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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第五話   出張武器職人

「実は新しい武器を探したいのです」


 そういってアオイはずっと持っている日本刀の斬月を抜いた。オークジェネラルの強打を受けて刀身はひび割れていた。


「これでは戦えません」


 さらにアオイは代わりに買った剣を抜く。


「こちらの武器も良い相性を感じません。決して悪くはないのですが……。やはり日本刀が私には一番のようです」


 雷哮の剣を使ってみて武器はこの世界で生きる生命線だと経験した僕は、宿探しを後回しにしてアオイの行きたい武器の店を回ることにした。


 娯楽都市ラファエルの入り口門の広場には、露天商が所狭しと並んでいて、それぞれが好き勝手に商売しているよう様子だった。アオイはその中の一つに興味を持ったようで近づいていった。


「こんにちは」

「……」


 店番の男性は人間族であるが武器を研ぐのに集中しているため、アオイの挨拶に気づかない。研いでいる武器は刀身に反りがあって、僕がみてもすぐに日本刀かそれと同じ系統の武器だとすぐにわかった。


「……」

「あの……」


 めげずにアオイは声をかけ続けた。ようやく気付いて顔を上げた男は


「お客様でしたか? 気づかずに申し訳ありませんでした」


と謝罪してきた。この世界について宿屋、武器防具屋以外にもいろいろと店を訪ねていたが、彼の対応は相当丁寧に分類される。日本のサービス業に近いと思った。


「お忙しいのに声をかけてしまって、こちらこそごめんなさい。それは?」


 アオイは武器屋が研いでいた刀を指さして尋ねる。


「これは『ニホントウ』と言います。珍しいでしょう。私どもの店は剣に特化した商品を多数扱っています」


 僕たちは二人のやり取りを聞いていたが、こちらの世界に『日本刀(ニホントウ)』の概念があるわけないと思っていたので驚いた。


「それはほかの店でも売っていますか?」


 冷静にアオイは聞き返す。


「売っています。しかし、この武器を一番最初に世に出したのは当店だと私は教わっています」


 男は最後にすねたような顔を一瞬見せて立ち上がった。三十歳代後半で両腕には多数の火傷があった。面構えはしっかりしていて眉毛には力強さがある。嘘はつかず、愚直なタイプではないかと思った。そしてアオイもこの男は信用できそうだと思ったようだ。


「実はこれをみてほしいのです」


 アオイは斬月を抜いて彼に見せた。


「これは?」

「魔物との戦いで破損してしましました。私の得物なのですが、修理できないでしょうか?」

「……美しい……」


 損傷している刀身であるが、斬月そのものに見とれていた男はアオイの質問をスルーしたようだ。


「……」


 しばらく男が満足するまでその場に待つ。


「あっ、すいませんでした。夢中になりすぎてしまいました。しかしこれは素晴らしい『ニホントウ』ですね。名工が打ったと思います。しかし残念ながら破損していて、このままでは通常の攻撃力の半分も出ないでしょう」

「私もそう思います。修理できますか?」

「ええ。ですが今は事情がありまして、すぐに修理できないのです」


 男はスミス=グリーズマンと名乗った。グリーズマンの家系は代々武器職人で本店は魔術都市ルベンザにあるようだ。父親が本店の代表だが、その息子を各地方へ派遣して、修行とグリーズマンの名を広めるように営業努力をしているらしい。スミスは店を持っていないが、出張でラファエルに来ていたと教えてくれた。


 すぐに修理できないと言ったのは、スミス自身は出張なのでラファエルに店を持っていない。そのため武器の作成や調整には、別の武器店の工房を借りているが、そこで問題が起きているようだ。


「もし、私の頼みを聞いていただければ、優先してその刀を修理しましょう」

「修理してもらった武器には魔石はつけられますか?」

「もちろんです。その武器にふさわしい魔素言語も施し、いまと比べ物にならない強さを発揮できるようにすることを約束します」


 丁寧であったが力強い言葉で返事をしてくれた。とうとう僕の出番だ。


「あの…」


 交渉しようと一歩踏み出した時に、


「私は夢幻の団のレイナと申します。ぜひお願いしたいのですが、その頼みとは?」


と横からレイナが出てきた。僕が条件を聞き出してそこから交渉だ! と意気込んでみたら、レイナにあっさりその役を奪われてしまった。


(僕、いらないじゃん)


 不機嫌な顔を出さないように取り繕いながら、スミスの話を聞いた。


「実は、私どもは武器の素材を取りに魔物を定期的に狩っています。いま工房を借りている武器屋の職人がいまだに戻っていないのです。その問題を解決してくれたら、私は貴方達の武器を修理します」

「それはどこでですか?」

「ラファエルから南にしばらく行くと洞窟(ダンジョン)がありますが、そこで行方不明になっているようです」

「「「「洞窟(ダンジョン)⁉」」」」


 僕、アオイ、ナオキ、レイナの四人がそろって驚いた。


「そんなに驚かなくてもこちらにはよくあるニャ」


 クーンがこっそり教えてくれた。


「オホン。ではその武器屋へ話を聞きに行きましょうか」


 僕たちは先に斬月を預けて、スミスと一緒に武器屋へ向かった。


******


 スミスの言った武器屋は、入り口付近の広場からそう遠くない位置にあった。大通りに店を構えており、二階建てで立派だった。看板には『ローランド武器店』になっている。


「戻りました」


 スミスは正面からそのまま店に入った。


「スミス、お帰りなさい」

「紹介します。冒険者夢幻の団パーティの人たちです。行方不明のローランド捜索を手伝ってくれます」


 スミスが話しているのはこの店の主人の妻。三十歳前半の人間族であった。武器を作る作業は繊細で人間かドワーフが作るのが一番のようだ。


「あら、それではさっそく」


 武器屋主人の妻はカレンと名乗った。


「行方不明と言っても、帰ってくるのが遅いんです。主人(ローランド)はいつも近くの洞窟で素材を取りに行っています。そこは初心者に好まれている洞窟で、そんなに危険ではないんです。いつもは二日ぐらいしたら帰ってくるんですが、今日で四日目になります。少し心配になっていまして」

「その洞窟というのは?」

「ラファエルから出て、すぐにある『試しの洞窟』と言います。最深階で五階までで魔物もそれほど強くありません。そのため初心者の訓練に使われていると聞いています」

「食料や水は?」

「いつも予備の分を持っていますから、足りているはずです」

「なるほど」


 それほど危険な場所ではないようだ。


「そう言った事情で主人がいない間に工房を勝手に借りることはできません。どうでしょうか? この問題を解決してくれたら、私がローランドに言って工房を使わせてもらえると思います。そうすれば先ほどの破損したニホントウを修理しましょう」


 スミスが言った。


「引き受けます」


 皆に確認して、特に滞在中やることもないので即答した。

 その後一緒にラファエルにある冒険者ギルドへ行き、スミスとカレンは依頼を、僕たち夢幻の団は依頼受注をした。

 手続きが終わると日が暮れていて、出発は明日の朝になった。スミスはこの依頼に同行もしてくれると言った。

 肝心の宿はカレンが知り合いの安全な宿を紹介してくれた。宿に着いて荷を解いた僕は、疲れもあったのかあっという間に眠りについた。


******


「ただいま」


 ホワンは宿に戻ると一番に闇の精霊に声をかけた。精霊の学習は日々わずかだが進歩していた。形も前は拳大だったが今は両手ぐらいの大きさになっていた。ホワンや魔剣に引っ付いて魔素をかき集めると大きくなりやすいようだった。


『ほ……わん……』

「ホワン、だよ」


 だいぶ話せるようになったご褒美に、闇の精霊にホワンは自分の魔素を放った。すぐに放たれた魔素に近寄るとそれを吸収して、満足そうに漂い、またホワンの背中に取り付いた。


「おいし……い……」

「ハハハハ」


 話せる言葉の種類がだいぶ増えてきたようだ。


「ホワン」


 ドアをノックせずに入ってきたのは、闇の精霊だと言ったホワンの仲間のエルフであった。


「あら、だいぶ大きくなったのね」

「ちゃんと部屋に入る前に一言断れよ」

「ごめんなさい、でも部屋の入り口は開けっ放しよ」


 そう言ってエルフは入り口を指さした。


「……返す言葉がない」

「でしょ? それよりホワン、さっき魔石商から連絡が来て、頼んでいたものが手に入ったんだって。いきましょう」

「了解」


 ホワンとエルフに闇の精霊は付いていくことにした。



 ホワン一行の所属する冒険者ギルドがある都市は、この国の王都だった。当然そこに店を構える武器、防具、魔石、宝石、奴隷などのすべての商人は大きな店を建てて、商売に精を出していた。


 ホワンたちは軽くて強い防具の開発を行っていて、魔石をつける方法を試していた。武器では成功していたが、防具ではまだだれも開発できていなかった。その防具開発に使うための魔石が入ったとの連絡だった。


 魔石商の店は王都の大きな通りに面していた。周囲では当たり前の三階建て建物であるが、赤いレンガで建てられた店はひときわ目立っていた。


「よう」


 ホワンは店の扉をくぐり、店主を呼んだ。


「いらっしゃいませ、ホワン様。お待ちしておりました」


 出てきた店主は腰が低く、やわらかな物言いでホワンを奥に招いた。


「こちらでございます」


 店主が出してきたのは数々の魔石で、それぞれ赤色、青色など色が付いていた。中には無色の魔石もある。その中から店主は直径三センチメートル近いものを選んでいった。


 選らばれた魔石はすべて色が違っており、その中には無色も含んでいた。


「ご注文いただきました色が違ってサイズが一緒の魔石は、一通りそろえたかと思います」

「それは?」

「こちらは森の奥深くの魔物から得た魔石でございます」


 店主は黒色の魔石も取り出した。


「これ自体はそれほど役に立ちませんが、懇意にしている冒険者の持ち込みでしたので、買い取らせていただきました」

「なるほど」


 しばらく考えたホワンは『そいつももらうよ』と言った。店主は注文を受けた魔石を丁寧に小箱に詰めた。


「あー、その黒いやつだけはそのままくれ」

「さようですか」


 魔石の代金を店主に渡したホワンは店を出た。


 そのまま防具屋へ顔を出した。


「目的の魔石が手に入った」

「おお! これでさっそく防具に魔石を取り付けて、防御力を上昇させる実験が再開できますな」

「たのむよ」

「お任せください」

「また来る」


 用事を終えたホワンはさっさと店を出て、通りを歩き宿へ戻った。途中で香ばしい肉を焼くにおいの誘惑に勝てず、晩飯の足しにと串焼きを購入していた。


 部屋でホワンはさきほどの黒い魔石を取り出した。これを魔石商が出した時、背中に貼りついていた黒の精霊がうずいたので買うことに決めた。


 一般に黒い魔石は魔物から得られる頻度は少ないが、その使用用途も特段といってなく、市場価格は高くなかった。珍しいからコレクターがたまに買う程度の価値だった。


 黒い魔石を机に置くと、闇の精霊はそれに飛びつくように移動した。試しに横に串焼きを置いたが、そちらに全く興味はないようだった。


「人間はまず食い気ってね」


 しばらくして魔石を見たら、置いたはずの魔石が消えていた。


(あれ?)


 そう思ったホワンは陰にある闇の精霊が大きくなっていたことに気づく。


「おい、お前。全部喰っちまったのか⁉ それに大きくなったぞ」

『ほわん』

「!」


 つい数時間前よりも滑らかにホワンと会話ができていることに驚く。


『もっとないか?』

「もうないぞ」


 恐る恐る近づくが、闇の精霊であることには違いない。


『もっとほしい』

「そのうちまた買ってやるよ」


 少し機嫌が悪くなったようにも見えたが、やがてまたホワンの背中に取り付いた。


******



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