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第七話

 ルーシャが初めての宿泊体験をした、翌朝のことだ。


 昨日は初めて冒険者となり、さらに二人の女性冒険者とパーティを組んだルーシャは、今日は初めてのクエスト受託をする予定になっていた。


 ルーシャはカミラやローズマリーとともに宿で早めの朝食を済ませてから、二人に連れられて冒険者ギルドへと向かう。


 そしてギルドに着くと、扉をくぐってすぐのところにある、大きな掲示板の前まで案内された。


 掲示板の前はたくさんの冒険者でごった返していて、ルーシャの背丈では群がる人々の背中しか見えない。


 そんなルーシャに、カミラが説明する。


「この掲示板にクエストの依頼が貼り出されるんだ。あたしたち冒険者は、仕事が欲しいときにはここにきて、自分たちに合ったクエストを探すってわけ」


「み、見えませんっ」


 ルーシャはぴょんぴょんとジャンプして貼り紙を見ようとするが、うまくいかない。


「ははは。見たいか、ルーシャ?」


 カミラがそう聞いてくるので、ルーシャはこくこくとうなずく。

 するとカミラは──


「よし、じゃああたしがおんぶしてやるから。ほれ、掴まれ」


 そう言ってしゃがんで、ルーシャに背中を見せてきた。


 ルーシャがカミラの背中にしがみつくと、それをおぶったカミラが立ち上がる。


「おお……」


 ルーシャは感動する。

 目線が高い。

 掲示板の上の方に貼られた貼り紙もよく見える。


 ちなみに横にいたローズマリーはそれを見て、「えっ、何それ尊い」などとつぶやいていた。


 さておき、クエストの内容だ。

 掲示板には二十を超える数の貼り紙があったが、それが見ている間に一枚、また一枚と冒険者たちの手で剥がされ、持っていかれる。


 うかうかしていると、あっという間になくなってしまいそうだ。


「──っと、それいただき」


 カミラの手がそこに伸び、一枚の貼り紙を奪い取った。

 そしておんぶしているルーシャに、そのクエスト依頼書を渡してくる。


 ルーシャはそれを受け取り、カミラの背中から降りながら、依頼書の内容を確認した。


「……ゴブリン退治、クエストランクE、報酬は金貨五十枚」


「おう。クエストランクってのは、そのクエストの危険度とか難易度を表したもんだな。モンスター退治だと、ゴブリン退治ならEランク、オーク退治ならDランク、ドラゴン退治だったらAランクって具合だ。もちろんクエストランクが高い方が報酬も高い」


「でもランクの高いクエストは、冒険者ランクが上がらないと受けることができませんわ。私とカミラなら普段はDランクのクエストを受けるのですけど、今回はルーシャを見守る必要がありますから、Eランクのゴブリン退治が妥当ですわね」


 カミラとローズマリーからそう説明を受けると、ルーシャは首を傾げて二人に言う。


「あの、見守ってもらわなくても大丈夫と思うのですけど」


 確かに昨日、カミラは「簡単めのクエストを受ける」とは言っていた。


 ルーシャもそれに賛成はしたのだが、「見守る」と言われると何か違う気がする。

 ルーシャは仲間を探していたのであって、保護者を求めていたわけではない。


 が、それを聞いたカミラは、からからと笑った。


「まあそう言うなって。子供のときは背伸びしたがるのは分かるけど、大人の言うことは聞くもんだぜ」


「えっと……そうですね。分かりました」


 ルーシャは素直に従った。


 冒険者の世界に関しては、ルーシャには分からないことが多い。

 経験豊富なカミラたちが言うのだから、従っておくべきだろうと思った。


「よし、いい子だ。依頼主は半日ぐらい歩いたところにある村の村長だ。ギルドに届け出たらすぐ出発するぞ。ちなみに、おやつは銅貨三枚までな」


 カミラはそう言って、ルーシャの頭をわしゃわしゃとなでた。


 カミラは「いい人」なのだけど、この子供扱いしてくるのだけはどうにかならないかなぁと思うルーシャだった。



 ***



 冒険者ギルドの窓口にクエスト受託の申し込みをすると、ルーシャたちは銅貨三枚分のおやつは買わずに、依頼をしてきた村へと向かった。


 街を出て半日ほど歩いて目的の村に到着すると、時刻は夕焼け空がだんだんと広がろうかという頃。


 ルーシャはカミラたちのあとについて村に入る。

 そしてやがて、村長の家へとたどり着いた。


「おお、冒険者の方々ですな。よく来てくださった。ささ、どうぞ中へ」


 村長らしき初老の男性が迎え入れてくれ、カミラたちのあとに続いてルーシャも村長宅へと入っていった。


 村長もルーシャのことは少し気になったようだが、カミラが「うちの冒険者見習いです。仕事はちゃんとやるんで安心してください」と言うと、納得したようだった。


 そのあと通された応接室では、カミラやローズマリーが村長から細かい話を色々と聞き出しているのを、ルーシャは横でちょこんと座りながら聞いていた。


 カミラたちが聞いていたのは、どんな状況でゴブリンが現れたのか、現れた時刻は、その数は、装備は、被害状況は、ねぐらの場所は、などなどだ。


 ルーシャはそれを聞いていて、やっぱりプロの冒険者はすごいなぁと思っていた。


 そして、自分が子供扱いされるのも仕方ないかと思い直す。

 今のルーシャに、あれは真似できない。


 でもこれからは自分も冒険者としてやっていくのだから、カミラたちに頼ってばかりではいられない。

 自分も頑張らないと、とルーシャは気合を入れる。


 そして一通り話を聞き終えると、村長が退室したのちに、二人の先輩冒険者はルーシャも交えて作戦会議を始めた。


「さて、どう攻めるかだが……。ゴブリンどものねぐらの場所が分かってないってのが厄介だな」


「そうですわね。スカウトがいれば、足跡を追っていくことなんかもできるのでしょうけど」


「ないものねだりをしてもなぁ」


「ですわね。ありもので解決する方法を考えないと」


 カミラとローズマリーが、まずはそんな話を始める。

 それを聞いたルーシャは首を傾げた。


「スカウト、ですか?」


「ああ。スカウトってのは、いわゆる密偵──探索や隠密行動なんかのエキスパートだ。スピードを活かした戦闘能力もまあまあだし、パーティに一人いるとクエスト達成能力や安定性が格段にアップするんだけどな」


「えっと、それって──」


 ひょっとして、昨日からずっと自分の(・・・・・・・・・・)ことを見ている人(・・・・・・・・)がそれだろうかとルーシャは思ったが、パーティメンバーではないので言っても仕方ないかと口をつぐむ。


 それにしても──今日もついてきたみたいだけど、あの人は何をしているんだろう?

 あの人もやっぱり「悪い人」なのかな、などとルーシャは思ったが、ひとまずはクエストの内容に集中しようと雑念は放り捨てた。


 ルーシャはカミラたちの話に耳を傾けることにする。

 カミラが続ける。


「ま、スカウトがいないもんはしょうがねぇ。ゴブリンどものねぐらの場所が分からないってと、あと取れる手段としては──」


「迎撃、かしらね」


「だな。村で待ち伏せして、夜中に襲ってきたところを返り討ちってのが手っ取り早いか。幸いって言っていいのか分かんないけど、ここ二日間はたて続けに襲ってきてるって話だし」


「また今夜も来る可能性が高いですわね」


「そういうこった。──ルーシャ」


「は、はい!」


 びくぅっ!

 突然名前を呼ばれて、跳ね上がるルーシャ。


 そんなルーシャの頭にカミラが手を乗せてきて、またわしゃわしゃとなでる。


「そう硬くなんなって。あたしらがいるから大丈夫だよ。ただ──今日は夜更かしだ。チビッ子には厳しいかもしれないけど、今夜は寝かさねぇからな。覚悟しとけよ」


「は、はひっ! 頑張ります!」


 ゴブリンは怖くなくても、ドキドキする。


 ルーシャの冒険者としての初陣なのだ。

 カミラたちにみっともないところは見せられない。


 ルーシャがすーはーと深呼吸をしていると、横でローズマリーがはぁはぁしながら手をワキワキさせ「か、可愛い……抱きしめたいですわ……」などと言っていたので、ルーシャは彼女から逃げるように遠ざかった。


 それを見たローズマリーが、がっくりと肩を落とす。


「どうして……カミラには頭をなでさせるのに、私からは逃げるんですの……?」


「そりゃお前、犯罪者っぽいからだろ。素直に怖ぇよ」


 そのカミラのツッコミに、ルーシャはこくこくとうなずいたのだった。


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