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第十五話

 ルーシャたち四人と、それにクライヴたち四人のパーティは、森の中を分け入って進んでいた。


 二つのパーティはお互い少しだけ離れて、しかし視界内にはいるといった距離感を保っている。


 というのも、シノの案内で進むルーシャたちのあとを、クライヴたちがついてくるからだ。


 クライヴ曰く、「僕たちが進むつもりだった方向に、お前たちが勝手に進んでいるだけだ」とのことである。


 それを聞いたカミラはあきれて、「もう面倒だし、そういうことにしておいてやろうぜ。一応戦力にはなるだろうしな」と言って肩をすくめていた。


 なお、ルーシャはというと──

 小さな少女は、あの後もずっと、ぷんぷんと怒っていた。


「もう、ホントなんなんですかあの人! あれじゃ仲間の人たちが可哀想です!」


 そう言ってぷっくりと頬を膨れ上がらせているルーシャ。

 先のスカウトらしき女性冒険者へのクライヴの仕打ちが、ルーシャにはいまだに納得がいっていなかった。


 どうしてあんなことを言って、あんなことをするのか。

 ちょっと強めに蹴っ飛ばしてはやったものの、ルーシャはそれで釣り合いが取れたなんて思っていない。


 そんなルーシャの頭に、カミラがぽんぽんと手を置く。


「ルーシャは優しいな。まあでも、あの仲間の女冒険者たちも相当えげつなくできてるっぽいからな。それほど同情する気も起きねぇし、あのままやられっぱなしで終わるとも思えないんだよな」


「……えげつない、ですか?」


「おう。だってあいつら、冒険者ギルドで会ったときはクライヴと一緒になってあたしらをバカにしてたろ?」


「そういえば、そうです」


「つまり、あいつらも相当したたかだってことさ。クライヴの野郎はそれに気付いちゃいないだろうけどな。今に手痛いしっぺ返しがくるぜ」


「……?」


 ルーシャにはカミラの言うことがよく分からなかったが、そう言うならそうなのかもしれないと、とりあえず保留にしておくことにした。


 それからルーシャたちは、シノに連れられて森の中をしばらく進んだ。


 すると、あるタイミングでシノが足を止める。


「……いたよ。キマイラが、一、二、三──四体か。これまたずいぶんと大盤振る舞いだね」


 シノの声は、少し緊張の色をはらんでいた。


 シノが指し示す先を見ると、ルーシャたちからだいぶ離れた場所に、異様な姿の猛獣らしき大型シルエットがいくつか、木々の間に垣間見えた。


 体の大きさはライオンと同じかそれよりもやや大きいぐらいだが、頭部は二つに枝分かれしていて、片方がライオン、片方が鋭い角を生やしたヤギ。

 加えて、尻尾が大蛇の頭になっているという奇妙な姿だ。


 それが四体、森の中をうろうろしている。


 シノが小声で言う。


「さて、どうしようか。四体は想定外だ。今ならまだ、ここで引き返せば向こうから発見される前に逃げられると思うけど」


 事前に聞いていた話では、キャラバンを襲ったキマイラの数が二体なのか三体なのか、いまいち判然としないということだった。


 証言者の護衛が、恐怖のあまり記憶が錯乱していて、二体だったような、いや三体いたかもしれないと、証言がはっきりしていなかったのだ。


 だが仮に三体だったとしても、二つの冒険者パーティでトータル八人ものレアリティホルダーがいれば、どうとでもなるだろう。

 それがシノたちの目算だったのだが──


 カミラが、シノと同じように声に緊張を含ませつつ、意見を言う。


「ルーシャとシノで一体やれるなら、あたしとローズマリーで一体仕留めるとして、あとはクライヴたちを乗せりゃ何とかなると思うが──どうだ?」


 カミラがそう言って、ルーシャのほうを見る。


 ルーシャは考える。

 グリズリーよりも数倍強くて、ひょっとするとカミラよりも強いというキマイラ。


 相手にとって不足はない──というよりも、ルーシャはどちらかというとワクワクしていた。


「──はい、大丈夫です。一撃で落としてやります」


 ルーシャはふんっと鼻息を荒くして、カミラの前でぐっと拳をにぎってみせる。


 それを見たカミラはニッと口元を吊り上げると、ルーシャの頭に手を置いて、わしゃわしゃとなでてきた。


「よし、その意気だ。──シノとローズマリーもそれでいいか?」


「オーケー。ま、ルーシャちゃんと二人なら楽勝かな」


「問題ありませんわ。クライヴたちのほうが少し心配だけれど、あれでも戦闘力だけはあるから多分何とかなりますわね」


「うっし、じゃあその線で行くか」


 それからカミラたちは、細かい作戦を詰めるための話をしていく。


 ルーシャはそれを聞きながら、初めての強敵との戦いにワクワクうずうずと心を躍らせていた。



 ***



 カミラがクライヴにかけた発破の言葉はこうだった。


「おいクライヴ、あそこにいる四体のキマイラが見えるか? あたしらがまず二体をやる。お前らはその間、残りの二体を足止めしといてくれ。こっちの分が片付いたら、そっちの手助けに行ってやるからよ。──せっかくの大規模クエストだ、協力しようぜ」


 そのカミラの言葉に、クライヴは額にまた青筋を浮かべる。


「ぼ、僕たちに、足止めをしていろだと……!? ふざけるなよカミラ! おいお前たち、絶対にカミラ達より先に二体仕留めるぞ、分かったな!」


 そう言ってクライヴは、三人の女性冒険者たちと共に、二体のキマイラのほうへと向かっていった。


 その様子を見て、ローズマリーがカミラの隣で苦笑する。


「まったく、扱いやすくて結構なことですわね。ねぇカミラ、同じパーティにいても、そうやってコントロールしてあげればよかったんじゃなくて?」


「冗談よしてくれ。そうだとしても、あんなのと四六時中一緒にいるなんざ真っ平ごめんだ」


「ま、それはそうですわね。──それじゃ、こちらも動かないと。ルーシャもシノも、準備はいいかしら?」


 ルーシャはそう聞かれて、こくんとうなずく。


 そして、シノが「オッケー」と軽く返事をして短剣を手にしたのを見て、ルーシャも懐からワンドを取り出した。


 おじいさんからもらった、強い魔力を持つというワンドだ。

 手にした者の魔法の力を高めてくれる効果があるという。


 シノがルーシャのもとに寄ってくる。


「じゃあルーシャちゃん、ボクが前衛に出るから、ルーシャちゃんは後ろから攻撃お願いね」


「わ、分かりましたっ」


「あはは、緊張してるね。大丈夫、ルーシャちゃんには力があるから、心配しないで」


「は、はい。間違えてシノさんの背中に魔法を当てたらごめんなさい」


「それはホントやめてっ!? すごく心配して!? ボク死んじゃうよ!?」


「えへへ、冗談です」


「その冗談、心臓に悪いわぁ……」


 シノとそんな会話をしつつ、スタンバイ。

 そして──


「んじゃ、行くぜ──レディ、ゴー!」


 そのカミラの掛け声とともに、ルーシャは他の三人と同時に駆け出した。


 ルーシャたちは前方、だいぶ先のほうにいるキマイラの群れへと向かっていく。


 同時にスタートした四人のうちで、一番足が速いのはシノ──と思いきや。


 ──バヒュンッ!

 ルーシャが全力で走ったら、風のように走るシノを、たやすく追い越してしまった。


「あっ……!」


 失敗したと思って足を止めると、後ろからシノの悲鳴のような声が聞えてくる。


「ちょっ、ちょっとルーシャちゃん!? 嘘でしょ!? スピードいくつあんのよ!?」


「えっと……たしか400ちょっとぐらい、だったような?」


 その場で足踏みしてシノを待って答えるルーシャ。

 シノがずざざざーっと、ヘッドスライディングするようにずっこけた。


「よ、よ、よんひゃくぅっ!? ボクだってまだ300もいってないのに! スピードはスカウトの得意分野だよ!? しかもボク★★(ダブルスター)で、レベルだって13あるんだよ!?」


「私はまだレベルは1ですけど、★★★★★(クインテトルスター)、でしたっけ」


「うんっ、知ってたね! ボク知ってたよ! でもショックだった!」


 そんなやり取りをしながらも、二人は気を取り直してまた走り始める。


 少し走って魔法の射程圏内に入ると、ルーシャはそこでブレーキをかけた。

 ワンドを掲げて、体内の魔力を高めていく。


「んじゃ、先行ってるよ! 援護よろしく!」


 シノはそう言って、前方の一体のキマイラに向かって駆けていった。

 ルーシャはそれを見送りつつ、魔力を練り上げ──


 やがて、体内の魔力は臨界に。


 キマイラと、それに向かって駆けていくシノの姿を視界に入れつつ、ルーシャは呪文を発動した。


「──フレイムアロー!」


 ──ボボボボッ!

 いつぞやのゴブリン退治の時と同じように、十の火の玉がルーシャの前に浮かび上がる。


 あのときはそれぞれを別々のゴブリンに向けて放ったが、今度は全弾を一点集中だ。


「──いけっ!」


 ルーシャはワンドを薙ぎ払う。


 それと同時に、炎の矢が一斉に射出され、目標となった一体のキマイラへと向かっていった。


 ──キュドドドドドッ!

 すべての炎の矢が、ターゲットのキマイラに炸裂した。


 爆発的な炎上が起こり、煙が晴れた後には──


 全身ボロッボロに大やけどを負った、魔獣キマイラの姿。

 よろよろふらふらと、瀕死の様相だった。


「おぉおおおおっ……!」


「ええぇー……」


 その光景に、感嘆の声を上げたのはルーシャ自身で、嘘でしょという声を上げるのはシノだ。


「す、すごいですよシノさんっ! フレイムアローが全弾命中したのに、まだ倒れてませんよ! キマイラって本当に強いですねっ!」


「す、すごい……キマイラが……あのキマイラが、たった一発の初級魔法で瀕死とか……」


 二人の驚きポイントは、ちょっとズレていた。


 結局、瀕死のキマイラにはシノが短剣でさくっとトドメを刺して、あっさりと撃破した。


 わりと秒殺の勝利であった。


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