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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第九十二話 御前試合

 村人たちの回復をおこないつつ、漁村側と連絡をとり、奪回した村人を一時的に住まわせてもらう。同時に王都クラスノとモナザの冒険者ギルドにアオイたちから連絡を入れてもらい、詳細を報告した。その際には一か所の村は転移でどこかへ移動したことと、もう片方は人柱として転移術で使われる寸前であった可能性を伝えた。これを冒険者ギルド側がどう処理するかは追う必要があるが、ひとまずは解決に導いたと思っている。

 尚、敵拠点を吹き飛ばした魔剣の秘術『雷哮(らいこう)』については隠す方針として、「敵が拠点を発見されたため自爆した」と説明することで夢幻の団の皆には徹底してもらう。


 僕はこっそりとオークジェネラルたちの魔石を見つけた範囲で回収していた。が、保管庫(インベントリ)をいじっている時にアオイたちに運悪く見つかり、ほぼ回収されてしまう。売ってパーティの財布に足すのだと言われるとどうしても弱かった。

 どうにか頼み込んで二つほど大きめの魔石を残してもらい、パーティメンバーが合流して増えたため手狭になった僕の保管庫(インベントリ)の拡大に使わせてもらうことで納得してもらった。

最近では保管庫に『時間停止』だの『冷蔵・冷凍機能』だのをつけろと随分と注文がくるようになっている。


(そんなの無理だって!)


 夢幻の団はしばらく漁村に留まり、事態の行方を見守った。何回か遠方から元敵拠点のあった場所を観察したが、オークとゴブリンの軍団が戻ってくる気配はなかった。そうこうしているうちに冒険者ギルドが定期的に派兵して様子をみることになる。もちろん漁村にも見回りが来る予定だ。

 この事件を契機に村の一介の兵士であったアドリアンたち三人衆はモナザの警備兵として雇ってもらい、漁村への見回り組へ編入された。


 名もなき漁村から王都クラスノまで僕が作った転移陣は残すことにした。これは何かあった時にすぐに避難できるようにと配慮した対応だ。()()()()()()()()()()()が露見した時、説明対応に追われることを避けるため、陣の存在そのものは村で秘蔵することにしてもらう。

 王都クラスノの茶屋側には話を通して、彼らが絶対バラさないかつバレないことを条件に自由に王都まで移動できる約束を取り付けた。


 名もなき漁村から出発の日。


 僕たち夢幻の団はメリッサ、ティーホン、アドリアン三人衆を含む村人たちに手厚く見送られながら転移陣で王都クラスノへ戻った。


******


 王都クラスノへ戻り、報酬と冒険者ギルドへの貢献度を確認すると、個人もパーティも中級へと昇格していた。


 いい気分で宿の火雲亭まで戻ると知らせが届いている。魔術都市ルベンザの武器防具屋ネスに頼んでいた防具が届いていたのだ。手紙も添えられていたが、まずは現物を確かめる。

 包装を破ると真新しい防具が出てきた。首元にあたる部位の裏側には刻印もされている。


(『雷哮の防具一式 シュウジ=クロダ』)


 こういう細かい気遣いがすごく嬉しい。だからグリーズマンの武器防具店は流行るんだよ……なんて思いながらさっそく防具を装着してみる。


 サイズ測定をしてもらっていたのでピッタリ!


 関節などの可動域は一切邪魔されない。これで魔素服の上からさらに雷哮の防具をつけることになり、防御力に関しては上昇する。


(果たして魔素の通りは……)


 その場で雷変を使ったが全く問題なし! むしろ以前より体を術で変化するが簡単になって、時間もわずかだが短縮したように思った。


 さて。


 手紙の方は同じくルベンザのシェリルからだった。


――シュウへ


 君がネスの店へ頼んでいた防具ができていたので君の仲間に届けさせる。それと相談を受けていた内容だが僕の見解を伝えたい。ルベンザからトレドまで戻る前に必ず家へ寄ってくれ。


シェリル――


 相談とは僕がカーターと戦って敗れた時に見た炎の精霊(サラマンダー)についてだった。精霊が奴の放つ炎の魔素術に対して過剰な効果をもたらしていたのは間違いなかったので、そいつをどうにかできないかとずっと考えていた。魔境経由でルベンザに戻った時に彼へこの対応を相談していたのだ。


 宿の犬人族の主人は笑みの後に怪訝そうな表情となった僕を心配してくれた。『なんでもないよ』と言い、宿の二階へ切り上げた。


******


 数日後。


 ストラスプール国の王都クラスノで残すところは、約束した(させられた)御前試合のみである。これは守護聖就任式を兼ねていて、休みの間に何度もビヨンドと戦闘をイメージして、特訓もした。稽古ではアオイが彼の特徴を話で聞いて、それに合わせて動くと言う模擬「御前試合」を繰り返した。


 いよいよ明日が御前試合となった夕方。僕たちの主宿火雲亭の扉が叩かれた。


――ドンドンドンッ――


 武器と防具の点検をしていた僕は外の気配に初めから気づいていた。続いて慌ただしく階段を上がってくる音。それは宿の僕の部屋の前で止まった。


「なにか?」

「久しぶりです。シュウ殿。覚えていますか? リザーフです」

「覚えていますよ」


 リザーフはチャードが組んだ模擬戦で僕を宿から闘技場まで誘導した兵士である。彼はその際には僕をそこらにいる冒険者風情にしか思っていなかったはず。考え方はこちらの世界ではかなりまともな方であるが。


「どうしたのですか?」

「チャード様より伝言です。『明日の御前試合は太陽が一番高く上がった時に開始する。その前に闘技場控室まで来るように』」

「承ったと伝えてください」


 御前試合の登録は三人で、僕、タウロス、フードを被った冒険者だ。リザーフが『復唱が必要ですか?』と聞いてきた。


「いや、いいよ」

「では明日」


 入れ違いにコトエとギンジが階段から上がってきた。目礼を送ったリザーフは降りて宿の外へ出ていく。


「今のは?」

「王都の役人だよ。明日の御前試合の時刻と集合場所を告げに来ただけさ。それよりも……」

「服装のことですね?」

「そうそう。どうなったかなと思って」


 闘技場で民衆の前で戦うが素顔を晒すつもりは一切なかった。予め忍者二人に相談していたのである。


「お頭が――」


 隠者の里長であるケンザブロウの名前が出てきて僕は嫌な予感がした。


「――これをつけろと。後は服装でごまかせ、と言っていました」


 包みを開けるとお面いっぱい出てきた。それに黒装束。お面の一つは鬼、こちらは狐、天狗、般若……。


「これは? 魔素術道具かな?」

「その通りです。つけると集中力が増すとお頭が言っていました」


 僕がそう言ったのは、お面が魔素に纏われていたからだ。隠者の里は時代が違うが日本からの強制転移でこちらへ引っ張られた日本人が形成した住処なので、日本の文化は少しだけ残っている。お面はその名残だろうと僕は考えた。

 中から鬼を選んでつけてみる。


(似合うかな)


 視界は問題ない。が、あいにく宿の部屋に鏡はなく、僕は自分がどんな姿になっているかすごく気になった。

 その様子をみてクスクスとコトエとギンジが笑うので、きっと似合わなかあったのだろうと思ってお面を外そうとする。ところがこれが外れない!


「外れないよっ!」


 笑いながらギンジが、


「お面に魔素を流すと外れますよ」


と教えてくれた。言われたとおりにするとあっさりと外すことができた。


「呪いの道具かと思ったよ」

「すみません。抵抗なくつけられるので」

「そっか。この形だと初めての人は驚いて普通装備しないよね」

「その通りです。魔物みたいですからね」

「たしかに……」

「どうでしょうか?」

「いいと思う。敵役としてぴったりだ」

「黒装束の方はどうしましょうか?」


 僕が装備するとなると魔素服の上に雷哮の防具一式、その上に黒装束で少しゴワゴワした。最終的に僕は黒装束を諦めてお面だけをつけることとした。


 二人と別れて部屋の中でタクヤ、コウタロウ、ナオキと談笑していたら眠くなってきた。


(明日の今頃は御前試合を終えて、アリサをつれて魔術都市ルベンザまで引き上げているかな……。そのあとは自衛隊に引き渡して、シェリルと相談して……。貿易都市トレドまで転移陣を延長して、そんでもってクリス王女と話して……)


 気づけば寝台で眠りに落ちていた。


******


 翌朝。


 ハッとして僕は寝台から飛び起きる。慌てて外をみるが、太陽はまだ登り切っていない。日の出と正午の中間ぐらいだと思われた。部屋には誰もいない。

 階段を降りるとナオキたちが食事をしていた。


「ようっ! 悪役さん」

「何かあったの?」

「今日はシュウの華麗な試合だろう。みんなで見に行こうって話でね。コウタロウが今アリサを迎えに行っているよ」

「遊びじゃないんだけど」

「いいじゃないか。今日だけは特別だよ。アオイだって朝稽古に寝坊していても起こせって言わなかったし」


(確かにそうだな。しかし昨日そんな話はなかったぞ)


 ブランチとなったご飯を終えるとコトエとギンジが火雲亭に到着した。

 時間もちょうどいいので夢幻の団で闘技場まで移動することになる。



 闘技場は王都クラスノの主城横にある。近づくにつれてどんどん混雑し、日本の何車線もある通りが人、人、人で埋め尽くされてきた。縁日のような騒ぎで路肩には露店が連ねている。一角で僕たちは串焼きを購入した。


「まるでお祭りね」

「対外にも告知しているらしいよ。あの城の横に見えるのが闘技場」

「へぇ~。あれがそうなのね。おっきいね」


 レイナは自分が参加した闘技場と比べて一回り以上大きいので驚いている。


「一国家の設備だからね。多分詰めれば万単位で観客が入ると思うよ」

「すご~い、すご~い」


 コトエとギンジは見慣れているのだろうが、他のメンバーはこれほど人が集まった状態を異世界では見たことがない。

 ここからさらに人の出入りが多くなると予想され、夢幻の団は身動きが取れなくなる前に闘技場内へ入った。


 闘技場前では警備兵の中にリザーフがいて、さらにその後方に見知った顔が居た。


「リザーフ! アーシャ!」


 アーシャはビヨンドお抱えの有能な部下である。


「シュウ殿!」

「お待たせしました。こちらは僕の所属するパーティ『夢幻の団』の仲間です」

「良かった。シュウ殿まで不参加だったらどうしようかと……」

「?」

「とにかくこちらへ」


 案内されるまま僕たちは闘技場内の関係者以外立ち入り禁止区画へ入っていた。まもなく控室の寸前でチャードと会う。


「おおっ! ちょうどよい」

「今日はよろしくお願いします」

「うむ。それはそうと、ちと相談がある」

「はい?」

「今日は予定通りお主にはビヨンドの対戦相手を務めてもらう。だがほかに参加できそうな者はおらんかのう?」

「どういうことですか?」

「お主のほかにタウロスという者がおってすでに到着しておる。しかしもう一人の参加者は行方を眩ましてしまったのじゃ」

「なんと! 契約の魔素術で縛ったのでは?」

「確かにその通りじゃ。だがすでに術が解かれておる。どうやったのかは不明だがな。今の時点で来場していないのであれば欠席とみなすほかはない」

「では私とタウロスの二人ではダメなのでしょうか?」

「悪くはない。しかし二人だけではやはり体裁が悪い。しかもおるのは近接戦闘タイプばかりじゃ。見栄えも気にせねばいかん」

「話は分かりますが……」


 僕は夢幻の団のメンバーを頭で想像した。レイナは魔素術には長けていて、チャードの要求を満たすが近接戦闘は不得意である。接近戦に持ち込まれたらすぐに試合が終わってしまう。ナオキもできなくなくはないが……。そこまで考えて僕はある提案をした。


「チャード殿。それではここにいるコトエとギンジという仲間に参加してもらい、僕と一緒に三人で御前試合を行う。というのはどうでしょうか?」

「ほぅ」

「魔素術で観客を見せるのであれば僕に考えがあります。それに一対三で戦ってそれを打ち破ったとなれば、守護聖の面目も立つのではないでしょうか?」

「一理ある」


 チャードは乗り気らしい。


「コトエ、ギンジ。こちらへ」


 二人が進み出る。


「いいかい?」

「良いも何も。面白いとずっと思っていましたし。お頭にはシュウ殿に協力しろと厳命されていました」

「よし。チャード殿。二人は僕の所属する夢幻の団の仲間ですが、了承してくれました。実力は保証します」


 再びケンザブロウの方へ向く。彼はちゃっかり鑑定の魔素術を使っているらしく魔素が眼に集中していた。


「まぁ、その場しのぎではある。よいじゃろう。二人ほど追加じゃ」


(後でたっぷりと報酬を搾り取ってやろう)


 ここで僕とコトエとギンジは控室へ移動、残りの夢幻の団は観客席へと回った。

 控室ではタウロスがすでに準備を終えていた。


「久しぶりだな」

「そうでもないよ。あれから一か月経っていない」

「そうか? ん、そうだな。お前雰囲気が変わったな」

「きっと装備品の影響だよ」

「ふーん」


 装備品は変わったが、彼の言っていることは僕の階位上昇の影響だろう。


「順番はタウロス、その次にシュウと二人じゃ。しっかりと盛り上げてくれよ」


 僕たちは鬼のお面を装備した。ついでにコトエとギンジもそれぞれ狐と般若を着けて、黒装束も身に纏う。


「準備問題なし」


 チャードとアーシャは控室を出て、闘技場入り口まで僕たちを先導した。


 お読みいただき嬉しく思います。

 いくつかのブックマーク・評価をいただきました。本当にありがとうございました。

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