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03,賑やか校門付近


 愛雅と善央が通う私立・晩空ばんから高校は、少々特殊な沿革を持つ。


 何でも、長者番付常連の成金富豪さまがぶっ建てたとかで。

 件の富豪さまは訳あって高校に通えず、中卒である事で色々と理不尽な扱いを受けてきたそうで。

 自分と同じような訳ありの老若男女が通える高校を作る、と言う夢を持ち、それを叶えたのがこの晩空高校……と言う流れらしい。


 おかげで私立だのに学費はやたら安い。

 愛雅と善央に取っては大助かりだ。


 唯一、難点があるとすれば。

 その「様々な訳ありを受け入れる」=「多様性を受け入れる」と言う校是ゆえに「独特な連中が集まりやすい」と言う性質だろう。


 例えば――


「おはようだな、藍坂ぁ! 今日こそオレの軍門に下らんかいわりゃあああああ!」


 校門を通った途端。

 いきなり飛び掛かってきた角材装備のわかりやすい不良ヤンキー

 狙いは一直線、愛雅のエコグリーンな頭。


「おはよう。朝から元気だな不良その一。とうッ」


 愛雅は慣れたものだと冷静に、軽やかな飛び膝蹴り迎撃。


「やっだぶぁ!?」


 空中で思いっきり鼻っ柱を蹴り飛ばされ、ヤンキーは短い悲鳴と共に面白いくらい吹っ飛んだ。


「ほんと、晩空うちって元気な人が多いよねー」

「ああ。まぁ、どいつもこいつも死んだ面しているよりかは、いくらかマシなんだろうけどよ」


 愛雅は何事も無かったかのように着地。

 あざやか~、とパチパチ拍手する善央を引き連れて、校舎へと向かう。


「ぐ、ぐふぅ、相変わらず痺れるほど強ぇじゃあねぇか……! 明日こそはオレの舎弟にしてやるからなぁ! そしてオレとともに超新生一年軍団として晩空制覇の夢を追ってもらうぞぉ! あとオレの名前は聖耶せいや正星マサキだ! いい加減に憶えれ!」

「俺に名前を憶えて欲しかったら、不良行為くだらないマネやめてから出直して来い」

「何ぃ!?」

「今時じゃあないんだぜ、そう言うの(ヤンキームーブ)はよ」

「ぐぬぬ……そんな派手髪しといて、自分は不良じゃあねぇとでも言うつもりかよ!?」

「俺らは不良じゃあないが」

「言いおったッ!?」


 実際、愛雅の緑髪は地毛だ。染めた訳ではない。

 黒染めしないのは、わざわざ高い金を払って髪を傷める意義が理解不能だから。

 腕っぷしがやたら強いのは、バイトの都合で格闘技を嗜んでいるのと、金のかからない趣味として選んだ筋トレの成果だ。


「ったく。俺らが不良とか。朝からアホな事を……こちとら奨学金で生活費の大部分を補填してもらっている優等生だぜ?」


 不良だなんて有り得ないし、将来性に投資してくださった足長おじさんまたは足長おばさんのためにも、不良堕ちとか絶対に有り得ない。


「でも不思議なんだけどさー。うちってああ言う元気な人が多い割に、あんまり騒ぎが起きないよねー」

「ん? ああ。確かにな」


 晩空の校内では、いたる所で柄の悪い連中がたむろしている。

 しかし、地域新聞で取り沙汰される事も、学校にPOLICEと刻まれた車が停車している所も見た覚えが無い。


「案外、あれじゃあないか? 番長、的な統率役がいて、それなりに制御が効いているとか」

「あはは、今時なって番長って、もぉ~。愛雅は冗談のセンスが古いなぁー」

「アタシが存在からして古臭い……と言いたいのかしら、それは」

「へ?」


 突如、愛雅と善央の会話に割り込んできた声。

 ややどすのきいた女性の声だ。


 ふたりが振り返ると……そこに立っていたのは、妙に長い学ランを纏った女生徒。

 地毛らしいナチュラルカラーの金髪に、妙に鋭い目つきが特徴的だ。

 女子の平均で考えれば大柄な部類で、迫力もある。

 顔つきからして、外国人っぽい。少なくともハーフだろう。


「「……誰?」」

「三年の万葉ばんばアリスターン。あんたらが今うわさしてた、晩空の番長よ。おはよう」

「はぁ……そりゃあ、どうも。藍坂愛雅です。おはようございます」

「僕は召野善央でーす。おはよーございます」

「うん、よろしい」


 初対面だが、先輩だし、そうでなくても自己紹介と朝の挨拶は大事。

 と言う訳で、愛雅と善央は挨拶を返す。


「ねぇねぇ、愛雅。現存していたんだねー、番長って。絶滅動物だと思っていたよ、僕」

「そこもびっくりだが……女子だのにわかりやすくするためか学ラン着てるのもびっくりだな。ステレオタイプってやつか」

「本人の前でそこまでズケズケと言えるあんらの神経の方がびっくりよ」


 敵意は無いが、呆れ果てたようなジトっとした目をしているアリスターン。

 愛雅も善央も、その視線を特別して気にする様子は無い。

 なにせ二人とも、割と我が強い。「いや、俺たち何も間違った事は言ってないじゃん。番長って一〇〇%古いじゃん。歴史的遺物じゃん」と思っているから、「古臭い」と口にするのを憚る必要性を感じていない。


「後輩を捕まえて愚痴るようであれだけれどね? 別にアタシだって、好きで番長やってる訳じゃあないっての。誰かがまとめないと、近隣の皆さまに迷惑かかんでしょ?」


 やれやれ、とアリスターンは首を横に振りながら溜息。

 と、そこに校門を通って大量の不良集団が駆けよってきた。


 どうやら、アリスターン直轄の不良集団らしい。


「「「「「姉御ぉ! はよぉごぜッあッッッす!!!!」」」」」

「おはようございますはちゃんと言いなさい。全員やり直し」

「「「「「おはようございますぅァ」」」」」

「声が小さくなってるわよ! そんなんで挨拶になると思ってんの!?」

「「「「「さぁぁぁぁッせんッッッッ!!!!!」」」」」


「ねぇねぇ愛雅。好きでやってる訳じゃあないって言った割に、結構ノリノリで楽しそうに不良たちを指導しているよー、あの先輩」

「あれじゃね? ほれ、お前が好きなツンデレとか言う」

「愛雅、それは解釈違いの極致だよ。あんなのツンデレだなんて言わないで。愛雅が相手でも危うく戦争だよ?」

「いやマジかよ眼が怖ぇよ」


 一緒に生きてきたこの一六年ほどで、善央から殺気を感じたのは今日が初めてだ。

 今後、ツンデレについては軽率に話題にしない方が良いな……と学んだ愛雅だった。



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