第二十八話 緊急クエスト 魔物大集団を迎撃せよⅡ
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『油断するでないっ! たしかに一部の魔物集団は倒したが、まだ大量の魔物が後方に控えておるぞ!』
(えっ)
今しがた大量の魔物を葬ったのに、それ以上の集団が後方に控えていると指輪が警告した。
楽観ムードが一瞬で消える。
「ナオキ、安心するのはまだ早そうだ」
「えっ⁉」
「まだ大量の魔物が残っていて、すぐにここまでやってくる。残っている魔素液を俺にくれ」
つい口調が荒くなる。
あたりを見渡すナオキ。彼は僕の付けている指輪が魔素探知に優れていることを当然知らない。
「魔物なんていないじゃないか」
「いいから早くっ!」
危機感に乏しいナオキに苛立つ。
「ちょっと待つニャ」
クーンが鼻を利かせる。
「嘘は言っていないかもしれないニャ。焼ける臭いの中に、まだ生きている魔物の匂いがかすかに混じっているニャ」
この段階でようやくナオキは魔素液を取り出して僕にくれた。すぐにこれを飲み干す。
(たしかにオ〇ナミンCだ)
魔素が足りなくなると美味しくなるようだ。
「魔素がまだ回復していない。残りはないのか?」
ナオキは嘘をつくなと言わんばかりの顔になった。
「本当だ! 足りないんだって。早く次をくれ!」
さらにそこから二本を飲んだところでようやく自分が体内に持つ魔素が満たされたのを感じた。
「それが強がりじゃないとしたらシュウは相当な魔素量の持ち主だよ」
ニーナばあやが空になった瓶を振りながら言った。一本である程度の魔素術士を全回復させられるぐらいの薬効はあるらしい。
まもなくむき出しの地面の向こう側の林から、魔物がちらりほらりと見え始めるようになった。さらに数秒経過すると、林はほぼ魔物で一面が埋め尽くされる。
(これが魔物大集団ってやつかっ!)
ナオキの顔色が悪くなった。
「言った通りだろう。まだ人喰い草はあるか?」
「もうほとんどない。さっきと同じことをするのは無理だ」
「わかった。自分の身を守る分だけ残して可能な範囲でさっきと同じようにやってくれ」
「了解!」
皆の方を振り向く。
「みんな、見ての通りだ! もう数分もしないで再び魔物大集団がここへ到達する! 僕は秘術を使えるが後一回しか使えない。それに魔物を密集させて葬るという、さきほどと全く同じ状況を再現するのは無理だ」
「……」
「……」
状況が悪いので全員が真剣なまなざしだった。
「魔素の回復薬も残りがもうない。ここからはできる範囲で時間を稼ぎ、厳しくなったら橋の向こう側へ撤退して、いよいよ橋を落とそうと思う。ほかに案がある人はいるか?」
「……」
「……」
誰も返事がない。
「この作戦でいけるところまで行く。撤退順番は初めにナオキ、レイナ、クーン、ニーナばあや。その後にアオイ、最後に俺。この順番だっ! いいなっ!」
全員頷いてくれた。
(さーて……)
『もう一発放つのか?』
(大量の魔物相手だとそれしかない)
『じゃが、すぐにまた魔物に囲まれるぞ』
(それでも正面方面の敵は消し飛ばせる。指輪も手伝ってくれ)
『仕方ないのぅ。まずくなったらすぐに警告するから橋へ逃げて、斬り落とすのじゃ。それを忘れるな!』
(わかってるって!)
やがて僕が魔物たちの正面に立つ。
「ん?」
魔物はまだ二百メートル以上離れている。先ほどの秘術でこちらに気づき、発動したことがその場にいない魔物にまでわかったかは不明だが、僕を見つけた途端に狂ったように速度を上げて一直線に向かってきた!
天候はカーターと戦闘した時と同じ雨、空は当然曇がかっている。悪天候は僕の雷との相性が非常に良かった。
ふと僕は空を見上げ、雲と雲の間に光る筋を見つけた。
(あれは雷……。誘導して地面まで落とせないかな……?)
とっさの思い付きで、避雷針を想像して丁寧な魔素術を描いて、それを魔物大集団の上へ向けて飛ばしてみた。
――ゴゴォォォォ―――
途端に雲の中から今にも落ちそうな雷が空気を裂く轟音を響かせ始める。
(おっ! これはいけるんじゃないか?)
――ゴゴゴゴォォオオ――
天候は雷雨に変わった。その時、一瞬視界が光で埋め尽くされる。その直後に音が続く。
――ドドゴゴオオォォォォ――
ドッカーンと大きな轟音を立てて魔物大集団の先頭に雷が落ちた!
予期せぬ雷撃を頭上から喰らった魔物は焦げ付いて転倒する。それに連なるように後続が倒れ始めた。
(これはひょっとして……⁉)
急いで避雷針の魔素術をもう何個か描いて魔物集団の各方向へ飛ばしてみた。
――ドッカーン――
同じ現象が繰り返された。天候はここでも僕に味方してくれるらしい。
先頭集団のいくつかを雷で焼いて転倒させて、後ろから続く魔物をさらに転倒させる。結果その列の魔物の進行は著しく妨害された。
(雷を誘導して落とすから、これは『誘雷』の術と名付けよう!)
自分の閃きに感心していたら、
『阿呆っ! さっさと秘術発動の準備をせよ!』
(おおっと⁉)
と指輪の怒号が頭に鳴り響く! 慌てて僕は大量の雷の魔素を魔剣へ込め始める!
――ヒュゥゥゥゥウウウウ――
再び僕を中心として風が集まり、台風が形成される! 秘術『雷哮』、その発動タイミングを慎重に伺う。遠方から僕を見つけていた魔物たちは、その標的が秘術を使おうとするのを潰そうとするかのように集まってきた!
(いまだっ!)
距離十メートルを切った時、本日二回目の『雷哮』を放った!!
「雷哮ぉぉ!」
――ズゴゴゴゴォォォォ――
――バババァァァァンン――
再び嵐とその中を無数の雷が駆け巡り、範囲内の魔者たちを消し飛ばした。
「ハァハァハァ」
大量の体内の魔素を消費した秘術は初回と比べてその威力が落ちることなく、正面向こう数百メートルまでの魔物を焼き飛ばした!
「ハァハァハァ」
本日一回目を放った時よりもずっと息切れが強い。やはり秘術を二回、それも短時間に連続して使用するのは体へかなり負担がかかったようだ。
消し飛ばしきれなかった遠方の魔物は再び僕の方へ向かって突進を始めた。
(どうなんだ?)
『数はだいぶ減ったことは違いない。しかしまだ全滅とはいかぬ。魔素反応の数だけでいえば、およそ四分の一が残っておるぞ』
(まだ四分の一もいるのか!)
指輪の探知能力の高さが絶望を教えてくれる。
(これは大橋を崩すしかなさそうだな)
もう数分もすればここは魔物大集団で埋め尽くされるだろう。橋を渡ることを許してしまえば、すぐにトレドの城壁に取り付かれてしまう。それではこの作戦は意味がない。
「シュウ様」
背後からアオイが声をかけた。
「その疲労、おそらく秘術を使いすぎたのでは? 少し後方へ離れて休んでいてくださいね」
「それではここの守備が……」
アオイは僕の向こう正面に立ち、斬月を抜いた。
「しばらくシュウ様の技に頼り切っていましたわ。私も腕試しの場が欲しいのですよ」
悪天候であるがそれでも黒光りする斬月。
「そういうこと! シュウはちょっと休んでいてねっ!」
レイナもやる気満々の様子。
横ではドゴッと音が立つと、挟撃を防ぐための密林が左右に出来上がった。
「お前だけに任せちゃいけないだろう?」
「そういうことじゃ。いいものを見せてもらったので時間を稼いでやろう。その間に回復するとよい」
ナオキとニーナばあやが人喰い草ではないが、魔物たちの侵入を防ぐ木々を魔素術で育ててくれたようだ。ニーナばあやはさらに胸元から一本の瓶を取り出した。
「これは体力回復の薬じゃ。魔素も多少は回復するが、それほど期待してはならん。さ、後方へ退くのじゃ」
「わかった」
ここは仲間を信頼しようと決めた。
後退する中でクーンも覚悟を決めたらしく、敵の方をじっと見つめている。
(頼むぞ、みんな)
僕は歩きながら、思い切って渡された秘薬を飲み干した。
(……。……うーん。健康青〇とオ〇ナミンCとジンジャエー〇を混ぜた味……)
吐きそうになりながら橋に腰かけて、戦況を見守ることにした。
******
魔物大集団はたしかにその数を減らしていた。指輪の言う通り四分の一程度というのも違いない。というのは向かってくる魔物たちがまばらだったのだ。
(だが、それでも百匹以上は確実にいるな)
再び目の前に脅威が迫りつつある。
その正面にアオイが立つ。目立つアオイをめがけて敵集団はそこへ集中した。
――ビュッ――
――ヒュッ――
空気を裂くような鋭い音が数秒の短い間隔で繰り返された。
レイナの炎束、クーンの土の魔素術で形成された弓矢だ。アオイへ直線で向かう魔物の動きを逆手に取った見事な作戦だった。飛ばされた炎や矢は的確に敵の急所を貫き、致命傷を与え続けた。
(あっ!)
クーンの全身が光り輝いて足元の土が盛り上がっている。多分本人は夢中になって気づいていないが、第三段階へ覚醒したのだった。
彼らの攻撃とは別の場所で、気づけば敵の一部がもがいて倒れ始めた。後ろに続く魔物が足を引っかけて転ぶ循環を生み出しながら。それはナオキとニーナばあやが発動した魔素術の水攻だった。ニーナばあやは今までこの魔素術を思いつかなかったらしく、ほっほっほっと笑いながら発動させていた。
水攻は魔物を窒息させる魔素術である。ニーナばあやはもとより、ナオキも複数個の水攻を同時に、それも遠方へ発動できるようになっており、バタバタと魔物が倒れていった。
これだけでは魔物の接近を許してしまう。しかし――
「あー、もうっ!」
とうとうレイナのスイッチが入ったようだ。
炎束を放つのを一度中断して、彼女の周りの温度が上昇して空気が歪むのが見えた。頭上にいつぞやのオークジェネラルが放ったような大火球が作られた!
(あれはっ!)
大火球はオークジェネラルより大きい気がする。先頭に立つアオイへの警告後、一番突出している列へ向けて放たれた!
――ズゴゴゴォォ――
大火球は地面をえぐり取り、一番先頭の魔物を包み込むと、その勢いを衰えることなく後列に襲い掛かった!
「ギャーー」
魔物の焼かれる叫び声が響き渡る。雷哮ほどではないが、天候に負けず、後方十数匹を焼き殺してやがて拡散して消えた。第三段階まで階位があがると天候の影響はそれほどでもないのかもしれない。
(あれなら僕はいらなかったんじゃないか?)
僕は少しだけスネる。
炎を逃れた魔物が左右からアオイに襲い掛かるっ!
(あぶないっ!)
常人には一瞬アオイの手元が動いたようにしか視えなかっただろう。だが僕の動体視力は高速で斬月を抜いた彼女を捉えていた。
(……あれが居合か)
斬られた魔物は、その瞬間は痛みがなかったのだろう。体を動かしてアオイを襲おうとすると胴体と胴体、あるいは首が離れていった。
そこからはアオイの無双。襲い来る敵を斬って斬って、斬りまくる。体格が劣るアオイへ狙いを定める魔物はことごとく致命傷を受けて倒れていった。風速も組み合わせているのが遠方から見るとよくわかった。
今の姿を見ているとアオイの職業が『夜叉』というのもうなづけると思った。
それぞれの活躍でしばらくは戦線を保った。僕も少し体が温かくなり、薬効が出始めたのがわかった。
自分もと思って戦線へ加わろうとした時、さらなる敵軍勢が林の向こうから見えてきた。数はまた百匹以上!
(ここが潮時か……)
皆の命には代えられない。戦線が維持できないのは明白になったので、僕は撤退の合図を出そうとした。
――ブゥゥゥゥンンンン――
その時! 背後で魔素術が発動する鈍く大きな音がした。振り返るとトレドの城壁を囲むように魔素術が展開されている! それは紛れもなく防御の魔素術であった。
(クリス王女が防壁の術を再建させたんだ!)
次に、勢いよくトレドの東門が開いて多数の兵隊と冒険者たちがなだれ込むようにこちらへ駆けてきた。しかもトレド城壁はところどころ穴が出来て、そこから大砲の先端が見えるようになる。
ドッゴォーンという大きな発射音とともに、黒い高速の物体が僕らの頭上を越えていくつも敵集団へ着弾した。
地面や魔物と当たって砕けた球はおそらく魔素術が仕込まれていたのであろう。砕けた球の周囲数メートルに炎が上がったり、烈風が吹き荒れたり、土で形成された槍がそこかしこを貫くように発生と、敵集団を攻撃した。
(さすがにナオキの水攻のような水塊が発動する術は仕込まれていないか)
すぐに馬で駆けて来た兵士が僕の横にたどり着く。
「シュウどのですね? クリス王女および王の命令にて、我らトレド防衛兵も戦線へ加わります」
そのまま防衛兵たちは発奮して敵集団へ突入していった。
次に声をかけてきたのは懐かしのコーサ、グラッドたちだった。
「シュウ! やるじゃねぇか」
「見違えるように強くなったな」
彼らはウォン商会の護衛で、貿易都市トレドと娯楽都市ラファエルの往復の時一緒になった冒険者たちだ。
「ありがとう。これ以上は支えられない限界だったんだ。助かったよ!」
「いいってことよ。おまえばっかりに活躍されるとこっちが困っちまう。ここからは俺らに任せてとけ!」
彼らも防衛兵に続いて敵集団に突入していった。
(なんとかなりそうだ)
『いい時間帯に援助が来たのぅ』
(ああ)
『もう少し体を休めておけ。喜ぶのは敵を全滅させてからにすればよい』
(おっしゃるとおりで)
夢幻の団とニーナばあやに防衛兵と冒険者ギルドが加わり、戦線は敵を押し返し始めた。
乱戦となったが、僕の仲間は見事な連携で致命傷を避けて、お互いの弱点を補いつつ奮戦した。
(いい仲間だな……)
やがて魔物大集団の全滅が近づいたとき、遠方から強力な足音が響き始めた。
比較的背の高い木々からでも見え隠れする顔。
『来たぞっ! 最後の魔物じゃ。あれは……』
(冒険者ギルドの依頼書で見たことがあるぞ!)
それは一つ目の巨人の集団だった!




