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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第一章  発端
15/129

第十五話  クエスト 策略者Ⅰ

「あー、そういえばこんなところだったな」


 ナオキの第一声はそれだった。


(これでこちらには三回目か)


 大学校舎入り口の呼ぶ『門』に全員が無事に揃っていることを確認する。僕とレイナはサークル棟の新体操部へ剣や杖の装備品を置いていたので回収した。念のためあたりに呼びかけたが応答はなく、保管庫にはまだ大量の食料と水が残されていた。


(ここで帰還できない人を発見できれば、連れて帰るだけで成功報酬だったんだが。そんなに甘くはないか)


 今回の僕たちの目的は、


一、日本人の安否確認、生存者の救出と日本へ連れ戻すこと


二、この世界の詳しい情報


三、日本とこの世界との往復方法の確立


である。うち項目二については、貿易都市トレドの状況を報告すればいいし、項目三はまた魔素の受け渡し練習をすれば日本へ戻れるぐらいにしか考えていなかった。問題は項目一であった。言葉が通じない世界で大学校舎敷地から出て、どうやって生きているのか。いやそもそもまだ生きているのか? 移動したかさえわかない状況で手がかりがなく、ひとまず人口の多い貿易都市トレドへ行ってみてからだと思っていた。


 またジュウゾウさんはほかにも防衛省・警察から複数の依頼を受けているようだったが詳細は教えてくれなかった。


 アオイは再び日本刀斬月を装備していた。ジュウゾウさんは向こうから持ち込んだ日本刀であったが、通常の刀と違って柄の部分に魔石と思われる石が埋め込まれていて、加工されているようだった。


「シュウ様のその長剣も宝石がついているのですね?」

「これは魔石だよ、アオイ。魔素を通すと格段に切れ味が上がるんだ。トレドに腕のよさそうな武器防具屋の知り合いがいる。アオイの日本刀も魔石仕様に加工してもらえるかもしれない」

「本当ですか? それは楽しみですわ」


 全員の体調問題なし、魔素術もきちんと発動することを確認した。


「よし、行こうか」


 前とは状況が違っていて、勝手知った土地だったので僕の足取りは軽やかだった。



 大学校舎敷地を出て、海側へ出ようとするとまず渓谷がある。難なく抜けてトレドとの中間地点に野党の集落があった。正確には僕とレイナや猫人族のクーンで討伐しているので、誰もいない家が集まっているだけの場所であるはずだった。


「また、何かが住み着いていますね」


 遠目からレイナの言った人影を僕も確認していた。茂みに身を伏せてまた近づく。


「野党というよりは浮浪者ですね」


 見たところ雨風を凌いで、近くの井戸で水を飲みながらなんとか暮らしているといった様子。悩んだ僕はみんなに相談したが、結局正体を確かめて困っている人だったら、一緒にトレドへ行こうとなった。


「もしもし」

「⁉」


 びくっと驚いた様子でこちら視る。顔は薄汚れていたが、男性と奥に女性と思われる長い髪の人、さらに子供が二人いることが分かった。


「こっ、殺さないで!」

「落ち着いて。僕たちは怪しい者ではなくて、通りがかった旅人です。トレドへ行く途中にたまたま見かけました。何かあったのですか?」


 警戒を完全には解かない彼らであったが、ここにいた理由を話してくれた。家族で付近の村に住んでいたが、つい数日前にオークの集団に襲われたと言っていた。オーク達は村人を殺さずに生け捕りにしていたが、畑仕事に家族で出ていて運よく難を逃れ、ようやく屋根のある場所を見つけたとのことだった。僕たちは近くにトレドがあるので一緒に行くことを提案した。 彼らの子供たちはどちらも小学生ぐらいで、栄養状態が悪そうだったので放置できなかった。聞けばトレドは治安が良く経済が順調で非常に潤っているが、都市から離れた村や町では魔物の襲撃が絶えず、小競り合いが続いているらしい。


 家族四人も一緒に移動となり、トレドへの道を歩いている途中に道端でオークを数匹見つけた。すばやくみんな茂みに伏せて相手の状況を確認する。何かしゃべっているようでところどころ音が聞こえてくるが、会話の内容はわからなかった。


(オークの言葉を先に教えてもらえばよかったな)


 後悔しつつ敵の数を確認する。


(数は五匹で何かの探索中に見えるな。武装は剣二匹に槍、それに杖二匹か。前に僕がどうにか洞窟の中で倒した個体よりは身長も体格もずっと小さい。さてどうするかな)


「おぬし、何を迷っておる。」


 ジュウゾウさんが小声で言う。


「わしが呼ばれた世界と全く同じかはわからんが、あれはみたことがある。たしかオークといったか。あんな魔物など倒せなければこの先どこへも行けんぞ」

「わかりました。だそうだ、みんな。一人一殺だ。僕が槍を倒す。アオイとジュウゾウさんは剣持を、レイナとナオキは杖持ちで。レイナとナオキが先制攻撃、気づかれたら僕ら三人が飛び出そう」


 みな頷く。


 茂みからばれないように距離を縮める。もちろんナオキの水の魔素術で足に消音のカバーはつけてもらった。攻撃の範囲に杖持ちを捉えて、僕が合図する。レイナが『火束(えんそく)』を使うと、ビュっという音とともに鋭い火線が走って杖持ちの一匹が倒れた。もう一匹の杖持ちは『水攻』をくらっていて呼吸ができずにもがき始める。二匹が倒れた音に残りの三匹が気づく。


(今だっ!)


 茂みから音もなく飛び出した三つの影は容易にオーク三匹に致命傷を与えた。腕を斬り飛ばして、片手で槍を持ち直そうとするオークの首を間髪入れずに剣で刎ね飛ばした。アオイもジュウゾウさんも難なく敵を倒していたところで、ナオキの『水攻』をくらっていた一匹が痙攣して動かなくなった。


「オークはどうも食料になるらしい。血抜きをしてトレドへ運び込もう」


 アオイとレイナは嫌がったが、すぐに血を抜いて僕と重蔵さんが二匹を、残り一匹をナオキが担ぎ上げて移動を再開した。まもなくトレド全周を囲う塀と懐かしい門が見えてきた。これから入ろうとするのはトレドの北門で、港のある方向とは反対だった。


「おっ、あれか?」


 アオイとナオキは初めで、こちらにもこんなに人が住んでいることに感動していた。言葉がしゃべれない人もいるのでまず僕が門の警備兵に冒険者ギルドカードを見せる。


「冒険者ギルド第八級、シュウジ=クロダか。通ってよし」

「後ろの人たちは何人かが言葉をしゃべれませんが、僕の仲間です。近くの魔素術屋ですぐに覚えてもらおうと思います」


 例のごとく服のポケットに銀貨数枚を忍び込ませると、


「よし、全員通ってよし」


 ザル検問は相変わらずだった。すぐ近くのニーナばあやの魔素術屋に直行する。


「ばあや、久しぶり!」

「シュウじゃないか」


 ちょうどクーンもいて約二週間の再会だった。クーンは僕たちが戻ってくることを疑っていなかったようだった。ニーナばあやに状況を伝えて、すぐにカスツゥエラ語をアオイ・ナオキ・ジュウゾウさんに覚えもらう。


「シュウよ。この前言っていた、ゴブリン語とオーク語はどうするかい?」

「お願いします」

「覚えられるかはわからないよ」

「それでもかまいません」


 僕はなんなく魔物の言葉を二つ習得した。オーク語の発音はそう難しくないが、ゴブリン語は舌が回らず何回も噛みそうになった。しかも僕たちの中には、僕以外にほかに習得できる人がいなくて、新しい魔物の言葉では誰とも会話ができなかった。


 途中で皆と退治した野盗の集落で魔物から逃れていた四人と出会ったことを伝えた。


「実は最近難民が大量に出て、トレドやほかの都市に流入してきているニャ」


 僕が日本へ戻ったあたりから急激に多くなり、都市内にあふれてしまっているようで、教会が受け入れているがその数も数十人ではきかず、城の政治家は対策に躍起になっていると聞いた。この四人も言葉は問題ないが、行くところがなかったので教会に助けを求めようかと思ったが、ニーナばあやは一度教会へ入ると自由がきかないため勧めないと言った。代わりにニーナばあや宅にしばらく四人を受け入れてもらうこととなり、僕らは近くの宿を紹介してもらってそこを拠点にすることになった。途中で冒険者ギルドに寄って、オークをお金に換えてもらって、まだ冒険者登録していないアオイ達三人の登録を済ませた。もちろんパーティ登録もおこなった。登録中に人数が減っていることがわかり、シグレは僕のパーティから抜けていることがわかった。


(シグレ、元気でやっているのかな……)


 浮かない顔に気づいたクーンがシグレのその後を教えてくれたが、ウォン商会に弟子入りして新規の事業の立ち上げに関わっているそうだ。ウォン商会は奴隷商としては有名だが、食料・生活必需品・嗜好品などには手を出しておらず、トレドでの新規事業の立ち上げに必死に動いているらしい。どうも周りと比べて計算に非常に強く、金銭管理で騙されないという商人としては極めて大事な要素を持っているとのことだった。


(そりゃ、日本で教育受けているからね。金にも苦労しているようだし。それに比べて僕の手持ちは……)


 お金を入れていた全員分のには金貨数枚があるが、こちらで女性にも安全な宿を見つけて行動するとなると正直心もとなかった。早急に金を稼ぐ必要もあった。



 今日はひとまず明日からの活動の準備に専念して、依頼はそれ以降にこなすこととなり、ニーナばあやが推薦する宿へ入った。木造二階建て宿の規模は大きくないが、裏庭があって広かった。看板には風雲亭と書いてあった。


(ここで訓練できるな)


 中に入ると昼食の時間帯でスパイスを使ったと思われる香ばしい料理が香ってくる。一階の入り口横には食堂が設置されていたがほかに食事を食べている人はいないようだった。これは期待できそうだと思ったら、強面(こわもて)の犬人族がカウンター奥から出てきた。


「……」


 挨拶もなしにじっとこちらを見てくる。


「あのぅ、ニーナばあやからこの場所を教えてもらいましたシュウと言います。しばらく部屋を借りたいです」


 ごそごそっとカウンターの下を探ると、鍵が二つ出てきた。どうも男性部屋と女性部屋の二つみたいだ。まったく口をきいてくれないので値段も確認できないが、とりあえず泊まれるみたいだった。部屋は二階奥の向かい合った部屋で、こちらのホテル衛生基準でいえば中の上ぐらいで、思っていた以上に綺麗だった。


「荷物を置いたら、男性部屋に来てくれ。一度今後のことを話し合おう」


 しばらくした後、ジュウゾウさんやクーンを含む六人で集まって相談する。


「……という状況で、僕は依頼でお金を稼ぎつつ情報を集めて、日本人の生き残りを探すことにしようと思う」

「賛成ですわ」


 アオイが賛成してくれる。


「シュウ、どうやって日本人を見つけるつもりですか?」


 レイナが聞いてくる。


「冒険者ギルドでの依頼でこちらの世界のあちこちにいくと思うんだが、そこで日本人を探そうと考えているんだ。ほかにもギルド経由で依頼をかけることと、ウォン商会の奴隷筋で見つけてもらう形で行こうと思う。彼らの交友関係や情報網は広く、生きている人がいれば何か情報を得られるのではないかと思う」

「なるほど」

「ジュウゾウさんはどうしますか?」

「しばらくの間、わしは単独で動こうと思う。なーに、困ったらお互いに連絡を取り合おうぞ」


 オークを倒した後のジュウゾウさんは余裕たっぷりで一太刀で敵を葬っていたので、この世界の経験者として技量は問題ないと思った。


「わかりました。アオイとナオキはクーンと一緒にガデッサという武器防具屋に行って武器の調整をしてくれ。ほかにもシスターマリーの教会に行って、職業と階位確認も頼む。僕とレイナはウォン商会に行って話を通してくる。その後は冒険者ギルドにもう一度寄って、適当な依頼を受けて、日本人探しの依頼をかけて来よう」


******


 トレド中心にある領主の城、その手前の大通りにウォン商会の奴隷を扱う店はある。比較的長い道のりを僕とレイナは日本人を探すためわざと日本語で会話しながら探ったがそれらしい反応をする人は一人も見つけられなかった。奴隷商の店へ入り、ウォンかシグレと話したいと申し出ると、前に来店した時に応対してくれた女性で僕たちのことを覚えていてくれた。


「よぅ、久しぶり」


 シグレが店奥から出てきた。


「久しぶり。変わりなさそうで何よりだよ」

「きっと、戻ってくると思ってた。日本の方は問題なし?」


 日本では大騒ぎになって、不明者の捜索依頼を受ける形で僕たちはこちらへ戻ってきたことを話す。


「俺の方でも探してはみる。けど……」

「どうしかしたのか?」

「このところ奴隷の数が増えて忙しいんだ。なんでもオークが付近で村を襲っているらしくって、逃げてきた人たちがいっぱいトレドに入ってきている。みな生活資金に詰まって、身売りや奴隷落ちが後を絶たないんだ」

「その中に日本人は?」


 レイナが聞く。


「一回も見てないよ。見たらウォンさんに売却するのを待ってもらうよう言ってみる」

「ありがとう。ウォン商会依頼の娯楽都市ラファエルへの護送はいつぐらいになりそう?」

「さっきの難民大量流入で遅れそうなんだ。決まったら連絡するから宿を教えてくれ」


 風雲亭に泊まっていると伝え、ウォンには会わずにそのまま奴隷商の店を僕たちは出た。来た道を戻って冒険者ギルドに入り、依頼の掲示板を見る。代り映えしないが、探し人の依頼が増えた気がした。受付係のアイルを見つけて、依頼の張り出し方を聞くと丁寧に教えてくれた。


「アイルさん、報酬はどのぐらいが相場なんですか?」

「人を探してもらって連れてきてもらうとかじゃなくて、情報が欲しいだけですよね? 通常は銀貨一枚もあれば十分だと思います」

「それでいいです」

「ではこれで依頼を受けましたね」


 アイルへ銀貨一枚と手数料を先に支払う。


(またお金が……)

『気落ちするな。金など後でいくらでもなんとかなる』

(どこからそんな自信が出てくるんだ)


 実はあの後、風雲亭で宿泊料金の支払いを済ませていた。正確にはカウンターにいた無口な主人ではなく、その奥さんに支払った。夫婦で宿屋を営んでいて旦那の名前がダリル、奥さんがメリーだった。メリーは夫の無口を詫びて、その後すぐに宿泊料金の話になったが朝と夕食をつけて五人で二十日間宿泊して金貨二枚、武器防具屋へ行く仲間へさらにお金を分けたら、すでに金貨はなく、銀貨と銅貨がちらつく程度の持ち金しかなかった。早急に依頼を受けて金を稼ぐ必要があった。


(ええと……よさそうな依頼は……)

『オークの依頼が多いのぅ。稼がせてもらって食料にもなって一石二鳥じゃ』

(そうだな)


「レイナ、これなんかどう?」

「私もそれがいいと思っていました」

「オーク討伐一匹につき、銀貨五枚。緊急討伐依頼で値段が上がっているらしい。これなら何とかなりそうだ」


 明日クーンの力を借りてにおいで見つけて貰おうかなんて考えながら依頼を受けて、冒険者ギルドを出るときに事件は起こった。ずっと前に絡んできたジドという冒険者が、出口に仁王立ちしていて横をすり抜けられそうになかった。


「また調子に乗ってんな、ガキが」


(また、こいつか)


 今度は職員の見ている前なので絡んでくるコイツは本物のアホだと思った。また気絶させてやろうかと考えていたら、


「やめたまえ!」


と後ろから声が響いた。冒険者ギルド一階が静まり返って、振り返ると冒険者と思われるヒゲ顔の精悍な男性が立っていた。


(こいつ、どこかで……⁉)


 記憶を探るが該当する顔を思い出せない。男性はジドに入り口から退くよう促し、しぶしぶジドは従った。どうも顔の広い冒険者のようだ。


「やぁ、大丈夫かい?」

「ありがとう」

「そちらのお嬢さんは?」

「大丈夫です。ありがとうございました」


 レイナが礼儀正しくお礼を言った時、一瞬男の顔が歪んだように見えたが、もう一度見ると普通に戻っていた。


「私はローズベルト。ローズベルト=ハミルトンだ。お嬢さんに怪我がなくてよかった」


(アイツごときに怪我なんてするかよ)


 ちょっとムッとしながら僕はそう思う。ローズベルトは身なりが良く、端正な顔立ちに装備が充実していて、良い冒険者の見本のような男だった。レイナは前回と違って顔を汚さずに素顔のまま行動している。あちらでの美少女基準はこちらでも通じているらしく、通りすれ違う人たちがレイナを見つめていたのを気づいていた。僕のことを無視して話しかけるローズベルトをみて、信用できない奴だなと思った。


 冒険者ギルドを出て、宿へもどる途中にレイナはローズベルトに食事に誘われたことと泊っている宿をしつこく聞かれてやむなく教えたと言う。


(それは……)

『いやな予感がするのう』


 だがこの日、予想に反して何も起きず翌朝を迎えた。



 風雲亭で朝食をとりながら、今日の予定の話を詰めた。昨日、アオイとナオキはガデッサの武器防具屋で装備を調整していた。アオイの日本刀をみてガデッサはすぐに改造できないと言って、応急処置の代わりに柄に魔石を散らばすような加工をした。魔素の通りは前より良いが、魔石を埋め込んだ武器みたいに威力を高めることは難しいらしい。日本刀をよくみたガデッサはやってみると言って、そこから口をきいてくれなくなったとアオイは言った。ちなみにナオキも向こうから持ち込んだサバイバルナイフを見せたが同様で、剥ぎ取り用のナイフのほかに、胸当てやブーツなどの防具品購入していた。僕にもガデッサが準備してくれていて、防御用のくさび帷子だったのでさっそく着込んだ。


 アオイとナオキは昨日シスターマリーの教会にも行っていて、職業と階位を確認していた。それぞれ戦士《見習い》の階位九と魔素使い《見習い》階位七で、両方ともよく知られている職業だった。僕の職業はイレギュラーだと教えたら、二人ともクスクス笑っていた。


「クーン、今日はこの四人と君で行動する。言った通りになんとしてもオークを狩りたい」

「わかったニャ。昨日から情報集めていたが、付近の村をいくつか探索すれば、見つけられると思うニャ。それぐらいに目撃情報が多かったニャ」

「トレドの警備兵はどうしているんだ?」


 クーンは難民の大量流入でトレド内の治安維持だけでいっぱいのようだと教えてくれた。


 トレドから出て探索をさっそく始める。近くに知っている村がいくつかあると、クーンが案内してくれた。一つ目の村は皆元気で問題がなくて、オークの目撃情報もなかった。少し離れたところまで探索範囲を広げることにして、トレドから東に一時間ほど歩いて二つ目の村を見つけたが、そこはすでに廃村となっていた。


「ここはすでに襲われた跡らしいな」


 つい先日まで生活していた様子があった。家財道具も残されていて、おそらくオークが急に襲撃したのであろう。


「シュウ、魔物のにおいが少しずつ近づいているニャ。警戒するニャ」


 僕らは持っていた携帯食料の封を切って村の中心にぶちまけた。風向きに注意しつつ、茂みに隠れるとしばらくしてオークがやってきた。


「タベモノがここにあるぞ」

「まだのこっていたのか」


 僕だけがオークの言語を習得できたので会話の内容がわかった。


「ついこのあいだ、すべてたべたとおもっていた」


 二匹のオークが夢中になって食べ物をあさっている。仲間に周囲を警戒してもらうよう伝えて、僕はオークの背後から一匹を斬り殺して、もう一匹の頭を殴りつけて地面に倒し、剣を首元へ突きつけた。動けないオークに僕は、


「よぉ」


と声をかける。


「ニンゲンか。しゃべれるのか?」

「俺の質問に答えろ。不審な動きをしたら殺す。近くに仲間は?」

「いっぱいいるぞ」


 腹を蹴る。痛みで咳を吐きながら続けて答えさせる。


「もう一度聞く。仲間は?」

「ここからしばらくいくとなかまがいる。ぜんぶで十できたから、いまは八いるはずだ」

「ちゃんと答えられるじゃないか」

「……」

「お前たちの家はどこだ?」

「……」

「人間を攫っているそうだが、目的はなんだ?」

「……」


 これ以上は時間の無駄だと判断した僕は、首を斬って息の根を止めた。


「何をしゃべっていたのですか?」


 皆が集まって、アオイが聞いてきた。


「オークの残りの数と、こいつらの本拠地や目的を聞き出そうと話してたんだ。残りは八匹でここから西にいるようだ。全部やってしまおう。村に残された荷台を借りて、オークの体は持っていこう」

「で、肝心の本拠地とやらは?」


 ナオキが言う。


「だめだった。ヤツは本拠地と目的には答えなかった。僕は残りのオークを倒して回収して、トレドへ戻る方針で動きたい」

「「「「了解っ!」」」」


 皆の返事がそろった。


(僕がリーダー、か)

『このパーティの中核はおぬしじゃよ。まちがいなくな』

(指輪がついているからか?)

『そうではない。この世に生を授かったものは、持って生まれた宿命というものがある。見ていて思うのじゃが、おぬしは統率の才能がありそうじゃぞ』

(そうか)

『あと、金運がないのも宿命じゃ』

(うるさいぞ)


 僕とナオキでオークの死体をのせた荷馬車を押して、クーンとアオイで先行して偵察してもらった。クーンの斥候としての偵察能力は優秀で途中で野生の猪を見つけ、アオイが倒していたのを回収する。しばらく進み、クーンとアオイと合流した。


「この先の川辺にたしかに八匹いたニャ。一匹は杖持ちで体が大きいのでそいつがリーダーだと思うニャ」

「水場で休んでいる様子でしたわ」


 当然僕の行動は決まっている!


(さあ……)

『……蹂躙せよ!』


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