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泣き方をおしえて……  作者: 美瞳まゆみ
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第十一章 エピローグ


「凄いお式だったわね!……でも、楽しかった。最後は貰い泣きしちゃったし」


まだ春と呼ぶには寒さが抜けきらない東京での三月の吉日……


朱音は満面の笑顔で、少し後ろを歩く夫の優を振り返った。


「そうだね、薫子さんの涙って……意外だったけど、なんか感動的だったな」


「マスターも、泣いてたわよね」


今日は、剣吾と薫子の結婚式だった。




賑やか好きな二人が選んだ式は、有名ホテルでの大掛かりなものだった。


剣吾側は、仕事関係者から名古屋での親しかったお客連中、バンド時代に親交のあった友人達まで。


薫子側は、会社関係からかつての合コン仲間、短大時代のサークル仲間まで、総勢実に二百名近い人数の式となったのだった。


薫子は、ここぞとばかりに色取り取りのドレスを5回も着替え、さながらファッションショーのように着せ替えを楽しんでいたし、剣吾は余興として高見や吉川を巻き込んで“伝説のバンドレイヤーズ一日限りの復活ライブ”と称して自分達の昔の曲を披露したりした。


結婚式というよりは、“剣吾&薫子ショー”とも言えた催しは、皆を十二分に楽しませた。


本来なら式の最後に花嫁から両親に宛てる手紙も、誰の計画かはわからないが、薫子の両親から“勝気でお転婆娘へ”という題名で、また、剣吾の両親から“頑固で一途な息子へ”という題名でそれぞれの親達が手紙を読んだ。


この二人にしてこの親有り、という包容力に溢れた彼等の温かい文章に、新郎新婦は号泣したのだった。




そして、剣吾の仕事が東京基点となるため、新居も生活も全てのベースをこっちにした。


薫子は仕事を辞めるのではなく、この四月から東京の支店勤務を願い出て、川上の計らいで正式な添乗員兼ツアーデザイナーとしての配属が決まった。




辺り一面夕焼けのオレンジに包まれた街中を、朱音と優は名古屋に帰るべく歩いていた。朱音が歩調を落として優と並んだ。


「腕……組んでもいい?」


「腕と言わずに……久しぶりに、手を繋ごうか?」


優は朱音の手を自分の手にしっかりと繋ぎ、心なしか淋しそうに見える妻に微笑みかけた。


「淋しいんだろう?彼女と離れてしまうのが」


朱音は俯いたまま小さく頷いた。


「最初から、あの娘のことはあんまり好きじゃなかったの。同期で同じ配属だったけど、仕事よりアフターファイブ重視の考え方が嫌いでね。仕事だって、ホントはやれば出来るのにやらないっていう姿勢が嫌だった。口も悪かったし、遠慮なくズケズケ言うし!だから、三年位は殆ど付き合いも無かったし、近づかないようにしてた気がする」


突然薫子とのことを語り出した朱音に、優は内心ちょっと驚きながらも、黙って頷いた。


「全ての切っ掛けは、優だったのよ?知ってた?」


「僕?それは……なんとも光栄の至りだね!」


朱音は思い出し笑いをしながら、優を見上げる。


「結局ちゃんと向き合ってみれば、誰よりも本当の事を言ってくれて、決して誤魔化したり嘘はつかない、それでいて踏み込み過ぎないでいてくれる……この二年間で私、薫子のことが大好きになったわ」


「傍から見ていても、君達は良いコンビだったよ。でも、これからだって良いコンビでいられるんじゃないか?名古屋と東京だって、同じ会社なんだからね、そうだろう?」


だが、朱音はちょっと意地悪そうな笑みを浮かべて首を振る。


「仕事では……そうはいかないわ、これからはライバルよ。私も来月からツアーデザイナーのサブチーフですからね!」


優はクスクスと笑った。


「ほら、やっぱり良いコンビじゃないか!」


それから繋いでいた手にギュッと力を込めた。


「そして、一生の友達になるよ、きっと」


二人は束の間見つめ合い、同じ想いを共有した。そしてどちらからともなくニッコリ微笑むと、オレンジ色の街中をしっかりと手を繋いで歩いて行った。

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