表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
54/129

第二十九話 異端者、第三段階へ覚醒

「あれはっ⁉」

一つ目の巨人(サイクロプス)だ。それも集団でトレドを襲いたいらしい」


 叫ぶナオキに僕が答える形になった。


 ドシンドシンと歩くたびに地響きがここまで伝わってくる。

 一つ目の巨人はおおよそ八~十メートルの身長で、むき出しの青い皮膚で全体的に筋肉質な整った体をしていた。人間族との違いは身長が高いことのほか、名の通り顔の目が一つであることだ。

動きは決して素早いわけではなく、それぞれが折れた木など握って武器にしていた。


 とうとう先頭の防衛兵や冒険者たちが一つ目の巨人集団と衝突する!


 敵は整列された兵士たちに襲い掛かり、少しだけ屈んで右から左方向へ地面すれすれのなぎ払いの一撃を繰り出した。統率されていたことが仇となり、兵士たちはまとめて空中へ吹き飛ばされていった。

 冒険者たちはうまく躱して反撃に転じるが、熱い筋肉に阻まれて大きな傷を与えられていない! どうにか一つ目を狙っている者もいるがうまくいかない。敵も目を狙われることは知っているようで、武器を握っていない方の手で防御をしている。


(あの戦い方じゃダメだ)


 両手に力が戻り始め、呼吸も整った。ニーナばあやの秘薬なのか、時間経過での回復なのか、あるいはその両者であろうか。思い通りに体に力が入ることをしっかりと確かめた。


 僕の周囲には夢幻の団全員が集まっている。


「シュウっ! 大丈夫なの?」


 レイナが心配してくれた。


「ああ、だいぶ回復したよ。それよりもヤツだ」


 一つ目の巨人の集団を指さす。


「狩ろうと思う。あの魔物の後方にはもう魔素で探知できる個体はいない。あいつらさえ倒してしまえば、僕らの勝利だ」

「わかりました。でもどうするつもりなの?」

「一つ目の巨人とて弱点がないわけじゃない。戦い方などいくらでもあることを僕らがこちらの世界の兵士や冒険者たちに教えてやろう」

「なんとなくわかったような……。具体的にはどうするの?」

「僕を見ててくれ」


 一番近くの一つ目の巨人に向かって走り出す!



 敵は僕の接近に気づいたらしい!


(強い敵にだってやりようはある!)


 一つ目の巨人は屈んで強力ななぎ払いの態勢に入った。


(予備動作がバレバレだっての!)


――ブゥンッ――


 屈んで腕を振り回す動作は、遠目から見ていたのでよくその前兆がわかった。敵の攻撃が当たる瞬間に雷変を使って、物理攻撃を躱す!


 一つ目の巨人は何が起きたのか最初はわからなかったのだろう。眼をぱちくりとさせていた。

 すぐに僕はその足元へたどり着いて、渾身の一撃をある場所へお見舞いしてやる!


(ここだっ!)


 狙いはアキレス腱。これだけの巨体を支えている(かかと)にもし力が入らなくなったら……

 全力で踏ん張って、雷の魔素を込めた魔剣で斬った。ブスッと鈍い音を出して、左足の踵から出血する。同時に敵はドッカーンと大きな音を出して膝と片方の手を地面につけた。


(狙い通りだ!)


 どんな強者も鍛えられないというアキレス腱。巨人も人間と同じ体の構造をするのが仇となった。


(もーいっちょ!)


 もう片方の踵も斬ってやったら、地面に伏せる形で敵は倒れ込んだ。


――ドーン――


 大きな地響きと土ぼこりが上がる。なぜ立てなくなったのかわからないのだろう。不思議そうに自分の脚を触っている。敵が回復の術を持っていないとは限らない。間髪入れず次の行動へ移る!


「暴れても死ぬのが少し遅くなるだけだ」


 ピョンと背中に飛び乗ると、僕が立った感覚がわかるのであろう。両腕が背中をもぞもぞと描き始めた。だが背中の中心部まで手が届いていない。


(残念だったな。予想通り関節の可動域は悪いみたいだ。次に生まれ変わってもし人間だったら、レイナに柔軟を教えてもらえよ)


 念には念を。動けないようにするため、自分の直上に誘雷を発動して感電させた。


――ピカッ――

――ゴロゴロゴロゴロ――

――ドッカーン――


 巨人は雷を受けて動かなくなった。自分も多少喰らっているはずだが、体がマヒする感覚は一切ない。

 心臓の位置もおそらく同じなのであろうと思い、魔剣を背部から胸側に向かって突き立てる!


――ブシュゥゥゥゥ――


 魔剣は抵抗を受けることなく、背部から腹部へかけて垂直に突き刺さり、ある程度の深さまで到達したら出血が多くなった。おそらく心の臓まで捉えたのであろう。

 一つ目の巨人の魔素もしっかり吸収させていただく。ヤツの力は間違いなく僕よりも上だが、魔素術への抵抗は弱いようだ。

 一分もしないうちで、出血と魔素の枯渇で完全に動かなくなった。


「シュウ!」


 ナオキたちが駆けつけてきた。


「すごいじゃないか」

「こうやるんだ。残りもやってしまおう。次はあいつだ。クーン、ナオキ、レイナ、ニーナばあやは注意を引いてくれ! その間に俺とアオイで敵を地面に転がす。そうしたら袋叩きだ!」

「「「「「了解っ(ニャ)!」」」」」


 そこからは僕たち夢幻の団は手当たり次第で巨人を狩った。この戦法はかなり有効で、僕たちは負傷者を出すことなく、一匹、二匹……と次々に巨人を倒していった。

 周囲では僕らの戦法をみて真似る冒険者たちも出ていた。さすがに雷の魔素術を持つも者はいなかったが、それでも地面に倒してしまえば弱点の目玉を狙うこともできるので、有効な方法だったようだ。


 巨人の三匹目を倒した時、突如僕の体を包むように電気が発生した。それは周りから見てもわかる力強い電気で、数秒ほど続いた。


(覚醒したな。これでとうとう僕も第三段階だ)


 夢幻の団で最後の到達者となった。こころなしか全身に力がみなぎり、体内にとどめておける魔素も上がったような気がする。


 周囲では巨人の討伐が順調に進んでいった。


 この戦いが終わったらシスターマリーへまた鑑定してもらおう。

 そんなことを考えていたら、


「あれをみてっ⁉」


とレイナ叫んだ。指さした方向の林からほかの個体より大きな赤い皮膚をした一つ目の巨人が姿を現した。


『シュウよ。あれで最後じゃ』

(よし!)

『だが変異体のようじゃ、油断するでないぞ』

(任せろ!)


 指輪の警告を伝える。


「みんな、あそこのデカイ奴が最後だっ! だがほかの巨人と肌の色が違うし、一回りデカい。どんな能力を隠しているかわからないから注意しろっ!」


 そのまま僕とアオイが先頭で敵に突っ込んでいく。ほかの冒険者たちや兵士たちも協力して全員で倒す雰囲気になった。しかし――


(! 何か来るっ!)


 赤い一つ目の巨人はその場に立ち止まり、眼を閉じた。体の周囲から漂っていた漏れていた魔素が力強くなる!


――ヒュゥゥゥゥウウウウ――


「何かやってくるぞっ!」


 反射的にしゃがむと頭上を何かが通り過ぎていく。後方では草木がバッサリ切られていた。


「気をつけろ! 風の魔素術を使ってくるぞ」


 変異個体の巨人は風を刃のように四方に飛ばしていた。少なくない犠牲者が出ていて、そこらじゅうで絶叫が聞こるようになった。


「ちっ」


 舌打ちしながらさらに接近する。もう一度魔素の高まりを感じた僕は、二発目を打たせないよう全力で雷伝を放った!

 少しの時間だけ感電したようだが動きを止めるほどの損傷はなかったようだ。見たところ皮膚の火傷も軽微で、通常の青い皮膚の巨人よりも魔素術への抵抗が高いようだ。しかし魔素術は邪魔されて途中で中断されたため発動しない。


 赤い一つ目の巨人は自分の行動がキャンセルされた苛立ちを隠さない。敵意をむき出しにして妨害を行った僕に狙いを定めて襲い掛かってきた!


 左右の巧みなステップで相手の攻撃を躱す。巨人はモグラたたきのように上から地面を連続で叩きつける攻撃になった。


――ドッン、ドッン――


 繰り返される攻撃をただ避け続ける。

 その合間でみてアオイが敵の背後を取ろうと動くが、なかなか接近を許してくれない。


 僕は緩急をつけた動きと雷変を駆使してどうにか敵の足元へたどり着いた。アキレス腱を斬りつけようとした時、ぞっと周囲の空気が動くのを感じた。

 巨人が僕の体を掴んでいた!


「ぐっ」


 持てる全ての力でほどこうとするが握力は恐ろしいほど強い。


(まずいっ!)


 全身の筋肉と骨が悲鳴を上げ始めた。それに息も苦しい。

 巨人は僕を空中へ高々と持ち上げて、地面へ叩きつけようと振り下ろした!


(雷変っ!)


 地面に打ち付けられて全身が砕けるような想像をしたに違いない。だが巨人の手から間一髪で変化して抜け出した僕はそのまま敵の肩で実体化する。


「おいっ!」


 そこにいるはずのない僕に突然声をかけられて、反射的にこちらへ振り向いた。


――シュッ――


 魔剣を横に払って一つ目を攻撃してやった! とうとう弱点部位を斬ることに成功する。

 敵は暴れ狂って動き回り、巨人の肩は足場も悪いこともあって、僕は地面へと飛び降りた。強化した脚で損傷しないように着地、背部の敵を見ずに前方へ走り出した。これは追撃をもらわないためだ。


(もう一撃入れたかったな)


 だが大きなダメージには違いない。敵は僕を追撃できずに叫んだ。


――ウォォォォオオオオ――


 空気の振動が全身を打ってくる。

 僕はこの時敵がダメージで吠えているのだと勘違いしていた。だが実際には背部から新たな腕が生えて合計四本の腕となり、傷つけた一つ目は全体が真っ赤に変色した。


――ウォォォォオオオオ――


 再び大きな咆哮。どうやら敵の変身だったようだ。

 お返しと言わんばかりにさきほどより強烈な全方位への風の魔素術を放ってくる。巨人の周囲がするどい無数の風の刃によって再び斬り刻まれる!


(こいつ……どこまでも楽しませてくれるっ!)


 獲物が強ければ強いほど、僕の中で何かが弾けるのがわかった。戦闘を求める血が体の中で沸き立つ。僕は口角をニヤリと上げて、再度巨人へ向かった。


(アレをやってみるか……)


 僕は雷哮ではない新術の使用を決断した。それは雷変と雷速を組み合わせた複合術だ。


 雷変は自分の体と魔素の通りの良い武器防具ごと雷に変化して、その後近くで実体化する。

 雷速は雷に変化して空気中を裂くように高速で移動して実体化する。


 これらを組み合わせて物体を貫通するような術を開発中であった。すでに稽古では木の板では成功している。ただし実戦で使用した経験はない。初めはゴブリンやオークなどの手ごろな魔物で試す予定だった。


 新術は大量の魔素を消費して対象物へ突進する術である。変化は雷哮の剣を先端に構えたまま、剣、全身の順で雷に変化させて敵に突撃する貫通力重視の術だ。技の発動も一瞬で、初めに知らなければ反応さえできないであろう。


 僕は今それを使おうとしていた。


(狙いは……)


 普通に近づいたのではアキレス腱を傷つけることはできない。全身の筋肉もさきほどまでの通常の巨人と比べて盛り上がっているので、筋力は間違いなく強いことがわかっている。


 それに四本に増えた腕。特に背中から生えた二本は容易に足元への攻撃を可能とした。この状態では作戦なしで近づいて踵を斬ることはできない。


 巨人は常時踵を守っているわけではない。なので攻撃を悟られなければむき出しのアキレス腱がそこにあるわけである。そこに向かって新術を使おうと決めた!


 タイミングを計る。ちょうど横からレイナやクーンが中遠距離攻撃をかけたので、そちらに一つ目が動くのがみえた。


(今だっ! 『雷突(らいとつ)』っ!!)


 魔剣を前面に出す態勢で駆け出して、すぐに雷へ変化した。そのまま高速で移動して巨人の右踵を貫通するように通り過ぎた!

 貫通後数メートルで実体化、手ごたえは……


 巨人は立っている姿勢を維持できずにひざまずいた。


(ありだっ!)


 敵はその巨体を両脚で支えられなくなり、さきほどまでの巨人と同様に片膝と片腕を着いた。急なバランスの変化には変異個体でも対応できないらしい。


(さらけ出したな!)


 巨人は胸を地面に近づける形になった。すぐに下に潜り込んで危険を承知で、心の臓をめがけて魔剣を突き上げる!

 ブスッという音は出たが、筋肉の厚みのなのか単純に魔剣の長さが足りていないのか、出血はほぼなく、敵の動きは止まらなかった。


(まずいっ!)


 自分の胸元にいる僕めがけて空いている三本の腕が迫ってきた。今度は掴むのではなく、押しつぶそうという勢いである!


(こうなればっ)


 この状態で『雷突』の術を巨人の体を突き抜けるように発動することを決意した!


 すでにコマ送りで敵の大きな手が自分をサンドイッチすべく押し迫っている!


(たのむっ)


 願いを込めて全力で術を発動した!


 物を擦るような小さい音を出して敵の背部へ突き抜けることに成功!


 魔剣が突き刺さっていた胸と雷突で突き出た背部側から大量の血が噴き出した。


 心の臓を貫かれたのであるから致命傷のはずだ。だが予想外にも敵は地面に完全に倒れ込んで、動きを鈍らせながらもまだ抵抗する動きを見せた。


 僕と指輪は止めとして全力で巨人から魔素を吸い上げた。


 およそ十数秒ぐらいだったが、それはそれは濃密な魔素を吸収し、変異個体はとうとう動かなくなった。


******


「とうとう終わったな……」


 あたりは後半に襲ってきた一つ目の巨人を含む魔物の死体、大量の血痕、それに……大量の魔石だ!

 夢幻の団は自分たちの成果であると思っているので、急いで魔石を集め始めた。


「そう心配いりませんよ」


 そう言ってきたのは先ほどトレドが開門して馬でかけてきた兵士だった。


「挨拶が遅れました! 私、トレドの門兵長モリアーティと申します」


 モリアーティと名乗った兵士は馬を降りた。見れば周囲の兵士よりも体格が良く、装備の質も高い。たしかに門兵『長』なのだろう。


「今回シュウ殿たち、夢幻の団が先に魔物大集団と衝突していたのは皆が知っております。討伐後のほぼすべての魔石はあなたたちの所有物でまちがいありません」

「でも区別がつかないですし、誤魔化すことだって可能では?

「私たちはクリス王女と契約しているのですよ。他人の報酬を横取りすれば、それはどんな罰則を受けるか知れたものではありません。もしやったとしても体調不良が急激に現れるなどしてすぐにわかってしまいますよ。なので、私たちは回収した魔石をあなたたちへ最終的に渡しますのでご安心ください」

「なるほど」


 クリス王女の抜かりのなさはここでも発揮されているようだ。


「じゃあ、少しだけ休ませてもらおうかな」

「どうぞ。今回でシュウ殿を含む夢幻の団は大きくその名声を上げたことでしょう」

「そ、そうかな」


 少しだけ照れ臭かった。

 統率されていた兵士たちは広範囲に散らばった魔石を上手に拾い上げてくれた。魔石はすべての魔物が落としたわけではなく、その種族の長や変異個体などが落とす場合が多いようだ。

 結局、全部合わせると日本のバスタブが埋まるぐらいの大量の収穫だった。主に赤色、青色、茶色だったが、ごくまれに黄色、無色、黒色が混ざっていた。ただし一つ一つの魔石は小さく、一番大きなものは一つ目狂人の変異個体と思われる魔物から取りだした魔石だった。


「これは大量だな」


 ナオキが言った。


「これで依頼を果たせるな、シュウ」

「ん?」


 僕はすっかり忘れていたが、警察と防衛省との契約内容の中には、こちらの異世界と日本との往復するために大量の魔素を必要とするため、誰でも使える魔素の塊、すなわち魔石が必要だと判断されていた。


「そうだったな。すっかり忘れていたよ」

「おいおい、しっかりしろよ」


 そろそろ日本へ戻る日程だ。今回の件で、一連の事件にある程度決着がついたのは違いない。


(一度トレドへ戻って体を休めよう。そして日本へ戻ろう)


 僕たちは宿への帰路へ着いた。


******


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ