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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
28/129

第三話   クエスト 商隊護衛Ⅰ

******


 ホワン一行は所属する冒険者ギルドのある街へ戻っていた。


「難易度の高い依頼を今回もメンバーを失わずに達成か」


 冒険者ギルドの受付職員はホワンの功績を称賛していた。


「なーに、運が良かったのさ」

「そいつは?」

「依頼の途中で拾った」


 ホワンの背中には『闇』が付いていた。エルフ族はそれを小さな精霊だと言う。


 もぞもぞと動いているが、光のある所は得意ではなく動きが鈍っていた。いつもホワン背中の魔剣と体の間にある影の部分にくっついていた。


「闇の精霊らしいんだ。面白いからつけたまんまにしてる」

「珍しいな、付き合い嫌いのお前が」

「人間は嫌いだよ。動物は好きだけどね。こいつは……」


 ホワンはその『闇』が動物かどうか考え込んでしまった。そのうち、まぁいいやと考えることをやめた。


「宿に戻っているよ。何かあればまた連絡を」

「オーケー」


 冒険者ギルド建物から出て、宿へ向かう。強い日光を浴びると少し背中が無ずかゆくなった。


「さーて、食料に酒に買い込んでっと」


 付き合いが嫌いと言われた彼は、全く接触を断っているわけではない。人間が集まり、関係を作る中で感情が動き、嘘や人をだまそうとする者達も出てくる。ホワンはそれを嫌っていた。


 自分の宿へ戻ると、一階の食堂では昼間から威勢のいい飲み会をしている冒険者がいるようだった。にぎやかな食堂を嫌った彼は部屋飲みすることを決める。見慣れた部屋で魔剣を含む装備を外した彼は、軽くなった体に違和感を感じつつも、酒への衝動を抑えきれずすぐにグラスを準備した。


――パチンっ!――


 瞬く間にホワンの買ってきた酒はキンキンに冷えた。氷の魔素術を使ったのである。


(さーて)


 今日は仕事を一つ終えたので、普段は買わない上等な酒を買っていた。店員が冷たいともっとおいしいと宣伝していたので、それならばと思い氷の魔素術で冷やすことを試してみた。狙いは的中し、良い頃に冷えたであろう酒が目の前にあった。


「楽しみな酒ができましたっと」


 さぁ、飲もうとグラスに手を出した時であった。


『ん、ん、ん』

(?)


 ホワンにはうめき声のようなものが聞こえた。気づかないぐらいの声を拾えたのは、雑多な通りではなく、静かな部屋でそれも酒を見つめていたからだろう。声の正体を探るが、視界に異常はない。


『ん、ん、ん』


 ふと彼は首元から『闇』が移動して酒の入ったグラスに取り付いた。


「お前っ! しゃべれるのか!」


 部屋にはホワンの声だけが響いた。


「んー、気のせいか?」

『に、ん、げ……。さ……け……。…………』

「やっぱり!」


 だが声というよりは、『闇』の意識がホワンの頭に直接響いてくるようだった。酒に近寄った『闇』は少しだけグラス周囲を漂ったら、また彼の背中に戻ってもぞもぞしていた。


「俺より先に味見しやがった」


 精霊に意識があったことよりも、自分より先に酒に触れたことが許せなかったようだ。


******


 シュウは窓の外が少し明るくなって目を覚ました。


(またか)


 いままで夢が続いたことなんて記憶になかったが、これも何かの影響だろう。それぐらいにしか彼は気にしなかった。


 本日早朝に貿易都市トレドから娯楽都市ラファエルへのウォン商会の商隊移動に護衛として、一緒に移動することになっていた。彼は魔剣と魔素服を着て、目立たないように旅人の服をその上から着た。魔剣は盗品なので不用意に人の目にさらないようにしなければいけないため、布を一周ほど巻き付けた。


 入念なストレッチと、本日は軽めの負荷トレーニングと剣術稽古を終えるころには、アオイ、レイナ、ナオキの準備は整ったようだ。猫人族であるクーンも宿に到着した。


 これが夢幻の団結成後、初の依頼(クエスト)受注である。


 今回は移動だけで二日間かかる予定で、往復と現地での滞在を含めると、一週間程度かかる見込みだった。最後に全員の準備を入念に確認した彼らは、トレド西門へ向かった。



「おはようございます」


 西門の出口付近にはすでに商隊が集結して荷造りが終わりつつあった。


「おはよう」


 ウォンも今回の移動には付き添うらしい。あれだけ規模の大きい商隊を組むのは珍しいと門番が言っていた。せわしく荷造りの最終チェックをしている中にシグレの姿があった。


「おはよう、シグレ」


 チェックを一度止めてシグレはこちらへ振り返った。


「おはよう、シュウ」


 シグレは現在ウォンと契約術を交わしていた。その点に触れなければ特に行動を縛るものはない。シグレは武装しておらず、商人そのものの恰好をしていた。


「武器は持たないのか?」

「ああ、持っても俺じゃあまり役に立たない。何より強い見方がいるだろう」


 そう言って僕の胸に拳を当ててきた。


「そうとううまくやっているようじゃないか」

「仲間が優秀なんだ」

「ハハハ。そういうことにしておくよ」


 そう言ったシグレはすぐに出発準備に戻ったが、それももう終わるらしかった。荷台は全部で二十近くあり、そのそれぞれに向こうで商売する物が積まれているらしかった。護衛にも僕達五人以外に、パーティが複数組いた。


 ウォンがそれぞれのパーティリーダーを呼び寄せた。


「まもなく出発いたします。日程は行きで二泊三日の行程です。途中で魔物の多い森を通りますので、皆さまよろしくお願いします」


 ウォンはそう告げた。ここにいる中で一番若いのは僕で、それ以外は少なくとも三十歳はすぎているであろう顔つきで、彼の依頼を受けるメンバーは選んだのであろう。


「私は鷹の団リーダーのコーサだ」


 一番初めに挨拶したのは三十歳代後半であろうか、自信に満ち溢れた顔をしていたコーサという冒険者だった。逞しい腕に、頑丈な鎧、得物は剣のようだ。


「蒼穹の団リーダーのグラッド、よろしく」


 次は四十歳代後半の精悍な顔つきのリーダーだった。剣ではなく杖を獲物にしているようで、装備は身軽なローブであった。指にはドクロの指輪を持っていた。


『あやつは闇術士よ』


 指輪がつぶやく。


(闇術士?)

『そうじゃ。闇属性の魔術を得意とする者じゃ。ドクロの指輪は闇属性の魔術を強める働きを持つ』

(へぇ)


 なるほどなるほどと思いながら、各パーティリーダーの挨拶は進んだ。


 最後に一番若い僕の番になった。


「夢幻の団リーダー、シュウです」


 クスクスという笑い声が混じる。


「兄ちゃん、依頼を受けるのはいいけどちゃんと装備を考えろよ」


 一見すると僕は金属の装備をしておらず、旅人の服だけなので防御には気を配っていないように見える。


 しかし冒険者は自分の装備について明かさない。秘密なんて持っていて当り前。僕も旅人の服の下には頑丈な魔素服を装着していた。この魔素服は石礫程度なら無傷で済ませられる優れものだった。


 あるものは嘲りの笑いをしていたが、いくつかのものは背中の魔剣か魔素服の存在に気づいて、真剣なまなざしで僕をみていた。


「はい、それでは出発します」


 微妙な空気を読み取ったウォンは商隊の出発を告げた。


 移動をスムーズに行うため、すべて馬車だった。ただし馬術が出来ないものは馬車の中に缶詰であった。僕たちの中からはアオイとレイナは馬術ができるので、彼女たちを馬上にしてもらい、残りは別々で護衛用の馬車に乗り込んだ。


 こちらの馬車の車輪は当然こちらの世界の基準での性能であり、中の椅子もクッションがなくて、お尻が痛かった。


 初めの数時間は少数の野盗との小競り合いが数回起きたが、すぐに決着がついた。先ほどの初めに名乗ったパーティたちは強いようで、野盗ごときでは全く問題にならなかった。


 昼休憩になる。


 馬にも休息を与えるが、僕たちの食事は配給になっていた。通常は自前のことが多いようだが、やはりウォン商会の待遇は良いらしい。カップを持って熱いスープをもらいに列に並ぶ。僕に注がれたスープは前の人たちの半分程度だった。


(⁉)


「働いていない奴にはそんなもんだ」


 ウォン商会の関係者でもないのに勝手に配給を割り振っている冒険者がいた。


 僕たちの荷物には、日本から持ってきた美味しい缶詰がいっぱい入っている。正直それを食べてやろうかとも考えたが、ここでは秘密を見せるのをグッとこらえた。


「そうですね」


 乾いた返事でその場を後にした。昼休憩から出発直前にわかったことだが、ナオキとクーンも同じことをやられ、アオイとレイナは大丈夫だったようだ。


(ふざけんなよ)


 イラつきながら昼休憩からの出発となった。


『そう怒るでない』

(怒っている? 僕が?)

『そうじゃ、冷静を欠いては旅で失敗するぞ』

(ご忠告ありがとう)

『ほれほれ、気を持ち直して』


 指輪に慰められながらまた固い板とお尻の競り合いが始まる。



 しばらく移動していたら、馬車が急停車した。


 取り決めとして急停車は夜襲とみなして、全員で情報把握と続いて共有と撃退すると決められていた。


(待っていました!)


 うっぷんを抱えて馬車から飛び出したら、敵が見える範囲にいない。


(あれ?)

『向こうじゃ』


 指輪の言うのは木々が削られた山肌に五十匹以上のゴブリンが密集しながら移動していた。先発隊がそれを敵より先に見つけて止まったのだった。


「あれを見ろ」


 先ほど僕達男性陣のスープを削った冒険者が生意気そうな顔で指示してきた。


「ゴブリンだぜ。お前らにお似合いだな」


 ムッとした僕は、


「じゃあ殺ってきます」


と返事した。


 そっとゴブリン集団の横腹から近づき、最近威力の上がった『雷伝』を放った!


――ババババァンン――


 数本の強烈な雷が僕から地面と平行に放たれ、ゴブリンの集団は一瞬で黒焦げになった。


 対して得るものもなく、討伐証明部位の耳も肉が焼けた匂いがついてしまいそうで、剥ぎ取らずにそのまま戻った。


「……」


 僕のことを知らない商隊に雇われた冒険者たちは気の抜けた顔をしていた。唯一シグレだけはニコニコ笑っていた。


「なんだよ、アレ。後で教えろよ」

「オーケー。みっちり指導するよ」


 冗談とも本気ともとれる会話をして、すぐに元の馬車に戻った。


『あまり褒められた行為ではない。手の内は隠すものじゃ』

(へいへい)


 指輪の注意で多少気分が不快になったが、先ほどの冒険者の唖然とした顔つきが、たまっていた不満を吹き飛ばしてくれた。


「あんたすげーな。初めて雷の魔素術をみたよ」


 馬車の中でそう言ったのは、先ほどのコーサだった。それにグラッドも僕に興味が湧いたらしく、こちらの馬車へ乗り込んできた。


「それほどでも」

「若いのに大したもんだ」

「どこで習ったの?」


 まさか日本から来ました! 偶然雷の魔素属性を持っていました! と話せるわけがない僕は、あいまいにごまかして話を続けた。彼らは男気のあるパーティだったようで、僕たちが最近結成したばかりのパーティだと話すと、珍しいものを見せてもらったお礼に情報をくれると言ってくれた。


「それでは……」


 せっかくなのでこれから行く娯楽都市ラファエルの話を教えてほしいと伝えると、『そんなのお安い御用だ』と言って、いろいろと話してくれた。


 娯楽都市ラファエルは、人々の快楽に特化して発展したためそのように名付けられたらしい。一般的な都市としての機能のほか、日々のストレスをはけさせるような楽しいことが目白押しなようだ。賭け事が盛んで、トランプやコインゲームに加えて、競争の順位当て、さらに人命を賭けた戦闘(バトル)があって、それぞれ大人気だと教えてもらった。


 戦闘には希望で戦闘する者もあるし、奴隷が強制出場させられることや、トーナメント形式の大会もあるとのこと。


「いろいろあるんですね」

「お勧めは中央の闘技場(コロッセウム)だ。ここは数ある中で一番面白いぞ」

「どうしてですか?」

「それは……」


 その時に外から、


「全員警戒―! これから魔の通りを通るぞ」


と大声が聞こえた。『また後で』と言われ、各員が馬車内の小窓から各方面を厳重に見張り始めた。


「どうしたのですか?」

「聞いただろう。これから魔の森へ通るんだ。進行ルートは魔の森の端を通るが、そこだけは要注意なんだ。噂だと通るだけで毎年何人もの冒険者が奥に引きずり込まれるらしい」

「それは怖い」


 怖いとは言ったが、正直僕は楽しみな気がしていて、そちらの方が勝っているようだ。


 冒険者が行方不明になる魔の森は、貿易都市トレドから娯楽都市ラファエルに行く途中の最大の障害だった。森の端を走り、数時間で抜けるようだが、中では平野や森林では出てこない魔物が出てくるようだ。


 森の中に入ると暗くなった。


 背の高い木々が密集して生えているため地上まで光が届きにくく、日が傾くとあっとういう間に暗くなってしまうのだ。そのため魔の森を通過するときは、経験から日中の日の高い時と決まっていた。


――ガタンガタン――


 日本から来た僕達から見れば性能の悪い車輪で走っていた荷馬車は、その重量と整備されていない路面を走らせていたために()()がきていた。少し小高い地面へと続く、段差があるところで先頭を入っていた荷馬車の車輪が外れた。やむなく商隊はすべてが止められ、密集体型となった。


「陣形を整えろ! 何が来るかわからんぞ」


 すでに周囲の闇の中には赤い目だけ浮いており、数えきれないぐらい大量の目が僕たちを取り囲んでいた。


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