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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第三十四話 政府の計画Ⅱ

第2章序盤はこれにて終了です。

 実家では母親である恵美と妹の明里の顔をみて、足早に去ることにした。


 久々の実家のご飯はとても美味しく、その点は良かった。が、自分の衣類や生活用品がない家というのはどうも落ち着かなかった。まるで親戚の家へお泊り会できているみたいだ。


 大学関係の書類は実家の方に届いているので回収することを忘れない。日本に不在にする期間が長くなりつつあるので、たまった書類は必ず目を通す必要があった。進級に必要な書類をスルーしてしまえば、留年確定になってしまう。


 家から僕を送り出す時、明里が玄関まで来てくれたのだが満面の笑みだった。『またいっぱい稼いで家にお金を入れてね~』と堂々と言われてしまう。明里は服やバックなどで周りと比べて我慢する必要がなくなり、買い物などについていける喜びが大きいようだった。尚、母親は本気で心配していたので、迷惑をかけないようにしなければと思うのであった。


(家が潤うのは嬉しいけど、僕に一円も入ってきていないんだけど……)


 現在僕の通帳には一円も入ってきていないのである。

尚、生活資金は自分で稼いだ金ではなくて、身を寄せている葵宅からお小遣いなるものをもらい、それで必要道具を購入していた。


 指輪曰く、向こうの世界ではこれを『寄生』というらしい。



 自宅を出た後、中華料理店の徳さんの店へ顔を出すことにした。時刻は夕方、ちょうど昼休憩を追えて店に再び暖簾(のれん)をかけている徳さんが見えた。


「徳さん、お久しぶりです」

「おおっ! 有名人じゃないか!」

「そんなことないですよ~」


 照れ臭い。


「いつもニュースで、大学校舎消失事件の名前が出ると思い出すよ」

「ははは。今日たまたま時間が空いていまして。店手伝っていいですか?」

「もちろん大歓迎だよ」


 店の中は変わっていなかった。すぐに簡単な清掃を入れて、テーブルに箸や調味料の残りを確認する。仕込みはすでに済んでいたので、残っている皿を洗った。

 昼はサラリーマンが多いが、夕の時間帯は家族連れの客が多かった。自分も家族で来て、ここで腹いっぱい食べさせてもらったクチである。


 一組、二組と家族連れの客が入ってきた。どの家族も近所から来ているようだ。あっという間に満席になる。水配りに注文聞きと隻脚をする。


 やがて午後七時となり、店内のテレビが夕方のニュースを伝える。


「夕方のニュースになります。N〇Kの〇×△です。本日はまず、先日起きた『〇×大学消失事件』の続報となります。本日午前に警察および防衛省は合同で記者会見を開き、向こうの世界に置かれている日本人の遺体について、回収して日本へ戻す計画の発表をおこないました」


(えっ!)


 元々関心の非常に高いニュースなだけに店内にいる全員が手を止めた。徳さんも同じで、熱した中華鍋の火を一度止めた。


 僕はその計画の概要を少なくとも一般人よりは政府に近い立場で知っている。自分が遺体回収時の周辺警備を依頼されているからだ。しかし、その計画の承諾するかについては、正式にはまだ決まっておらず、返事も政府側へ出していないはずだった。


(藤原さん、板垣さんだ)


 記者会見には防衛大臣と思われる男性が話していたが、その横にはいつも会う藤原さんと板垣さんが同席していた。


「〇×防衛大臣は記者会見にて、『自分の意思に反して違う世界へ連れ去られてしまい、残念ながら亡くなられた日本人の遺体回収について、安全におこなえる技術を確立した。近日中に自衛隊などを投入して大規模な作戦をおこない、遺体を日本へ連れ戻る予定である』と発表しました。以前より親族からは遺体の強い回収希望があり、政府側は今回これに応える形になりました。専門家やすでに生きて日本へ帰還している人たちの中には、向こうの世界では魔物と遭遇する可能性を指摘しており、帰還にあたって自衛隊員が危険にさらされる可能性を危惧する声があります。それではこの件について、元防衛省および元陸上自衛隊の方々、さらに帰還者である×〇さんにスタジオに来ていただいています。……」


 そこからはそれぞれの人たちがコメントを始めた。尚、帰還者には僕は一度会っているはずだったが記憶がなかった。


 それにしても……。


(専門家って……。それにまだ返事を出していないし、『安全に回収できる技術を確立』ってなんなんだ?)


 すぐにでも五木マネジメントに連絡を取りたいと思った。


「徳さん!」

「おう、わかっているよ。ニュースの途中から顔つきが険しかったから、きっと関係しているんだろう?」


 徳さんはある程度僕がこの事件に関与していることを話している。


「行ってきな」

「中途半端でごめんなさい」

「いいってことよ。またな。気を付けて」

「本当にありがとうございます」


 僕は港区の五木マネジメント事務所へ急行した。


******


 夜だったが外から事務所の明かりがついているのがわかった。急いでエレベータ―を上がって、事務所の入り口を開けた。鍵はかかっていなかった。


「五木さん!」

「やっと来たか」


 すでに事務所内には五木さんのほか、葵、直樹、麗奈がいた。それに重蔵さん、さらには板垣さんまで来ていた。


「待っていたよ」


 板垣さんは少しやつれているようだ。


「あのニュースをみたから来た、で間違いないね?」

「はい」


 五木さんは僕に落ち着くよう促しつつ、今日ここに急いで来た理由を確認してきた。次に板垣さんが切り出してきた。


「私もあの発表は早かったと思う。何より計画を実行する際に、護衛で一番力を持っている君たちの了承を取らずに会見で情報を出してしまった。大変申し訳ない」


 板垣さんは深々と頭を下げた。

 その様子をみると板垣さんは悪くないのだなと悟った。


「計画は藤原さんを含む防衛省の幹部からの決定だった。彼らは計画の一番の問題点を、往復技術の確立ととらえており、それを君たちが持ってきた大量の魔石で補える、そのように判断してしまったんだ。向こうの世界で君たちが遭遇したような強い魔物や悪意を持った人間に邪魔される可能性を、計画実行するかの判断過程で軽視している。大変申し訳ない」


 また板垣さんは謝罪した。


「それについてはもう発表してしまい、世間が知ることになったのだからもういいです。しょうがないと諦めます」

「でも、向こうで活動中の護衛は私たち抜きの場合にどうするのですか?」


 葵が板垣さんへ聞いた。やはりそこを聞かれると板垣さんは歯切れが悪くなった。


「それなんだが……」

「ほかに帰還者や異世界の事情を知っている人の中で、戦闘をこなした人は重蔵さんしかいない。なので僕たちが断ってしまうと非常に都合が悪い。ということなんでしょう? 板垣さん」


 僕の指摘を受けて、板垣さんは黙ってこちらを向き直った。


「その通りなんだ」


(そうだろうな)


 僕は一度板垣さんに部屋から出てもらい、みんなでこの依頼を受けるかこの場で決めることにした。


「正直、この依頼のやり方は汚いと思うけど……」


 直樹が文句を言う。汚いというのは先に計画を実行しますと発表しておいて、僕たちに護衛の依頼を受けるか聞く政府側のやり方のことだ。僕も当然だと思ったし、葵や麗奈も同じだった。


「……やっぱり依頼受けるしかないんじゃないのかな~」

「僕もそう思う」


 直樹の発言に僕が返した。


「葵、麗奈もいいかい?」

「はい」

「はい、ちゃんと修が私たちか弱い女性を守ってね!」


 女性陣二人も護衛については参加してくれると言ってくれた。『か弱い』かどうかは一切突っ込まない。僕も自分の体が大事だからだ。


「わかった。そしたら板垣さんへ返事を出すよ。五木さんはそれでいいですね?」

「ああ、君たちがそれを決めたなら俺から何も言うことはないよ」


 五木さんは話の結論が出たことに安堵したようだ。板垣さんにその旨を伝えると大変うれしかったらしく、お礼を言ってすぐに事務所を出て行った。彼も中間管理職で大変らしいと後に五木さんから教えてもらった。


 彼は奥の部屋から得意のビールを取り出してきた。秋限定のビールらしく、嬉しそうにプシュっと蓋を開ける。


「ん~、うまいっ!」


 彼が言うにはのど越しがたまらないらしい。


(僕はまだ未成年だからそれを知るのはまだ先か)


「ところで修君」

「はい?」

「君は今回向こうへ行って、依頼を達成した後はどうするつもりなんだ?」

「それは……」


 非常にいまデリケートな問題で答えにくかった。


 こちらへ戻ってきた後、直樹や女性陣二人に今後のことを僕は直接聞いた。それだと葵、麗奈の両親は異世界へ再度行くことに関して猛反対したらしい。一歩間違えば全滅からの奴隷落ちもあり得たので当然だと思った。直樹はこの件について『考え中』とあいまいな返事だった。


「……。僕はまた向こうの世界を探検して来ようと思います」

「……そうか」


 こちらへ戻ってくる頃から、また異世界へ戻ろうと決めていたので、すでに五木マネジメント経由で医薬品や装備品、携帯食料などの発注はしていた。

 残ったビールをぐっと飲みほして、


「君が決めたことだから俺は止めないよ。命は一つだから、そこだけ間違えないように」


と言う。


「はい、それはわかっているつもりです」

「それならいいさ」


 その日はそのまま僕たちは解散した。


 深夜、政府の計画実行が一週間後になったメールが入った。


******


 政府の計画実行からそのまま異世界に残って冒険再開するつもりだったので、短期間で稽古の合間をみて大学のオンライン講義を受け続けた。

 

 政府側も正式に計画実行日をメディアを通じて発表、またいろんな議論を呼んでいた。


 世間は騒がしいが、僕のやるべきことは変わらない。


 稽古の方は一進一退だが、優勝者との対戦が貴重な経験だったのであろう。重蔵さんや葵にボコボコにやられている状況に変わりないが、彼らが言うには『殻を破りつつある』と。どこがどう変わったのかわからないが、カーターは剣術だけでなく魔素術に長けている。その組わ合わせの攻撃を自分一人でどうにかできる糸口は掴めていなかった。ただ相手の気配や初動作から攻撃を予測することは少しできるようになっていた。ただ二人の剣速が早すぎて躱せないのである。


 指輪も手伝ってくれることを約束してくれたが、できることは限られている。特に物理的攻撃の防御については自分でなんとかするしかない。


 世間は計画実行日が迫るにつれて騒がしくなった。どこからか情報が漏れたのであろう、五木マネジメントおよび葵宅には日が経過するにつれて、周囲を囲むマスコミが増えていった。


(もはや隠す必要もないか)


 向こうへ行けば、世間の喧騒からは離れられる。早く計画実行の日が来ないか、正直ワクワクしてきた。

 自分は戦闘狂(バーサーカー)ではないが、冒険好きであることはもう否めない。



 出発前日にはまた長期不在になることを母親と妹には連絡した。短い会話であったが、母親はもう行ってほしくないと思っているのが窺えた。必ず帰ってくることを約束して電話を切った。妹はどうせ稼ぎの話だろうから、あえて話さなかった。


(稼いだお金がどの程度消えているのか怖いな)


 世の中には触れないことが良いことがあると、ここ数か月で身に染みた僕だった。


******


 日本人の遺体を回収する計画実行の当日朝。


 障子の合間から差し込む陽の光で僕は快適に目覚めた。


 いつも稽古していた道場へ足を運ぶが、今日は出発日だったので稽古は休みだったのを思い出す。


 少し気持ちが浮ついている感じがしたので、座禅を組んだ。


(向こうではまず政府側に協力、その後異世界から日本への帰還に協力する……)

『ふむふむ』

(! 指輪、起きていたのか?)

『当り前じゃ。おぬしとは一心同体じゃ』

(そうか)

『なんじゃ? もっと嬉しがってもいいのじゃぞ?』

(いつも感謝しているよ)

『ほう、今日はやけに素直じゃのう』

(自分はなぜ向こうの世界に惹かれているのか、最近よく考えるようになったんだ)

『で、たどり着いた答えは?』

(自分でもよくわからないんだ)

『なんじゃ』

(多分……)


 指輪の影響じゃないのかと考えようとしたが、思考を読まれるとなんとなく嫌なので、そこで考えることをやめた。


 部屋へ戻り出発の準備をする。異世界で度重なる戦闘でボロボロになりつつある魔素服を着こむ。医薬品などもリュックと、さらに靴に忍ばせる形にした。


 葵と重蔵さんと共に豪邸を出発、まもなく元大学校舎跡地の建物に着く。この中には異世界と日本をつなぐ転移門がある。

 周辺に近づいて分かったが、道路封鎖されていて自衛隊車両が多数入っていた。マスコミも多数構えていて、しきりにレポーターがしゃべっている様子が移動車両から見えた。


 建物内のコンクリートむき出しの駐車場で僕たちは降りると、すぐに藤原さんと板垣さんが出迎えてくれた。


「オホン」


 藤原さんは相変わらず偉そうだ。先日僕たちの了承なく、計画実行の発表に踏み切ったくせに。ここでケンカするわけにはいかず、僕は握りこぶしを見えないように作って自分の感情を抑え込んだ。


「君たち、よく護衛を受けてくれた」

「向こうに残された遺体のことを思う親族の気持ちを優先したまでです」

「そう言ってもらえると非常に助かる」


 僕は藤原さんへの怒りをそれほど隠すつもりはなかった。場の雰囲気を察した板垣さんに促されて元大学校舎の入り口門である、向こうへ渡る呼ぶ『門』まで移動する。


「それでは初めに僕たちが転移して安全を確保します。その後自衛隊の皆さんは続いてください」


 僕は門に向けて手をかざして、魔素放出を始めた。門が淡い光を放ち始め、門が起動する!


(さてといろいろあったけど、これからまた……)

『……冒険再開じゃ!』


 次回はあらすじと人物紹介をはさみます。

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[一言] 続きが読みたいです。更新をよろしくお願い致します。
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