06,スイーツ大好き少年
「へいミドリン、ゼッちん! 今日こそはJKらしく放課後に遊びに行くわよ!」
「あんたはともかく、俺たちはJKじゃあないってば。つぅか肩を叩くな肩を」
番長襲来にも慣れたある日の朝。HR前の教室にて。
番長ことアリスターンは元気よく、愛雅と善央の肩をバシバシと叩く。
どうも、軽率なスキンシップこそが友達らしさだと思っているらしい。
「あんたら、今日はバイト休みなんでしょ?」
「何で知っているんだよ……」
「ゼッちんは休みだって聞いたから」
「聞かせたよ~」
「俺も休みとは限らないだろ?」
「どうせあんたはゼッちんと意地でもシフト合わせてんでしょ?」
「何故わかる……!?」
「わかりやすいから。てな訳で放課後はケーキバイキングね」
ぴくッ、と、甘いの大好き愛雅くんが反応する。
しかし、
「ぃ、いや、こう言っちゃあ、しらけさせるようでなんだが……そんな気軽にケーキバイキングに行ける金は……」
「半額クーポンがここに三枚ほど」
「ありがとう、番長。俺はあんたが大好きだ」
「アタシもあんたのそう言うわかりやすい所は好きよ」
愛雅とアリスターン、出会って初めて、熱い友情の握手を交わした瞬間である。
「アリス先輩も愛雅の扱い方が慣れてきたね~」
でも軽率に好き好き言うのはやめてねー……? と善央は愛雅に含みのある微笑みを向ける。
「はい、話は決まり! 放課後ね~」
HR開始の予鈴が鳴り、アリスターンは足早に教室を出て行った。
「……俺は今日、初めて、番長に絡まれて良かったと思った……!」
「僕は愛雅の将来が若干心配になったかなー? ケーキに釣られてどこまでも連れていかれそう」
「そ、そこまでは……ないと思う」
「せめて断言しとこうよー……」
善央がやれやれと呆れ笑顔を浮かべていると、
「ねぇ、藍坂くん。ちょっと良いかな?」
「ん? 委員長?」
話かけてきたのは、クラスの女子。
別に学級委員とかではないのだが、眼鏡とおさげ、そして朗らかで適度に真面目そうな雰囲気から「委員長」と呼ばれる。
「実は、藍坂くんと召野くんの二人が、万葉先輩の【親衛隊】になったんじゃないか、ってウワサを聞いたんだけれど……」
「……親衛隊ぃ?」
なんじゃそら、と愛雅は呆然を通り越して一笑。
「僕たちは友達だよー?」
「そう? なら良かった……万葉先輩、悪い人では無さそうだけれど、一応その、恐そうな人だったから、無理やり言う事を聞かされているのかなとか……心配で」
「俺たちのやり取りを聞いていなかったのか? 今回、あいつは実に真っ当な条件を提示してきたんだぜ?」
久しぶりのケーキバイキング……! と愛雅は若干有頂天気味である。
「藍坂くんって、甘いの好きなんだね?」
「おう。大を三つは付けても良いくらいにな!」
「……その、じゃあ、もし良ければなんだけれど……今度、菓子パンをいくつか作ってくるから、食べてみてもらっても良いかな?」
「……? え? 委員長? どうした? 神か?」
「ぁ、いや、そのね? うち、お父さんがパン屋さんで、私も見習い修行中で……試作の味見をして欲しい、と言うか……」
委員長はやや恥ずかし気にモジモジ。
誰しもが察する、この態度は青春的なあれなのだと。
だがしかし、どこにでも例外はいる。
「……おい、聞いたか。善央。半額クーポンと言い、人生一六年目にして糖分の運気がかつてない勢いで押し寄せてきているのを感じるぜ……!」
「愛雅はもっと他に感じるべきものがあると思うなー……」
愛雅の体質は、愛雅の精神状態によって精度が乱高下する。
冷静だったりキレ気味のネガティブな興奮であれば精度が上がる。
ストレス源を始末する事に全神経が傾くからだろうと思われる。
しかし、歓喜などポジティブな興奮の中では精度ががくんと落ちる。
本能的な部分で警戒心がゆるみ、察知能力系統が仕事を放棄してしまうためだろう。
おそらく、今の愛雅はケーキバイキングや菓子パン支給への浮つきのせいで【本音】を聞き取る体質の精度が落ちているか、聞こえているのに聞こえていない糖分バーサーカー状態。
そして愛雅は普段、人情の機微の察知を体質に任せているため。
体質が機能しなくなると人並み以上にトンデモないニブチンになってしまうのだ。
「じゃ、じゃあ、藍坂くん、よろしくね!」
「おう! 任せろ! 是非に!」
「…………………………」
「いやぁ、今までそんな絡み無かったけど、番長に絡まれているのを心配してくれたり、何より菓子パン。良い人だな、委員長!」
「……掃除当番の時とか、委員長が先生に雑用押し付けられた時とか、愛雅は結構わかりやすくフラグを立ててたよ」
「フラグ? ん? つぅか善央、何か不機嫌か?」
「別に。重要な所で精度がガタ落ちする愛雅の体質が憎たらしいなってだけ……ほんと、愛雅の将来が心配だよ、僕は」