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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第二十二話 クエスト 首謀者を捕まえよ

 再開しています。

 翌日から数日間ほど、貿易都市トレド近くで発見した組織アジトと思われる小さな港と小屋、それにルドルフ商会の状況確認に費やした。

 小さな港と小屋は日中に行って初めて気づいたが、周囲が背丈の高い木々に囲まれていて、目だないような位置に建設されていた。


(道を知らないとたどり着けないな……)


 明らかに意図的に建てたと判断できた。彼らの犯罪は想像以上に組織的かつ計画的だった。


 戻ってからルドルフ商会の奴隷を扱う店に行って、客を装って話を聞こうと思い、レイナとクーンを連れて店に入ろうとした。が、猫人族のクーンを見た途端に店長と思われる店員から『帰ってくれ』と邪険にされてしまう。彼らが言うには『この店にふさわしくない客』らしい。明らかな種族差別であったがその場で騒ぎを起こすわけにもいかず、仕方なく店から出た。


「そんな店、こっちから払い下げです」


 カンカンに怒ったのはレイナだった。


「レイナ、そこまで怒らなくても」

「夢幻の団のメンバーがこんなに馬鹿にされて、腹が立たないわけがないじゃない!」


 風雲亭へ戻る途中でもレイナの怒りは収まらない。すれ違う人たちがたまにこちらを不思議そうな顔で振り返っていた。


「店で新しい情報は拾えなかったけど、おおよその情報は確かめられたな」

「?」

「んーと。敵さんがやっぱり怪しくって、雇われている人を含めて店ぐるみで質が悪そうってこと」

「同感です。いつ捕まえるのですか?」

「クリス王女からの連絡待ちだよ」


 宿へ戻るとクリス王女たちから伝言が届いていた。届けたのは兵士だったらしい。


(トムかローレンスのどちらかだな)


 彼らはクリス王女に忠誠を誓っていて、側近中の側近である。彼女からの信頼は厚い。


「なんて書いてるんですか?」


 紙には『明後日、ブラウン大臣がまた馬車を使えるよう手配しています。違法な奴隷を扱っている現場で捕縛します』と書かれていた。内容をレイナとクーンにも見せる。


「時間がかかったけど、明後日でとうとう決着ですね」

「だといいんだけど」

「なにか不安材料でも?」

「うーん、やっぱり帽子で顔の見えなかった男かな。強そうだもんな」

「怖いもの知らずのシュウが怖気づいたのですか?」

「そう言われると言い返しにくいなぁ。でも危険を冒さずに終われるんなら、それが一番いいと思うんだ」


 結局、体調や装備を整えて明後日の捕縛に備えることにした。

 雷哮の剣は刃こぼれなく新品同様だったが、魔素服の方は連戦で損傷が目立ってきた。使えないことはないが、この世界の魔素術に対抗できる僕の唯一の防御装備だと思うと心細くなってきたのは事実だった。


(そのうちガデッサの武器防具屋へまた顔を出さないとな。そういえば第三段階へ入ったナオキの職業名や階位も確認していなかったな)


 この件が決着したら、またやることがありそうだ。

 だが、夢幻の団のほかのメンバーはこちらの世界へのめり込みすぎている傾向を嫌っている。


(パーティリーダーって難しいな)


 そんなことを考えながら、僕は休息についた。


******


 ホワンが闇の精霊から『時戻りの術』があることを教えてもらってから、かなり悩んでいた。自分が生き長らえるためにほかの命を犠牲にしてよいものかと。

 結局結論は出ないまま、数か月がさらに経過した。


 その間に元王女が働く宿はさらに繁盛して従業員も増えた。今では宿の拡張案がでていて、すでに隣地を買収していた。工事計画も最終段階に入って、近々着工の予定である。


 ある時、装備の整った身なりの良い数人が客として宿に入ってきた。中心にいる者は顔色が悪く、横の人に抱えられていた。


(あーあ、ありゃまずいな)


 ホワンはその冒険者としての経験から相当な深手を負っていることがすぐにわかった。自分と同じく逃亡か、あるいは出家でもしたか、いずれにせよ関わると碌なことにならないと直感した。


 しかし元王女の対応は違った。様子がおかしいことに気づき、一番奥の広めの部屋へ案内した。すぐに湯を沸かして清潔な布も渡した。

一緒に宿へ入ってきた一人が『医者はいないか?』と聞く。彼女はこの街に住んで宿も営み、その社交性から知り合いは多い。当然医者の知り合いも何人かいた。が、とった行動はホワンに相談することだった。


「ホワン、できるんでしょ? 手伝ってあげて」


 元王女が知る医者のうち、一番の腕利きはホワンだった。激戦を潜り抜けた彼の治癒を目のあたりにしていた彼女は、経験の浅い医者よりもはるかに腕がいいと思っていたし、実際その通りであった。


「頼まれたからするけど……」


 面倒ごとを嫌って乗り気でない彼に、


「人の命でしょ! やる気出しなさい!」


と激が飛ばされる。すでに魔素術を指導していた師匠と弟子の関係は崩壊して、上下逆転の様である。


「わーったよ、まったく」


 重い腰を上げて、負傷している者の部屋へホワンと元王女は入った。


 彼が最初に思ったことは、『やっぱり死にそうだ』であった。部屋には血の匂いが強く立ち込めている。腹部には大きな傷があって、臓器が傷んでいる可能性があった。脈も速くて弱い。


「助かるかは知らんぞ」

「ふざけるな、何とかしろ」

「じゃ、てめーらで何とかしな」


 そう言ってホワンは負傷者の手当てをやめて、部屋を出て行こうとした。従者の横暴な態度と要求に腹が立ったのが理由だ。


「おいっ、待ちな」

「……!」


 彼は部屋の空気が凍り付くような凄まじい殺気を放った!


「くっ」


 ホワンの肩に手を掛けようとしていた付き添いの者は、彼の気配に押し戻されてしまう。これ以上要求すれば高い代償を払うことになるという警告だ。


「……そこの方……」


か細い声が部屋に響いた。少し雑音が入ったら、聞き取れないぐらいの弱々しい声。


「……すいません」


 ホワンは視線を負傷者に戻した。


「連れの無礼を詫びます。決してあなたの責任にはなりません」


(当たり前だろう)


 彼はもう一度負傷者が寝かされているベッドへ戻り、傷を確かめた。


「結構な深手だ。自分が一番わかっているだろう?」

「え……ええ……」


 気を抜くと永遠に眠ってしまいそうな様子だ。


「治癒術を修めた者はいないのか?」

「いない。いたらとっくに術で治している」


 返事はさきほどの気の荒い付き添いの者だ。


「徹夜になる。魔素が枯渇しても絞り出す、その覚悟があるか?」

「ある」


 おそらく負傷者は付き添いの者の主君なのであろう。忠誠はあるようだ。


「なら手を貸せ」


 そういうとホワンは手を借りて負傷者の治癒を施していった。


 治療は夜通し続き、その間多数の布が血まみれになった。夜明けを迎える頃には出血は止まり、


「できることはやった。あとは本人の体力次第だ」


と言った。


「見込みは?」

「五分五分だ」


 半分の確率で死ぬと言ったが、ホワンはその可能性はもっと高いと推測していた。


「わかった、ありがとう。先ほどはすまなかった」

「いいよ。気にすんな」


(自分もああいう仲間がいたらな)


 従者たちはホワンの要求に良く応えた。

徹夜で続けた治療で思った以上に疲労したらしく、自室へ戻るとすぐに眠りについた。



 それから数日、奇跡的に負傷者は持ち直した。ホワンは毎朝様子を見に行っていたが、元王女は毎日、朝昼夕と夜に様子を見に行っていたらしい。

 治療当日は付き添いの者も焦りからか乱暴な言動が目立ったが、容態が落ち着くにつれて冷静さを取り戻していった。当初見込んだ通り、そこらの冒険者くずれではなくて、どこかの位の高い家の関係者ではないかと思った。


 ホワンにそう思わせたのは付き添いの者の言動もそうだが、回復した負傷者の様子である。まだ顔色は全体的に白く全快したとは言い難いが、精悍な顔つきに戻りつつあった。それにその装備をみると、貧乏冒険者には到底思えなかった。宿にも宿泊以外のお金を世話賃として出したらしい。


 負傷者は一週間が過ぎるころには廊下を歩くぐらいには回復した。

 その間付き添いの者は部屋の前に見張りとして最低一人が立っていた。初めは窓の外を眺めていることが多かったが、実際にはただ眺めているだけではなかった。


(追われているんだろう)


 自分と同じ境遇だと直感した。追われる身のいつ襲われるかもしれない底知れない恐怖と戦い続けなければいけない若者の前途を案じずにはいられなかった。



 さらに時間経過すること数日。


 ホワンはいつも通り依頼をこなして夕方に宿へ戻ろうとした。宿へ入る直前には先日闇から話されていた『時戻りの術』を、やっぱり使ってもらおうと考えていた。どうせこの世の中には悪人はいっぱいいる。そいつらの魂を捧げればよい。まだまだ元王女の行く末を見守りたいという気持ちが彼には芽生えつつあった。


(アイツは反対するだろうな)


アイツとはほかでもない元王女のことである。彼女には秘密にしたまま、闇を言いくるめて術をやってもらおう。そんなことを考えていた。


「おい」


 話しかけられたことに気づかないほどホワンの意識は『時戻りの術』を使うか否かに向いていた。

 二回ほど声を掛けられてようやく相手の方を向いた。


「!」


 男の顔をみた瞬間、ホワンはとっさに警戒態勢をとった。


「そんな怖い顔すんな」

「どうしてここが?」


 話しかけてきた男は彼の元仲間だった。


 若いときに人間族同士で仲間を組んでいた。ホワンの実力もそうだが、元仲間も相当な実力者であった。しかし二人は仲互いをして結局別れていた。


 両者の違いは価値観だった。


 ホワンは生きるために冒険者として依頼を受けるが、元仲間は殺すために冒険者として依頼を受けた。二人の違いは初め小さかったが、時間が立つにつれてその溝は大きくなり、別の仲間の死亡をきっかけにパーティを解散して、別々の道を歩むことになったのである。


 今、その男がホワンの前に仁王立ちしていた。


「よう、久しぶり」

「何の用だ?」


 用件はわかっていた。ホワンと元王女が脱走した国から依頼を受けて、自分を殺しに来たのであろう。追手としてそいつは最適任だった。何せ相手は彼のことを知り尽くしている。


「わかっているのだろう?」

「追手か……」

「そうだ」

「よく居場所がわかったな」

「お前に追跡方法は教えてもらったんでね」

「なるほど」


 二人は三メートルほど間を挟んで対峙している。街中だろうが、こいつなら剣を抜きかねないと思っていた。


 しかし、


「今は戦う気はない」

「⁉」

「久々に見たんで、つい声を掛けちまった。近いうちにまた連絡するぜ」


と言って、彼は背を見せて離れるように通りの向こうへ消えていった。


 しばらくその場に立ち尽くした彼だったが落ち着きを取り戻して、宿へ向かってようやく動き始めた。

 歩きながら周囲を警戒をして、元仲間のことをずっと考えた。


(果たしてこのままであいつに勝てるだろうか?)


 いかに別のことを考えていたとはいえ、直前の接近まで自分が全く気付かなかった。その気配の消し方に、元仲間も強くなっているに違いない。あるいは自分が衰えたか。

 ホワンは逃走してから初めて別の不安を抱えたまま夜を迎えた。


******


(不吉だ)


 夢の内容もそうであったが、外は曇りで少し湿った空気で覆われていた。気圧が低く、そのうち雨が降り出しそうな空模様である。僕は寝床からゆっくりと起きて装備を着け始めた。


 今日はブラウン大臣たちを捕縛する予定で、前日に入念な作戦会議をしてたっぷりと寝ていた。すでに昼過ぎである。

 予定では違法者たちが夕方~夜間に行動をするはずなので、僕たちは先回りして現場に待機することになっていた。


 全員の体調を確認後、今回は貿易都市トレドの北門からぐるっと回って現地へ行く。捕縛のためクリス王女は部下を引き連れてくる予定で、違法者たちに出会わないための配慮だった。


 雲の合間から差し込む陽の光が弱くなって日が沈みかけたころ、僕たちはトレド北門に到着した。


「シュウ、それにみなさん準備はよろしいですか?」


 クリス王女のほかに、従者のリスボン、さらに以前一緒に戦ったトムやローレンスら合わせて十名近い彼女の部下がすでに着いていた。

 トレドの内部、それも政治の中枢にいる権力者の捕縛であるので、敵方にこちらの動きを知られることなく、かつ慎重にことを運ばねばいけない。そのためクリス王女自らが指揮を取っていた。


「ええ、準備は万全です」


 通常装備のほか、外傷回復や魔素補充のためニーナばあや特製の薬をそれぞれ持った。特に魔素補充の薬は苦いという次元ではない。試しに飲んだナオキは数分間、地面に伏して動けなかった。ニーナばあやが言うには、『魔素が枯渇したりすると味が美味しくなる』だそうな。



 北門から出発したクリス王女一行と夢幻の団五人は、一時間とちょっとで港と小屋のある付近へ着いた。

 すでに陽の光はなく、周囲は暗闇であるが、小屋の中のろうそくの明かりは漏れていて、その周囲を照らし続けている。


 僕の視界は前回と同様に夜でも全く問題にならず、あたりの雑木林を細かく確認できた。驚いたことにアオイも良く視えているようで、これはここへ向かう途中の馬車を操っている時に気づいたようで、さきほど教えてもらった。


 犯罪者たちのいる小屋の中からは複数の声が聞こえていた。すでに何人かがいるらしい。そこから小屋に隣接する小さな港へ、続々と小舟が到着して手縄で縛られた水ぼらしい人間族が複数、中に入っていくのを確認した。


 僕たちは小屋周囲から一人も逃がさないよう、海側以外を囲むように配置され、クリス王女の合図を待った。


 やがてブラウン大臣を載せているトレド専用の馬車が、僕たちが隠れている茂みの横を通って小屋の近くに泊り、彼が馬車から降りた。


 クリス王女が捕縛開始の合図を出そうとした。その時!


――ブゥゥン――


 僕たち隠れている地面が急に明るく光った。


(魔素文字だっ!)


 最近よく練習していた契約魔素術の術式を描く文字だったのですぐに気付いた。


「罠だっ!!」


 叫んだ時には時すでに遅し。僕たち全員の体それぞれに魔素文字の輪ができて急速に縮まりつつあった。



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