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魔石の行方

 薄暗い【ダンジョン】の中。

 洞窟を彷彿とさせるそこに、ちっ、と舌打ちが響く。


「めんどくせえ」


 俺はそう愚痴ると、目の前のモンスターに目を向ける。


『プギイイイ.......』


 目の前から豚面のモンスター、オークがのっしのっしと歩いてくる。

 それだけならいいのだが、足音の数的にまだ奥にいそうなのだ。

 群れとの戦闘は疲れるから出来る限り避けたいのだが......。


「やるしかねえよなぁ......」


 ここは帰りの一本道。

 避けては通れないのだ。


 俺は魔力を腕に流し、ソウルウエポンを出現させる。

 そしてオークを睨むと、俺は地面を蹴った。


「死ねやごらぁ!」

『ピギィィ!!』


 俺は勢いのままに右腕を振りぬき、オークの顔面を捉える。

 俺とそんなに変わらない大きさのオークは俺の拳から逃れることができず、流れのままに地面へと叩きつけられる。


 ドンッ!

 豪快な衝突音と共に叩きつけられたオークは、首を有り得ない方向に曲げ、生き絶えた。


「次ぃ!」

『ピギョッ!!』


 魔力を込め、俺は拳をオークの鳩尾に叩きつける。

 1発で動けなくなったオークを蹴飛ばし、倒れたところを踏みつけ喉を踏み潰す。

 窒息し生き絶えるオーク。

 だけどこれで終わりじゃない。


『プギイイイイイイイイ!!』

『ピギャァァァァア!!』

『ブヒイイイイイイイイイ!!』


 まだまだオークはいる。


「てめえら......群れすぎだろ」


 その数は、数えきれない。

 ダンジョンの道いっぱいにオークが押しかけてくる。

 既に10匹は殺したが、終わりが見えない。


 不幸中の幸いなのがここが3階層で、オークがそんなにも強くないことだ。

 その証拠に、ただソウルウエポンで強化されただけ

 、しかもレベル19の大して強化されていない、そして能力を何一つ使っていない拳で死ぬぐらいだ。

 雑魚もいいところだ。


「てめえらは大して美味しくねえからとっとと退きやがれえええええええええ!!」


 弱さに比例して獲得できる魔石もしょぼい。経験値もしょぼい。数だけは多い。

 非効率極りないそいつらに、俺は怒りの鉄拳をぶつける。


『ピギャァァァァア!!』


 運悪く一番近くにいたオークに炸裂し、首がへし折れ地に臥す。

 相変わらず脆い。

 だが俺は止まらない。


「おらぁ!」

『ピギョ』


 振り抜いた勢いを使って左の裏拳。

 横っ面を潰されて後ろによろけるオーク。


「ちっ、とっとと死ね!」


 1発で死ななかったオークに舌打ちをして俺は抜き手で喉を突き刺し、引き裂く。


『〜〜〜〜!!』


 声すら上げることができず、ビチャビチャと血を吹き出させてオークは死ぬ。


『ブモオオオオオオオ!!』

「なっ!?」


 そのオークに余分な一手を使ったせいで、別のオークに先手を許してしまい、胴体を掴まれ投げ飛ばされる。


「っぶねえなおい!豚は豚らしく大人しくブヒブヒ死んどけ!」


 壁に叩きつけられるすんでのところでガリガリと地面に籠手を突き立てて勢いを殺し、慣性を無視してオークに向け走り、魔力を込め殴りつける。

 だが、そのオークはその太った体に見合わない軽快な動きで俺の拳を避けた。


「んなっ!?」


 避けられるとは思わず、俺は変な声が出る。

 動きが愚鈍で有名なオークに避けられたのだ。

 普通なら有り得ない。

 だが、俺の拳を避け、距離を取ったオークはよく見ると他のオークよりも大きく、そして比較的肉が引き締まっている。

 それを見て俺は思わず、ちっ、と舌打ちを零す。


「オークロードかよ......」


 俺はそう呟く。

 オークの変異種が更なる力と知性を身につけたオークの上位種、オークロード。

 その戦闘力は、普通のオークとは一線を画す。


「だけど所詮は豚!弱いのには変わらねえんだよ!」


 強い、とは言ってもゴブリンに次ぐ雑魚のオークに比べての話。雑魚は雑魚だ。

 しかも【ダンジョン】の特性上浅い階層ほど出てくるモンスターは弱いため、上位種と言っても3階層という超上層部のモンスターなど敵ではない。

 ソウルウエポンがレベル1ならまだしも、レベル19なら何の問題もない。


 俺は地面を蹴り、オークロードとの間合いを詰める。


『プギイイイ!!』

『ピギィィイ!!』

「邪魔だあ!退けえ!」


 王を守るべく両脇からオークがしゃしゃり出てくるが、俺は2匹とも殴りつけ地面に叩きつけ黙らせ、オークロードに狙いを定める。


「らぁ!」

『ブヒッ!』


 俺はオークロードの胴体に向け拳を放つが、例のごとく避けられる。

 だが、それは読めていた。


「二度も通じねえよ!」

『ブヒィィ!?』


 俺はぐるんっ!と体を捻ると、着地する寸前のオークロードに肉薄する。


「おらぁ!」

『ブッヒイイイイイ!!』


 俺は魔力を込め、オークロードを殴りつける。

 オークロードは無様な悲鳴をあげるが、上位種ということもあって他のオークよりも毒が回るのが遅いのか、よろよろと後ろに下がり逃げようとする。



「逃すかよ!」


 そんなことを俺が許すはずもなく、詰め寄り拳を叩きつける。


『ブ、ブヒッ......』


 完全に毒が回り、動けなくなったオークロード。

 バタン、と倒れて、こっちを怯えるような目で見てくる。

 恐怖で染まったその目に、俺はニヤリと返す。


「半端に知性を付けたからそんなに恐怖を感じるんだよ。ざまあねえな。俺ごときでそんな恐怖を覚えるなんてよぉ」


 俺はそう言ってオークロードに歩み寄ると、頭を踏んづけてグリグリと踏みにじる。


「来世ではちゃーんと豚らしく低脳に生きろよ。あばよ、【デビルクロウ】!」


 俺はそう叫び、籠手から真っ黒な粒子を放出させ、【デビルクロウ】を出現させる。

 そして足元のオークロードの胸にブスリと突き刺した。


『〜〜〜〜〜!!』


 悲鳴をあげることすらできず、ビクンビクンと体を痙攣させ、オークロードは生き絶えた。


『ピギィィィ......』

『プフウウウウウウ.......』

『ピャギイイイイイイイ......』


 自分たちの頭があっさり倒されて、混乱が伝染していくオークの群れ。

 それが徐々に恐怖へと変わっていき、1匹、また1匹と後ずさる。


『ピ、ピギィィィイイイ!!』


 そして1匹が耐えきれなくなり、悲鳴をあげながら逃走した。

 それが、皮切りとなった。


『ピギャァァァァア!!!』

『プギイイイイイイイイ!!』

『プフォオオオオオオ!!』


 一斉に俺に背を向け、来た道を引き返すオーク達。


「よし、手間が省けた。帰るか、っとその前に......よっこらしょ」


 俺は散らばっているオークの死体を持ち上げ、一箇所に固める。

 200キロはありそうなその巨体は持ち運ぶのには苦労するが、ソウルウエポンの恩恵を受けた俺には本の詰まった段ボールくらいに感じる。


「ふう、こんな感じでいいか。ほら、餌だ」


 そして一箇所に固め終えると、腰に提げた死体喰らい(デスイーター)をオークの死体の山に放り投げ、喰わせた。


「さて、帰るか」


 そして魔石を回収して、俺は帰路についた。


 •••


「おい、帰っ」

「足りん」

「まだ見てすらねえじゃねえか!」


 扉を開けた瞬間に足りないと言われて、俺は吠える。

 ズカズカと近づくと、書類処理しているルシファーの前にバンッと収納袋(インベントリ)を叩きつける。


「今回は約3ヶ月分入っ」

「足りん」

「想像してたよチクショウ!ってか毎回毎回足りなくなるってどんな使い方してんだよこの浪費ババア!」


 俺はルシファーの仕事机の前で崩れ落ち、ダンッ!と床を叩く。


「騒ぐな下僕が。下僕は主人の私の意見を素直に聞いておけばいいんだよ」

「下僕だろうと文句があるにはあるんだよ!稼いだ金を無駄遣いされるサラリーマンの気持ちだわ!ってさりげなく頭踏んでんじゃねえよおい!」


 いつのまにか書類処理をしていたはずのルシファーが俺の頭を踏みつけていた。しかもご丁寧に仕事の時に履いている靴ではなくいつのまにか履き替えた戦場に赴く時のブーツで。


「なに、お前が地面に頭をつけたのでな。頭踏まれたいと思ったから踏みつけたまでだ。喜べ」

「俺はドMじゃねえよこのドSババア!喜ぶわけねえだろ!」


 俺は顔を上げ睨みつけようとするが、圧倒的な力の差を前に無様に頭を踏みにじられる。しかも抜け出そうとすればするほど圧力が高まっていく。

 上からふふふ、と言う笑い声も聞こえてきて、現状と相まってピキッと俺のこめかみに青筋が走る。


「ってか本当に最近何に使ってんだよ!1日80時間【ダンジョン】に潜らされて、てめえが管理してる街が何不自由なく過ごせる数ヶ月分のエネルギー相当の魔石を毎日集め続けてそれでも足りないとか無駄遣いしてる以外ありえねえだろ!そろそろ吐け!」


 魔石が足りなくなっているっていうのはつい最近の話だ。

 それまでは無言で書類処理を行わされていた。

 だけど今じゃどれだけ取ってきても足りん、足りん、と返される。

 魔界の1日100時間とか言う頭のおかしいその1日の時間の8割を【ダンジョン】に割いている俺にはそれが知りたくて仕方ない。

 この浪費大悪魔(クソババア)が何に使っているのかを!


「仕方がない。教えてやろう」

「珍しく素直だな。という時に限ってしょうもな——」

「【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】を使った」

「......は?」


 俺はルシファーの言葉に固まった。

 そして、耳を疑った。


「お、おい待て。【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】を使った、だと?」

「そうだ。それがどうした?」

「それがどうした?じゃねえよ!」


 俺は押さえ付けられている足をどかすように跳ね起きようとする。

 だが、それは圧倒的力でどかすどころか浮かすことすらできない。


「くそっ、足を退かしやがれ!」


 それでも俺は抵抗する。

 それくらい、【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】はヤバイ。


崩壊する地平線(コラープスホライズン)】は超高圧魔力に【破壊】の属性を付けて放つ戦略級魔法兵器のことだ。

 その最大範囲は、簡単に言えば()()()()()()()()()

 文字通り地平線の先まで破壊し崩壊させる魔法兵器、それが【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】だ。


「てめえ、ふざけたことしてんじゃねえよ!」


 俺はルシファーに食ってかかる。

 だが、当の本人は何にも気にした様子もなくグリグリと俺の頭を踏み躙る。


「安心しろ。効果範囲はかなり絞ったし対象以外にダメージを与えていない。尤も、放った先がサタン領だったから大したダメージを与えられなかったがな」

「ちげえよそこじゃねえよ!ってかそれもやべえじゃねえかこの耄碌ババア!まともな判断力も【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】で吹っ飛ばしたか!敵対勢力に付け入る隙を与えてどうすんだよ!ってかあれを防いだサタンの野郎もやべえなおい!」


 ルシファーと昔から仲の悪いらしいサタンが治める領地に【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】を使ったルシファーに、俺は怒鳴りつける。


「そこも安心しろ。あいつはその後『攻撃を仕掛けてきたんだ。反撃されても文句はないよな?』って言って【紅蓮の深淵(スカーレットアビス)】を放ってきたがしっかり跳ね返しておいたぞ」

「全然安心出来ねえし、てめえもてめえで大概だなおい!ってか俺が言いてえのはそこじゃねえよ!」


 俺はブチブチッと髪が引きちぎれるのを無視してルシファーの方を向き、睨みつける。

 俺が危惧しているのは、【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】の破壊力でもなくサタンの野郎に攻め込まれることでもない。


「【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】一回使うだけでどれだけエネルギー使うと思ってんだよ!」


 その圧倒的エネルギー消費の多さだ。

 その量、ルシファーが治める街、コキュートスが使うエネルギー量に換算すると、()5()()()

 人口約300万の魔界一の人口を誇る街が何不自由なく暮らせるエネルギーの約5年分を、【崩壊する地平線(コラープスホライズン)】を一度使うだけで使い切ってしまう。


「この前の戦争の時だって使う必要も無いのに『我々の力を見せつけるためだ』とか言って使って、戦争が終わった直後エネルギー不足で街が混乱したってのに、てめえは学習しねえのか!」


 しかも今は、戦争で優先的に物資が戦争の為に回されるということもない。そんな時にこんな暴挙だ。

 これでもう一度エネルギー不足になったら、下手すれば暴動が起こる。


「お前は不思議だな。ソウルウエポンをレベル100にしてしまえば解放されるというのに、それ以外のことも気にかけるなんて。お前はお前に与えられた役割を全うすればいいのではないか?」

「うるせえよクソババア。三ヶ月近く生活してりゃ街にだって愛着湧くんだよ!ってかてめえの課したあれ、そもそもクリアさせる気ねえだろ!てめえでさえレベル100に達してねえんだから!」

「ほう?よく分かったな」

「ってりめーだよ!この性悪ババア!1ヶ月がむしゃらにやって無駄って分かったわ!諦める気はねえけどな!ってか、んなことはどうでもいいんだよ!どうする気だよこの問題!」


 俺は頭の上に乗っている足を掴み、退かそうと力を込めルシファーを睨む。

 すると次の瞬間、スカッとルシファーの足が退かされ、グイッと俺の襟首が持ち上げられた。


「簡単だ。お前が【ダンジョン】に籠もればいい。成長してより上質な魔石を持ってこればいい。そうすれば、万事解決だ」

「ちょ、待てよおい!てめえがこの問題をどうにかするつもりは——」

「無い」

「だと思ったよちくしょう!」


 俺は言うことを聞かない子猫のように襟首を掴まれぶら下げられながら嘆く。

 だけどそんなことをしても無駄なものは無駄だ。

 ルシファーも、そんなことをしても無駄だ、と言わんばかりにしたり顔で俺を見てくる。

 マジでこの顔面殴りてえ......この綺麗な顔面潰してえ......無駄にニヤニヤしやがって。絶対出来ないって思ってやがる。


「ほら、行ってこい」


 俺の心の呪詛は通らず、次元の穴を作ると、ルシファーはそこに俺を放り投げる。


「クソババアああああああああ!!!!!!強くなったら覚えてろよおおおおおおおおおお!!!!!!」


 俺は全力で叫ぶが、その声は届かない。

 目の前には、いつもの【ダンジョン】の入り口が広がっているのだから。


「クソがあああああ!!!とりあえずてめえは死ねえ!」

『ギャイッ!?』


 毎回恒例何故かいる入り口のゴブリンを殺すと、俺はズンズン【ダンジョン】の中に入っていった。


 •••


「行ったか」


 省吾を【ダンジョン】に放り投げ、1人になった仕事部屋の椅子に腰掛けると、1人ルシファーは呟く。


「あいつはどうして、あんなにも強いんだろうな。普通の人間の魂ならとっくに砕けているぞ」


 クソババアクソババアと噛み付いてくる省吾の姿を思い浮かべ、ふふふ、と微笑む。


「あいつの負けん気を叩き潰して、私に魂からの忠誠を誓わせてやる。時間は幾らでもある。どこまで耐えきれるかな?」


 ふふふふふ、と不気味な独り笑いがルシファーの仕事部屋に響く。

 その目に、嗜虐的な色を浮かべて。




「はっくしょい!ってうおあああああ!!!」


 この時、急に感じた寒気でくしゃみをした省吾が、そのせいで【ダンジョン】のトラップをさせてしまい死にかけたが、それはまた別のお話。


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