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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第八十九話 夢幻の団員集合

――カスツゥエラ王国の魔術都市ルベンザ、僕を探索に来てくれた仲間と合流できた翌日の宿にて――


 日が出て間もなく、僕は宿内の更地にて久々にアオイと向き合っていた。朝、自分だけ早起きして体を慣らしていたら彼女が宿二階から降りてきて、『会っていない間の成果を見てあげる』という。剣術の師匠であったが、同時に仲間でもある。あからさまな上から目線に少しだけムッとしたが、心を静めて正眼で構えた。剣は新・雷哮の剣は納めたままで、借りたロングソードを使った。対するアオイは日本刀の残月で構えている。


「あら!」


 半年間の修行は構えにも反映されていたらしい。鍛錬を感じたアオイが珍しく褒めてくれた。その後如月流の基本型を確かめてから、打ち合いに入る。十数回ほど剣を重ねて、彼女は『ここからは本気で行きましょう』と言った。途端に彼女と刀が纏う魔素が力強くなった。威圧感から、彼女も半年の間に実力を上げていたことがわかった。

 僕は背負っている魔剣を使用することを決める。彼女が本気でいいと言っているし、彼女の実力ならば大きなケガにはつながりにくいだろうと考えた。また魔剣を使用してどの程度自分の剣術ができるのかを見ておきたい意味もあった。


 お互いに構えてから一呼吸。地を蹴って進み、剣術をぶつけ合う。


――キィィンン――


 彼女の刀と僕の魔剣。両方とも魔素を纏わせて、ぶつかった時互いが互いの魔素を弾き飛ばそうとする。弱い方の武器が魔素を失い、最悪の場合は武器損傷につながる。そうならないよう自分の魔素コントロールと腕力で支えるのである。


「よっ……良い剣ですわね……!」

「それっ……ほどでも……ねっ!」


 魔剣は敵味方の区別がどうもつかないらしい。『彼女を血祭りにあげろ、我をもっと使え、魔素をよこせ……!』と僕の思考にどんどん浸食してくる。


(剣自体は思っていたより使いやすいが、戦闘の邪魔は困る!)


 魔剣の意思を自前の精神力で抑えつける。前に使用していた雷哮の剣よりも波動が大きいと感じた。


 再びキィンと剣同士がぶつかった音が更地に響いて、僕とアオイは距離を取った。


「集中しないと大けがしますわよ」

「それはアオイのほうじゃないのか?」


 最初の打ち合いで一方的にアオイにやられることはないだろうと予想がつく。彼女はその場に立ったまま腰を入れて日本刀を振った。明らかに間合いへ入っていない僕は彼女の行動の意味がすぐには分からなかった。


――ビュッ――


 自分の頬を何かが通り過ぎて後ろの植物を断ち切った。切れた僕のもみあげがハラハラと空気中から地面へ落ちていく。昨日レイナに焼かれたもみあげとは反対側だ。


(なんだ? 全く見えなかったのに……)

『アオイの魔素じゃ! 剣筋の後から風の魔素による斬撃が飛んできたぞ!』

(そんなの反則じゃないか!)


 本当ならば自分の間合い外から一方的に攻撃できる能力を得たことになる。再び彼女はその場から動かず、居合の型を使ってきた。今度は魔素を眼に集中させると、横一文字に空気の刃が飛んでくるのを感じとった。指輪の言うことは正しかった。僕は斬撃に合わせて横に飛んで後方へとやり過ごした。


「アオイっ。それはまずいんじゃないのか?」


 近くには人がいるかもしれないので僕の後ろまで斬撃が飛ぶとケガ人が出る可能性がある。ここは僕たちだけの宿ではない。さらに言えば、宿の施設に傷跡を残すのはよろしくない。


「関係ない人を巻き込む可能性を心配しているなら大丈夫です。あれをみてください」


 指差した方向にはデカイ欠伸をしているナオキ。さらにその横からびっしりと植物が生えている。更地への入り口もしっかり植物で塞がれていた。僕が躱した斬撃が背後の壁に届く前に、ナオキが使った魔素術による植物が吸収していた。よく見ればこれも昨日僕を縛り付けてくれたタイプと同じ植物ではないか。


「心配すんな。そこらへんはちゃーんと考えてあるよ」


 ナオキは茎が太く、葉が丈夫で大きいタイプの植物を複数重ねて使っていた。日本では見たことがない。


「日和見草っていうんだ。こっちで見つけて種を回収した。衝撃を吸収するのにすごく便利で、それに育てるのに必要な魔素量が少なくて済む。こいつは太陽が沈むと枯れちまうんで、育てっぱなしになって害を及ぼすこともない」


 感覚ではあるが育った植物をみても術者の技量がわかる。ナオキも腕を上げているに違いなかった。この分だとレイナも……。

 再び斬撃が僕の顔面に放たれたが、今度は最小限の動きで躱す。当たらなかったアオイは少しだけ悔しそうな様子を見せた。


「アオイ、ちょっと相談があるんだ」

「まだ途中ですわよ」

「いいんだ。朝稽古はここで終わりにしよう。ナオキも相談にのってほしい」


 その場で二人に僕の雷の秘剣構想と、先に披露した時の失敗、さらにギンジに言われた改善点を伝えた。二人は、特にアオイの方はこの秘剣に強い関心を示した。一撃必殺の技であるが、大量の魔素とコントロールを必要とする。仮に習得できるとして時間がかかりそうに思った。

 この時は三回ほどアオイに敵役として正面に立ってもらい試したが、いずれも失敗した。変化の術が解けて残りの体が空中へ投げ出され、土と日和見草の味を確かめることとなってしまった。


 改善点に関しては二人からは明確な指摘が得られなかった。ただしアオイは僕に居合の稽古もやると言い始めた。すでに次に会ったときに伝授を始めるようにとジュウゾウさんの指示があったらしい。その日は型だけ教えてもらったが、アオイの刀さばきが達人すぎて、ゆっくり見せてもらっても同じ動作が難しいことがわかる。


 ここまでで朝稽古を終えた。



 宿での朝食後。ルベンザから隣国ストラスプール国の王都クラスノまでつないで転移陣を使う前に、僕は仲間と共にグリーズマンの武器防具店へ寄った。店先にはネスがちょうど出ていた。


「いらっしゃい……ってシュウじゃないか! 久々だね。元気していたのかい?」

「まぁ、ボチボチやっていました。そんなことより防具の依頼をしたいです」

「ここじゃあなんだから、入りな」


 店内にはちょうどスミスも居た。彼はネスと兄弟姉妹であり、アオイの日本刀を打ち直した職人でもある。武器に関しての技量は異世界で会った中で一番高いのではと僕は考えていた。


「今欲しいのは防具なんですが……」


 僕はカーターとの因縁の詳細は伏せて、敵の激しい攻撃で月夜の防具一式が全壊してしまったことを伝えた。その上で二つに折れた雷哮の剣を出して、防具に変えることができないか聞いてみた。元は雷の魔剣であったことを考えれば、防具に転用してもその魔素の通り、特に雷の系統については良くなるのではないかと素人ながら考えていた。

 折れた剣に驚いたのはスミスだ。彼は持ち主に許可を得ることなく折れた剣を持ち上げて見つめる。


「これは――剣同士の競り合いに負けましたな」


 僕の眼に狂いはなかった。


「はい。おっしゃられた通り、剣術や魔素の扱いで負けて、その剣にどうにか命を救われました」


 僕は宝玉が砕け散ったことには触れなかった。元の雷哮の剣の宝玉(魔石)はすでに背中の魔剣へ引き継がれている。聞かれない限り余計なことを言わないつもりだ。


「相手の剣は相当な業物だったのでしょう」


 彼は折れた剣を机に置いた。


「おそらく龍種由来の魔剣です」

「なるほど。雷鳥ごときでは分が悪い」


 彼は少し名残惜しそうな顔をしたがそこは職人。すぐに切り替えたらしい。


「先ほどの件ですが新しい武器ではなく、防具を望むのですね。それもこの折れた魔剣の金属を使って」

「はい。胸と背部からの致命傷を防ぐプレートタイプをお願いします。身動きを制限しない範囲で。それと小手と肘、膝当てをお願いします」

「わかりました。金属が不足しますので、その分はこちらで足します。うちの防具店から出した防具が簡単に壊れたなどと言いふらさないでくださいね」

「もちろんです」

「値段は……」


 僕はちらりと後方に控えていたアオイを見た。現在パーティの財布は彼女が握っている。が、命に係わる防具だったからなのか彼女の眉毛は一ミリたりとも動かなかった。大丈夫と判断した。

スミスはネスに剣金属の溶かし方の具体的な方法を伝える。ネスは数日かかると言い、出来上がり次第ルベンザの主宿へ連絡を入れるよう依頼した。

 支払いを済ませて店を出る前に、僕はもう一度スミスを呼んで、現在の魔剣の鑑定を依頼した。


「こっ、これは⁉」


 新しい魔剣は彼の興味をすごく引いたらしい。


 僕は雷を通して鞘から剣を抜いて渡した。幸いにも彼は魔剣に嫌われることなく、軽々と持ち上げて鑑定を始めた。


「シュウ殿はまたすごいものを手に入れましたな」

「やはり業物ですか?」

「ええ。これは人間族が打った剣ではありません。魔族ですな。ここを見てください」


 魔剣に魔素を流したスミスは剣部分の柄に近いところから分解して、剣本体を出していた。


「ここに刀や剣の製作者名を刻みます。ほら、この部分は魔族の文字です。名は……ベル、ク、ロ、ン? 魔素言語こそほぼ共通ですが、魔族文字は私にもよくわかりません。詳しく調べたいのならば学者に聞いた方が早いと思います」


 スミスは再び魔素を通す。


「素材の金属は鉄やミスリルが含まれていますが、よく知らない金属も使われています。魔族世界の金属と理解してもらった方が早いと思います。刻まれている魔素言語は以前より多いようで能力的に装備者側が有利となる言語ばかりですね。この『吸収』は倒した魔物の魔素術をそのまま引っ張り抜くことがあります。この性能には気づいていましたか?」


 僕は頷いた。


「ほかにも術者の精神に干渉するような魔素言語があります。扱う場合には注意してください。決して自分を見失わないように」

「ありがとう。ところでこの魔剣、前の剣とどちらが強いですか?」


 僕は一番気になっていたことを聞いてみた。


「うーん」


 スミスは腕組をして悩んだ。


「前は魔物由来の魔剣、こちらは魔族が制作した魔剣。同じ軸で強さを語ることはできません。一つだけ確実に言えることは、今のシュウ殿が持っている魔剣の方が装備者の影響が大きいと思います。例えば以前の魔剣はある程度の技量を持った者が振ればそれなりの威力がでます。同時に階位の高いものが振っても劣ることはありませんがすごく上回る威力が出ることもありません。いわば安定した出力が望めます」

「今の魔剣は?」

「技量の低いものが振っても威力は出ずに、魔剣に嫌われてしまうでしょう。反対に強い魔素術者が使えばその性能を極限まで、あるいは限界突破して出る可能性を秘めています」


 要は自分次第なのだ。


 礼を言うと魔剣を鞘に納めた。鑑定の料金は不要だと言われて店を出る。店先でスミスが『世の中が荒れ始めていますので、くれぐれもご注意ください』と言い、僕らが道の向こう側に消えるまで見送ってくれた。


******


 昼前にはルベンザの転移陣から魔境内へ飛び、その後すぐに隣国のストラスプール国、隠者の里まで着いた。ここではコトエやギンジ、さらにはタクヤにコウシロウまで待っていた。


 僕は簡単にアオイたちを紹介する。すでにコトエだけは昨日の時点で会って紹介を済ませているが、他は初対面である。それぞれが姓名を名乗ると、タクヤとコウタロウはすごく驚いていた。てっきり大学の知り合いかと僕は思ったがそうではないらしい。アオイとレイナが大学内の美女美少女で有名人だったからだ。


 久々の日本人にあった喜びよりも、異世界の土地で偶然会ったことに感動したらしい。タクヤは勢いに任せて握手とあわよくば抱擁まで試みたようだが、女性二人が戦闘態勢に入ったのでやむなく諦めていた。後で聞いたら、二人とも『ナオキと同じで風呂を覗きそう』と言う。

 ギンジはその二人を見ていたのか、スマートな挨拶で終わらせた。これが好印象で以降二人はこの国についてわからないことがあればギンジに聞くこととなる。


「ねぇ、シュウ。この後どうするの?」


 レイナが聞いてくる。


「もう一回転移陣を使えばすぐに王都クラスノ内に入れちゃうけど、一回も入り口門を通過していないと怪しまれるかもしれない。なので今日だけは徒歩で王都に入ろう。それからはアリサに会って日本へ戻る移動の打ち合わせだ。僕は用事を足してくるけど、残りの時間は観光でもいいかもしれない。それ以外は修行でもして時間を潰せば、あっとういう間に御前試合だ」

「御前試合?」


 自分の説明が抜けていたのを思い出す。


「ああ、そうだった。それは移動しながら話そうと思う」


 「夢幻の団」は王都クラスノへ向かって移動を始めた。


 お読みいただき嬉しく思います。今後もぜひよろしくお願いします。

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