第五話
ルーシャはカミラと一緒に冒険者ギルドに戻ってきた。
併設の酒場に行くと、ルーシャに迫ってきた悪い人の仲間らしき二人が、ルーシャやカミラ、それにカミラに引きずられた男の姿を見てオロオロとしていた。
それを見たカミラは、引きずってきた男を──
「ほら、受け取れ」
そう言って、仲間の二人に向かっておもむろに放り投げた。
放られた男は、女性の腕力で投げられたとは思えないほど浮き上がり、仲間の男たちに向かって飛んでいく。
「うわわっ……!」
慌てて受け止める男たち。
彼らもまたレアリティホルダーなのか、それでバランスを崩して倒れるようなことはなかったが。
ついでカミラは、男たちのほうへずんずんと歩いていく。
そして彼女は、ずずいっと顔を男たちに近付けると、噛みつかんばかりの勢いで言った。
「この野郎、きっちり犯罪者やってやがったからな。目ぇ覚ましたらテメェで官憲まで出頭するように言っとけよ」
カミラはルーシャのほうへと戻ってきて、少女を手招きしてから酒場スペースの奥のほうへと向かっていく。
ルーシャはそのあとについていった。
「よっ、わりぃなローズマリー、遅くなった」
カミラは一番奥のテーブルに向かって片手を上げる。
するとその席にいた一人の女性が、カミラに向かってたおやかに微笑みかけてくる。
「お帰りなさいカミラ。突然出ていくんだもの、少し驚きましたわ」
それはゆったりとした神官衣をまとった、美しい女性だった。
年齢はカミラより少し若いといったところで、二十歳前後だろうか。
栗色の髪が、緩やかにウェーブしながら背まで流されている。
神官衣をまとったシルエットは母性的で、カミラのそれとはまた別種の魅力を感じさせた。
「あら……?」
そんな神官衣の女性ローズマリーは、ルーシャの姿に気付くと──
ガタッと、椅子を倒して立ち上がった。
「か、カミラ、その子は……!」
ローズマリーの顔に浮かぶのは、驚愕の表情。
「ん? どうした、知り合いか?」
「どうした、じゃないですわ!」
その美しい女性は、ふらふらと夢遊病患者のようにルーシャのもとまで寄ってくる。
そして──
その両腕で、ルーシャのことをぎゅーっと抱きしめてきた。
「か──可愛いっ! か、カミラ、どこでこんな子を誘拐してきたんですの……!? ダメよ、犯罪よ、この可愛さは犯罪ですわ……!」
「あ、あの……少し苦しいです」
ルーシャはローズマリーの胸に顔が埋まってしまって、もがくようにジタバタする。
そこに──
──スパーンッ!
カミラが懐から取り出したスリッパで、ローズマリーの頭を引っぱたいた。
「おいローズマリー、初対面で何やってんだ。お前も官憲に突き出されたいのか」
「はっ……! 私としたことが、あまりの可愛さに、つい我を忘れてしまいましたわ」
ローズマリーがルーシャを解放する。
顔を赤くして、喘ぐように呼吸するルーシャ。
カミラはため息をつき、それからルーシャの頭に手を置きつつ、ローズマリーに説明した。
「いろいろあってな。このルーシャは、さっき冒険者になったばかりで、仲間を探してるんだとよ。こんなナリだが、どうも冒険者としての実力はあるらしい」
と、それだけ説明して、カミラは次にルーシャのほうを見てくる。
「ところでルーシャ、どうする? あたしとローズマリーも今、仲間募集中なんだけど。あたしたちとパーティ組むか?」
そう問われれば、ルーシャは少し考える。
が、特に断る理由が見当たらなかった。
ルーシャは笑顔で答える。
「はい、お願いします」
そのルーシャの花が咲いたような笑顔を見て、ローズマリーは「可愛すぎますわぁああああああっ!」と言って頭を抱えて悶えていた。