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第十六話

 自分たちの担当のキマイラをあっという間に倒してしまったルーシャたち。


 ほかの戦局はどうだろうか。

 ルーシャは周囲を見回してみる。


 立ち並ぶ木々の合間では、三組の冒険者たちがそれぞれに一体のキマイラを相手にしていた。


 一組はカミラとローズマリー。


 一組はクライヴのパーティの女性冒険者三人。


 そしてもう一組は──クライヴが単身で、キマイラと戦っていた。


「おい、早く支援をよこせ! そっちは三人だろ! 何をグズグズとやっている!」


 キマイラを前に一人で奮闘するクライヴが、キマイラに向かって牽制するように剣を振るいつつ、仲間の女性冒険者たちに向かって怒鳴りつける。


 それを受けて悲鳴のような声を上げるのは、三人のうちのプリーストらしき白衣の女性冒険者だ。


「でも、ミィナが……! 治癒を先にしないと!」


「だからグズだと言っているんだ! カミラだってもっとマシにやったぞ! 無能にしたって三人もいるんだ、何とかしてみせようと思わないのか!」


 それを聞いたクライヴパーティの女性冒険者たちが、一瞬だが目に敵意を宿らせクライヴを睨みつけたが、戦いに夢中なクライヴがそれに気付くことはなかった。


 他方、そうしたクライヴパーティの様子を横目にしながら、いくぶんか余裕がある戦いを繰り広げているのがカミラとローズマリーのグループだ。


 バトルアックスを構えたカミラが前衛に立ち、ローズマリーが後衛で支援。


 楽勝というほどではないにせよ、二人が適確に協力することで、危なげのない安定感のある立ち回りを見せていた。


 ローズマリーが、カミラに向けてつぶやく。


「それにしても、あの三人はああまで言われて、どうしてクライヴについていこうとするのかしら。理解に苦しみますわ」


「いやぁ、ありゃもうダメだろ。クライヴのやつ、余裕がなくなると本性現すからな。なまじ腕があるだけに、普段はあそこまでにはなんねぇんだけど」


「……カミラ、ひょっとしてそこまで計算して、あんな挑発をしましたの?」


「え、あたしそんな性悪女に見える?」


「見えませんわ。偶然の産物ですのね」


「まあ、なっ!」


 カミラがキマイラの三つ首による多重攻撃を掻い潜りつつ、バトルアックスを振るう。


 斧の刃がキマイラの体にかなり深く食い込み、引き抜かれればキマイラが派手に血を噴き出した。


 一方、それを見たルーシャは──


「カミラさんたちは大丈夫そうです。なら──フレイムアロー!」


 精神集中により高まっていた魔力を解放し、再び炎を生み出す。


 そして現れた十個の火の玉を、三人の女性冒険者が対峙しているキマイラへと向けて放った。


 ──ドォオオオオオオンッ!


 ルーシャが放った炎の矢はそれぞれの目標に全弾直撃。

 それによって、すでに女性冒険者たちの攻撃で傷ついていたキマイラは、全身を黒焦げにして横倒しに倒れた。


「なっ……!?」


「「「あ、ありがとう……」」」


 驚きの声をあげるクライヴと、何が起こったか分からないけどとりあえず助かったという様子の女性冒険者たち。


 ルーシャは彼女たちに言う。


「クライヴさんの手助けをしてあげてください。一人だと大変みたいです」


 だがそれを聞いたクライヴが叫ぶ。


「なっ……ふざ、けっ……お、お前たち、手出しは無用だ! こいつは僕が一人でやる!」


 さっきは支援しろと言っておきながら、今度は手出しするなと言う。

 ルーシャは首を傾げ、自分のそばに戻ってきたシノに聞く。


「あの、シノさん。クライヴさんって、何がしたいんでしょう?」


「さあ? 自分の中のプライドを守りたいんじゃないかなと思うけど、ボクにはよく分かんない。男の人の中には、たまにああいうタイプの人がいるみたいなんだけど」


「はあ、プライド……誇りですか」


「プライドを守るにしても、もっとマシなプライドを持てばいいのにね。女性に優しくするのが僕のプライドだ、とかさ」


「んー……でも、それも変な気がします。男の人とか女の人とか、関係なく優しくすればいいような」


「ありゃ、そっか。それはルーシャちゃんの言うとおりだ。ボクも偏ってるなぁ」


 そう言って、黒装束の少女はぽりぽりと頭を掻いた。


 それから少しして、カミラとローズマリーの二人組が対峙していたキマイラを倒した。


 一方で、クライヴが自分の担当のキマイラをようやく撃沈させたのは、その後さらにかなりの時間がたってからだった。


 ついにキマイラを倒し、全身を怪我でボロボロにしたクライヴは今にも倒れそうな様子で荒く息をついていたが、しかし同時にやり遂げた顔をしてもいた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……や、やったぞ……お前たち、見ていたか──って、何してんだよ!」


 そんなクライヴが振り返ると──


 そこでは、のんきにお茶会が開かれていた。

 地面に敷かれた敷物の上で、総勢七名の女性冒険者が座って楽しそうにお茶を飲んでいる。


 キマイラを倒してきたクライヴに気付いて、最初に声をかけたのはカミラだ。


「お、ようやく終わったか。あんまり長引くもんで、みんな飽きちまってさ。ローズマリーが屋外用ティーセットを持ってたんで、みんなで一杯やって待ってたんだ。お前も飲むか?」


「ふ、ふ……ふざけるなっ! ──だいたいお前たち、こいつらは敵だぞ! 何を仲良しこよしをして……」


 クライヴは仲間の女性冒険者たちへと詰め寄り、そう罵ろうとしたのだが。

 その途中で足をふらつかせ、ばたりと地べたに倒れてしまう。


「ぜぇっ、ぜぇっ……く、くそぉっ……!」


「あらあら」


 それを見たローズマリーがクライヴのもとに歩み寄り、手をかざして魔法を使う。


「蛇の頭の毒にやられたみたいですわね。よくもまあそんな状態で、ここまで意地を張り通したこと。──あと別に、私たちは敵同士ではありませんわ。冒険者同士、どちらかというと仲間でしてよ?」


「くっ……! や、やめろ! 僕は、お前たちの施しは──」


「ああもう、うるさいですわね。解毒の魔法が使えるのはこの中では私だけなんだから、おとなしくなさい。──カミラ、ちょっとこの男、暴れないように押さえていてくれます?」


「ほい来た」


「や、やめろ、バカ──うわぁああああああっ!」


 抵抗するところをカミラに取り押さえられ、治癒魔法をかけられているのに悲鳴をあげるクライヴ。

 それを見たルーシャが、シノに問いかける。


「治癒魔法をかけられて嫌がっています……クライヴさん、実はアンデッドなんでしょうか?」


「あはは。難儀な人だねぇ」


 ルーシャとシノの二人は、ずずずっとお茶をすすりながら、いやだいやだと駄々をこねるクライヴを見ているのだった。


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