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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第三十六話 新たな依頼

一部表現を修正しました。

 僕はナオキ、クーン、ジュウゾウさんの男四人で仲良く、貿易都市トレドで用を足していた。クリス王女の居城を出た後、まずシスターマリーの教会へ向かった。目的はもちろん職業と階位の確認だ。

 魔物大集団を撃退した時までに、僕を含めて三人の階位は間違いなく上がっていて、第三段階へ入っているはずだ。それにジュウゾウさんのことも気になっていた。


 ほどなく教会へ着くと、入り口でシスターマリーが窓ふきをした。すぐにこちらへ気づく。


「まぁ、シュウ。それに皆さん」

「こんにちは、マリー」

「皆さんのご活躍を聞きました。大変嬉しく思います」

「そう言われると照れ臭いですね」

「もうトレド中が、ブラウン元大臣の汚職事件と夢幻の団の皆さんの噂でもちきりでした」


 僕たちは一連の事件後、ほどなくしてトレドを離れていたので、クーン以外は最近の庶民の話題を知らない。


「今日は鑑定ですね? でも皆さん一緒ではなくて?」


 彼女が言ったのはアオイとレイナのことであろう。


「ハハハ、ちょっと事情がありまして。今日はここにいる四人だけで鑑定をお願いします」

「シュウが何かしたのですか?」

「いいえ、とんでもない。彼女たちは体調を崩していまして、今日は休んでいます」

「まぁ、大変」

「すぐに復帰する見込みですので……」

「それはよかったですね。何せ腕の立つ冒険者たちは秘境との境にある城塞都市へ流れていると聞きます。噂では秘境からの魔物侵攻が多くて、国土防衛のため冒険者を多く雇い始めたとか」

「そうなんですか?」

「ええ。あなた方がいないと不安になってしまいますわ」


 僕はクーンの方を見たが、間違いないと頷いた。


「では、さっそく鑑定をお願いします」

「あら、私といったら。ささ、中へ入ってください」


 シスターマリーとの立ち話を終えて教会内に入ると、さっそく銀貨を支払って鑑定に入った。最近パーティの財布は潤っているので、銀貨ぐらい支払いは楽勝だった。


「では、あなたからどうぞ」


 そう言って招かれたのはナオキだ。


「お。おれか~」


 そう言いながら進み出て、しばらくシスターマリーの前に黙って立っていた。やがてふぅと息を吐き出して、彼女は彼が『賢者』となったことを告げた。階位は三十三。


「良かったな、賢者だってよ」

「とうとう俺が賢者か~」


 両手を握りしめて感動しているナオキ。それだけの苦労をして、二つの魔素属性を扱えるようになったのだから、嬉しさも人一倍だろうと思う。植物を育てて武器化するという発想もトレドでは聞いたことがない。


 次はクーンだ。彼女は再びしばらく目を閉じたのち、口を開いた。クーンの職業は真・狩人、階位は三十二だと教えてくれた。


「よかったニャ~」


 すごく嬉しがるクーン。彼もこれでトレド在住の猫人族の中では、相当な腕利きなのであろう。弓も随分練習していて、さらに上達しているようだ。実際に戦闘をしたわけではないが、再会した時の上半身、特に腕の太さが逞しくなっていた。胸板も以前より厚くなり、存在感が増していた。


(頼もしいな)


 次は僕かと思ったが、ジュウゾウさんが先に進み出た。


「?」

「いや、なに。孫からいろいろと聞いておるのでな。楽しみは最後の方が面白いじゃろ」


 どうやらアオイからすでに職業のことを聞いているらしい。僕の職業はイレギュラーで、しかも毎回一言がもれなくついてくる。以前は雷鬼だった。僕だけ人外。


 ジュウゾウさんはシスターマリーの前に立ち、彼女は鑑定に入る。それほど時間がたたずに、


「あなたの職業は武者です。階位は十四になります」


と告げた。


「ほっほっほ。そうかそうか」


 ジュウゾウさんはご機嫌の様子だ。


 彼は異世界経験者であるが、この世界と共通しているのは魔素術があることぐらいなのかもしれない。前の世界には数年いたはずなのに、階位は僕たちよりずっと低い。こちらへ来てからの経験値のみが反映されたのかもと推測した。単純な戦闘回数でいえば僕たちの方が多いのだろう。

 だが今までの戦闘経験でいうと、僕はジュウゾウさんに剣術で敵わず、指導を受けている。職業や階位が決してすべてではないことを肝に銘じなければいけないと思った。


 最後に僕の番だ。前回シスターマリーは職業を鑑定するのに時間がかかっていて、『やりにくい』とまで言っていた。

 教壇の前まで歩み寄り、すぐに彼女は目を閉じた。まもなく眉間に皴が出る。


「う~ん」


 唸っている。


「う~ん」


(またか……これは時間がかかりそうだな)


 そこからずっと彼女はう~う~唸っていた。

 おそらく十分以上鑑定に時間を費やしたのではないか。立ったまま微動だにせず、ひたすらシスターマリーが目を開けるのを待った。

 唸りっぱなしで、あまりにも集中したため具合が悪いそうにみえて、最悪職業を聞かなくてもいいんじゃないかと思った。彼女に鑑定をやめるよう言いかけた時、ようやく彼女は目を開けた。


「ふぅ~」


 教会中に響き渡る、今まで聞いた中で一番大きなため息を吐いた


(そんなに大きなため息をしたら、幸運がにげちゃうよ)


 口には当然出さない。


「あなたの職業は……」


 僕も気になっているが、後ろに控えている三人も同じようだ。


「……職業は、イレギュラー《雷天》、階位は三十一です」


(今度はそうきたか)


 前回はイレギュラー《雷鬼》だった。今回は生物の種類ではない。この間、雷を誘導して術を放ったからだろうか? そんなことを考えていたら、


「またよくわからない職業ですね。教会の総本部には報告しておきますね」


とシスターマリーが言う。


「ずいぶん時間がかかりましたが、何かあったのですか?」

「前も言いましたが、シュウには鑑定の通りが悪いんですよ。何かの影響をうけているのかしら?」


 結局彼女も良く分かっていないらしい。

 クーンは不思議そうな顔をしていて、ジュウゾウさんは少し笑っていた。ナオキは『天ぷらや雷門みたいな名前が続くな』と悪気なく言っていたが、微妙に傷ついた。早くまともな職業になりたいと心から願う。


******


 教会を出たのち、ウォンやシグレとの約束を果たすべく、貿易都市トレドのウォン商会へ寄った。

 ウォンは奴隷商として成り上がったが、ほかの商売にも精を出していた。店の横の敷地が買収されていて地続きとなり、何かの工事が行われていた。買収されていたというのは、ウォン商会の看板が立てられていたので、すぐにわかった。

 店に入ると、


「これはこれは、シュウ。それに夢幻の団の皆さま」

「よう」


 店内にはウォン、それに日本から移住をいち早く決めたシグレがいて、彼らはこちらを見ると作業をやめて、挨拶してくれた。


「お久しぶりです、ウォン。それにシグレも元気そうで」

「ちょうど良いところに来られました。魔術都市ルベンザ行きの商隊をすでに組んでいまして、出発が明後日で決まっていました。皆さまの音沙汰を聞かなくなったので、護衛の依頼をどうしようか悩んでいたところです。すでに冒険者ギルドには依頼を出しています」

「こちらも依頼が出ていそうな予感がして寄ってみました。ちょうどよかったです」

「今回も実績豊富な夢幻の団の皆様にお願いしたいと思います」


ウォンは商売人で口がうまかった。


「おや……⁉ 今日は女性二人がおりませんな。それに見慣れぬ方が。同じお仲間でしょうか?」

「あ! 紹介が遅れました。こちらはジュウゾウと言って、アオイの祖父にあたります。僕たちと一緒に行動しています。同じ夢幻の団ではありませんが、今回同行します」

「これはこれは、ぜひよろしくお願いします。して、あの美しいお二人はどうかされましたか?」

「最近体調が優れないので、休養しています。今回はここにいる四人で受けたいと思います。駄目でしょうか?」

「いえいえ、とんでもございません。最近物騒な話が頻繁に聞こえてきます。女性の遠出は危ないと思いますので、男性の方だけのほうが良いかもしれません。お手数ですが冒険者ギルドへ行って、依頼の受注をお願いします」

「わかりました」


 シグレは日本人なので当然アオイのことを知っている。が、日本から来たことなどはウォンにはまだ話していないらしい。感は鋭いのできっと『体調不良』は本当の理由ではないことは見抜いたのであろう。

 彼は余計なことを言わないし、聞いてこない。


 ウォンが席を立ったあと、小声で彼と近況報告と情報交換をした。どうやらさらに出世したらしく、近々開店予定の店を任される予定だと言った。


「もしかして隣の敷地が関係ある?」

「ああ。ウォン商会は奴隷商以外の商売も順調に伸びてきて、店が手狭になったんだ。それで隣へ店を建てて、商品別に扱う。俺はそこの店長を任される予定だ」

「すごいじゃないか!」


 わずか数か月での店長。異例の出世に違いない。


「いままで通り、こっちでは奴隷商。向こうではそれ以外を扱う予定だよ」


 シグレは照れ臭そうにいった。彼の腕にはウォンとの契約魔素術の跡がある。衣類で隠していたがチラリと見えた時、僕は以前に彼に救われた事実を思い出させられた。今でもあれでよかったのだろうかと思うことがある。


 店を出ようとするとシグレが、


「そう言えば……」


と。


「どうした?」

「……聞いたかもしれないが、シュウたちが退治した悪徳冒険者ギルド所長の代わりに、新しい所長が赴任している。なかなか喰えないヤツだったよ」


 どうやら僕がこれから冒険者ギルドへ行くのを見越しての彼なりの警告であった。

 最後に明後日出発の集合日時と場所を確かめて、僕たちは店を出た。


******


 冒険者ギルドに寄る前に、先にガデッサの武器防具屋へ寄った。

 彼の店は大通りから一本中に入った場所にある古い店……のはずだった。ところがその場所には綺麗な店が建っていた。看板には『武器防具店ガデッサ』と間違いなく書いてある。


 非常にスムーズに開く入り口の扉に違和感を感じつつ、店内へ入る。視界にはだれもいないが、僕はそのまま進みカウンターの奥を覗いた。そこでは見知った顔が黙々と作業していた。


「やあ、ガデッサ」

「シュウじゃねぇか!」


 彼は腰を上げたが、ドワーフ族のためか身長が低く、僕からみれば対して変わらなかった。


「店が新しくなったね! どうしたんだい?」

「どうしたもこうも! おまえさんたちのおかげだよ」


 どうやらこの間の僕たち夢幻の団が活躍したのがトレド中で噂となり、贔屓(ひいき)にしていたガデッサの店に客が大量に流れたらしい。注文が殺到して、そこから店の改築に至ったようだ。

 僕たちが標準装備していた魔素服。これが非常に好評だったらしい。珍しい素材のようだが、そこは貿易都市トレドである。資金があれば貿易商から輸入ができるようになって、生産に制限がなくなったと教えてくれた。最もお金があればの話でもある。


 さらにもう一つ改築できた大きな理由があった。それは僕たちが日本から持ち込んでいた『リュック』だった。

ガデッサが欲しいと言ったのでリュックをみせていたが、それをこちらで商品化していた。もちろん作りは日本と同じではないが、背中に背負えて着脱がすぐできるリュックは度の冒険者も欲しがる物だ。初めに買った者が宣伝して口コミで広まり、今では買いに来る客が後を絶たなくなったらしい。


「おまえさんたちにはすげぇ感謝しているよ。で、今日はなんだ?」

「もちろん買い物だよ。防具を一式そろえたいと思うんだ。見てよ」


 僕は旅人の服の中に着込んでいるボロボロになった魔素服を見せた。


「ずいぶんと派手にやったじゃねぇか。魔物大集団が襲ってきたときか?」

「それもある。でもどちらかというと戦闘の度にだんだん破けてきたんだ。修理できるか?」

「俺を誰だと思っている?」

「そうだった。それにこっちの年配のオジサンにも同じものを作ってほしい。それも明後日までに」

「明後日っ⁉」

「そうなんだ。ウォン商会からの魔術都市への商隊移動中の護衛依頼を受けたんだ。それで急いでいるんだ。いつも悪いね」


 あたかもガデッサは依頼を受けてくれるのが確定しているかのように僕は話した。彼はムムムと唸った後、渋い顔をして『しゃあない』と言ってくれた。なんだかんだ言っても、やってくれると信じていた。


「その代わり、金はふんだんにもらうからなっ!」

「わかったよ」


 懸念していた魔素服も目途がついて注文も済ませたので、店を出ようとするとガデッサが『待て』と言ってきた。


「おまえさんに死相が出とる」

「えっ! そんな~、またまた。悪い冗談を」

「冗談ではない。わしはこう見えても長いこと武器防具屋をやっている。いままでいい装備を売った冒険者どもをごまんと見てきたが、帰ってくる者、行方不明になる者、魔物に喰われて仲間だけ戻ってきたなどをいっぱいみてきた。そのわしが言うんだ。悪いことは言わんから、装備を充実させておけ」

「というと?」

「この魔素服だけじゃ防御力に不安があるんじゃろう。どれだけいい防具と言っても所詮は服」

「たしかに言う通りだと思う」


 実際、最近の敵の攻撃はこの服だけでは防御しきれていない。都度自己治癒術を使っているのが現状だ。


「その上からでいいんで、こいつをつけな」


 ガデッサはそう言って、新しくなった店先のショーウンドウのような場所に飾ってある金属でできたと思われる胸を覆うタイプの防具を勧めてきた。それは茶~灰色の中間色ぐらいで、目立たないよう工夫されていた。


「こいつにはちょっとだけだがミスリルが入っておる。魔素の通りも良く、前衛のお前さんにはうってつけじゃろう」


 見たところ頑丈そうで、動きを制限する防具ではないようだ。腕周りも動かしやすそうで、あくまで心臓などを重要な臓器を防御するために作られているようだ。


「ちょっと試着してもいいかい?」

「もちろんだ」


 言わゆるプレートに分類される。予想通り動きやすかった。


「気に入ったよ。これもらうよ」

「だろう。それにこれだ」


 今度は小手の装備を出してきた。これは手首から肘まで覆えて、プレートと同じく軽い。


「こいつは同じ素材だ。魔狼にでも襲われて腕を噛まれたらどうなる?」


 僕は食いちぎられたり、その場を凌いでも後に狂犬病みたいな恐ろしい病気に関わる自分を想像して、青くなった。


「ほら、みろ。それに今度はこっちだ」


 次は脛の防具だった。


……


…………


 その後もガデッサは事あるごとに命ほど大事なものはないと言い、都度僕に装備を勧めてきた。言われるがまま頷き続け、気づけば軽装で動きを特に制限するほどではないが、ほぼほぼ全身に防具が付いた。


「そいつらで『月夜の防具』一式といっている。毎度あり~」


 ガデッサは僕が買う返事をする前から、すでに決まっていたかのように振る舞い、『毎度』まで言われてしまった。



(やられたよ)


 店を出た後冷静になって、死相うんぬんが彼の商売文句だと気づくまでそう時間はかからなかった。あれだけの事件を解決して、褒賞もでているのが分かっていたんだろう。


(ずいぶん商売上手になったな。商人の職業で階位が上がると客が買いやすくなるのかな? こりゃ繁盛するわけだ)

『いい客じゃ。店主の言うがままに買うのじゃからな』

(指輪。うるさいな)

『金に糸目をつけない客になったんじゃ。格上げじゃぞ』

(嫌味にしか聞こえないな)

『まぁ、そういうな。みたところ悪いものではなかろう』

(たしかに。ガデッサのいうとおりだ)


 明日までに仕上がるそうで、修復された魔素服と月夜の防具一式は出発前には受け取れる予定だ。



 時刻はすでに夕方に近い。最後の仕事として、ウォン商会からの依頼を受注するため、冒険者ギルドのトレド支部へ入った。

 依頼主探しの掲示板は混んでいて全くみえにくかった。なので受付に直接言った方が早いと思って向かうと、アイルが綺麗な笑顔で冒険者からの用事をさばいていた。


 彼女に声を掛けようとした時に、突然背後から『シュウ』と呼ばれた。


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