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新入大学生と不思議な指輪の異世界探索  作者: 蜜柑(みかん)
第二章 指輪の記憶
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第七十九話 十字の紋章

 ブックマークありがとうございます。励みになりました。

――ズバァン――


――ズババァァンン――


――ズバァン――


――ズババァァンン――


 僕は先ほどから雷の魔素術を何度も何度も木にぶつけていた。


 今日、仲間と一緒に魔境に来ていて、それほど奥には入り込まずに隠者の里付近にいる。


 すでに周囲にはそれなりの太さの木が周囲に何本も倒れていた。これらは全てが自分の雷の魔素術で地上から一メートルほどの高さの幹を焼き切っため、自重を支えきれずに倒れた木である。


(ふむふむ)


 目的は紋章の力をコントロールする訓練と、その威力確認だ。


 自分の左手甲には、こちらの世界に転移後刻まれていた、あるいは友人のシゲが死ぬときに引き継いだと思われる十字の紋章が合計で二つほどある。


 感情が高まったり、生命の危機になると輝いて、そこから魔素を引き出すことが可能だった。


(この力を使いこなしたい)


 理由は簡単で紋章が光り輝いた時は魔素術が力強くなっていたからだ。


 単純に自分だけの魔素で術を練りこむよりも、自分の魔素と十字の紋章から引き出した魔素(結局はこれも自分の魔素なのだが)を合わせたときの方が、威力が高い。


 その検証をしている。


 僕の全快時の魔素を『二百』として、自分の魔素を『五』ほど練りこんで雷伝を放つ。


――ズバァン――


 直径二十センチぐらいの太さの木が焼き切れて、またまた大きな音を出して崩れていった。


 次に自分の魔素を『三』として、十字の紋章から引き出した魔素を『二』加えて、合計『五』にする。魔素の総量で言えば先ほどと同じだ。


 怒りのような感情を自ら導き、紋章の力が発動できる状態にする。あまりにも感情が高まると魔素のコントロールができず、感情が落ち着きすぎていると十字の紋章が輝かない。この力加減を見つけるのに役立ったのが、エドガーに直してもらった理性の指輪だ。


 この指輪が少しだけ輝く程度がちょうど十字の紋章から魔素も引き出せて、かつコントロールもできる最適な状態だと僕は結論付けた。


 淡く光った理性の指輪を見て、よし! と思いながら再び雷伝を放った。


――ズババァァンン――


 今度の雷は、木を焼き切ってさらに後方の木まで届いた。二本目の木は幹の部分を半分ほど削って、そこで魔素術が放散する。


「すげぇな、その術」


 後ろにはタクヤとコウタロウが一部始終を見守っていた。


 僕はもう彼らと仲間の協定を結んでいるので紋章のことを隠していない。目的を説明すると、彼らは協力を申し出てくれたのだ。そして二人から見ても術の威力には明確な差があった。


「後半の方が強いな」

「威力はざっと三から五割増しってところか?」


 二人が僕の術を批評する。


「僕も同意見です」


 次に試すのは物理攻撃だ。


 鉄製の短剣に自分だけの魔素を纏わせて上段から振り下ろしてみる。受け止め役は狂戦士のタクヤで、彼も同じ素材の長剣に自分の魔素を纏わせていた。身長と体格は僕の方が恵まれている。


――キンッ――


「うぉっ」


 タクヤが少しふらつき二歩ほど後ずって、そこで立ち止まった。


「次行きますよ、大丈夫ですか?」

「大丈夫に決まってんだろうが! さっさとこい。遠慮なんかすんな」


 今度は十字の紋章から引き出した魔素を、先ほどの雷伝と同じ割合で混ぜた状態で攻撃を繰り出した。込める力や振り下ろしの状態は先ほどと同じように心がける。


――キィィンンッ――


「ぐっ」


 タクヤは後ろへ数歩足を送って衝撃を逃がしていた。ふらつきの様子も先ほどより強い。


「やべぇな」

「武器に魔素を纏わせるだけでも威力が変わりますね。体感では……」

「……術と同じで三割から五割増しだと思う」

「やはりそうですか」


 この特性はぜひとも使いこなさなければいけない。


 近いうちに僕たちは日本に帰るために魔境を抜ける予定をたてている。そこにはどんな敵がいるかもわからないし、強敵に襲われる可能性だってある。こちらの国にいる限りは今のところ安全な気がするが、これから魔境からカスツゥエラ王国側へ抜けるときは要注意だと思っていた。


 ちなみに折られてしまった雷哮の剣に代わる魔剣探しは今も探し続けている。王都内の複数個所の武器屋をリストアップしてもらうようコトエたちに依頼していたのだが、先日いくつか店があると連絡が入っていた。


「よし、次の検証いくか」


 彼らは半分面白がっている。が馬鹿にするような雰囲気ではなく、単純に興味があるんだろう。


「わかりました。では次は……」


 その日夕方近くまで魔境にて、僕とタクヤとコウタロウの三人で魔素を試し続けた。


 結局、紋章から引き出す魔素と自分の魔素との比率は五割五割が一番良いようで、雷伝以外の魔素術も、先ほどと同程度の威力増加が期待できることがわかった。


******


 王都内は暦の切り替わりを前に、どの商店も賑わっていた。こちらの世界も日本と同じく『年』の概念があって、新しい年を迎える前後は商売が活発になるんだという。


 加えて年明けには新しい守護聖の就任式がある。就任式は内外からの観光客を呼び込む絶好の機会で、式典に向けて他国から見物客などが少しずつ王都に入ってきていた。


 航路がないとはいえ、ここ数年で王都が一番賑わっているとコトエは説明してくれた。


 たしかに王都に到着した時よりも、すれ違う人たちの雰囲気が変わっている。いままで聞いたことのない言語を聞く機会が増えたり、異国の服装や装備をよくみかけるようになっていた。


 大規模な商隊も複数王都に入りしていて、いつぞやの閑散としていた僕の宿が今ではすっかり満員に近い状態を連日続けていた。


「シュウ殿、ここです」


 先を歩くコトエが振り向いて指をさした方向には武器屋がある。


 本日は魔剣探しのため、コトエとギンジの案内で王都クラスノにある武器屋に来ていた。


 王都専門近くの比較的大きな武器屋。


 ここに来る前にデイビッドの武器防具屋へ魔剣探しの話を持って行ったが、『そんなたいそうな武器はあつかってねぇよ。あったとしても収集家がすぐに買って行っちまうだろうな』と言われてしまった。


 コトエたちもなかなか見つけらないようで、ようやく探し当てた店に連れてきてくれたのだ。


 店の扉を開けると来客を告げる音が店内に鳴り響く。


――カランカラン――


「いらっしゃいませ」


 奥から品の良い男性の人間族が出てきた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 店内を一瞥する。長剣・短剣・斧・槍・弓……。ありとあらゆる武器が区画別に並べられていた。中には日本でいうショーケースのようにガラスの中に保管されている武器もある。ケースには薄いが魔素文字で術が施されており、盗難に気を使っているのがすぐわかった。それらの武器は例外なく強い魔素を感じる。


(これは期待できるかも)


「強い剣を探しています」

「素材に指定はございますか?」

「指定はありませんが、とにかく丈夫な剣がほしいです」

「かしこまりました。それではこちらへ」


 店内にはほかにも客はいた。すごく強そうな装備品をつけた冒険者風か、弱そうだが強そうな護衛が後ろについている成金風のいずれかばかりだ。


 案内されるまま剣の区画へ行く。


「これはどうでしょうか?」


 店員が渡してきた物はやや短めの剣であった。素材は鉄、魔素言語は頑強と切れ味増加の二種類が彫られていた。魔石はついていない。


 握りは悪くない。


 しかし……


(できれば雷の魔石がついているタイプがいい)


 店員に自分の魔素属性をしゃべるつもりはなく、最後は自分で黄色の魔石(雷属性)つきの武器を探すつもりだった。


 お値段はある程度覚悟していたがやはり予想通りに、魔石つきの武器は一桁値段が上がっている。


「あまりお気に召さなかったようですね」


 僕の様子をみた店員は見せる剣を変えてきた。


「こちらはいかがでしょうか?」


 今度の剣は握りがいい。長さもちょうどいいかもしれない。


「振ってみても?」

「どうぞ。周りの人と武器には注意してください」


 構えて振ってみてわかったのだが重心が少し剣先に寄っていた。できれば雷哮の剣と同じぐらいの重心でもう少し手元にあってほしい。


(指輪、僕はわがまますぎるか?)

『そんなことはない。自分に合うという感覚は大事じゃ。命を預けるような武器じゃから当然だと思うぞ』


 素材はミスリル、魔素言語は頑強、切れ味増加、素早さ増加、自己修復の四つも彫られていて、魔石は……青色(風の属性)だった。


(残念だがこれではないな)


 店員へ戻すときに値札をちらりとみたが、この国の金貨で百枚以上必要だった。


 にわかに手に汗がにじんできて、僕は落とさないように慎重に店員に戻した。


「こちらもお気に召さなかったようで。それではこちらは……」


 その後店員は魔石の色を変えて数本の剣を渡してきたが、どれも雷属性の魔石ではなかった。


 途中で気づいたが店員は僕の求める魔素属性について、剣を見せたときの反応で推測したかったらしい。あとでコトエに教えてもらったのだが、客に『魔素属性は何ですか?』と聞くのは失礼なので、格式のある武器屋では店員がいろいろな武器を渡してくるのだという。


 火・水・風・土の一通りの武器を渡して僕が喜ばなかったので、それらの属性ではないと判断した店員は不思議そうな顔をした。


 少しだけ考え込む動作をした後に、自由に店内を見ていいので武器が決まったらまた声をかけてくださいと言い、僕から離れていった。


「ダメでしょうか?」


 後ろで店員とのやり取りをみていたコトエが声をかけてくる。


「武器の質は今までみてきた武器屋で一番いいと思う」


 だが肝心の雷属性の剣がないのだ。その後も一通り見まわったのだが、結局見つけられなかった。


 唯一魔石の穴をあけた状態のよさそうな剣がショーケースにあった。これは魔石を自分で選んで加工してもらうタイプの剣で、素材は鉄・ミスリル・アダマンタイトといった複数の金属で造られており、すでに魔素言語が複数彫られていた。


 魔石は店から購入か、持ち込むかのいずれかとなる。


 そのお値段がなんと!


(……ごっ……五百……金……貨……)


 これで魔石加工前の値段であった。


(と……とても手が届かない……)


 保管庫には全く金がないわけではないし、金貨も当然ある。しかし五百枚という大金はない。


 しばらくショーケースとにらめっこした僕は結局この店で武器を買うことをあきらめて店を出た。



「私の貯蓄を……」


 武器屋から出た後にコトエはお金を出してくれるような素振りだ。


「いやいや、いいよ」

「勘違いしないでください。お金を貸すのですよ」


 ウフフフと笑ってコトエは怖い顔をしている。金額が足りてるのかわからないが、もしお金が返せなかった時が怖すぎて、僕はその申し出を丁重に断った。


 結局また短剣でしばらくがんばろう。そう思ってそのままの足で、少しでも稼ぎがいい依頼を探すため冒険者ギルドに立ち寄った。


 商店街のある通りは人が多かったが、冒険者ギルドも同じく混んでいた。


 人をかき分けるように依頼が張り出された掲示板へ向かう。最近の鍛錬でひときわ筋力がついた僕は、狭いところを行くと人を吹き飛ばしてしまいそうで、丁寧に人と人と間を縫うように歩いた。


「ふむふむ……」


 掲示板を隅から隅までなめるように見回してみる。


 やはり金貨五百枚を一度に稼げる依頼は、冒険者ギルドの階級制限がついていて僕たちでは受けられなかったり、仮に受けられてたとしても『龍種討伐』だとか達成が困難な依頼ばかりだった。


 一度に高額な報酬がもえらる依頼はあきらめて、若干報酬が良くなる魔境関連の依頼に絞ることにした。


 魔境はほかの冒険者たちは嫌煙するが、僕は慣れているので周辺の薬草や討伐依頼に変更することに決めた。前よりも稼ぎが良くなるし、長い期間頑張ればあの武器屋の同じとはいわなくても、質の良い武器が買えるようになるかもしれない。


 受けることを決めた依頼の張り紙を手に持ち、ギルド受付嬢のラメルに話しかけようとした時、後ろから肩を叩かれた。


「もしもし」


 振り向けば綺麗なローブを纏ったオッサンがいた。


「そなたはもしや高額の依頼を探しておるのか?」


 お読みいただき本当にありがとうございます。


追記 2021.5.20

 本小説をお読みいただいた、ブックマークや評価をしてくださった読者皆様、本当にありがとうございます。しばらく更新していませんが、私生活が落ち着いたら再開したいと思います。


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