表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

第三話

 ルーシャは男に手を引かれ、街の夜道を歩いていく。


「あの、パーティメンバーと親睦を深めるのに、一人だけなんですか?」


「ああそうさ。親睦は一人ずつ深めたほうがいい」


「こっちに宿があるんですか? どんどんひと気のない方に進んでいるような」


「親睦を深めるには、ほかに人がいないところのほうがいいんだよ」


 そうしてやがてたどり着いたのは、ひと気のまったくない路地裏だった。

 つきあたりにルーシャを誘って、男はルーシャの逃げ道をふさぐ位置に移動した。


「行き止まりです。……どういうことですか?」


 細い路地裏のつきあたりに追い込まれたルーシャの数歩先に立つのは、大人の冒険者の男だ。


 男はこれから取っ組み合いでも始めるかのように、両手を前にしてルーシャに歩み寄ってきた。

 男はハァハァと荒い息をつきながら、ルーシャに向けて口を開く。


「だからさ……おじさんはキミと親睦を深めたいんだ」


「あの……おじさんはひょっとして、『悪い人』ですか? 私を騙しましたか?」


 ルーシャは山暮らしをしていた頃、大賢者マーリンから、世の中には「悪い人」というのがいるのだと教わっていた。


 実物を見たことがなかったので実感が湧かなかったが、ひょっとすると今、目の前に立っているおじさんがそれなのかもしれないと思い至ったのだ。


「ハァ……ハァ……おじさんが悪い人だったら、キミはどうするんだい? おじさんの隙を突いて逃げてみるかい? おじさんはこう見えてもレアリティホルダーで、さらに経験を積んだ冒険者でもある。たとえおじさんが酔っぱらっていても、キミのような無力な子供を逃がしはしないよ。……ふふふ……観念するんだね」


「えっと、分かりました。『悪い人』なんですね」


 ルーシャは懐をごそごそと漁り、そこから一本のワンドを取り出す。

 そして自分に迫ってくる男に向かって、半身になって構えた。


「何のつもりだい? ひょっとして、おじさんと戦うつもりかな?」


「はい。よっぽどでなければ人間を相手に魔法は撃つなと言われているので、物理で戦いますが」


「ふふふ……強気だね。おじさんよだれが垂れちゃうなぁ。キミみたいな強気なロリっ子を組み伏せて、あんなことやこんなことをして親睦を深める。楽しみだなぁ……じゃあ、いくよ」


「どうぞ」


 ルーシャが答えると同時、男は組みつきの構えのままルーシャに襲い掛かってきた。

 それも、常人を遥かに超える速度で。


「さあ、捕まえた──!」


「なるほど。ウルフやグリズリーを超えるスピードですか。確かに少し手ごわいですね」


 男が捕まえたと思ったのは勘違いだ。

 ルーシャは男を遥かに超える俊敏さで横に跳び、男の手を回避していた。


「え、あれ……? どこ行った?」


 男がきょろきょろと周囲を見回すと、すぐ真横にいたルーシャを見てぎょっとした顔を見せる。


「なっ……!?」


「こっちの番です」


 ルーシャは男の背中目掛けて、ワンドを叩きつけた。

 ボギギッと何かが軋み、折れる音がした。


「が、はっ……!」 


 男はそれで、白目をむいて地面に倒れる。

 そしてぴくぴくと痙攣し、やがてそのまま動かなくなった。


「ふぅっ……大丈夫かな、生きてますよね」


 ルーシャは男の脈を測るなどして、男の命に別状がないことを確認すると、ホッと胸をなでおろした。


 と、そこに──


「はぁっ、はぁっ……おい、大丈夫か!」


 ルーシャたちのいた路地裏に、別の人影が現れた。

 ここまで走ってきたらしく、荒く息をついている。


 女性だった。

 年の頃は二十代前半ぐらいだろうか。


 美人と呼んで差し支えないだけの整った顔立ちとプロポーション。

 やや長身で、淡い空色の髪をショートカットにしている。


 タンクトップにズボンという服装で、健康的で引き締まった肢体を惜しげもなくさらしていた。

 見る人が見れば「姐さん」などと呼びたくなる雰囲気の女性だった。


 その女性が、ルーシャたちの姿を見て戸惑いの表情を見せる。


「って、なんだこりゃあ? ──おいそこのチビッ子、これ一体どうなってんだ?」


「えぇと……少し説明が難しいのですけど、とりあえずこの男の人は『悪い人』だったらしく、私に襲い掛かってきたので、降りかかる火の粉を払うために倒しました」


「倒したって……えっ、どゆこと? こいつも確かレアリティホルダーで、普通にまあまあのレベルだった気が……あれ?」


 現場に現れた女性──カミラは、しきりに首を傾げていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ