第一話
女神の力の欠片を宿した者──レアリティホルダー。
数十人に一人の割合で生まれ、常人とは一線を画した能力を持つ彼らは、冒険者や騎士、傭兵などその能力を活かすことのできる職業に就くことが多い。
実際、これらの戦闘能力を必要とする専門職に就いている者たちのほぼすべてが、レアリティホルダーであると言われている。
だが彼らレアリティホルダーについては、あまり知られていない真実もある。
それは、女神の力の欠片──レアリティを「複数」宿した者が存在するという事実だ。
そのことを知るごく一部の者たちは、レアリティホルダーのことを一括りにせず、★のアンコモン、★★のレア、★★★のSレアなどと分類する。
世の中に存在するレアリティホルダーのほとんどが、★のアンコモンである。
次に多いのが★★のレアで、★★★のSレアともなれば数万人に一人の割合でしか存在しない。
そんな中、★★★★──世界でも数えるほどしかいないSSレアの力を持つ大賢者マーリンはその真実を知る者の一人だったが、彼はある日、自らが隠棲する山で奇跡の赤子を拾う。
★★★★★──レジェンドレアの力を持った娘。
大賢者マーリンは彼女をルーシャと名付け、大事に育てた。
そして、マーリンがルーシャを拾った十年後、さしもの大賢者も年老いてこの世を去った。
ルーシャは暮らしていた山から下りて、人里へと出ていく。
そして彼女は街につくと、マーリンに言われたとおりに冒険者ギルドへと向かうのだった──
***
──カランカラン。
ルーシャが冒険者ギルドの入り口の扉を押し開けると、扉に仕掛けられた鳴子が音をたてる。
冒険者ギルドは、たくさんの人々でごった返していた。
ルーシャはきょろきょろと辺りを見回すと、一番近くにいた五人組の冒険者らしき男女に声をかけた。
「あの、お尋ねしたいのですが。冒険者を始めるには、どうしたらいいでしょうか」
ルーシャが背伸びをしたような口調でそう尋ねると、彼女を見た冒険者たちは唖然とした顔をする。
まだ十歳の幼い娘であるルーシャだ。
冒険者たちのうち、一人の男が身をかがめ、ルーシャの頭にぽんぽんと手を置いてくる。
「あのな、お嬢ちゃん。ここは子供の来る場所じゃないぞ。親はどうした?」
「おじいさんは死にました。それで死に際に、私はひとまず冒険者を始めるべきだと言われたので、こちらに」
ルーシャがそう答えると、男は怪訝そうな顔をした。
男は屈めていた身を起こし、仲間たちに向かって肩をすくめて見せてから、ルーシャに向かって言う。
「そうかい。それならあそこにお姉さんがいるだろ。あれが冒険者ギルドの窓口だから、あのお姉さんに聞いてみるといい」
「分かりました。ありがとうございます」
ルーシャはぺこりと頭を下げると、男が指し示したほうへと向かった。
ルーシャが向かった先には、冒険者窓口のカウンターがあって、そこには受付嬢がいた。
「あの、冒険者を始めたいのですが。登録はこちらでしょうか」
カウンターの高さに難儀したルーシャが背伸びしながらそう問いかけると、受付嬢は困り顔になる。
「え、えっと……あなたは、一人? 親御さんはいないの?」
「はい。おじいさんは死にました。おじいさんが書いた紹介状ならあります」
ルーシャは懐からごそごそと、一通の封筒を取り出す。
「へ、へぇ、そうなんだ。それじゃあ、一応読ませてもらうね」
受付嬢は半信半疑にそれを受け取ると、封を切って中の手紙へと目を通した。
が、その表情がみるみるうちに真剣になっていく。
「だ……大賢者、マーリン……?」
「はい。おじいさんの名前はマーリンです。大賢者と呼ばれていました」
「えっと……ちょ、ちょっと待っててくれるかな? ──ギルド長ぉおおおおっ!?」
受付嬢は悲鳴のような声を上げて、ギルドの奥のほうへと消えていった。