから飛び降りて、背伸びをしてのストレッチ。そしてもう一度装備と携帯品の確認をした。


 外をのぞくと快晴で遠征の出発に全く支障なし。


「おはよ~」


 いつもは遅く起きるのだが、今日はナオキも目覚めが良いらしい。声に張りがあった。


(さすがに闇組織の話をあれだけ聞かされたら、すこしは緊張しただろうと思ったけど、杞憂だったな)


 昨日貿易都市トレドの新しい冒険者ギルド所長マルコーから、国をまたがって暗躍する闇組織ハモンのことを教えてもらった。カーター元所長が関与していたかはいまだ不明であるが、道中注意しなければいけないことに変わりない。


 まもなくジュウゾウさんの準備も整い、クーンが僕たちの宿に到着した。


「今回は……」


 夢幻の団は僕、ナオキ、クーンにジュウゾウさんを加えた四人で行動、ウォン商会の依頼内容は魔術都市ルベンザへの護衛依頼である。事前に金に物を言わせ地図を購入して、貿易都市トレド周辺と行き先の位置関係を確認していた。


 地図を購入して初めてわかったことだが、カスツゥエラ王国の国土は僕たちの世界でいう『イタリア』に似ていた。半島が海側へせり出すように位置し、靴形の底に貿易都市トレドと娯楽都市ラファエルがある。

 対して陸続きに北へ北へといくと、これから行く魔術都市ルベンザ、さらには城塞都市ルクレツェン、そのさらに北に魔境が位置していた。ちなみに王都は半島の中心にあり、トレドとルベンザの中間地点にあたる。

 今回の旅は前回よりも長く、順調にいって五泊程度かかるであろうと事前に連絡を受けていた。


(時空間の魔素術があれば楽だろうな)


 ないわけではないのではないかと最近思う。ただし、精巧かつ膨大な魔素を扱えないと無理だろうとは思っていた。少なくとも僕たちはいま時空間を移動できる技を扱えない。この点も魔術都市と言われるぐらいだから、行ったら出会えるのではないかと期待している。


「さ、行きますか!」


 四人で風雲亭を出発した。


******


 商隊の集合場所はトレド東門。時刻は朝早く、日が昇り始めてわずかであるがすでに暑い。天気が良いのは悪いことではないが、日中はさらに暑くなることを覚悟しなければいけないと思った。


 東門へ到着するとすでに商隊が組まれていた。ウォン、それにシグレも確認できる。

 規模は以前にラファエルまで護衛でついていった時よりも、さらに大きなものになっていて、最近のウォン商会の好調さが窺えた。


「おはようございます。待っていました」


 到着した僕たちに気づいたウォンが話しかけてきた。


「おはようございます、ウォン。前も思いましたが今回はさらにすごい規模ですね」

「気づきましたか? いろいろと商談が積み重なり、前回の倍近い規模になりました」


 これだけ大規模にしておいて、『気づきましたか?』はないだろうと思う。雇われている護衛はウォン商会専属の者たちと、僕たち夢幻の団と同じように雇われた冒険者のようだ。ウォン商会専属の護衛者は専用の防具が配給されているらしく、一目で同じ系統の装備だとわかるので、専属か否か判別できる。防具の質は良さそうだ。


「よぅ」


 声をかけてきたのは冒険者パーティ鷹の団コーサだ。後ろからさらに蒼穹の団グラッドが続いてやってきた。


「久しぶりだな」


 再会を喜ぶのもつかの間、彼らの後ろの人たちが気になった。


「仲間かい?」

「そうだよ」


 前はあまり気づかなかったけど、コーサやグラッドの後ろには同じ鷹の団メンバーと思われる仲間が十数人いた。みな和気あいあいとしていて、お互いに挨拶をした。夢幻の団の活躍はトレド中に広まっていて、彼らも僕らがそうだとわかったら、気さくに話しかけてきてくれる。

 そのうちの一人が気になったので、僕は今回の遠征に一緒に来るのか聞いてみた。


「メリーっていうんだ」


 コーサが教えてくれた。その後ろからひょっと現れて、


「初めまして、シュウ」


と気持ちが良くなるような声で言ってくれた。


 正直カワイイなと思った。普段アオイやレイナ、それにこっちではクリス王女に知り合ってからいつも身近に綺麗な女性がいたので、感じることがなかった。が、今は男四人。


 メリーはこちらでいう金髪ツインテールで、杖を持っているので魔素術使いの系統の職業らしい。決して武闘派には見えないが、その仕草もかわいらしかった。やはり一緒に護衛任務に来るらしい。

 近くまで来てくれていたので、


「よろしく」


と返した。


 ニコリと気取ってみたが、後ろにいたナオキから『何やってんだよ⁉』とつっつかれてしまったので、すぐに持ち場に戻った。


 商隊は東門の番兵に話を通したようで、まもなく出発となった。


******


 道中、初日と二日目は順調だった。襲撃は数回あったが、いわゆる地元に住みついた野盗数人がちょっかいを出してきたという程度だった。

 事前に襲撃を受けた場合の取り決めをしていたウォン商隊の護衛者たちは、すばやく攻撃と守備に分かれて、指揮系統の取れていない野盗どもを一蹴していた。圧倒いう間に捕縛されて、近くの町で引き渡されていた。



 問題の襲撃は三日目だった。


 ちょうどルベンザまでの道のりを半分ぐらいにさしかかったときに再び襲撃にあった。真昼間で比較的見渡しの良い平原で仕掛けられたことに、まず違和感があった。だが取り決めのごとく迎撃に移る。


 襲撃の人数は十数人で、それほど強そうには思えない。


(こんな昼間からご苦労さん)


 その思いは僕だけではない。商隊の警護は厳重でもしも狙うのならば昼間ではなく、夜の暗くて休息の時など警護が薄くなるかつ警戒度が下がる時間帯の方が成功する可能性が高い。


 先頭近い荷車に横から襲いかかってきた。だがそれぞれの得物や魔素術はゴブリンやオークなどでようやく倒せるかといったところで、見た目の通りたいしてことはなかった。

 圧倒いう間に制圧されて、お縄になっていた。


 僕たち夢幻の団はその実績を買われて、遊撃部隊にあてられていた。僕はナオキたちと一定の距離を保ちつつ、一番遠方の野盗後方へとすばやく回り込み、強烈な電撃で気絶させた。

 ナオキは今回膂力に任せて敵に組み付いて、チョークスリーパーのような技をかけて倒していた。野盗も捕縛されると犯罪奴隷として使い道があるらしく、殺すよりも報酬が高くなる。ナオキの水の魔素術『水攻』だと窒息死してしまうので、それを避けるに選んだ方法だった。階位の上昇が響いているらしく、相手のもがきがナオキには全く苦になっていない。


 戦闘が終わってから僕は彼に、


「そんなこと危ないことをしなくても、敵を土の中に落として、すぐに水と土で固めたらいんじゃないか?」


と言ったら、『それは気づかなかった。次回からやってみるよ!』と言い、にやりと笑った。すごく悪い顔をしていた。次の襲撃者はきっと何もできずにやられてしまうのであろう。


(かわいそうに……)


「シュウ、今回も圧勝だニャ」

「ああ、大したことがなくて良かった」


 言葉の最後の方で、遠方で鳥が一斉に飛び立つのが眼に入った。


(何かが……)


 来るっ! そう思うのと同時に反射的に体を捻って、頭を低くした! これはもう第六感に近い感覚であり、危機を感じると同時に体が動いていた。


――ヒュッ――


 今まで聞いた中で一番甲高く、短い空気を裂く鋭い音!


 僕の心臓があったところを超高速の一本の矢が通り過ぎていった! 矢は速すぎて、魔素で強化されているはずの眼で追おうとしても鮮明に捉えることができなかった。が、唯一風の魔素術で強化されるらしいことだけはわかった。


「ぐっ」


 捻った反動でバランスを崩して倒れ込む僕。クーンは異常音に気づいたらしくすぐにこちらに駆け寄ってきたが、ナオキとジュウゾウさんは遠方から狙われた事実に気づいていない。


「シュウ! 大丈夫かニャ⁉」

「大丈夫っ! 物陰に隠れてっ!!」


 警告するように叫ぶと、ようやく状況を悟った二人が木陰に隠れた。


「何者だニャ?」

「わからない。向こう側から狙ってきた」


 指さした先には、丘とそのさらに向こう側に木立がみえた。距離にして二百メートル以上は離れていて、茂みの中まではここから見ることはできない。

 しばらく動かないまま敵がいると思われる屋の飛んできた方向の様子を伺っていたが、追撃の気配はない。


「……」

「……」

「……」

「……」


 無言のまま数分が経過した。


「……。なるべく物陰に隠れたまま商隊へ戻ろう」


 僕は皆に小声で伝えた。


「襲撃してきた奴を追わないのか?」


 ナオキが聞いてきた。


「敵はこの状況を意図的に作り出してきたんじゃないかとふと思ったんだ。だとしたら今乗り込んでいったら袋叩きにされる危険がある。罠だって仕掛け放題だ」

「なるほど」

「それに商隊には手を出さずに、僕だけを狙ってきたような気がする。攻撃方法は魔素術でのせん滅じゃなくて、弓矢でのピンポイント攻撃だった。ならば商隊と一緒ならば襲われる可能性は低くなるじゃないかと」


 茂みからジュウゾウさんが寄ってきた。


「それは一理あるのぅ」


 彼も賛成してくれた。


「戻ろう。背後に気を付けて」


 なるべく襲撃者たちに体を晒さないようにところどころある木や背の高い茂みを利用しながら戻った。途中で再度襲われるようなことはなく、合流した後簡単な報告をして、すぐに出発となった。  ウォンは商売敵が狙ってきた可能性を考えていたが、それは違うと思った。


(それならなぜウォンや商隊の値の張る荷物を狙わないんだ?)


 内に秘める思いをすべて口に出すことはしない。捕縛した野盗への尋問を考えたが、すべて商隊の統率者であるウォンに権限があるため、僕の一存ではできなかった。ただ、もし気になる情報があればすぐに連絡をくれるとのことで、その場は了承せざるを得なかった。


 後に気づいたが、トレドで購入したばかりの月夜の装備一式のうち、胸を守るプレート部分が矢によって削り取られ、その中に着込んでいた魔素服も切り裂かれていた。胸の皮膚は薄く血がにじんでいて、間一髪の回避だった。


******


――その日の夜、野営にて――


(なぁ、指輪。昼の襲撃なんだけど……)

『おぬしも気になるか。命を狙われたんだから当然といえば当然じゃな』

(やっぱり俺を狙ってきたと思うか?)

『当り前じゃ』

(探知できなかったのか?)

『日中いつも探知しているわけではない。急激な魔素が膨れ上がったらおぬしたちよりも早く気付けるが、あれは警告を出す前に飛んできおったぞ』

(その後はどうなった?)

『急激に高まった魔素はすぐに消えたわぃ。矢はとんでもなく高性能じゃ。その威力はお主の防具が証明したであろう。躱さなかったら、今頃土の中で永遠の眠りについていたぞ』


 背中を冷や汗が流れて、防具の胸プレート部分をさすって、気持ちを落ち着かせてみる。


(日本へ戻ろうかな……)

『怖気づいたか?』

(そう言われるとムッとくるけど、自分が狙われる感覚がこんなに気味が悪いなんて思わなかったんだ)

『野盗や魔物を大量に倒した冒険者の言葉とは思えんのぅ』

(命は一つだからね)


 とりあえずこの依頼は途中で投げ出すことはしないけど、次があったら受けるかは良く考えようと思うのだった。アオイやレイナとその周囲の人間の気持ちがよくわかった。


「よぅ、シュウ」


 ナオキ、それにクーンとジュウゾウさんが野営テント内へ入ってきた。


「昼間の襲撃だけど……」

「僕もいまちょうどそのことを考えていた」


 大体彼らの意見も同じで、状況から商隊ではなくシュウを狙ったこと、その手段から恨みを持ったものではないかと。


「やっぱり、カーター絡みかな……」

「闇組織ハモンとかいったかニャ? それが狙ってきたのかもニャ」



 その後襲撃を繰り返し受けたが、僕がやられたようなきわどい攻撃はなかった。数日後、商隊の馬車は目的としていた魔術都市ルベンザへようやく到着した。

 時刻は夕方近く、陽が沈みかかっていた。ルベンザが視界の向こう側に入ってからまさかと思っていたが、近づいて見てみて確認できた。


(ここには街灯があるっ!)


 丈夫そうな外壁にライトアップされた都市! 唖然に取られる僕に関係なく、荷物を積んだ商隊の馬車は検問を抜けて、ルベンザ内へ入った。


 そこには想像を超えた街並みが待っていた。


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