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第十話

 ゴブリン退治のクエストを達成後、一日休んで、その翌朝。


 ルーシャはまたカミラとローズマリーに連れられて、冒険者ギルドへと向かって早朝の街を歩いていた。


 何人もの露天商──塩漬けの魚や、採れたての野菜などを売りに来ている──が通りの端で商いの準備を始める中、ルーシャたちはその間を抜けて冒険者ギルドへと向かっていく。


「確かルーシャの冒険者カードが、今日受け取れるんだったな。楽しみか、ルーシャ?」


「はい! えへへー、これで私も、カミラさんたちとお揃いです」


 そう言ってルーシャは、カミラやローズマリーに向かって嬉しそうな笑顔を見せる。


 それを見たカミラは微笑ましげな表情を見せ、ローズマリーはあまりの尊さに自身の胸元をつかみぜぇはぁと瀕死の様相を呈していた。


 ルーシャが冒険者登録をしてから、今日で四日目。

 ようやくルーシャの冒険者カードが出来上がり、それを今日受け取れることになっていた。


 初めての自分の冒険者カードだ。

 ルーシャはそれで初めてカミラたちと同じ冒険者になれるような気分にもなり、ワクワクしていた。


 するとそこに、ローズマリーが口を挟んでくる。


「でもその前に、クエストを探すほうが先ですわね。もたもたしていて、いいクエストが売り切れては困りますわ」


「そうだな。──何ならあたしたちでクエストを探して、ルーシャは先に冒険者カードを受け取りにいってもいいけど、どうするルーシャ?」


 カミラにそう聞かれるが、ルーシャはぶんぶんと首を横に振る。


 カミラたちと一緒にクエストを選びたい。

 カードを受け取るのはそれからでいい。


「よし分かった。じゃあ先にクエストを探して、それからルーシャの冒険者カード受け取りだな」


 カミラのその言葉に、ルーシャはこくこくとうなずいた。


 やがてルーシャたちは、冒険者ギルドにたどり着く。

 そして扉をくぐり、クエストが貼られている掲示板の前に行くのだが──


 そのときカミラが、掲示板の前にいた一組の冒険者パーティを見て、露骨に舌打ちをした。


「ちっ……メンドクセェやつがいやがるな」


 カミラがそうつぶやいたのと、その冒険者パーティの男がカミラに気付いたのとがほぼ同時だった。


 男が一人に女が三人というパーティ。

 女の冒険者たちは侍るように、きゃいきゃいと笑いながら男の冒険者に絡みついている。


 その中心にいる男の冒険者──二十代中頃と思しき剣士風の男は、カミラの顔を見るなり大仰な仕草で両腕を広げてみせた。


「おや、カミラじゃないか。まだ冒険者を続けていたのかい? 僕はてっきり、パーティメンバーが見つからなくて冒険者をあきらめたんじゃないかと思っていたよ」


 そう言って、男にしては長い金髪をふぁさっとかき上げる。

 さらに彼は、カミラの後ろにルーシャの姿を認めると──


「くっくっく……なんだ、ついにそんな子供までスカウトしたのかい? 仲間不足も行き着くところまで行き着いたものだね」


「うるせぇな、テメェには関係ねぇだろ。もう同じパーティでも何でもねぇんだ。あたしに構ってくるんじゃねぇよ」


 カミラはそう答えて、男の視線から守るようにルーシャの前に立つ。

 だが男は、カミラの敵意の視線を受けても涼しい顔だ。


「相変わらず威勢だけは一丁前だね。でも女の子がその態度は、ちょっと賢くないんじゃないかな。どうだい、僕に謝罪して頼み込んでくるなら、もう一度僕のパーティに入れてあげてもいいけど?」


「反吐が出る。おととい来やがれ」


「やれやれ、これだ。まったく彼女にも困ったものだね」


 そう言って男は、自身のパーティメンバーたちに向かって肩をすくめて見せた。

 彼を取り巻く女性冒険者たちは、彼に同調するようにくすくすと笑う。


 と、そこに横から割り込むのはローズマリーだ。


「クライヴ。あなたも相変わらずのようですわね」


「おや、ローズマリーじゃないか。ひょっとしてキミ、カミラとパーティを組んだのかな? 僕が誘ってあげたのに蹴ってまで。まったく理解に苦しむね」


「私には、あなたについていく人たちのほうが、理解に苦しみますわ」


「ふっ……才能だよ、才能。この冒険者ギルドで、僕に匹敵するだけの才能を持ったレアリティホルダーは、ほかにいないだろ? 彼女たちは、キミたちと違って人を見る目があるってだけさ」


「はいはい、ご高説感謝しますわ。でもそう思うんだったら、いい加減カミラに執心するのはおやめになったらいかが? 見苦しいですわよ」


 ローズマリーのその言葉に、男──クライヴの表情が不愉快の色を帯びる。


「……僕がいつ、カミラに執着したって? 僕が気に入らないのは、僕になびかない女がいるってことだけさ。ローズマリー、キミも含めてね」


「それは光栄ですわ。あなたに嫌われた者同士、仲良くやらせていただきますわ。ね、カミラ?」


「ああ、まったくだ。──ほれクライヴ、用がないならあっち行け。あたしたちはクエスト探さなきゃいけないんだよ。しっしっ」


「ちっ……! ふんっ、せいぜい低いレベルで、女だけの冒険者ごっこを楽しんでいるがいいさ。じゃあね、あばずれたち」


 そう言って金髪の優男クライヴは、侍らせている女冒険者たちを連れ、ギルドのクエスト受付のほうへと去っていった。

 そのクライヴの手には、クエストランクCの「キマイラ退治」のクエストがにぎられていた。


「はぁっ……ったく、相変わらず不愉快な野郎だな」


「ですわね。あれでこの冒険者ギルド随一の実力を持ったレアリティホルダーだっていうんだから、世も末ですわ」


 そう愚痴を言うカミラとローズマリーを見て、ルーシャは聞く。


「カミラさん、あの人と一緒のパーティだったんですか?」


「ああ、昔な。でもってそいつは、あたしの人生のでっかい汚点だ。ああー、今思い出してもおぞましい」


「えっと……あのクライヴさんという人も、『悪い人』ですか?」


「うぅん……そいつは難しい質問だなぁ。ローズマリー、どうよ?」


 カミラにそう振られると、ローズマリーは少し考える仕草をした後、ルーシャの前で目線を合わせるように屈み込んで言う。


「ルーシャ、世の中には『いい人』と『悪い人』だけでなく、『嫌なやつ』っていうのがいるんですわ」


「そう! それだ、それそれ!」


 カミラが我が意を得たというようにローズマリーに同意する。

 ルーシャはふんふんとうなずいた。


「なるほど。クライヴさんは『嫌なやつ』なんですね。確かに私も、ちょっと腹が立ちました。カミラさんとローズマリーさんのことを悪く言うのは許せません」


「ははっ、一緒に怒ってくれてサンキューな、ルーシャ。でもあんなやつのことは忘れて、あたしたちはあたしたちのクエストを探そうぜ」


「はい、そうですね」


 そうしてルーシャは、以前にそうされたのと同じようにカミラにおんぶをされて、カミラやローズマリーと一緒にクエストの掲示板を眺めはじめる。


 と、そこに一つ、気になるクエストを見つけた。


「カミラさん、あのクエスト──」


「ん……? ああ、クライヴのやつが持っていってたのと同じ、キマイラ退治のクエストか。あいつが持っていってたのに残ってるってことは、大規模クエストってことだな」


「大規模クエスト、ですか?」


「おう。一つの冒険者パーティだけに任せたんじゃ荷が重いってクエストは、複数のパーティに依頼を出すんだ。そういうのを大規模クエストって呼ぶわけ」


「なるほど。じゃあカミラさん、あのクエストを受けましょう。あの『嫌な人』をぎゃふんと言わせてやりたいです」


 ルーシャがそう言うと──

 カミラはしかし、首を横に振った。


「いや、そいつは無理だな」


「……無理? どうしてですか?」


「あたしとローズマリーはDランクだし、あたしらのパーティじゃCランクのクエストは受けられないんだよ。せめてもう一人パーティメンバーがいれば、クエスト受託条件を満たせるんだけどな」


 ルーシャはそれを聞いて、むぅと唸った。


 詳しいことは分からないが、クエスト受託条件というのがあって、今のルーシャたちのパーティではそれを満たしていないから、ランクCのクエストは受けられないということらしい。


 だがそれでは、あのクライヴが言った「低いレベルで冒険者ごっこ」というのが、実際にそういうことになってしまうのではないか。


 ルーシャはそれが不満だったので、カミラに食い下がった。


「じゃあ、もう一人いればいいんですか?」


「まあなぁ。でもそうそうパーティ未加入の冒険者なんてあぶれてねぇし。それにわがまま言って悪いけど、あたし、クライヴのせいで男の冒険者ってやつにトラウマがあってな。嫌なんだよ、男と組むの」


 そう言われるが──それでもルーシャはあきらめない。


「なら、女性の冒険者だったらいいんですか?」


「まあ、レアリティホルダーでもないド素人とか、よっぽどアレなやつじゃなけりゃな。でもそうそういねぇってそんなやつ。だからあたしとローズマリーの二人でやってたんだし」


「そうですか。でも、それなら一人、心当たりがあります。──ちょっと外まで釣りをしにいきましょう、カミラさん」


「釣り……? なんだそりゃ」


 そう怪訝そうな顔をするカミラに、ルーシャはにっこりと笑ってみせた。


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