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04,番長はJKしたい


「って、あんたら。なに話の途中でいなくなってんのよ!」


 昼休み。

 愛雅と善央が教室で机を突き合わせて弁当を食べていると――朝の番長さまが怒鳴り込んできた。


「あん? あぁと……確か……バッターマンみたいな名前の先輩」

「あれー? パンパカパーンとかじゃあなかったっけ?」

万葉ばんばアリスターンよ! 嘘でしょ!? 一回名乗った相手に名前を忘れられたの初めてよ!?」


 確かに特徴的な名前ではあるが。

 生憎、愛雅も善央も興味の無い事に関する記憶力はかなり低い。


「つぅか俺たち、何か話をしていましたっけ?」


 朝の挨拶と自己紹介くらいしか交わした覚えが無いのだが。


「アタシの愚痴を聞かせてる途中だったでしょ?」

「ねぇねぇ愛雅。わざわざ愚痴の続きを言うために今朝知り合ったばかりの後輩の教室まで押し掛けるとか絶対にヤバい人だよ」

「まぁ、今時なって番長って時点でヤバい奴だし……」

「だから! そう言うのはせめて小声でやりなさいよ!?」


 まったくもう! とぷりぷり不機嫌そうにしつつ、アリスターンは机の上に購買の弁当を置いた。そして近場の空席から椅子を引っ張り、座った。


「おいマジかよこの番長。一緒に昼飯まで食うつもりっぽいぜ」

「うっさいわね! この学校に入って初日で番長になっちゃったせいで、この二年半まともな友達ができなかったのよ! もう不良どもに囲まれてランチはうんざりなの!」

「じゃあ別にここじゃあなくても良いのでは?」

「あんたらみたいにアタシの事を恐れない奴なんて初めてなのよ……みんな、不良に囲まれている学ラン姿の女大将ってだけで引くし、恐がるもの」

「俺らも引いていますけど」

「そだねー」

「うっさいってば!」


 こんな言い合いですら嬉しいのか。

 ぷりぷり怒っている風をしつつも、アリスターンの口角は若干上がっている。


「とーにーかーくー! もう後輩でも良いから、アタシにまっとうな女子高生ムーブをさせてよ! 具体的にはきゃっきゃうふふランチ!」

「野郎二人組にきゃっきゃうふふを求められても……」


 無理難題、と言う奴だ。それは。


「と言うか、まっとうな女子高生ムーブしたいんなら、まずセーラー服を着てくるべきでは?」

「それだねー。男装女子は二次元かー、プロのレイヤーさんじゃあないと」

「アタシのセーラー服姿はね、それを見た舎弟どもが本気の集団パニック起こした事があるから、治安のためにも無理よ」

「この学校の不良は面白集団か何かなんです?」


 こんな女子女子している女子高生がオレらのボスな訳がない! 的な混乱なのだろうか。


「今時にわかりやすく不良なんてやってる時点で、大方が変人よ」

「番長がそれを言うので?」

「好きでやってる訳じゃあないって言ったでしょ? 成り行きよ、成り行き。前の番長に突っかかられて、正当防衛的に仕方なくブッ倒して、否応なしに引き継ぎさせられちゃったの」


 同じ事を言わせないで、と呆れつつ、アリスターンは野菜炒めを口に運――ぶ途中で止まった。

 アリスターンは静かに、箸で掴んでいた野菜炒めの一部をプラスチック弁当箱に戻し、その中からピーマンの欠片を取り除く。


「ちょっと番長」

「何よ、緑色」

「ひとつ確認させてください。あんたまさか、そのピーマンを残すつもりで?」

「悪い? 嫌いなのよ、これ」

「悪いに決まっているだろうが! 縛り付けてピーマン漬けにするぞイカれライオン女ァ!!」

「ぇぇええ!? そんなキレる!?」


 豹変と言うに相応な愛雅のキレに、アリスターンは思わずガタンと椅子ごと後退してしまう。


「あー……愛雅はお母さん気質だからー……」

「お母さんじゃあない! 好き嫌いの有無は仕方ないとしても、自分の皿に盛られたものを残そうとするなんて有り得ない! 人間として当たり前の事なんだぜ!?」

「いや、弁当屋が勝手に入れたものだし、そもそもピーマンは人間の食べ物じゃあないわよ」

「【本音】で言っていやがるこの女! ピーマン農家に謝れ!!」

「はいはい、お母さん、どーどー」

「あーもう。わかったわよ。勿体ないってんでしょ? なら、あんたにあげるわよ」


 そう言って、アリスターンはピーマンたちを手早く愛雅の弁当へと移民させた。


「ぬぅ……ちゃんと自分で食えと言いたい所だが……飯を恵んでもらった手前、文句を言ったり突き返すと言うのも……」

「あんたって、面倒臭い性格してんのね」

「お母さんって大体そんなイメージだよね」

「だからお母さんじゃあないっての……まぁ、あれだ。番長、ありがとう」

「どういたしまして…………あれね。あんたも大概、変人ね?」

「はぁ? どこがだよ?」

「あー……それ僕もちょっぴり思うー」

「善央!?」



   ◆



 放課後。


「ったく……何だったんだよ、あの番長は……結局、昼休み中ずっと居座りやがって……」


 帰り支度を進めつつ、愛雅はやや不満げ。


「賑やかで面白い先輩だったね~」

「ああ、まぁそれは否定しないけどよー……」

「? じゃあ何がそんなに……あー、わかった~。僕が愛雅じゃあなくて先輩の意見を支持したのが気に入らなかったんでしょ~? もー、愛雅ってば猫みたいでかーわーいーいー」

「誰が猫だよ!」

「あんたら、見る度に男同士でイチャコラしてるわね?」

「げッ、番長」


 当然のように教室に入ってきた金髪学ラン女、アリスターン。

 帰り支度が済んでいる所を見るに、一緒に帰るつもり満々らしい。


「げッって何よ、げッて。アタシ、そんな嫌われる要素あった?」

「大丈夫だよ、愛雅。もし僕が浮気するとしても、三次元の女子は有り得ないよ?」

「ち、違ッ……あれだよ! 俺、敬語苦手だから、目上と話すのが嫌なだけだ!」

「別にタメ語で良いわよ。そっちの方が友達っぽいし」

「はぁ!? それで良いのかよ先輩!」

「アタシは従順な後輩よりも、対等な友達が欲しい」


 友情への飢えがすごい。


「ふふふー。良かったね~、愛雅。これでアリス先輩を拒否る理由はないよー」

「ぬぐッ……」

「問題無いみたいね。それじゃあ、行きましょ。どう? ここは友達らしく、寄り道して帰らない? 話題のタピオカミルクティーで一緒に映えを狙うとか! アタシら超JKっぽくない!?」

「俺と善央はJKじゃあない」


 どうやらこの三年生、友達が欲し過ぎてもう後輩でも異性でも何でも良いらしい。


「あ、アリス先輩、ごめんね~。僕ら、今日これからアルバイトだからー、遊びに行くのは無理なんだー」

「はッ! そう言う事だ番長! 残念だったな! 途中までは一緒に帰ってやるが、善央と遊びに行くのは諦めろ!」

「へー、あんたらバイトしてんだ。接客系?」

「うん。オシャレなスポーツカフェだよ~」

「じゃあ行くわ」

「……あ?」

「友達のバイト先で夕飯……まっとうなJKっぽくない!?」

「それなら問題無いねー」

「ちょ、んな……こ、こんの……番長がッ!!」

「そうよ、だから何?」


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