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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第十九話  二つの魔素属性

 明朝、ストレッチに加えて稽古をしたが、通常より早めに切り上げた僕たち夢幻の団五人はニーナばあやを加えて、冒険者ギルドへ入る。ギルドは朝の時間帯だと依頼を求める冒険者たちで溢れかえって混雑していた。

 適当な狩猟依頼を見つけて、受付嬢のアイルに提出した。


「あれ? 今日はずいぶんとお優しい依頼を受けるのね」


 受けた依頼は貿易都市トレド周辺のゴブリンやオークなどの魔物の討伐依頼で、依頼主はトレド領主であるクロスロード家となっていた。この手の依頼は報奨金が安いが、個人やパーティへの評価が上がるのが唯一の救いであった。


「ああ。今回は戦闘が目的なんだ」

「それは依頼主が喜ぶわよ。何ならトレド周囲全部の魔物を倒してしまってください」

「いやいや、それはさすがに」


 受付の手続きを終えて冒険者ギルドの建物を出たのち、すぐにトレド北門から外へ出た。


「さて、クーン頼むよ」

「任せろニャ」


 見晴らしの良い平原まで来たら、猫人族で現在『狩人』となっているクーンの本領発揮だ。さっそく約五十メートル向こう側に、ゴブリン三匹を見つけた。


「あれでどうだろう?」

「バッチリだ。任せておけ」


 そういってナオキは人喰い草の種を手の中に握って、自分の魔素術で水を含ませた土にに包み込んでゴブリンめがけて遠投した。


「おらよっと」


 少し助走をつけた後、投げられた土の塊は放物線を描いてゴブリンのいる場所へ着弾した。野球経験があるのだろうか、すごくスムーズな動作だった。階位の上がったナオキならもっともっと遠く飛ばせるのだろうが、コントロール重視で軽く投げたように見えた。


 ナオキの投げた土の塊が地面にぶつかった瞬間に人喰い草が六つ、急激に成長して近くのゴブリンを絡めとった。そのままゴブリンの頭なり手なりに人喰い草が喰らいつく!


(手投げかい!)


 僕は心の中で呟いた。


(発動条件は地面への衝撃かな。それにしても……)


 ゴブリンは人喰い草の強度を破れず、もがくのみで一方的に食い尽くされていった。数十秒ほどで動かなくなり、数分でゴブリンは跡形もなく消化されてしまった。


(えげつない)


 絵がグロテスクだった。


 一方、ドヤ顔で胸を張るナオキ。


「ナオキ、土ってどうしたんだ?」


 実はナオキが投げつけた土は、地面から握った動作がなかったのでどこから湧いてきたのか不思議だった。もしかしたら隠し持っていたのかもしれないが、もし戦闘中に地面から土を握る行為をするつもりならば、相手から視線を離すので危険ではないかと思った。


「おっ! もう気づいたのか? 実はだな~」

「土の魔素属性を発動したのじゃ」


 ニーナばあやが答えてくれた。


「あちゃ~。それを言わないでよ~。いまみんなをビックリさせようと思っていたのにさ」

「ふん、あれだけ泣きついて特訓してくれだの、魔素術を教えてくれだの言われたこっちの身にもなってみろ」

「しー、それは秘密だよ。ヒ・ミ・ツ」


 ナオキとニーナばあやのやり取りを不思議そうに聞いている夢幻の団員。


「そうですか! やっとわかりました。二つの属性を扱えるようになったのですね!」


 レイナが一番初めに真実に気付いた。


「そう! 俺、二つの魔素属性(ダブルライセンス)を扱えるようになったんだ。今までは水の魔素術だけだったけど、土の魔素術もできるんだ。ついこの間なったばかりだけど」


 照れ臭そうに鼻をこするナオキ。


「今の土は自分の魔素術で生み出したんだ。ほかに水もだけど。土単体や水単体じゃ、あそこまで急激に育たないんだ。けど二つを同時に発動すると、植物の成長がすごく早くなるのがわかったんだ」


 今でもナオキが投げつけた人喰い草はまだ元気に餌を探していた。もうちょっと進化したら足でも生えてきて自分で移動しそうだった。


「よし! 次はもうちょっと強い魔物で試そう」

「オーケー」



 次にクーンが見つけたのはオークだった。それも八匹もいた。


「あれ行こう!」

「よし、任せろ」


 そう言ってナオキは人喰い草の種を袋から出して、再び両手で握りしめた。その中には自分の魔素術から生み出した土と水の魔素術を込めているのだろう。


(袋から出す動作は無駄だな。何か改善ができそうだ)


 そんなことを思っていると再び威勢の良い『そーれっ』という掛け声とともに、土の塊がオークの集団に向かって放たれた。


――ビシャ――


 地面とぶつかった土の塊は衝撃ではじけ飛び、今度は十近い人喰い草がオークを身動きできなくさせた。食欲旺盛な人喰い草はオークの力や大きさにひるむことなく、本能のまま食事を始めた。


(うへぇ……。これもまたえげつないな)


 オークの力でも人喰い草も引きちぎることはできず、捕まった魔物は一方的に喰らわれていた。


(オークでも武器化した植物には敵わない)


 これは立派な収穫だった。


 オークのうち二匹ほど、人喰い草の繁殖範囲の外にいたので先制攻撃を逃れてしまい、そのままこちらに気づいて襲い掛かってきた。


「よし、あれは僕に任せてくれ」


 魔剣に手をかけたが、


「いや、ちょっと待つニャ」


とクーンは僕にその場で待機するよう求めた。


「見ててほしいニャ」


 そういうと彼は土の魔素術でこの間とは完成度の違う矢をすばやく生成した。

疾風の弓をめいっぱい引き絞り……狙いをつけて……放つ!


――ヒュ――


 空気を裂くような一瞬の甲高い音を発して、土の矢は高速でオークへ向かって放たれ、頭を貫いた。当然のことながら即死である。

 横を並走してた残るオークは隣の一匹が倒されたことにたじろぎ、今度は反対方向へ逃走を始めた。

 期待しながら見守る僕達の中で、クーンは再び素早く矢を生成して放った。


――ヒュ――


 今度は先ほどよりもさらに早い初速で放たれた矢がオークの胴体を貫いた。ダメージでバランスを失ったオークは背中を向けながら派手に転倒した。すかさずクーンが追いつき、止めを刺した。


「こんなもんなんだニャ」

「『こんなもん』じゃないよ、クーン! すごいじゃないか!」

「そうですわ、素晴らしい腕前でした」


 僕もアオイも称賛した。クーンが放った二発目は距離四十メートル以上あった。それを外さずに射た腕前は素晴らしかった。


「そ、そうかニャ」


 クーンは照れ臭そうで、尻尾はフリフリだった。


 悩みに悩んでいた二人が新しい自分の得意武器を見つけて、実戦で使える目安も立ったので夢幻の団はみな警戒を解きかかっていた。唯一ニーナばあやだけが険しい顔をしている。


「あんまり浮かれるんじゃないよ」

「?」

「さっきから周囲の空気が変だ。近くに鳥がいない」


 二―ナばあやの警告で全員が我に返った。さっきゴブリンと戦っていた時は死体にすぐに鴉が群がってきた。だが今は――周囲には鳥が一切いない。


「グゥルルルル」


 すぐ近くの茂みから低い唸り声を聞いた。

 

 僕はすぐに警戒を促す!


「敵襲だっ」

「……遅かったか」


 ニーナばあやは一番最初に敵を視認した。

 すぐそばの森林からは三つ首の魔物が唸り声を上げながら、姿を現した。


「ちっ。三つ首の狂犬(ケルベロス)じゃないか」


 ニーナばあやはすぐに魔物の正体がわかったらしい。


「なんか強そうだニャ」


 クーンのさっきまでの威勢はどこかへ飛んでいった。

 ケルベロスは高さ二メートルの四つ足の犬で、狂気の顔が三つ、いずれも鋭い牙を出してよだれを垂らしている。僕らが倒したオークを奪うだけでは足りず、目の前にいた人間も餌にしようとしていた。


「グルルルルゥ」

「ウ~~」

「グルル」


 三つの首がそれぞれ獲物を定めたらしい。


(だが、体は一つだ。首が伸びるわけでもあるまい)


 足元の小石を素早く拾った僕はそれらを三つの顔に投げつけた。

 顔面にイタズラされたケルベロスはすべての顔がこちらの方を向いた。


「俺が引き付けるから、削れっ!」

「「「「了解っ(ニャ)」」」」

「ふん、わかったようなことをやるじゃないか」


『あの老婆の言う通りじゃ、うまくやるじゃないか』

(せっかくの大事な練習台だ。めいっぱいやらせてもらう)


 僕は口角を上げ、目の前の獲物を蹂躙することを決めた。


 ケルベロスがこちらへ向き出そうとした瞬間、距離二十メートルほどを一瞬にして詰めた。


(『雷速』)


 これはアオイが見せた『風速』を雷の魔素術で発動したものだ。『風速』は周囲の風を移動に有利に動かしてさらに自分の体を風で押す移動方法だったが、『雷速』は雷に変化した体で空気中を移動する方法だ。『雷変』の応用だが、自分の体を変化させながら移動させるのはただ変化するだけよりも体内の魔素を格段に消耗する。

 使いどころを慎重に選ばないとあっとういう間に魔素が枯渇する可能性があった。


(だが――)


 雷から具現化して、突然目の前に現れた僕に驚き、ケルベロスは一瞬目を見開いた。


(――効果は抜群だ!)


――ドスッ――


 魔剣は厚く毛に覆われた前脚を切り裂いた。


「グオォオオーー」


 一つの顔がダメージに反応して咆哮した。


(あの足の痛みは全部の頭ではなくて、あの頭に感覚が伝わるのか?)


 魔物の痛覚の認識が良く分からなかった。追撃をもらわないようにすぐにその場を離れる。


(素早い魔物はまずその特性を失わせる)


 夢幻の団とニーナばあやには僕の狙いが分かったらしい。


 ニーナばあやは土の魔素術で相手の脚を包むように発動させて、間髪を入れずにアオイが接近して別の脚を斬った!


「グオォオ」


 今度は真ん中の顔が痛みに反応した。


 ナオキは人喰い草を再びぶつけて後ろ脚に取り付かせた。十近い魔草がまとわりつくとさすがのケルベロスも引きちぎれないらしい。しかも好き勝手に脚に噛みつく!


 クーンは怪我した脚に向かって矢を放っていた。それらは厚い毛と皮に弾かれる場合もあったが、ほぼ脚に刺さった。


 魔物の注意が後衛に向くとすかさず、僕が『雷伝』を放って、ケルベロスの鼻を焼いてやった。すぐに三つの頭の敵意が僕に向けられる。


(所詮は魔物の頭か。体だけ立派でもどうにもならないな。どちらが狩る者なのかちゃんと教えてやるよ)


 人喰い草の効果は抜群で、その場に固定されたケルベロスは僕たちの攻撃をかわすこともなく、ただただ削られ続けた。


 ナオキは残る後ろ脚にも人喰い草を発動させ、クーンは矢を放つたびにその速度と正確性を増しているようだ。


 ニーナばあやは遠方にいたが、その前にはレイナが立っていた。これはケルベロスが万が一拘束を外れた場合に一番弱いニーナばあやを襲う可能性があり、彼女が庇うための位置取りだった。


(いいコンビネーションだ)


 やがて立つこともできなくなった魔物は腹を地面につける!


(終わりだっ)


 一つの頭を雷哮の剣で斬り落とした! 残りの二つに噛みつかれないように、すばやく後ろに引く。今度はアオイが続いてもう一つを斬り落とした。

 ケルベロスは威嚇を続けているが、唸り声からどんどん力が失われていく……。


――ビュ――


 レイナの『炎束』が残っていた頭を貫いて、ケルベロスは完全に沈黙した。


「見事だったねぇ」


 ニーナばあやが珍しく僕たちを褒めてくれた。


「いやいや、それほどでも」

「相手を自分に引き付けて、仲間に有効な攻撃してもらうのは良い作戦だったよ。見事だ」


 さっきまではクーンが照れ臭がっていたけど


「あんたの指揮も見れたし、長年稼げなくて心配だったクーンも独り立ちできそうだし、ナオキも階段を一つ上がったんだから、今日は良い日だねぇ」

「?」

「気づいていないのかい? 良くみてみな」


 ナオキを見ると体の周囲が水で覆われていて、足元の土は盛り上がっていた。


「あ!」

「そうだよ。第三段階へ入ったのさ。おめでとう」


 ナオキは飛び上がって喜んでいた。先にレイナとアオイが覚醒して焦っていたので、その喜びは人一倍強いのだろう。


「僕はまだなのかニャ?」


 クーンは心配するが、


「すぐになるさ。大丈夫だから日々精進しな」


とニーナばあやに言われていた。


「わかるのか?」

「なんとなくだけどな。今までいろんな人を見てきたからねぇ」

「僕はどうなんだ?」


 以前から自分の階位が上がるのが遅いこともあって、僕は聞いてみた。


「うーん。あんたはよくわからないっていうのが正直なところなんだよね。ほかの四人とは違うんだよ」


 ニーナばあやの経験則でも覚醒時期は読めないようだった。


「二―ナばあやはこれからどうするの?」

「あたしゃ、もう疲れたよ。トレドへ戻るさ」

「わかった。みんなで一緒に移動しよう」

「その魔物は体が大きいから、特別な個体なのかもしれないよ。ちゃんと剥ぎ取りと魔石を回収しな」

「了解」


 周囲の警戒を怠らないようにして、爪・牙・毛皮をはぎ取り、持てるだけの肉と魔石を回収してすぐにその場を離れた。離れる前にはこの世界の鴉が百匹以上周囲の木々にとまっていた。僕たちが離れたらすぐにケルベロスの残りの肉を漁るのだろう。


 無事トレドへ戻った僕たちは冒険者ギルドへ依頼達成報告と魔物の素材を自分たちが使う分を残して換金した。魔石はギルド側が欲しがったが、茶色で土属性だとわかったので、何かのために取っておくことにした。


(もしかしたらクーンの弓も魔石加工してもらえるかもしれない)


 ニーナばあやを家へ送り届け、宿に戻ると風雲亭の主人に戻ったことを伝えた。


「シュウ。伝言を預かっているよ」

「どうしたんだ?」

「さっき城の役人が来て、これを残していった」


 すぐに中身を確認した。そこには、


――首謀者特定。明日の陽が沈む前に、トレド東門の金剛亭へ――


と書かれていた。


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