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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第九十一話 クエスト 消えた村人Ⅱ

 翌朝。


 起きるとすぐに体調把握と入念な準備をおこなう。今日は戦闘の可能性に加えて、夜まで時間がかかる見込みのため、アオイたちとの朝稽古は軽めで切り上げた。

 忘れないうちに携帯食と水を分けてもらい、僕の保管庫にいれておく。


 先にコトエとコウタロウを日の明るいうちに偵察に一度出した。彼女たちであれば更なる情報収集と敵に見つからないだろうと信用しての対応だ。


 僕とアオイは日中別行動。

 捕獲した敵をその拠点から距離を離してこちら側へ連れてくるため、名もなき漁村から一定の距離に転移陣の片割れを作製する。そのための移動と設置で約四十分。

 そこから敵拠点の小城付近まで移動した。ルートも予め決めており、先発した偵察部隊がわざと残した痕跡を辿った。敵の概要を見渡せる崖付近で痕跡は途絶え、『ここで待て』の合図も発見した。もう片方の転移陣を作製して、彼女たちが戻ってくるのを待つ。


 昨日は敵拠点と同じ高さから見る形だったため、柵に邪魔されてそれほど情報は得られなかった。しかし今日は高所からで、その全容がわかった。柵の内側には、人間族が使いそうな木製のボロ長屋が数軒ほど外周にあり、比較的しっかりした木の枠組みで造られた家がほかに数軒、中心には明らかに敵集団のボスが居そうな小城が出来上がっていた。

 拠点周囲の土は盛られて少し高くなっていて、外周に沿うようにこれまた高い柵が設けられている。これは敵に気づかれずに侵入するのは難しいかもしれない。見張りも東西南北に最低一匹ずつは立っている。


(これは聞いていた二十匹よりも数が多いかもしれない)


 見下ろしている木々の合間をススッと影が移動した。一瞬のことなので見逃しそうだが、僕とアオイはそれがコトエとコウタロウだと分かる。やがて敵拠点から少しずつ離れた影が少しずつ速度を上げてこちら側へ近づいてきた。


「大丈夫だった?」


 やはり影はコトエとコウタロウだった。敵に発見されていないか確認する。


「はい、見つかっていないと思います。周囲の柵には魔素陣が組み込まれていて中には入りませんでしたが、昨日より高い場所から時間をかけて偵察したので詳細はわかりました」


 彼女が言うには、オークとゴブリン四十匹以上のほかに、体格に優れており装備も良いリーダー格のオークが二匹いたと言う。視線でこちらの偵察に気づかれる可能性があったため、すぐに隠れたが通常のオークよりも強いという評価だった。


 人間族も数人見つけることができたという。服装は質素で手縄を賭けられているため、連れ去られた村人の可能性はやはり高そうだ。さらに見張りのパターンも決まっていて、高所からの見張りのほかに巡回組がいるという。二匹一組となり、三十分ほどで周囲を警戒してから正面入口より拠点へ戻っていく。


「柵に施された魔素術は破れそうか?」

「強い術式ではないと思いますが、侵入を感知したら周囲へ知らせるタイプか、侵入者を撃退するタイプか、はたまた別か。外部から見ただけでは区別がつきませんでした。これは反応を見てみないと何とも言えません」

「……わかった。巡回組の敵を捕獲して内部の情報を引き出そう。協力してくれ。それと王都の方には念のため応援を頼もう」

「「「了解っ」」」


 体を疲れさせないよう夜に向けて追加で作戦を練り、休むことにした。



――日が沈んで――


 王都から夢幻の団の応援が転移陣を使って到着した。名もなき漁村近くの転移陣にタクヤを除いたメンバーが揃う。ちなみに彼はアリサの様子を見守るため王都に残ってもらっていた。


「敵の概要は――」


 日中にコトエとコウタロウが集めた情報を全員に伝える。その上でまず巡回組二匹を捕まえてこちらへ転移させるのが第一段階。引き出した情報を元に敵から村人を救い出すのが第二段階。可能であれば拠点を潰したいが状況判断とした。


 敵の確保にはコトエとギンジが暗具の眠り針を使用してすみやかに寝かせる段取りだ。

 それぞれが適度な緊張を持って敵拠点付近への転移陣上に立ち、魔素を放った。


「ここか……」


 移動した先は明かりがなく真っ暗だが、視界確保には例によって問題なし。日中に確認していた崖まで行くと、さっそく拠点外を動いている松明と見張り二匹を見つけた。


「アイツらにしよう」


 小声の合図とともに散開、忍者二人は音もなく闇に消えていく。敵の行き先に身を隠し、通過を待つのだ。距離を取りつつ僕らもサポートに回るため、付近の茂みに身を隠した。敵が眠り耐性を持っていた場合も想定しての行動で、二重三重のプランを用意している。


 遠方から少しずつ明かりが近づいてくる。音を立てずに、自分の魔素も漏れないよう細心の注意を払う。十メートルほど向こう側まで明かりが来た。


 その時。


 茂みでドサっと音がして一匹が倒れたのが見えた。だがもう一匹は倒れる様子がない。


(まずいっ!)


 何かしらの防御だったのか、眠り針への耐性か。いずれにせよ敵拠点にいる仲間への連絡は防がなければいけない状況になった。


(ナオキッ!)


 すぐにナオキの土の魔素術が発動する! 途端にまだ立っていた見張り番の足元が落ち込む。直径と深さが約一メートルのピンポイント攻撃だったが、その場で一瞬だけ立ち止まった敵は避けることができず膝から崩れ落ちた。すかさず僕は急接近して魔剣で敵の首を刎ね飛ばす!


 声も魔素術も発することができずに処理できたはずだ。


(周囲に気づかれた様子はないな)


 発見を可能な限り遅らせるため、速やかに血と死体を地面に埋める。


「すいません。確かに命中させたのですが一匹は耐性があったようで、暗具の特殊攻撃が効きませんでした」


 ギンジが謝る。


「大丈夫、想定内だ。確保した一匹を尋問しよう」


 急ぎ魔素術を施した縄で縛り上げ、これもあらかじめ準備しておいた担架に乗せると素早くその場を後にした。



 名もなき漁村側へ転移陣を使って戻った後、尋問を始める。確保したのは幸運なことに兵士タイプのオークであった。もしゴブリンであったら話は通じても知能の問題で情報が取れない可能性があったからだ。

 以前に確保したオークが仲間へ合図を送って危ない目にあった経験から、眠っている間に装備品をすべて奪って素っ裸にした。


 夢幻の団でオークの言葉がわかるのは僕だけであり、話を聞かなければいけない。


「おいっ、起きろ!」

 

 頭に水をかけられるとそれまで眠っていたオークは眼を覚ました。


「ン……ンん⁉ ここはどこだ?」

「どこでもいい、それよりもこちらの質問に答えろ」

「ニンゲンふぜいが。すぐにナカマがきて、オマエラをコロスぞ」


――ボフッ――


 わき腹を蹴り上げられるとオークは血を吐いた。現在の僕らの実力であればオーク一匹は雑魚であるが油断はしない。


「貴様たちの仲間は何人だ?」

「……」


 僕の尋問に答える様子はない。乗り気ではなかったが体に聞くしかないと思っていたら、ギンジが自白させるための薬草があるという。即効性があるという。念のため魔素を吸い上げて衰弱させてから、薬草を試したら効果抜群だった。たちまち朦朧としたオークは()()()()()()()()()()になった。


「ナカマは……ロクジュウ以上……オークとゴブリンだ……ジェネラルもいるぞ……」

「近くの村から人間を連れ去ったな?」

「そうだ……ジェネラルがシジして……サラった……」

「生きているのか?」

「エサにしたやつはシんだ……そのほかは……イきているはずだ……」

「攫った以外に別の村を消しただろう。どうやった?」

「それは……テンイだ……」

「やはりな⁉ どこへ? 何の目的だ?」

「シらない……」

「攫った村人たちはもしかして転移の人柱か?」

「そうかもしれない……」

「次はいつだ?」

「……コンヤ……ツキがミチるとき……」

「なんだと!」


(まずいな)


「貴様らの拠点の周囲柵には魔素術が張ってあるな? あれはどういうタイプだ?」

「……さわるとジュツシャにツウチ……」



 僕はすぐにオーク語を訳して皆に伝えた。全会一致で今夜奇襲をかけて村人を救い出すことになる。尋問したオークはアドリアンたちに止めを刺してもらった。僕たちにはほんのわずかな経験値にしかならないので、彼らの今後を考えて少しでも階位を上げてもらうことにしたからだ。


 すぐに作戦会議に入る。


「敵の防御柵は感知タイプでこちらを攻撃するものではないことが分かった。ナオキの植物で橋をかけて、触らずに越えよう」

「でもよ、拠点周囲にも見張りが立っているんだろう? 敵に見つかっちまうんじゃないか」

「大丈夫だ。敵の視界は僕の魔素術で奪うので、音と匂いにだけ気を付けてほしい。またコトエとギンジに先発隊をやってもらう。優先順位は一番目に囚われの村人の位置把握、二番目に村人の退路確保だ。敵は隠密で処理対応する。敵拠点そのものはあとで潰せばいい」

「「「「「「「了解っ!」」」」」」」


 夢幻の団は敵拠点の小城まで再び転移した。崖から見渡す限りだと、まだ敵は見張り兵の異常に気づいていない。


(よし!)


 状況を確認した僕は闇の魔素術を使って黒い霧を大量に生み出し、敵拠点周囲を覆った。この術は先日覚えたばかりの闇の魔素術で、そのまま『黒霧』と命名した。魔素術修行により僕の意図に沿って移動させることができる、攻撃や防御の機能を持っていない。唯一光を通さない特徴があるので、これを利用した。


 数分後には黒霧で拠点とその周囲を視界約一メートルの状態にした。


「ナオキ、頼むぞ」


 小声で合図すると防御柵に触れないように、外側から内側に植物の橋が架けられた。それを渡って敵拠点へ侵入する。コトエとギンジは素早く散開して、脅威となる見張り兵を排除しつつ、村人を探し続ける。僕とアオイはその後方で待機していたが、やはり何匹かは侵入の気配に気づいたため、やむなく息の根を止めた。


(この魔剣、やばいな)


 僕が処理したのは武装したオークだったが一瞬で抵抗なく斬り捨てることができた。それも敵の防具を貫通して、である。

 魔物の血と魔素を吸った雷哮の剣が震える。


(とんでもない剣……か)


 倒した敵に魔剣を突き立てると、たちまちオークの魔素と体液を吸い取ってしまった。干からびた皮だけがその場に残って、魔剣が僕の精神に干渉してくる。


(まだ魔素が足りないってか? あんまり僕を困らせないでくれ)


 やがて二人が戻ってきた。


「生きている村人を二十名ほど発見しました。うち三名は怪我で移動できませんが、意識はしっかりしているようです」

「確保しよう。移動できない人たちは背負う。誘導してくれ」


 ボロ小屋の中の村人はコトエたちと接触していたため、すでに脱出の準備をしていた。鍵を壊して開放する。訓練していない村人が音を立てないように、ナオキが水の魔素術で音消し水を全員に履かせた。残念ながら既にこと切れていた村人は僕の保管庫へ回収する。


 依然として周囲は闇に覆われていて、他の敵は侵入に気づいた気配はない。

 動けない村人を協力して背負い、来た経路を戻る。


 しかし!


 もうすぐ敵拠点から脱出できるというところで、ナオキの橋が渡っている人たちの重みに耐えられず、防御柵に触れてしまった。


――ヴヴゥゥゥゥ――


 けたたましい音が響く。


「ばれたぞっ!」


 もうすぐで全員が渡りきるところだったのに! 中心から何者かの攻撃が飛んできて橋が崩壊する。殿(しんがり)を務めていた僕は、近くにいたナオキを柵の向こう側へ蹴っ飛ばし、背負っていた村人を彼に向けて投げた。


「時間を稼ぐ! 転移陣へ急げ!」


 僕たちは全員が戦闘員ではない。ちなみに想定したプランには村人を転移後に、魔素陣をわざと傷つけて作動できなくする、というものもあった。いずれにせよ名もなき漁村側に残した人たちで判断するはずだ。


(さぁ、何が来るか……)


 魔素術で吹き飛ばされた黒霧の向こうから現れたのは、いつぞやに戦ったオークジェネラルだ。強いことはわかるが、今の僕は脅威を感じない。


(ちょうどいい。時間稼ぎと、自分がどのぐらい強くなっているか――試してやる!)


 十字の紋章を発動させて五対五で自分の魔素を混ぜ合わせ、体と魔剣にすばやく纏う。


「貴様かっ! この騒ぎを起こしたのは! 殺して腸を引きずり出してやるわっ!」


 怒り心頭のオークジェネラルが火球を放ってきた! 僕は雷伝を放って相殺する。僕の魔素術の方が強かったようで、残りの雷が後方のジェネラルに命中して体を痺れさせた。


 その隙を見逃さない!


(もらったっ!)


 畳み掛けるように魔剣を先端にして雷突を発動。オークジェネラルを胸部正面から貫通して背後で実体化する。振り向きざまに上段から振り下ろして決着をつけてやった。

 魔剣と自分の手で生命が尽きるまで魔素をしっかりといただく。


(こんなもんか)


 数か月前に苦労していた敵を瞬く間に対処できたことに驚く。


 周囲にはオークやゴブリンがいたが僕の威嚇だけで動けないようだ。


 ここで敵拠点中心の小城から魔素術が光り輝いた。続いてジェネラルやそれより上位と思われるオークが大量に湧いてきた。


(増援かっ⁉)


 素早く雷球を発動させて敵を足止めする。


 まだまだ増えそうだと感じた僕はその場から逃げ出すことにした。拠点の正面門は閉められていたが、雷速で隙間から通り過ぎる。しかし門には別の魔素術が施されていようで、通り過ぎた時に魔素術が体に絡みついて僕は変化が解けて地面を転げまわった。

 魔素をしっかり通した眼で見れば、糸のようなものが体に巻き付いている。それを自分の魔素術で無理矢理に引きちぎる。

 後ろから開門する音が聞えた。先ほどの雷球も敵の門もそれほど時間稼ぎにはならなかったらしい。

 指輪の探知で味方の魔素はすでに退却しつつあるが、まだ転移陣までたどり着いていない者もいることがわかる。


(やるか……!)


 自分の魔素から生んだ黒霧を散開させて視界を確保する。


 最近の劇的な階位上昇にて強力かつ総量を増やした僕自身の魔素。それに紋章からも魔素を引っ張り出して、攻撃魔素術に一番効果的と結論づけた五対五で混ぜ合わせる。


 新しい雷哮の剣に練り合わせた魔素をすぐに注ぎ込む……! その凶刃には無数の魔素文字が浮き上がり、黒く輝きだす! 同時に低い音で唸りを生じ始めた。

 魔剣は僕にひたすら魔素を要求したが、すべて持っていかれるわけにはいかない。術が発動すると思った段階で魔素の供給を打ち切り、発動寸前に持っていく!


 開いた門から大量の魔物が溢れだしてきた。


(今だ!)


「唸れぇぇぇぇ! 雷哮ぉぉぉぉ!」


――ズゴゴゴゴォォォォ――


 凄まじい地響きとともに魔剣から雷嵐が巻き起こる! 秘術の発動だ!


――ババババァァァァン――


 直後。


 凄まじい雷嵐(サンダーストーム)が放たれ、僕を中心として扇状に術が展開された! 範囲内の魔物は千切られ、雷により焼かれる! 

 正面に控えていた敵集団を消し飛ばし、その後方の敵拠点も根こそぎ吹っ飛ばし、さらに森林と崖の一部が削り取られた!


 ……


 …………


 後ろから様子を見に来た夢幻の団の仲間たちは唖然とする。ナオキが半分呆けた口調でしゃべった。


「シュウよぉ。これは反則だぜ」

「僕もそう思う。だが今ので二割程度に抑えた」

「冗談だろう? 頭おかしいって」

「結果は出しているだろう」


 魔剣を鞘に納める。ひと暴れしたのが良かったのか大人しくなった。


「さ、けが人もいるし、早く戻ろう」


 深夜を過ぎた頃。


 奪還した村人たちを連れて、夢幻の団は無事名もなき漁村に戻った。転移陣については漁村側へ戻った後に作動しないよう、魔素文字を壊した。これで転移陣が魔素に反応して作動することはない。対となる転移陣は、片方が壊れるともう一方も壊れるため、不用意な証拠は残らない。これでオークの仲間が戻ってきても、ここへ来られる可能性は低くなるだろう。


 読んでいただいて、嬉しく思います。

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