第四話
カミラは気絶した男の首根っこをつかんでずるずると引きずりながら、ルーシャと並んで街の夜道を歩いていた。
そのカミラの左手には、男の懐から探り出した「冒険者カード」。
それを眺めながら、カミラはやはり首を傾げていた。
「やっぱレベル21だし、このステータスだろ? こいつが酔っぱらってたからってチビッ子に負けるとか、ありえないんだけどなぁ……」
カミラは男の冒険者カードに書かれているステータスの数字を見ながら、難しい顔をしていた。
「冒険者カード」というのは、冒険者登録をした冒険者全員に与えられる特別製のカードのことだ。
映写魔法で複写された本人の姿が表示されているほか、冒険者ランクや「ステータス」と呼ばれる各種数値などが記載されている。
ただ冒険者カードの作成には数日がかかるため、ルーシャはまだこのカードを持っていない。
カミラが眺める男の冒険者カードには、このような記載がなされていた。
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名前:コンラッド
クラス:ファイター
レベル :21
パワー :195
スピード:190
タフネス:191
フォース:132
冒険者ランク:D
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ルーシャがそのカードを横から覗き、それからカミラに問いかける。
「この数字が『ステータス』ですか? おじいさんから聞いたことがあります」
「ああ、このパワー、スピード、タフネス、フォースってのがいわゆる『ステータス』だな。レアリティホルダーでない普通の人間は、大人でもレベルは1で、四大能力値は100ぐらいが相場だって言われてる。だからこいつ、こう見えて結構強いんだよ」
「そうですね。野生の獣並みか、それ以上の身のこなしでした。おじいさんから街の人たちはだいたい弱いと聞いていたので、少し驚きました」
「あーっと……いろいろツッコミどころがあるんだが、とりあえずギルドについてから話すか。あたしギルドの酒場に、仲間を放っぽってきちまったんだよ」
「私のために……ですか?」
「まあ、そうなるな」
「それは、ありがとうございます。……えへへ。カミラさんは『いい人』みたいですね。良かったです。街の人が『悪い人』ばかりだったら、どうしようかと思ってました」
「お前も相当変なやつだよなー」
カミラとルーシャはそんな話をしながら、夜道を歩いていった。
──一方。
夜道を歩く二人の姿を、近くの家の「屋根の上」からこっそりと窺っている者がいた。
フードを目深にかぶったその人影は、まるで影そのもののようなしなやかな動きで屋根の上を渡り、二人の動向を見守っていた。
いや、その人影が見ていたのは、ルーシャがカミラに出会う前──ルーシャが男に連れられていたときや、男と戦っていたときもずっとだ。
だが人影は、そこでそっといなくなる。
これ以上の監視は、無用だと言わんばかりに。
そうして人影が姿を消せば、あとには誰もいない屋根の上からの景色。
眼下の通りを見れば、年の離れた姉妹のように仲良く歩く、女性と少女の姿があった。