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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第二十六話 真相

ブラウンとクリス王女の兄との関係に関する描出が抜けていましたので追記しました。

「ぐぅーー」


 宿の風雲亭で、隣ではナオキがいびきをかいて寝ている。喉の渇きで起きた僕は一度背伸びをして部屋を出た。

 起こさないように足音を消して宿の階下へ降りて、井戸から水を汲んで喉を潤す。


「おはよう」

「おはよう、遅いね。」


 時刻はもう昼に近い。宿の主人に声を掛けられたが、彼は昼食の準備のためにこれから厨房へ入るところだったようだ。

 外はまだ雨模様が続いているが、天気に関係なく腹は減った。


「ここ最近はいつになく全員疲れているようだね」

「ははは、そのようです。おなかがすきましたね。ご飯いいですか?」

「もうちょっと待ちな。すぐに準備して呼ぶよ」


 そう言って宿の主人は厨房へ入っていった。

 

(数日前に……)


 とうとう首謀者のブラウンたちを追い詰めたんだから、疲労が残るのも当然だと思った。雨の中で激闘を繰り広げた全員、それも僕とアオイの疲労が非常に激しく、夢幻の団は数日間活動を休んでいた。


 あの日――


 ブラウンを地面に串刺しにしてその場から離れた後、僕たちはクリス王女が自分たちの場所に戻ってくるまで、ただただ待っていた。


 しばらくして彼女は魔剣を(雷哮の剣は雷の魔素属性を持つ生物には扱いやすい特徴がある)持ちながら僕のところまで戻り、『終わりました』と短く告げた。

 彼女はそれ以上言わず、戻ってきたときには高揚している様子も一切見せなかった。ブラウンを生かしたとも殺したとも話さないが、僕を含めて周囲の者たちは状況から彼女が止めを刺したのだろうと理解した。


 魔剣を返却してもらい、縛り上げた荒くれ者たちを叩き起こしてトレドまで戻ってきた時、時刻は深夜を過ぎていた。

 クリス王女は城へ入った後、使える警備兵を叩き起こして間髪入れずに関係していたブラウンの家探しと冒険者ギルドの証拠押収、ルドルフ商会の関係者捕縛へ指示を飛ばしている。


 今日は昼過ぎにクリス王女と会う約束があった。事件の全貌を聞けるに違いない。


「おはよう~」


 眠そうな声でナオキやレイナが起きてきた。


「はぁ~、なんか疲れが抜けないぜ」


 そう言って大きな背伸びをして、食堂に出ているご飯をつまみ食いするナオキ。


(あんたはこの間たいして戦ってないだろう……)


******


 同じ日の昼すぎ、トレド城内の一室で僕たちはクリス王女やリスボンたち向き合って座っていた。

 目の前に良い香りがするお茶が運ばれていた。手を付けようか迷っていたら察したらしく、


「大丈夫ですよ、シュウ。ほら」


と言ってクリス王女が一番に飲んだ。


「変な味もしません」


(ふむ、そういうもんか)


 クーンが言うには美味しい香りしかしない、だそうだ。


「では、あれからのことです」


 クリス王女はあの日僕たちと別れてからのことを話してくれた。


「まずブラウン元防衛大臣です。彼の家には妻や子供、使用人を含めてほぼ全員が残っていました」

「ほぼ、というのは?」

「使用人のうち、主に家全般のことに関わっていた男一名が失踪していました。おそらくは……」

「……一連の事件に関与していて、こちら側の動きに気づいて逃走した? ですか」

「そのとおりです。彼の家族はいま尋問を受けてもらっています。ですが、ブラウンの暗躍とは直接関係ないのではないかと推測しています」

「家族はどうなるのですか?」

「無罪というわけにはいきません。トレド領主の家族を殺めている事件に関わりましたので妻と子供は縛り首にして、そのほかの関係者は家財没収の上、領外へ追放とします」


(丸裸で外で投げ出されるわけだ。事実上の社会的死亡だな。ブラウンに関わっただけなのに)


「逃走した使用人は?」

「そうあせらないで」


 クリス王女は再びお茶を飲むと、二杯目を要求した。


「逃走した使用人の顔も生活範囲もすでにわかりました。もうしばらくすると捕まるでしょう。そうすれば厳しい拷問を受けてもらい、その後に縛り首です」

「うへぇ」


 ナオキが声を上げた。


「城内の混乱は? それに内部犯はブラウンだけではないと思いますが」

「すでに城内の関係者暴きは終わっています」

「もうですか⁉」


 これにはこちら側全員が驚いた。


「ええ。事件が知られるのは早いですが、その前に城へ来た者たちを一人一人呼び出して、これを使って忠誠を誓わせました」


 クリス王女は契約魔素術の魔素文字を空中へ描いた。


「なるほど」


 事情が呑み込めた。


「察したとおりです。契約魔素術でトレド領主家への忠誠を結びました。結べない者はやましい考えのあるものですので、徹底的に調べています。数名は登城してこなかったようですが、自らブラウンたちと関わっていたと言っているようなもので、非常にわかりやすかったです」

「何名ぐらいがいたのですか?」

「……。今の時点ですが、三十三名がブラウンたちとなんからの形で関係を持っていました。主に警備と厨房、それに財務を管理する部署です。彼らの処罰については想像にお任せします」

「……」


 事態の深刻さに声がでない。敵はそこら中にいたのだ。よく今日までクリス王女は無事だったと改めて感心した。


「お兄さんとブラウンとの関りは?」

「今事実確認中ではありますが、貿易関連の利権に手を出すために邪魔だった者を消していったと思われます。その過程で事実に気づき始めた兄が障害となったのでしょう。兄の殺害への関与はしっかり自白させましたよ」


(そうだったか……)


 雨の中で魔剣に串刺しにされたブラウンとクリス王女をその場に残して僕は気を利かせて離れることにした。

 彼女がその犯人にたどり着けたのならば、もはや言うことはあるまい。


「次に冒険者ギルドの方です」


 おかわりのお茶が運ばれ、彼女のカップに注がれる。


「そちらの方は今のところ手掛かりなしです。というのはカーター元所長が単独で動いていたようなのです」

「なるほど」

「所長という立場を利用してうまく立ち回っていたようで、証拠を残していません。ただし冒険者ギルド側で紛失したという冒険者個人の登録票はカーターの家から出てきたので、決定的な証拠になります。すでにカーターも家財没収、指名手配を各所へ飛ばしました」

「カーターとローズベルトは兄弟だったのですね」

「それについては家名が一致していますし、本人からの証言がありましたので、まちがいないと思います。彼がギルド所長として赴任した十年前までさかのぼって記録を調べていますが、二人はずっと接点がありません。巧妙に隠して、悪事に利用していたのでしょう」

「どうりで見つからないわけです。ところで彼は暗殺や事件の関係者候補として挙げられていなかったのですか?」


 僕は美味しいお茶を飲みながらずっと思っていたことを聞いた。


 一連の犯人は中級者以上で、獲物が剣、得意魔素属性は火までわかっている。そこに彼が犯人候補としてリストアップされていなかったのか気になっていた。


「彼が得意とする属性は火ではなく土でした。周囲の者は口をそろえて火の魔素術を使ったのを見たことがないと言ったと聞いています」

「そうでしたか……すごく狡猾ですね。それでは候補者に挙がらないわけだ。逃走先の手がかりはあるのですか?」

「こちらへ赴任する前、彼は城塞都市ルクレツェンから来ています。そちらに何かあるかと思い、政府の連絡網や冒険者ギルドを使って連絡はいれていますが……」

「……望みは薄い、ですか」

「ええ」


 今まで十年もトレドで暗躍していた頭脳である。出身を知られたときの対策もしてあるに違いない。ルクレツェンから良い知らせが届く可能性は低そうだ。

 カーターの実力を考えても、普通冒険者が見つけたところでどうにもならないというのが正直な印象である。


「以前にローズベルト宅で見つかった人骨とのつながりはあったのですか?」

「それです。カーターの自宅には個人の冒険者登録票があったと言いましたね? 登録票は二か所に分けられて保存されていました。今も活躍している、おそらくシュウが冒険者ギルドへ寄った時すでに自身の身の内が暴かれるのを防ぐため回収した登録票、そのほかに別場所へ分けられる形で別の登録票の束が置かれていました。そちらは失踪したとされている冒険者たちばかりだったのです」

「つまり失踪ではなくて、カーターが選んで殺害して、ローズベルト宅へ隠していた可能性があると」

「そのように考えています」

「選別の基準は?」

「今のところ不明です。前にも言った通り、ローズベルト宅には男性の人骨が多かったのです。また分けられていた登録票は男女はほぼ均等でした。わかっているのはそこまでです」


(どうせ、奴隷になりそうな良い標的を選んでいたんだろう。反抗すれば殺す。冒険者登録をして、これから成長する前のつぼみの段階で冒険者ギルドに寄った中から選別していた。そんなところだろう)


 僕はカップを握る手に力が入った。


(やはりカーターは生かしておけないな。しかし……)


 僕がカーターを追います、と言おうと思ったがすぐにやめた。


 理由は二つ。

 実力が足りないので単独で戦った場合は返り討ちにある可能性が高かった。

 また夢幻の団は今回で解散する予定だ。それはクリス王女の話を聞く前にみんなで話し合って決めたことだった。こちらの世界への干渉が強くて、危険も多くなってきた。ブラウンたちを追い詰めた時は逆に罠にかかり、解除できなければそのまま殺されたか、永久奴隷としてこちらの世界で死ぬまで労働に従事するハメになっていた。


(僕一人でまた戻ってこようかな)


 そろそろ日本へ戻る予定の日程が近づいてきていた。結局、警察と防衛省からの依頼を果たせないままの帰還である。しょうがない、そう言い聞かせてみなで決めた方向で動こうと自分に言い聞かせた。


「最後になりますが、ルドルフ商会の方はどうですか?」

「そちらも関係者全員を抑えて事情を聞いています。ほぼ拷問ですが」

「そうですよね……」

「彼らはこちらが睨んだとおり人身売買に関与していました。カーターと結託して、奴隷を裁いていました。すでに店は取り潰し、資産は没収しています。各都市に支店を持っていますが、全容がわかるのはこれからです」

「そうでしたか……」


 一連の事件の概要はこれでおおよそが判明した。あとは世話になったクリス王女へ別れを告げるだけである。意を決して彼女の方を見た。その時――!


 扉を開けてトムが血相を変えて入ってきた。失礼します、といって僕たちの会話を遮るようにクリス王女に耳打ちする。


「なんとっ⁉」


 勢いよく立ち上がる彼女。


「すぐに迎撃の準備を!」

「はっ」


 トムは部屋をすぐに出て行った。


「クリス王女、どうかしたのですか?」

「いま入った情報ですが、このトレドへ魔物大集団が向かってくるようです」

「「「「「魔物大集団(モンスターパレード)っ!」」」」」


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