ご主人様との出会い
「へえ、君が僕の執事、ね。お父様、お母様。少し、コルンと話したいことがありますので。」
扉が閉まった。部屋には僕とクスッと笑う、少女。白い頰、揺れる金髪、翡翠の目。
執事生活が始まって2日目。僕はご主人様と対面することになった。
「改めて。僕はラミル・マトリート。君の主人だね。さて、さっそくだけど…」
執事生活が始まる。失敗してはならない。まずはこの子の不興を買わないよう、励まねば。と決意を新たに、膝をつき、耳をすませた。サアと入り込む、カーテンの揺れる音が暖かな陽気とただならぬ寒気を招く。
「脱いで。まず、コルンの体を調べたい。ふふ、楽しみだなぁ。」
今、何とおっしゃったか。僕は思わず顔を上げ、ご主人様を見た。彼女は不思議そうに首を傾げたが、ポンと手を叩き、
「早くう。あ、そうだった。僕、男女の裸を気にしない人だからここで脱いで大丈夫だよ〜。」
と、笑った。朗らかな笑みとは時に恐ろしいもので、僕は気づかれないようにドアへ向かった。
フニュ…
背中に何かが当たった。いつのまにかベッドにはご主人様の姿は無かった。春風が冷たく吹き付ける。服が動いた。
「逃げようたって無駄だよ〜。さ、観念しなさい!」
ご主人様は僕の襟に手をかけた。柔らかい肌がヌルリと触れた。
「ご、ご主人様⁉︎」
「フフ。コルンの肌、雪みたい。雪肌だね〜。ツンツンしちゃおっかなぁ。」
フニ、フニ…
体を伝う、妙な感覚。徐々に鼓動が高鳴り、身体中が熱くなる感覚。力が抜け、溶けゆく感覚…。
「や、やめ…」
「うるさいなぁ。悪い子にはお仕置きしないと…フー。」
「ひ、ヒャア!」
僕は真っ赤になった両手をどうにか持ち上げ、耳を塞いだ。
「へえ、そこが弱点かぁ。」
脱がされゆく服。引っ張りたい、引っ張りたいのに、力が入らず、ズ、ズズズと脱がされてしまった。
「ふふ、やっぱり雪肌だ!プニプニしてる!」
僕はいつのまにかベッドに運ばれ、転がされた。身体中に伝う温かな感覚。一指、一指、滑らかに僕の体を押して行く…
いつのまにか眠ってしまったようだ。目覚めると僕の隣でご主人様が本を読んでいた。
「あ、起きた。コルン、ありがとう。楽しかったよ!」
ご主人様はパタンと本を閉じ、よいしょと立ち上がった。本の山を切り崩し、机の木肌が出ると、ゴソゴソ中の物を取り出し、僕に渡した。
「はい。これ、ご褒美!」
渡されたのは、丸い翡翠の魔石が銀のフレームにはまった小さなペンダント。ご主人様は、僕の首に掛けた。
「コルン。これは、私たちの絆の証。絶対に外しちゃダメだよ。」
ご主人様はニコリと微笑み、僕を撫でた。サラサラ、サラサラ動くたび、眠気に似た感覚が湧き上がり、たまらずパッと立ち上がった。
「ご主人様。ありがとうございます。」
「うん。大事にしてね。コルンは私の執事さん、なんだから!」
「はい。」
ガチャ。
「お嬢様。夕食の準備が整いました。コルン。お嬢様をお連れしなさい。」
ポール執事長が上髭を揺らし、現れた。
「承知しました。では、行きましょう。お嬢様。」
「ええ。」
誰もいなくなった窓部屋に温かな春風が花びらを運んだ。