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01,ある二人の結末


 未練がましい事を言うつもりはない。


 選択肢は、いくつかあった。


 その中から「お前と戦う」と言う選択をしたのは、俺自身だぜ?

 そんな俺が、どうして言えるってんだ。


 ――お前とは戦いたくない、なんて。


「アイガァァァアアアアア!!」


 かつてお前は、笑いながら俺の名を呼んでくれたな。

 今でも、耳に残っている。忘れられる訳がない。


 ……もう一度だけで良い。


 そんな吐血で濁った雄叫びではなく。

 友として笑いながら、俺の名を呼んではくれないだろうか。


 ……無理な、話だよな。


「……ゼオ……」


 どうしてお前は、英雄なんてものになっちまったんだ。


 ……誰かが言った。


 英雄には、英霊になる義務がある。


 多くの人が、そうだそうだと頷いた。


 世界は、容赦も無くお前に言ったんだ。


 英雄は、誇りある死を迎えるまで戦い続けろ――と。


 そしてお前は、諦めた。

 多くの人が望んでいるのなら、それも良いだろうと……寂しげに笑って。

 人として生きる事を諦め、英雄として、英霊になろうとした。


 ふざけんなよ。

 何が大英雄ゼオ様だ。


 ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。


 英雄が、何だ。

 人助けが、何だ。


 有象無象の連中が、そんなに大事か。

 俺と言う親友をないがしろにしてまで、救うべきものなのか。


 そんな訳が無い。あってたまるか。

 人ひとりが背負い込めるもんなんて、たかが知れているんだよ。

 たかが独りの人間が、世界の平和なんざ背負えるものか。


 そんな無理をしたって、全部ぶっ潰れて水泡に帰すだけだ。

 それなら、お前は呑気に、俺と笑い合っていれば良かったんだ。


 背負える分だけ背負って、できる事だけ精一杯やって。

 無理をしなきゃあいけない事は、誰かに手伝ってもらって。

 皆が皆、ひとりがひとりずつ助け合っていくようにすべきだったんだ。


 だのにお前は諦めた。

 自分だけが頑張れば良いと、傲慢な決意を固めてしまった。


 ……ああ、鏡を見せてやりたいよ。

 お前が今、どれだけ酷い面をしているか。


 お前は、歯を食いしばって戦うよりも。

 俺と一緒に、笑っているべきだったんだ。


「ゼオォォォオオオオオ!!」


 お前を戦わせるすべてを、俺が壊す。


 お前を、ただのゼオに戻してみせる。


 ……ああ、わかっているとも。

 俺がやると騙った(・・・)のは、虐殺だ。


 俺が与えられた権能を使い、多くの怪物を従え、罪ある者も罪なき者も等しく蹂躙する。

 御伽噺に聞く魔王の所業だろう。


 そんな事をすると言った俺に、お前が笑いかけてくれる事は、この先の永劫、有り得ない。


 ……別に、それでも良い。


 俺に向かなくても良い。

 俺を呼んでくれなくても良い。

 誰か代わりを見つけて、そいつに笑いかけて、そいつの名前を呼べば良い。


 俺の事は、気にすんな。

 見返りなら、今までに充分過ぎるほどもらってきた。


 俺は、絶対にやり遂げてみせる。


 ――英雄を仕立て上げた事で、魔王が誕生した。

 英雄として消耗される少年の姿に胸を痛め、狂気に走った少年がいた。

 互いに互いを心から慕う少年ふたりが、血みどろの殺し合いを繰り広げる最悪の悲劇が起きた。


 ……その事実が後の世に、お前がこれから生きていく世界に残ってくれれば、それで良い。


 こんな酷い事件が起きれば、皆、考えるはずだ。

 誰か独りにすべてを押し付けて背負わせようだなんて、間違いだったのだろうと。


 その過ちに気付けないほど、お前が愛した有象無象どもは愚かじゃあないだろ?


 だから、ゼオ。

 これが、お前の――「唯一無二たったひとりの英雄」として、最後の仕事だ。


「…………………………」


 ……ああ、痛いな。

 心臓を貫かれるのは、すごく痛い。

 気の利いた表現なんて浮かばないくらい、胸がただただ痛い。


 でも、お前が泣き崩れている姿を見ているよりは、まだ楽だ。


「クソッたれ……恩知らずの、クソッたれだ……お前は……俺が誰のために……こんな事を、したと……思っているんだ……」


 気にするな。ただの演出だ。

 英雄と言うシステムを憎んだ魔王、それが俺なんだ。

 そう言う風に歴史に刻んでもらうための、理不尽な恨み節だ。


「僕はそんな事、望んでなんかいなかったよ。クソッたれ」


 ……だろうな。


「……親友を犠牲にしてまで、人として生きたいだなんて……思っていなかった……!」


 お互いさまだ、それは。

 擦り切れていくお前を見捨てて、ただただ生きるなんて、冗談じゃあない。


 何が悪いかと言えば、世界だろう。


 ……英雄なんか必要無い。

 そんな世界に、俺とお前が生まれていたなら。

 例えば……何年か前に異世界の漂流者から聞いた、【二ホン】とか言う国に生まれていたのなら。

 きっと俺たちは、ずっと最高の親友でいられただろうに。


「……ゼオ……もう、俺の声なんて聞きたくもないだろうが……最後にひとつだけ……」


 ……未練がましい事を言うつもりは、無かったんだけどな。

 これでお前ともお別れだと思うと――どうしても……我慢、できなかった。


「もしも、また、会えたなら――


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